3 北アフリカ地域情勢(エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ)
(1)エジプト
アフリカ大陸の北東に位置し、地中海を隔てて欧州に接するエジプトは、中東・北アフリカ地域の安定に重要な役割を有する地域大国である。経済面では、新型コロナの影響(観光収入減少など)が継続するものの、近隣諸国との比較では経済的打撃が抑制され、GDPはプラス成長を引き続き維持している。
日本との関係は引き続き良好で、2016年のエルシーシ大統領訪日以降、日本式教育の導入、エジプト・日本科学技術大学(E-JUST)支援強化や、大エジプト博物館(GEM)建設計画などの協力案件が進んでいる。3月にはスエズ運河での日本関係船舶の座礁事案が発生したが、7月には留め置かれていた船舶が無事出航した。また、3月には、エジプト政府主催の「第2回持続可能な平和と開発に関するアスワン・フォーラム」に鷲尾外務副大臣がビデオ・メッセージを発出し、4月には茂木外務大臣が共同議長を務める形で、エジプトに本部を置くアラブ連盟に加盟する国・地域との「第2回日アラブ政治対話」をオンライン形式で開催した。6月に日・エジプト外相電話会談を実施したことに続き、8月には、茂木外務大臣が現地を訪問し、エルシーシ大統領、シュクリ外相との会談で同国との関係強化を、アブルゲイト・アラブ連盟事務総長との会談で同連盟との関係強化をそれぞれ確認した。
2019年4月から派遣されているシナイ半島駐留多国籍部隊・監視団(MFO)の自衛官2人についても、4月に第3次要員が派遣され、引き続き地域の平和と安定に向けた貢献を行っている。
(8月、エジプト・カイロ)
(2)リビア
リビアでは、2011年のカダフィ政権崩壊後、議会が東部に政府が西部に置かれるなど、不安定な状況が続いている。2019年4月には、東部勢力の実力者であるハフタル「リビア国軍」(LNA)総司令官がトリポリへの進軍を指示し武力衝突へと発展したが、2020年5月以降、トルコの支援を受けた国民統一政府(GNA)側が反撃に転じ、現在は中部沿岸都市のシルテと内陸都市のジュフラを結ぶラインで双方の勢力が対峙(じ)している。一方、同年10月には両勢力間で恒久的停戦合意が署名され、以降、大きな武力衝突は発生していない。
政治面では、2020年11月に国連主導でリビア人の代表75人が参加した国民対話フォーラムがチュニスで開催され、2021年12月24日の独立記念日に大統領選挙を含む一連の選挙を行うことについて基本的合意が成立したが、選挙関連法の制定に至っておらず、12月22日に選挙の延期が発表された。
(3)マグレブ諸国
マグレブ地域は、欧州・中東・アフリカの結節点に位置する地理的優位性や豊富かつ廉価な若年労働力などによる高い潜在性から、アフリカにおいて経済面で高い重要性を有している。また、域内の各国はそれぞれの手法で「アラブの春」を乗り越え政治的な安定を維持してきた。一方で、新型コロナの影響もあり、アルジェリア、モロッコ及びチュニジアでは地域格差や高失業率などの克服が課題となっている。加えて、リビアやサヘル地域からの武器や不法移民の侵入による治安面への影響が懸念されている。
チュニジアでは、新型コロナによる経済の停滞や医療体制上の問題から国民の不満が高まり、2020年9月に発足したムシーシー内閣は、国内の政治改革に着手するとしたサイード大統領によって2021年7月25日に退陣を余儀なくされた。また、同大統領は、政治における汚職の撲滅を掲げ、同日に国民代表議会の活動を停止した。その後、同大統領から首班指名を受けたナジュラ・ブデン氏は、10月11日にチュニジア史上初の女性首相として新内閣を発足させた。サイード大統領の指導の下で、ブデン新政権が、国民から広汎な支持を得る形で、現在直面している経済社会分野での喫緊の課題に迅速かつ適切に対処できるかが注目される。
アルジェリアでは、2019年2月以降、ブーテフリカ大統領の長期政権への反発から抗議デモが長期化し、同政権は4月に退陣した。同年12月に大統領選挙が行われ、テブン元首相が当選した。同大統領は「新しいアルジェリア」の実現に向けた政治改革の一環として、憲法改正、国民議会(下院)選挙などを掲げた。改憲の是非を問う国民投票は革命記念日の2020年11月1日に実施され、投票率は23.7%と極めて低調であったものの、改憲案は採択された。2021年6月には国民議会選挙が前倒しで実施され、国民解放戦線が引き続き最大勢力となった。同選挙の結果を受け、7月にベンアブドゥルラフマーン首相が任命され新内閣が発足した。また、8月、アルジェリア政府はモロッコが敵対行為を続けているとして国交断絶を表明した。
モロッコでは、2021年9月8日に衆議院議員選挙が実施され、これまで第二党であった独立国民連合(RNI)が第一党に躍進し、真正と現代党(PAM)とイスティクラル党(PI)と連立与党を形成することで全議席の3分の2を占めるに至った。一方、2011年から10年間政権を率いてきた公正と発展党(PJD)は、新型コロナ対策の遅れや失業率の高止まりなどを主な原因として、オトマニ首相を含む現職閣僚も議席を失い、野党に転落した。10月5日に実施された参議院議員選挙においても、RNI、PAM及びPIの連立与党が過半数を獲得したが、PJDは議席数を大幅に減らした。両選挙の結果を受け、モハメッド6世国王から首班指名を受けたアハヌーシュRNI党首は、10月7日に新内閣を発足させた。両院で過半数を占める連立与党の支持を受け、同首相がいかに経済社会政策を安定的に実施していくかが注目される。
