外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する経済外交

第4節 資源外交と対日直接投資の促進

1 エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保

(1)エネルギー・鉱物資源をめぐる内外の動向

ア 世界の情勢

近年、国際エネルギー市場には、①需要(消費)構造、②供給(生産)構造、③資源選択における三つの構造的な変化が生じている。①需要については、世界の一次エネルギー需要が、中国、インドを中心とする非OECD諸国へシフトしている。②供給については、「シェール革命」により、石油・天然ガスともに世界最大の生産国となった米国が、2015年12月に原油輸出を解禁し、また、トランプ政権の下で米国産の液化天然ガス(LNG)の更なる輸出促進を表明するなど、エネルギー輸出に関する政策を推進している。③資源選択については、エネルギーの生産及び利用が温室効果ガス(GHG)の排出の約3分の2を占めるという事実を踏まえ、再生可能エネルギーなどのよりクリーンなエネルギー源への転換に向けた動きが加速している。また、気候変動に関するパリ協定が2015年12月に採択されて以降、企業などによる低炭素化に向けた取組が一層進展している。

原油市場の動きについて見ると、新型コロナの感染拡大を受け、移動の減少、経済活動の停滞により石油需要は激減し、原油価格は大幅に下落した。3月には石油輸出国機構(OPEC)1プラス2による協調減産が決裂し、史上初となるマイナス価格を記録した。その後、OPECプラスは5月以降の協調減産に合意し、供給過剰は徐々に緩和した。また、中国やインドにおける石油需要の回復や、協調減産の継続などにより需給バランスは改善し原油価格は上昇基調となり、落ち着いた状況が継続している。しかし、新型コロナの感染が引き続き拡大している中、先行に不安が広がり、エネルギー需要の回復が見通せない状況であり、原油市場が不安定化する懸念は拭えていない。こうした油価の変動が将来のエネルギー安全保障に与える影響を引き続き注視していくことが重要である。

イ 日本の状況

東日本大震災以降、日本の発電における化石燃料が占める割合は、原子力発電所の稼働停止に伴い、震災前の約60%から2012年には約90%に達した。石油、天然ガス、石炭などのほぼ全量を海外からの輸入に頼る日本の一次エネルギー自給率(原子力を含む。)は、震災前の20%から2014年には6.4%に大幅に下落し、2018年度には11.8%まで持ち直したものの、他のOECD諸国と比べると依然として低い水準にある。また、日本の原油輸入の約92%が中東諸国からであり、LNGや石炭については、中東への依存度は原油に比べて低いものの、そのほとんどをアジアやオセアニアからの輸入に頼っている(いずれも2019年)。このような中、エネルギーの安定的かつ安価な供給の確保に向けた取組がますます重要となっている。

こうした状況を背景に、2018年7月に閣議決定された、「第5次エネルギー基本計画」では、3E+S(「安定供給(Energy Security)」、「経済効率性(Economic Efficiency)」、「環境適合(Environment)」及び「安全性(Safety)」)の原則の下、安定的で負担が少なく、環境に適合したエネルギー需給構造を実現すべく、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた取組やエネルギーシステム改革の推進も盛り込まれており、2030年度の温室効果ガス26%削減(2013年比)に向けてエネルギーミックスの確実な実現を目指すとしている。「エネルギー基本計画」は、少なくとも3年ごとに検討を加えることとなっており、2020年10月に次期エネルギー基本計画作成に向けた議論が開始された。

(2)エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保に向けた外交的取組

エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保は、活力ある日本の経済と人々の暮らしの基盤をなす。外務省として、これまで以下のような外交的取組を実施・強化してきている。

