2 国際社会で活躍する日本人
(1)国際機関で活躍する日本人
国際機関は、国際社会共通の利益のために設立された組織である。世界中の人々が平和に暮らし、繁栄を享受できる環境作りのために、様々な国籍の職員が集まり、それぞれの能力や特性をいかして活動している。紛争予防・平和構築、持続可能な開発、食糧、エネルギー、気候変動、防災、保健、教育、労働、人権・人道、ジェンダーの平等など、それぞれの国が一国では解決することのできない地球規模の課題に対応するため、多くの国際機関が活動している。
国際機関が業務を円滑に遂行し、国際社会から期待される役割を十分に果たしていくためには、専門知識を有し、世界全体の利益に貢献する能力と情熱を兼ね備えた優秀な人材が必要である。日本は、これら国際機関の加盟国として政策的貢献を行うほか、分担金や拠出金の拠出を行っている。また、日本人職員の活躍も広い意味での日本の貢献と言える。
現在、国連(UN)を含む国際機関の要職に日本人が就任している。特に、世界税関機構(WCO)やアジア開発銀行(ADB)などにおいては、日本人が長として活躍している。また、日本は、長年にわたり、国際司法裁判所(ICJ)、国際海洋法裁判所(ITLOS)、国際刑事裁判所(ICC)といった国際裁判所に日本人判事を輩出している。グローバルな課題に取り組む上での国際機関の重要性を踏まえれば、日本と国際機関の連携強化につながる国際機関の長を含む要職の獲得は重要な課題である。一方、国際機関の長を含む要職は、一朝一夕に獲得できるものではなく、長期的視野に立ち、ふさわしい人材を育成し、きめ細かい対応をしていくことが必要である。
現在、900人以上の日本人が専門職以上の職員として世界各国にある国連関係機関で活躍しており、過去最多となった。日本人職員の更なる増加を目指し、日本政府は2025年までに国連関係機関で勤務する日本人職員数を1,000人とする目標を掲げており、その達成に向けて、外務省は、大学や関係府省庁、団体などと連携しつつ、世界を舞台に活躍・貢献できる人材の発掘・育成・支援を積極的に実施している。その取組の一環として、国際機関の正規職員を志望する若手の日本人を原則2年間、国際機関に職員として派遣し、派遣後の正規採用を目指すジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)の派遣制度(312ページ 資料編参照)や、将来の幹部候補となり得る中堅以上の日本人の派遣制度を設けている。これらを通じて日本人職員を増やしていくことに加え、日本人職員の採用・昇進に向けた国際機関との協議や情報収集にも取り組んでいる。
国際機関を志望する日本人候補者に対しては、国際機関人事センターのホームページやメーリングリスト、ソーシャルメディア(フェイスブック及びツイッター)を活用して、国際機関ポストの空席情報などの有用な情報を随時提供しているほか、応募に関する支援にも力を入れている。国際機関で働く魅力や就職方法を説明するセミナーをオンラインでも開催したり、国際機関の幹部職員や人事担当者が来日して行う就職説明会を実施したりするなど、広報に努めている。
より多くの優秀な日本人が国際機関で活躍することによって、顔の見える形で国際社会における日本のプレゼンスが一層強化されることが期待される。各日本人職員が担当する分野や事項、また、赴任地も様々であるが、国際社会が直面する諸課題の解決という目標は共通している(274、275ページ コラム参照)。
さらに、国際機関において職務経験を積み、世界を舞台に活躍できるグローバル人材が増加することは、日本の人的資源を豊かにすることにもつながり、日本の発展にも寄与する。
外務省は、地球規模課題の解決に貢献できる高い志と熱意を持った優秀な日本人が一人でも多く国際機関で活躍できるよう、今後もより積極的に国際機関における日本人職員の増加及び昇進支援に取り組んでいく。

