3 地方自治体などとの連携
外務省は、内閣の最重要課題の一つである地方創生に積極的に取り組み、地方との連携による総合的な外交力を強化するための施策を展開している。
日本国内では、外務大臣が各都道府県知事と共催し、各国の駐日外交団や商工会議所・観光関係者などを外務省の施設である飯倉公館に招き、レセプションの開催やブースでの展示を通じて地方の多様な魅力を内外に広く発信する地方創生支援事業を展開している。2020年は、2月に岩手県とレセプションを共催した。約250人の関係者が出席する盛況であり、岩手県の観光、食材、伝統工芸品などの広報に加え、東日本大震災から復興へのこれまでの軌跡の紹介、釜石でのラグビーワールドカップ2019の試合開催時の様子や2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けたホストタウン交流の紹介、また「盛岡さんさ踊り」のパフォーマンスを披露するなど、多様な魅力と取組を広く発信し、駐日外交団を始め、駐日商工会議所、企業関係者などの参加者と共催自治体との間で更なる交流・連携促進につながる機会となった。

(2月7日、東京・外務省飯倉公館)
また、外務省は複数の自治体と協力して、各国の駐日外交団や商工会議所、観光関連企業などの関係者に対して各地域の産業、観光、投資、企業誘致などの特徴や利点・魅力を発信する「地域の魅力発信セミナー」を、2008年以降これまでに26回実施している。参加者からは、東京にいながらにして地方の魅力を直接体験できる貴重な場であるとして好評を得ており、地方自治体と外交団などの外国関連団体関係者とのネットワーク作りの促進にもつながっている。9月に予定していた本事業は、新型コロナの影響により中止した。

このほか、外務省と地方自治体との共催で、各地方の魅力を現地で直接体験してもらうことを目的に駐日外交団が参加する「地方視察ツアー」を実施し、11月の奈良県田原本町へのツアーでは、駐日外交団から9名が参加した。各国大使を始めとする外交団は、地域が誇る歴史・文化施設などに直接足を運び、地域の産業や自治体の取組について見聞を深め、そのあふれる魅力を堪能した。これまで、ツアーの実施をきっかけに参加国との交流・連携が始まった自治体や、参加外交団とのつながりを活用して同地域への来訪者増加を目指す自治体も出てきている。

さらに、外務省では地方自治体に対し、最新の外交政策などに関する説明や意見交換の場を積極的に提供している。その一環として「地方連携フォーラム」を1月に開催した。第1部の外交政策説明会では外務省職員による「日・メコン協力」についての講演が実施され、第2部の分科会では「環境・気候変動-循環経済と地方行政ができること-」、「MICE2を通じた地方の国際化」、「オリンピック・パラリンピックの機運の定着のために-交流の継続と地域の発展-」のテーマで意見交換が行われた。また、その後の中谷真一外務大臣政務官主催の意見交換会では駐日外交団なども参加し、自治体職員との間で活発な意見交換が行われた。

海外での事業については、東日本大震災後の国際的な風評被害対策として、食品輸入規制の撤廃・緩和の働きかけと併せ、地方創生の一環として日本の地域の魅力発信、日本各地の商品の輸出促進、観光促進などを支援する総合的な広報事業である「地域の魅力海外発信支援事業」を中国でオンライン形式を中心に実施した(12月)。同事業では、中国の消費者に、中国にいながらにして日本の観光・文化・食などの地域の魅力を一層体感してもらうべく、期間中、在中国日本大使館の微博(中国SNSウェイボー)アカウントにて、50の自治体参加の下、日本各地の動画を配信した。また、北京で生中継イベントを開催して、新浪微博(中国インターネット配信プラットフォーム会社)の微博アカウントにてライブ配信を行った。食や工芸、観光などを始めとする日本各地の楽しみ方を中国人KOL(インフルエンサー)が紹介し、北海道、宮城県、静岡県、高知県をつないだ中継の視聴者数は170万人近くに上った。このほか、期間中、中国各地で小売店、EC(電子商取引)、日本料理店、卸売業者など、各種団体が実施する日本料理や特産品に関するプロモーション・販促活動について、情報発信などの支援を行った。

