2 外交実施体制の強化
日本が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している中、法の支配に基づく国際秩序の維持・発展のための外交を強力に推進するためには、外交実施体制の抜本的な強化が不可欠である。そのため外務省は、在外公館の数と質の両面の強化や外務本省の組織・人的体制の整備を進めている。
大使館や総領事館などの在外公館は、海外で国を代表し、外交関係の処理に携わり、外交の最前線での情報収集・戦略的な対外発信などの分野で重要な役割を果たしている。同時に、邦人保護、日本企業支援や投資・観光の促進、資源・エネルギーの確保など、国民の利益増進に直結する活動も行っている。
こうした中、2025年1月には、新たにエリトリアに大使館、ケニアのナイロビに在ナイロビ国際機関日本政府代表部(兼館)を新設した。
エリトリアは、インド洋と欧州を結ぶ国際航路に位置する地政学上の要衝であり、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の推進にとって重要な国である。また、2023年4月以降武力衝突が継続するスーダンの隣国であるとともに、地域の平和と安定に大きな影響力を有するエチオピアとも歴史的に深いつながりを有することから、東アフリカにおける新たな情報収集の場である。加えて、エリトリアは、豊かな鉱物・水産・観光資源に加え、紅海沿いに良港を擁しており、日本企業が同国への投資に関心を示していることから、両国間の経済活動推進のためにも大使館の設置を通じた一層の連携強化が必要である。
ナイロビには、国連環境計画(UNEP)(2)や国連人間居住計画(UN-Habitat)(3)という、国際的な環境問題や都市問題に関する議論において、中心的な役割を果たしている国際機関の本部が所在している。UNEPは、環境分野を唯一専門的に扱う総合調整機関であり、日本にとり、環境分野における国際協力を推進する上で重要である。また、同機関は、多くの多数国間環境条約の事務局を務めているほか、プラスチック汚染に関する条約の策定に向けた政府間交渉委員会の事務局としても機能しており、同条約の交渉においても極めて重要な役割を果たしている。UN-Habitatは、人間居住に関する広範な課題を扱う国連機関であり、都市が抱える様々な課題への対応を含め、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた取組に貢献している。2025年1月の日本政府代表部の設置も踏まえ、国民の日常生活に影響のある、日本のSDGs達成に向けた取組や、環境分野などにおけるルール形成への対応を強化していく。
在外公館の増設と併せて、外務本省及び各在外公館で、外交を支える人員を確保・増強することが重要である。2024年度においては、政府全体での厳しい予算・定員事情の中で、同盟国・同志国との連携強化、偽情報対策を含む情報力の強化、ODAの戦略的活用、在外邦人保護・領事体制の強化などに取り組むため、外務省の定員数は2023年度から70人増(4)の6,674人となった。しかし、他の主要国と比較して人員は依然十分とはいえず、引き続き日本の国力・外交方針に合致した体制の構築を目指すための取組を実施していく。なお、2025年度も、外交・領事実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、87人の定員増を行う予定である。
法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するため、外務省は2024年度予算で7,417億円を計上した(うち160億円はデジタル庁予算に計上)。また、2024年度補正予算に関しては2,145億円を計上した(うち64.1億円はデジタル庁予算に計上)。同補正予算においては、アフリカや東南アジア諸国連合(ASEAN)とのビジネス促進や中東・アフリカにおける人道支援を含むグローバル・サウス諸国との連携強化や対ウクライナ支援を中心に、喫緊の外交課題に対応する施策を計上した。
2025年度政府予算案では、(ア)厳しさと複雑さを増す安全保障環境への対応、(イ)日本の経済力の強化、(ウ)外交・領事実施体制の強化を重点項目として、7,617億円を計上している(うち169億円はデジタル庁予算に計上)。この中には、FOIPの実現に向けた取組のための予算、グローバル・サウス諸国との関係強化のための予算、ウクライナ及び影響を受ける国への支援のための予算、イスラエル・パレスチナ情勢への対応のための予算、政府安全保障能力強化支援(OSA)(5)のための予算、オールジャパンでの官民連携により日本企業の海外展開・ビジネス拡大を支援するための予算、情報戦時代への取組を強化するための予算、在外公館の強靱(じん)化・機能強化のための予算などが含まれている。
日本の国益増進のため、引き続き、一層の合理化への努力を行いつつ外交実施体制の整備を戦略的に進め、一層拡充していく。




(2) UNEP:United Nations Environment Programme
(3) UN-Habitat:United Nations Human Settlements Programme
(4) 定年引上げに伴う新規採用のための特例的な定員(1年時限)6人を含む。
(5) OSA:Official Security Assistance