知的財産制度とサービスの普及で世界のイノベーションを推進
特許庁の審査官だった1986年にジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)の派遣制度に応募して、ジュネーブにあるWIPOに勤務しました。留学や海外赴任の経験もなく、ぶっつけ本番の国際機関勤務でしたので、派遣中の2年間は厳しい洗礼を受けました。JPOは、正規ポストへの採用を目指す外務省の制度ですが、厳しい国際競争ですので、私もすぐには正式採用とならず、その後特許庁に復帰しました。ガット・ウルグアイラウンドの知的財産分野での交渉団に参加する機会を通じて、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部に出向して、国際交渉経験や人脈を構築できたのが奏功し、1994年にはWIPOの知的財産情報部長として採用されました。
2004年には、ジュネーブの国際機関に勤務する日本人職員の横断的・任意参加組織としてジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)が設立されました。私は、その設立に参加し、その後、会長としても、外務省・ジュネーブ代表部と連携しつつ、より多くの優秀な日本人が国際機関で活躍できるように、活動を続けてきました。少しずつ層が厚くなり、幹部となる優秀な方も出てきましたが、まだまだ発展の余地があります。
WIPOでの私の仕事は、知的財産制度や情報サービスの拡充を通じて、世界のイノベーションのエコシステム※を発展させ、地球規模の課題を解決していくことでした。在任中は、戦略政策担当・予算活動計画策定、WIPO本部新庁舎建設、WIPOシンガポール・東京事務所の開設、開発途上国90か国をつなげた知財権登録オートメーションシステムの構築、アフリカ大学での知財修士課程設立、オンライン知財コースの開設、知財情報グローバル・データベースの構築、世界最先端の技術文献翻訳用ニューラルAI自動翻訳システムや図形商標検索用AIサーチツールの開発・実装、データが主導するイノベーション成果の管理のためのグローバルなデジタル・タイムスタンプ・サービスの開始などを実現しました。
2008年には、日本政府の支援を得て、WIPO事務局長選挙に立候補しました。決選投票には残れませんでしたが、善戦できました。その後、事務局長補として2期、WIPOのデジタル・トランスフォーメーションなどを指揮しました。
WIPOの前身は1893年設立の条約管理国際事務局ですが、国連専門機関となったのが1974年でした。その後の半世紀は、世界経済のグローバル化と新技術革新による知識経済化の流れに乗ったWIPOの活動の拡大期と重なります。
資源がなく、技術や知識ベースで国を興(おこ)してきた日本の戦略・政策と知見は、多くの国にとって貴重なノウハウです。地球環境問題に対処して、より持続可能な、知識と豊かな文化によって支えられる世界を実現していくことが求められる世界に対して、日本が貢献できることは多いのです。
私は、合計28年間の国際機関勤務を経て2020年末に退職しました。この経験から、世界の最先端で、自分の創意工夫や尽力を存分にいかして活躍できる充実感は、素晴らしいものだと断言できます。是非、もっと多くの日本人に国際機関で活躍してもらいたいと願います。


(2月、WIPO本部)
※イノベーションのエコシステム:行政、大学、研究機関、企業など様々なプレーヤーが相互に関与し、絶え間なく技術革新が創出される環境のこと

コロナ禍の2020年を振り返って
UNDPインド常駐代表として赴任して約1年、より積極的に国内各地の視察を行い、プログラムの進捗状況を現場で確認しながら政府や各方面の関係者との連携強化に努めようと計画していた矢先、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)がインドを含む世界を襲いました。3月半ばに慌ただしく500人強の全スタッフの勤務体制を在宅勤務に切り替えると、その1週間後にはインド全土でのロックダウン(都市封鎖)が始まりました。
ロックダウン直後には、突如として職を失い、大都市から数百キロ先の出身村まで徒歩で帰らざるを得なくなった出稼ぎ労働者でごった返した幹線道路の映像が、連日、国内外のメディアで流れました。インドでは労働人口の80%以上が、露天商や三輪自動車タクシーなどインフォーマルセクターで働く労働者で占められています。停滞している経済状況の中で、彼らのような労働者とその家族の多くが貧困に陥る可能性は非常に高く、心が痛みます。
このような未曽有の状況の中、当初は、新型コロナ対応プログラムの早期立ち上げ、既に活動が始まっているプログラムの軌道修正、在宅勤務となった総勢500人超のスタッフの統括、時差の大きいニューヨーク本部やバンコク地域事務所との勤務時間外のオンライン会議の連続、そして日本にいる両親のことなど、毎日プレッシャーと不安でいっぱいだったことを思い出します。過去9か国の勤務地でも内戦や自然災害後の復興、気候変動、政治対話など様々な状況に対応してきましたが、コロナ禍では国連勤務23年目にして全く想定外の危機対応能力が求められました。
パンデミック(感染拡大)が終息しない中、各プログラムを実施するのは決して容易ではありません。UNDPは各州にスタッフが駐在しており、彼ら彼女らを通じて、また地域に密着したNGOと連携しプログラムを動かしています。その際はスタッフの安全が第一なので、新型コロナ対策がしっかりできているか必ず確認しています。私自身もスタッフと一緒に最前線でコミュニティ支援を行う機会があります。先日はUNDPのプラスチック再利用のプロジェクトに従事しているごみ収集分別者の女性たちに支援物資を渡しました。使い捨てのマスクや決して安全ではないゴミを収集して生計を立てている彼女たちに、心から感謝の意を届けました。
暗いニュースと多忙な日々に終わった2020年。今年1年のスタッフ一同の頑張りに労(ねぎら)いの意を表す目的で、年末にはUNDPアジア太平洋局のスタッフ向けの動画の制作を担当することになりました。米国の人気歌手ジャスティン・ティンバーレイクの「Can't Stop The Feeling!」の曲に合わせて局長、副局長、アジア太平洋各国の常駐代表の総勢25人が独自のダンスを繰り広げるというユニークな趣向のものに仕上げたところ、大反響でした。
世界の中で、またインドで、国連としてどこまで貢献できるだろうか。期待に応える仕事ができているだろうか。日々、試行錯誤しながら自分自身に問いかけてきた1年でした。スタッフ全員が常に一つにまとまり、健康でやる気を失わずに今までどおり、あるいはそれ以上の仕事の結果を出してもらうのは決して簡単ではありません。このような危機下であるからこそ、よりスタッフに寄り添ったリーダーでありたいと心掛けています。