(12月19日、中国・北京)
また、在外公館施設を活用して自治体が地方の魅力を発信することを通じて、地場産業や地域経済の発展を図るための支援策である「地方の魅力発信プロジェクト」をアジア及び北米地域において計2件実施した。
加えて、例年天皇誕生日の時期に合わせて開催される「在外公館における天皇誕生日レセプション」で地方自治体の産品や催事などを紹介・発信する場を設けており、2019年は107の在外公館において延べ50の自治体による情報発信が実施された。
このほか、外務省では様々な取組を通じて日本と海外の間の姉妹都市交流や翌年に延期された2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のホストタウン交流を始めとする日本の地方自治体と海外との間の交流を支援している。具体的には、在外公館長や館員が海外の姉妹都市提携先を訪問して、国際交流・経済交流関係担当幹部などと意見交換を行うことや、在外公館長の赴任前や一時帰国の際に地方都市を訪問し、姉妹都市交流やホストタウン交流に関する意見交換や講演を行うことで、地方の国際化を後押ししている。また、日本の自治体と姉妹都市提携を希望している海外の都市などがある場合は、都道府県及び政令指定都市などに情報提供するとともに、外務省ホームページの「グローカル外交ネット」で広報するなどの側面支援を行っている。
地方連携推進室ではツイッターを活用し、自治体の魅力など様々な情報を独自の視点から紹介する広報を実施している。具体的な投稿としては上記の関連事業のほか、地域色豊かな食を紹介する「Local Cuisine」、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした国や選手団と自治体とのやりとりや取組を紹介する「#HostTown」、姉妹都市やホストタウンに関連した自治体にまつわる情報をクイズ方式で紹介する「Local Quiz Trip」などを展開している3。
また、各地の日本産酒類(日本酒、日本ワイン、焼酎・泡盛など)の海外普及促進の一環として、各在外公館における任国要人や外交団との会食で日本産酒類を提供したり、天皇誕生日祝賀レセプションなどの大規模な行事の際に日本酒で乾杯をするなど日本産酒類の紹介・宣伝に積極的に取り組んでいる。
さらに、開発途上国の急速な経済開発に伴いニーズが急増している水処理、廃棄物処理、都市交通、公害対策などについて、ODAを活用して日本の地方自治体の経験やノウハウ、また、これを支える各地域の中小企業の優れた技術や製品も活用した開発協力を進めるとともに、そうした途上国の開発ニーズと企業の製品・技術とのマッチングを進めるための支援を実施している。これらの取組は、地元企業の国際展開やグローバル人材育成にも寄与し、ひいては地域経済・日本経済全体の活性化にもつながっている。

~新時代のホストタウン交流の曙(あけぼの)~
オンラインが織りなす軌跡と奇跡
「私たちの気持ちは皆さんと一緒です。一緒に頑張って乗り越えましょう!」
3月中旬、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)が世界的に拡大するさなか、タイのボッチャ代表チームから、大館市を始め秋田県の皆さんへ向けて、SNSを通して動画で応援メッセージが届けられました。先導的共生社会ホストタウン※である大館市は、2019年にはタイチームの事前キャンプを受け入れ、同時に市民との交流を行ってきた経緯がありました。2020年に入り、新型コロナの感染拡大に対する恐怖が世界中を駆け巡り、各国が自国内での感染の広がりを案じる状況において、タイから海を越えて励ましのメッセージが届けられたのです。これを受け取った大館市では、市長始め小学生も含む老若男女の市民が同じくSNSを通じて、動画でタイ語や音楽を交えながら応援と感謝の気持ちをタイの人々に伝えました。
海の向こうの国の人々を心配して気持ちを届ける。2021年に開催される2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「大会」という。)の開催を前にして、早くもこうした温かな関係性の表出がSNSを通して見られたことは、ホストタウン交流による絆の深まりの表れであることはもちろんですが、SNSの即時性とも相俟(あいま)って、相手国と往来せずとも絆を深められることの証左と言えるのではないでしょうか。世界中で人的往来が困難となる中、改めて交流の形が模索されようとするときにあって、新たな光明を見いだす出来事でした。
このときを皮切りにして、ホストタウン間及び姉妹都市間などで、「コロナを乗り越えよう!」とエールを送り合う光景がSNS上で盛んに見られ始めるようになりました。応援の気持ちの表し方は実に様々です。橋梁(きょうりょう)をホストタウン相手国のイタリア国旗カラーにライトアップして応援の気持ちを伝えた静岡県藤枝市。スイス・ツェルマットからはマッターホルンに日本国旗を照射し、姉妹都市の新潟県妙高市と山梨県富士河口湖町へダイナミックに応援の気持ちが表されました。
新型コロナ流行下での交流は、こうしたエール交換にとどまりません。山形県鶴岡市ではホストタウン相手国のモルドバと6時間の時差を超えて、競技大会「鶴岡ホストタウン日本・モルドバリモートアーチェリー親善大会 KAKEHASHI2020」がオンラインで開催されました。約2時間の熱戦が繰り広げられ、8,400キロメートルもの距離を物ともしないリアルタイムでの競技を通じた交流は、オンラインという形の今後の可能性を大いに感じさせるものでした。
もとより大海に囲まれ相手国・地域と物理的ディスタンスがある日本。しかし、それを瞬時に乗り越えるオンライン上での新たな交流。情報通信技術(ICT)の発展著しい今日。更にこの先、全国各地のホストタウンで距離やその他の障害を越えようとする気持ちが交流の新時代を切り拓(ひら)いていくことでしょう。
いよいよ大会本番。沸き起こる感動の大河に架けられたホストタウン交流の幾本もの絆の橋。また、今大会を契機として新たに国・地域へと架けられていくレガシー(遺産)としての絆の橋。それらがより太くなっていくことに期待し、新型コロナが収束した後も、オンラインの往来とリアルの往来というハイブリッドな国際交流がますます盛んになっていく未来に想(おも)いを馳(は)せます。


(9月12日、写真提供:山形県鶴岡市)
※共生社会ホストタウンとは、パラリンピアンとの交流をきっかけに、共生社会を実現するため、ユニバーサルデザインの街づくり及び心のバリアフリーなどの取組を実施し、大会のレガシーにもつなげていくホストタウンのこと。大館市は、企業と連携し駅にボッチャコートを設置、県内の市町村では初めて手話に関する条例の施行など、先導的かつ先進的なユニバーサルデザインの街づくり及び心のバリアフリーの取組を総合的に実施する、先導的共生社会ホストタウンである。
2 MICE:企業などの会議(Meeting)、企業などの行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などが行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称
3 地方連携推進室Twitter:https://twitter.com/localmofa