2021年、日本とクウェートは外交関係樹立60周年を迎えました。
日本とクウェートの関係は公式な外交関係を樹立する1961年12月8日以前(クウェートは1961年に独立)に遡り、1958年には日本のアラビア石油が、クウェートとサウジアラビアの中立地帯沖合にあるカフジ油田で石油採掘を行うなど、両国の間で活発な経済活動が行われていました。
2021年、両国では新型コロナウイルス感染症の対策を講じながら、様々な行事が行われました。茂木外務大臣とアフマド・ナーセル外相との間では、2度の電話会談が実施され、外交関係樹立60周年を祝福しました。
外交関係樹立記念日の12月8日には、駐日クウェート大使館により、これまでの両国の歩みを振り返る写真展が開催され、本田太郎外務大臣政務官が出席しました。同写真展の冒頭、アフマド・ナーセル外相からのビデオメッセージが放映され、両国政府及び国民に対する祝意が表明されました。
また、同日、クウェートでは60周年を記念して、ランドマークであるクウェート・タワーがライトアップされ、タワーの下で共に祝福する在留邦人とクウェート国民の様子は、クウェート国営放送や新聞各紙で紹介されました。
加えて、2021年は東日本大震災発生から10年の節目の年でもあり、原油供与などのクウェートからの多大な復興支援を踏まえて、両国の連帯を示すため、3月にもクウェート・タワーがライトアップされました。また、在クウェート日本国大使館が制作・公開したクウェートからの復興支援への感謝を伝える動画に対し、クウェートの人々から被災地の復興に思いを寄せるコメントが多数投稿されました。国内では福島県二本松市が、クウェートによる被災地支援に謝意を表明するため、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会におけるクウェート選手団のホストタウンとなりました。
さらに11月には、クウェート日本人会主催の海岸清掃活動「亀作戦」が、クウェート市内において実施されました。この清掃活動には、クウェート環境庁などが協賛として加わり、在留邦人のほか、800人以上のクウェート市民が日・クウェート外交関係樹立60周年ロゴマーク入りのTシャツを着用して参加しました。
このほか、在クウェート日本国大使館は、1年を通じオンライン動画により、1990年のイラクのクウェート侵攻に際しての日本の取組など、両国の協力関係や日本の言語・文化を紹介しました。
2021年は日・クウェート双方による様々な取り組みを通じ、両国間の絆(きずな)を改めて思い起こし、今後の二国間関係の一層の発展に向けて決意を新たにする1年となりました。
60周年ロゴマーク
2021年、日本とカタールは外交関係樹立50周年を迎えました。
カタールというと馴染みが薄いかもしれませんが、首都ドーハの名前は聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。サッカー日本代表が、初のワールドカップ出場をかけた1993年のイラク戦で、後半ロスタイムに同点ゴールを許し、予選敗退を喫することになった「ドーハの悲劇」の舞台となったのがカタールです。
また、日本とカタールは、主に発電用の燃料として使用されている液化天然ガス(LNG)の分野で強固な関係を築いてきました。日本はカタールからLNGを年間800万トン以上(総輸入量の約11%)輸入しています。カタールは世界有数のLNG産出国として、一人当たりGDPは約6.2万ドルを誇り、短い期間で世界でもトップ10に入る豊かな国になりましたが、このようなカタールの発展に日本はLNGの購入を通して貢献してきました。
50周年という節目の年を迎えた2021年の8月、茂木外務大臣はカタールを訪問し、ムハンマド副首相兼外相との間で、第1回日・カタール外相間戦略対話を実施しました。対話の冒頭で茂木外務大臣からは、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会でのカタール人選手の健闘を讃(たた)えつつ、この機会に両国間の「包括的パートナーシップ」を更に深化させたいと述べました。両外相は9月の国連総会の際にもニューヨークで会談し、アフガニスタンをめぐる課題への対応を含め、二国間関係強化のため引き続き緊密に連携していくことで一致しました。その後、カタールによってアフガニスタンから出国する日本関係者への支援が行われ、2021年末までに約500人のアフガニスタン人がカタール経由で無事日本に到着しました。
そのほか、11月にはカタール文化省との共催で日本語の詩コンクールが行われるなど、新型コロナウイルス感染症対策もしっかりとりつつ各種イベントが行われました。2022年にも、日本語スピーチコンテストに加え、空手や柔道のイベントなど、日本とカタールの関係を更に盛り上げる機会が多く予定されています。