(写真提供:©UNDP)

(2)非政府組織(NGO)の活躍
ア 開発協力分野
政府以外の主体の力をいかし、オールジャパンでの外交を展開する観点から、開発途上国などに対する支援活動の担い手として、開発協力及び人道支援においてNGOが果たし得る役割は大きく増している。
外務省は、日本のNGOが開発途上国・地域で実施する経済・社会開発事業に対する無償の資金協力(「日本NGO連携無償資金協力」)によりNGOを通じた政府開発援助(ODA)を積極的に行っており、事業の分野も保健・医療・衛生(母子保健、結核・HIV/エイズ対策、水・衛生など)、農村開発(農業の環境整備・技術向上など)、障害者支援(職業訓練・就労支援、子供用車椅子供与など)、教育(学校建設など)、防災、地雷・不発弾処理など、幅広いものとなっている。2020年は、日本の62のNGOが、アジア、アフリカ、中東、中南米など31か国・地域で104件の日本NGO連携無償資金協力事業を実施した(277ページ コラム参照)。さらに、NGOの事業実施能力や専門性の向上、NGOの事業促進に資する活動支援を目的とする補助金(「NGO事業補助金」)を交付している。
また、政府、NGO、経済界との協力や連携により、大規模自然災害や紛争発生時に、より効果的かつ迅速に緊急人道支援活動を行うことを目的として2000年に設立されたジャパン・プラットフォーム(JPF)には、2020年12月末現在、44のNGOが加盟している。JPFは、2020年には、南アジア及びアフリカでの害虫被害緊急支援、フィリピン・タール火山噴火災害被災者支援、バングラデシュ・サイクロンアンファン被災者支援、新型コロナウイルス感染症対策緊急支援、レバノン・ベイルート大規模爆発被災者支援プログラムなどを立ち上げたほか、バングラデシュ、南スーダン及び周辺国、ウガンダ、ベネズエラ、イラク、シリア及び周辺国における難民・国内避難民支援を実施した。

(写真提供:(特活)パルシック)
このように、開発協力及び人道支援の分野において重要な役割を担っているNGOを国際協力のパートナーとして位置付け、NGOがその活動基盤を強化して更に活躍できるよう、外務省と国際協力機構(JICA)は、NGOの能力強化、専門性向上、人材育成などを目的として、様々な施策を通じてNGOの活動を側面から支援している(2020年、外務省は、「NGO相談員制度」、「NGOスタディ・プログラム」、「NGOインターン・プログラム」及び「NGO研究会」の4事業を実施)。
NGOとの対話・連携の促進を目的とした「NGO・外務省定期協議会」は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により従来の日程を変更して、11月にNGO支援や連携策について協議する連携推進委員会の第1回会合を開催した。また、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた取組についても、SDGs推進円卓会議などでNGOを含め多様なステークホルダーとの意見交換を行いながら取り組んでいる。このほか、2019年から2020年にかけて実施された、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)開発協力対日相互レビューにおいても、NGOが参加し、DAC審査団との意見交換を行った。

さらに10月6日から、新型コロナ感染拡大の影響により中止となった「グローバルフェスタJAPAN」の代替として、外務省・JICA・国際協力NGOセンター(JANIC)の三者共催によるオンラインキャンペーン「EARTH CAMP」を開始した。

