3 日本の農林水産物・食品の輸出促進(東日本大震災後の日本産食品に対する輸入規制)
日本産農林水産物・食品の輸出拡大は政府の重要課題の一つであり、政府一体となった取組を一層促進すべく、2019年4月、「農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議」が設置された。関係の事業者などからのヒアリングなどを実施し、同年6月、今後の課題とそれに向けた対応方針が取りまとめられた。また、同年11月、輸出先国・地域による食品安全規制などに政府一体となって迅速に対応する体制整備などを内容とする「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」が成立し、2020年4月1日に施行された。その後、2030年に農林水産物・食品の輸出額を5兆円にするという新たな目標(「食料・農業・農村基本計画」(2020年3月31日閣議決定))を掲げ、更なる輸出拡大に向け、政府一体となって取組を行っている(167ページ コラム参照)。
外務省は、関係省庁・機関、日本企業、地方自治体などと連携しつつ、在外公館などのネットワークを利用し、SNSなども活用しつつ、日本産農林水産物・食品の魅力を積極的に発信している。特に、54か国・地域の58か所の在外公館には、日本企業支援担当官(食産業担当)を指名し、農林水産物・食品の輸出促進などに向けた取組を重点的に強化しているほか、その他の国・地域においても各国・地域の要人を招待するレセプションや文化行事などの様々な機会を捉え、精力的な取組を行っている。
輸出拡大の大きな障壁の一つとして、東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故後に諸外国・地域が導入した、日本産農林水産物・食品に対する輸入規制措置がある。震災・原発事故から約10年が経過したが、依然として震災・事故後に規制を導入した54か国・地域のうち16の国・地域(2020年12月現在)において、日本の農林水産物・食品などに対する輸入規制措置が維持されていることは大きな問題である。この規制の撤廃及び風評被害対策は政府の最重要課題の一つである。外務省も関係省庁と連携しながら、一日も早くこうした規制が撤廃されるように取り組んでいる。
こうした取組の結果、2020年にはフィリピン(1月)、モロッコ(9月)、エジプト(11月)、アラブ首長国連邦(12月)及びレバノン(12月)が輸入規制を撤廃し、累計で38か国・地域(カナダ、ミャンマー、セルビア、チリ、メキシコ、ペルー、ギニア、ニュージーランド、コロンビア、マレーシア、エクアドル、ベトナム、イラク、オーストラリア、タイ、ボリビア、インド、クウェート、ネパール、イラン、モーリシャス、カタール、ウクライナ、パキスタン、サウジアラビア、アルゼンチン、トルコ、ニューカレドニア(フランス領)、ブラジル、オマーン、バーレーン、コンゴ民主共和国、ブルネイ及び上記5か国)が規制を撤廃した。また、シンガポール、米国、インドネシアが規制を緩和するなど、規制の対象地域・品目が縮小されてきた(2020年12月末時点)。
引き続き、関係省庁、地方自治体、関係する国際機関などと緊密に連携しながら、規制措置を維持する国・地域に対し、科学的根拠に基づく早期撤廃及び風評被害の払拭に向け、あらゆる機会を捉え、説明及び働きかけを行っていく。

岩手県八幡平市は、奥羽山系に抱かれた豊かな自然と温泉やスキー場などに多くの観光客が訪れる緑豊かな街です。市北西部の安代地区は、冷涼な気候をいかして1972年からリンドウを生産してきました。八幡平市が研究開発施設を運営し、市内の花き生産者で構成する一般社団法人安代リンドウ開発と共同研究契約を締結し、リンドウのオリジナル品種の開発を行っています。生産者が販売額の2%を研究協力費として拠出し、安定した組織の運営を図り、生産者の意見を踏まえた品種開発から生産指導までの一貫したシステムを構築することにより、八幡平市は、国内需要の3割を超える日本一のリンドウの産地となりました。
現在、八幡平市が取り組んでいるのが、育成し商標登録した品種「安代りんどう」を世界で活用し、産業振興を図るための知的財産の輸出です。「安代りんどう」の海外展望のきっかけは、1998年2月に開催されたスキー国体の会場に飾る花を日本と季節が逆となる南半球のニュージーランドへ生産委託したのが始まりです。以降、冬期間にニュージーランドで生産された「安代りんどう」を逆輸入し、日本市場での通年販売を実現しようと考えたのです。当初日本からの知的財産の輸出は全く視野になかったのですが、ニュージーランドは花の輸出が盛んな国で、現地の生産者から「なぜ輸出しないのか」と問われたことからリンドウの知的財産輸出の事業が始まったと聞いています。近年では、みずほ情報総研株式会社との共同研究により、2015年から3年間、アフリカのルワンダでの花き生産可能性調査を実施し、周年供給※技術を実証できました。2018年には、ルワンダの現地法人と栽培許諾契約を結び、欧州への輸出をスタートさせています。これをきっかけに八幡平市では2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のルワンダ選手団のホストタウンとしての交流も始まりました。
前段で申し上げたとおり、八幡平市の輸出事業は、生産物の輸出ではなく、知的財産の輸出です。そこから得られるロイヤリティ(商標権の使用料)を活用し、育種(品種改良)の強化や新たな品種の開発に繋(つな)げます。八幡平市のリンドウ生産は2021年に生産開始から50年を迎えます。八幡平市では100年産地を目指すとともに、世界で生産される「安代りんどう」がブランド化され、付加価値の高い農業としてアフリカ地域の発展に貢献できると信じ、今後も取り組んでまいります。


※周年供給:野菜や花などのある一つの品目について、年間を通じて生産し供給すること