ア 在外公館などにおける資源関連の情報収集・分析

エネルギー・鉱物資源の獲得や安定供給に重点的に取り組むため、在外公館の体制強化を目的とし、合計53か国60公館に「エネルギー・鉱物資源専門官」を配置している(2020年末現在)。また、日本のエネルギー・鉱物資源の安定供給確保に関係する在外公館の職員を招集して、「エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議」を毎年開催している。2020年は新型コロナの感染拡大に伴い開催が中止されたものの、直近では2019年2月に東京で開催し、関係省庁や民間部門などからも参加を得て、エネルギー・鉱物資源を取り巻く国際情勢及びそれに応じた日本の戦略の方向性について、活発な議論を行った。また、2017年から特定地域を対象とした地域公館エネルギー・鉱物資源担当官会議を開催している。2019年には中東地域を対象としてエジプトで開催し、外務本省と在外公館、政府関連機関との連携強化の重要性、日本のエネルギー・資源外交及び再生可能エネルギー外交を効果的に推進していくための方策について議論を行った。

イ 輸送経路の安全確保

日本が原油の約9割を輸入している中東からの海上輸送路や、ソマリア沖・アデン湾などの国際的に重要な海上輸送路において、海賊の脅威が存在している。これを受けて、日本は、沿岸各国に対し、海賊の取締り能力の向上、関係国間での情報共有などの協力、航行施設の整備支援を行っている。また、ソマリア沖・アデン湾に海賊対処のために自衛隊及び海上保安官を派遣して世界の商船の護衛活動を実施している。

ウ 国際的なフォーラムやルールの活用

エネルギーの安定供給に向けた国際的な連携・協力のため、日本は、国際的なフォーラムやルールを積極的に活用し、世界のエネルギー市場・資源産出国の動向や中長期的な需給見通しなどの迅速かつ正確な把握に加え、石油の供給途絶などの緊急時における対応能力の強化に努めている。

新型コロナの感染拡大に伴う経済の停滞によるエネルギー需要への影響を受けて、4月、G20エネルギー大臣臨時会合(テレビ会議)が実施され(日本からは梶山弘志経済産業大臣が出席)、不安定なエネルギー市場が実体経済に多大なる悪影響を与えていることなどを認識し、市場安定化、エネルギー安全保障強化の観点からG20として連携を強化していくことを確認した。

9月、サウジアラビアを議長国としてG20エネルギー大臣会合(テレビ会議)が開催され、外務省からは、鷲尾英一郎外務副大臣が出席した。同会合では、循環炭素経済(CCE:Circular Carbon Economy)、エネルギー・アクセス、エネルギー安全保障・市場安定化などについて議論が行われ、成果文書として、閣僚声明が発出された。同閣僚声明では、新型コロナの感染拡大が世界のエネルギー市場の不安定化を招いている状況に対し、エネルギーシステムの強靱(きょうじん)化に向けた国際協力の重要性を確認し、安全、安価で、持続可能なエネルギーへのアクセス実現の重要性を確認した。さらに、2019年のG20大阪サミットにおいて確認された3E+S(「安定供給」、「経済効率性」、「環境適合」及び「安全性」)を実現するためにはエネルギー転換が重要であることを再確認した。

11月、鷲尾外務副大臣は、国際エネルギー機関(IEA)3がアフリカ連合委員会(AUC)と共に主催するアフリカに関する閣僚フォーラムに出席し、日本のアフリカにおけるエネルギー・アクセスの改善及びアフリカへの投資の継続の重要性を強調するとともに、同地域におけるエネルギーへのユニバーサル・アクセス実現に向けた日本の取組について紹介した。

(3)エネルギー・資源外交に関する2020年の主な取組

ア エネルギー・資源外交政策の検討と打ち出し

1月、若宮健嗣外務副大臣は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)4第10回総会(アラブ首長国連邦・アブダビ)に出席し、再生可能エネルギーの更なる普及拡大に向けた日本の方針や取組に関するスピーチを行い、2030年頃から寿命を迎える太陽光パネルなどが大量に廃棄される時代が到来することを問題提起した。また、再生可能エネルギーの長期的かつ安定的な普及促進のためには、その導入の加速化だけではなく、環境に配慮しつつ、将来的な廃棄の問題について今から考え、取り組むことが重要であることを訴えた。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)第10回総会でスピーチを行う若宮外務副大臣(1月11日、アラブ首長国連邦・アブダビ)
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)第10回総会でスピーチを行う若宮外務副大臣(1月11日、アラブ首長国連邦・アブダビ)
イ 在京外交団を対象とした千葉県及び福島県におけるカーボンリサイクル関連施設の視察