日本では、どの学校にも必ず図書館(図書室)がありますが、ラオスの中学校では約1,500校のうちわずか100校にしか設置されておらず、ラオス政府が重視している読書環境は十分には整備されていない状況にあります。首都ビエンチャンでさえ本屋は数軒しかなく、現地の人たちと接していても、読解力や文章表現、情報処理に慣れていないと気付かされます。本や図書館は子どもの成長にとって、なくてはならない重要なものなのです。
このように教育環境が不充分な地域で、図書館が設置され学習環境が整うことで教育が改善する可能性を示すため、私たちの団体では、日本NGO連携無償資金協力事業「ビエンチャン県における中学校の図書館整備を通した読書推進事業」を通じて、ビエンチャン県ポンホーン郡及びヒンフープ郡内の計三つの中学校の教員約140人と生徒約2,900人を対象に、各校3,000冊の書籍の供与と、日本人の建築専門家指導の下、読書・学習スペースを兼ね備えた広さ120平方メートルの図書館を建設しました。
この事業で力を入れたのが、持続可能な図書館運営の体制を作ることです。学校の先生だけに頼ったこれまでの運営から、地域ぐるみで学校の図書館を支えていく体制に変えることが必要と考え、村の教育開発委員会が学校と連携して図書館運営をサポートし、それを郡教育局が見守る仕組みを構築することにしました。郡の教育局、村の教育開発委員会メンバーの研修参加率は高く、研修をしていく中で、それぞれの機関が自分たちの役割を認識し、学校図書館を自分たちの守るべきものと考える当事者意識が芽生えてきたことを実感しています。
日々の図書館業務については、図書館担当の教師や図書ボランティアの生徒たちが、自分たちで入館者記録や図書登録を行ったり、貸出・返却の手続をしたりできるようにトレーニングします。今後はさらに、図書館サインや図書館展示を設置したり、教師たちが授業で図書を積極的に活用することができるよう、「輪読」「暗唱」「(本を題材にした)演劇」といった発展的取組を実施し、FacebookなどのSNSを活用して各学校図書館が活動を発信したり、情報交換したりして、お互いに刺激し合い助け合うネットワーク作りもしていきます。
4月には、新型コロナウイルス感染症の影響によりラオス全国でロックダウンとなり、全ての学校が3月末から5月末まで一時閉鎖となりました。これにより、建設した図書館が臨時閉館を余儀なくされましたが、学校関係者が校内に手洗い場を増設するなどの予防対策をし、9月から図書館を再開することができました。私たち団体の活動においても、ロックダウン中は県を越えての移動が制限され、現在も専門家の派遣ができないなどの影響が出ていますが、SNSなどを活用し、オンラインで専門家と現地をつなぎ日本人駐在員を介してやり取りするなど、今後も臨機応変に対応しながら活動を進めていきます。



イ そのほかの主要外交分野での連携
人権に関する諸条約に基づいて提出する政府報告や第三国定住難民事業、国連安保理決議第1325号及び関連決議に基づく女性・平和・安全保障に関する行動計画などについても、日本政府はNGO関係者や有識者を含む市民社会との対話を行っている。
また、通常兵器の分野では、地雷・不発弾被害国での地雷や不発弾の除去、危険回避教育プロジェクトの実施に際して、NGOと協力している。
さらに、核軍縮の分野でも、様々なNGOや有識者と対話を行っており、「非核特使」及び「ユース非核特使」の委嘱事業などを通じて、被爆者などが世界各地で核兵器使用の惨禍の実情を伝えるためのNGOなどの活動を後押ししている。2020年12月までに、101件延べ299人が非核特使として、また、35件延べ405人がユース非核特使として世界各地に派遣されている。
国際組織犯罪対策では、特に人身取引の分野において、NGOなどの市民社会との連携が不可欠であるとの認識の下、政府は、近年の人身取引被害の傾向の把握や、それらに適切に対処するための措置について検討すべく、NGOなどとの意見交換を積極的に行っている。
(3)JICA海外協力隊・専門家など
JICA海外協力隊(JICAボランティア事業)は、技術・知識・経験などを有する20歳から69歳までの国民が、開発途上国の地域住民と共に生活し、働き、相互理解を図りながら、その地域の経済及び社会の発展に協力・支援することを目的とするJICAの事業である。本事業が発足した1965年以降、累計で98か国に5万4,418人の隊員を派遣し(2020年3月末現在)、計画・行政、商業・観光、公共・公益事業、人的資源、農林水産、保健・医療、鉱工業、社会福祉、エネルギーの9分野、約190職種にわたる協力を展開している。
帰国した協力隊参加者は、その経験を教育や地域活動の現場、民間企業などで共有するなど、社会への還元を進めており、日本独自の国民参加による活動は、受入国を始め、国内外から高い評価と期待を得ている。
2020年は、新型コロナの世界的流行の影響を受け、派遣中の隊員全員が3月中旬から順次一時帰国し、4月以降に派遣を予定していた隊員についても派遣を見合わせた。これら隊員については、2020年11月末以降、ベトナムを始め受入れ体制が整った一部の派遣先から渡航を再開してきている。
JICA専門家は、専門的な知識、知見、技術や経験を有した人材を開発途上国の政府機関や協力の現場などに派遣し、相手国政府の行政官や技術者に対して高度な政策提言や必要な技術及び知識を伝えるとともに、協働して現地に適合する技術や制度の開発、啓発や普及を行う事業である。専門家は、開発途上国の人々が直面する開発課題に自ら対処してくための総合的な能力向上を目指し、地域性や歴史的背景、言語などを考慮して活動している。
2019年度は新規に8,012人の専門家を派遣し、活動対象国・地域は105か国に及ぶ。保健・医療や水・衛生といったベーシック・ヒューマン・ニーズ(人間としての基本的な生活を営む上で最低限必要なもの)を満たすための分野や、法制度整備や都市計画の策定などの社会経済の発展に寄与する分野など、幅広い分野で活動しており、開発途上国の経済及び社会の発展と日本との信頼関係の醸成に寄与している。
新型コロナの世界的な感染拡大を受け、JICA専門家についてもその多くが一時帰国を余儀なくされたが、国内待機中には、遠隔で現地と連絡をとりながら、業務を遂行してきた。2020年6月以降、国内で待機していた専門家は、現地の状況などを踏まえつつ、順次、再渡航している。