3月、資源エネルギー庁、東京理科大学、福島県いわき市の協力により、在京外交団を対象とした千葉県野田市、柏市、福島県いわき市におけるCCUS5/カーボンリサイクル関連施設の視察(CCUS/カーボンリサイクルスタディーツアー)を実施した。

今回のスタディーツアーは、「福島新エネ社会構想」などに基づき、脱炭素化を実現するための日本の取組を世界に発信することを目的として実施されたもので、合計5か国(5人)の大使館から参加があった。参加外交団一行は、東京理科大学野田キャンパスで開催された「CCUS/カーボンリサイクルセミナー」に参加したほか、同大学内にある光触媒国際研究センターにおいて、カーボンリサイクルを実現する最先端技術として、二酸化炭素還元技術に関して理解を深めた。また、千葉県柏市の「日立造船株式会社」を訪問し、二酸化炭素と水素からメタンを生成するメタネーションの実証装置や水素製造装置を視察した。さらに、福島県いわき市の「とまとランドいわき」及び「常磐共同火力株式会社勿来(なこそ)発電所」を訪問し、様々な環境に配慮した農業の先進的な取組や日本が誇る世界最先端のクリーンコール技術である石炭ガス化複合発電技術(IGCC)を視察した。

ウ エネルギー憲章条約の近代化に係る交渉の開始

エネルギー憲章に関する条約(ECT:Energy Charter Treaty)は、ソ連崩壊後の旧ソ連及び東欧諸国におけるエネルギー分野の市場原理に基づく改革の促進、世界のエネルギー分野における貿易・投資活動を促進することなどを宣言した「欧州エネルギー憲章」の内容を実施するための法的枠組みとして定められ、1998年4月に発効した多数国間条約である(日本は1995年に署名、2002年に発効)。欧州及び中央アジア諸国を中心とした52か国・機関が本条約を締結している。

エネルギー原料・産品の貿易及び通過の自由化、エネルギー分野における投資の保護・自由化などを規定した本条約は、供給国から需要国へのエネルギーの安定供給の確保に寄与し、エネルギー資源の大部分を海外に頼る日本にとって、エネルギー安全保障の向上に資するほか、海外における日本企業の投資環境の一層の改善を図る上で重要な法的基盤を提供している。

1998年に発効してから20年以上が経過した本条約については、改正などが必要な条項を検討する条約の近代化の議論が2017年から開始され、2019年12月のエネルギー憲章会議第30回会合においてECTの近代化に係る交渉の開始が決定された。2020年から本格的な交渉が開始され、投資保護、紛争解決、通過などに関する多岐にわたる内容について議論が行われており、日本としても積極的に交渉に関与している。また、日本はECTの最大の分担金拠出国であり、2016年には東アジア初となるエネルギー憲章会議の議長国を務め、東京でエネルギー憲章会議第27回会合を開催するなど、ECTの発展に貢献してきている。2020年12月にオンライン形式で開催されたエネルギー憲章会議第31回会合には、鷲尾外務副大臣がビデオメッセージにより出席し、エネルギー安全保障におけるECTの重要性を述べるとともに、昨今のエネルギー情勢をめぐる日本の取組を紹介した。

1 OPEC:Organization of Petroleum Exporting Countries

2 OPECプラスはOPEC加盟国と非加盟国の主要産油国で構成

3 IEA:International Energy Agency

4 IRENA:International Renewable Energy Agency

5 CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage

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