世界一高い山、エベレストを有する国ネパールでは、およそ国民の70%もの人々が農業に従事しています。私が活動していたゴルカ郡は、標高200メートルの平地から8,000メートルに上るヒマラヤ山脈まで大きな標高差があります。キャベツ、トマトなど様々な野菜が栽培される一方で、険しい地勢と脆弱(ぜいじゃく)な交通インフラが流通の阻害要因となり、地産地消が主で、自給自足的な生活を送る小規模農家が主流です。近年は、地域道路網が徐々に改善され、カトマンズやポカラといった大消費地へのアクセスが向上した結果、ゴルカ郡の地域農民の間で、都市住民に向けた農産物販売による収入向上実現への期待が高まっています。
このような背景の下、「ネパール・農業を通じた農村地域活性化プロジェクト」がJICAと拓殖大学との連携プロジェクトとして発足しました。私は、市場の広域化や消費者ニーズの多様化に対応し、有機栽培技術の改善と普及、販路拡大や事業ニーズの堀り起こしなどに取り組む青年海外協力隊員(職種:野菜栽培)として派遣されました。そこでまず私は有機栽培の普及とブランド化を目指して活動を始めました。現地では有機栽培への関心が非常に高く、積極的に取り組む農家は多くいました。しかし、ネパールでは有機栽培に関する法律が整備されていないために、有機栽培で生産しても証明するすべがありませんでした。そのため、私の配属先である農業普及センターの職員と話し合い、日本や欧米諸国の法律に準拠する形でゴルカ郡内の基準を設けることにしました。この「有機ゴルカマーク」を付けた野菜を各地へ売り出すことをゴールに定め、ゴルカ郡内の農家を巡回して有機栽培の普及を行いました。まずは有機栽培の概念から指導し、メリットやデメリットを説明した上で一緒に取り組んでくれる農家を増やしました。また、既に有機栽培に取り組んでいる農家には、より適した、より良い農法を指導しました。活動を通して字の読み書きができない方々の多さに驚くとともに、メモやマニュアルを読めない人にどのようにして技術を残すかという課題にぶつかりました。そこで繰り返し見られる動画を作ることにしました。まずは有機農薬の作り方や農薬の安全なまき方を動画にまとめ、現地で配布しました。反響は大きく、好評でした。
そのような中、新型コロナウイルス感染症拡大により日本への帰国を余儀なくされました。帰国後は自分の所有する圃場(ほじょう)(農作物を栽培するための場所)でネパールでも可能な方法で栽培をし、ネパールに向けた動画を作っています。またSNSを利用して現地の方と連絡を取り、遠隔での指導を継続して行っています。志半ばでの帰国となってしまいましたが、今後も日本からできる支援を継続して取り組んでいきたいと思います。



(筆者前列左から4番目)