3 地方自治体などとの連携
外務省は、内閣の最重要課題の一つである地方創生に積極的に取り組み、地方との連携による総合的な外交力を強化するための施策を展開している。
日本国内では、外務大臣が各都道府県知事と共催し、各国の駐日外交団や商工会議所・観光関係者などを外務省の施設である飯倉公館に招き、レセプションの開催やブースでの展示を通じて地方の多様な魅力を内外に広く発信する地方創生支援事業を展開している。2019年は、鹿児島県(1月)、愛媛県(2月)、長崎県(3月)、宮崎県(11月)、奈良県(12月)とレセプションを共催した。いずれも約200人から250人の関係者が出席する盛況であり、各都道府県の観光、食材、伝統工芸品などの広報に加え、鹿児島県からは「奄美の三味線と踊り」、愛媛県からは「久万山(くまやま)五神太鼓」、長崎県からは「龍(じゃ)踊り」、宮崎県からは「神楽高千穂の夜」、奈良県からは「雅楽」のパフォーマンスが行われるなど、各県が持つ様々な魅力が広く発信され、駐日外交団などの参加者と共催自治体との間で更なる交流・連携促進につながる機会となった。


(2月19日、東京・外務省飯倉公館)

(3月25日、東京・外務省飯倉公館)

(11月8日、東京・外務省飯倉公館)

また、外務省と複数の自治体が協力して、各国の駐日外交団や商工会議所、観光関連企業などの関係者に対して各地域の産業、観光、投資、企業誘致などの特徴や利点・魅力を発信する「地域の魅力発信セミナー」を実施した。6月のセミナーには埼玉県秩父市、大阪府堺市、京都府京丹後市、富山県立山町が参加し、プレゼンテーションを通じた地域の魅力発信や、参加者との交流会において各地域の特産品や観光の紹介、伝統文化の実演やブースの出展が行われた。セミナーに参加した外交団などからは、東京に居ながらにして地方の魅力を直接体験できる貴重な場であるとして好評を得て、地方自治体と外交団などの外国関連団体関係者とのネットワークづくりの促進にもつながった。

また、外務省と地方自治体などとの共催で、各地方が誇る文化・産業施設などの魅力を現地で直接体験してもらうことを目的に駐日外交団が参加する「地方視察ツアー」を、福島県(1月)、茨城県(2月)、福岡県飯塚市(4月)、千葉県千葉市(7月)、山口県萩市(9月)、鹿児島県(11月)で実施し、延べ110余りの国・機関の駐日外交団から約130人が参加した。各国大使を始めとする外交団は、地域が誇る景勝地や地域の文化・産業施設などに直接足を運ぶことで、各地域のあふれる魅力を堪能した。福島県については、2011年の東日本大震災から約8年を経た復興への取組について、理解を深める機会となった。ツアーをきっかけに参加国との交流・連携が始まった自治体や、参加外交団とのつながりを活用して同地域への来訪者増加を目指す自治体も出てきている。

(1月15日~16日、福島県)




(9月26日~27日、山口県萩市)

さらに、外務省では地方自治体に対し、最新の外交政策などに関する説明や意見交換の場を積極的に提供している。その一環として「地方連携フォーラム」を1月に開催した。第1部の外交政策説明会では外務省幹部による「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)に向けて-ビジネスと国際交流の新たなフロンティア-」、「ホストタウン推進の取組に関する説明」について講演を実施し、第2部の分科会では「外国プレス・ソーシャルメディアを活用した対外発信-地方から世界へ-」、「外国人観光客で地域を活性化-ガストロノミーツーリズム-」、「グローバル化に向けたSDGsの取組」、「地方の伝統芸能・工芸品の魅力を世界へ-多様な発信方法-」のテーマで意見交換が行われ、その後の意見交換会では駐日外交団なども参加し、自治体職員との間で活発な意見交換が行われた。
海外では、東日本大震災後の国際的風評被害対策として、輸入規制及び渡航制限の撤廃・緩和の働きかけと併せ、地方創生の一環として地方の魅力発信、県産品の輸出促進、観光促進などを支援する総合的な広報事業である「地域の魅力海外発信支援事業」を北京・上海(1月)、モスクワ(3月)、北京など中国各地(11月から12月)でそれぞれ実施した。

(1月、中国・北京、上海)

(3月、ロシア・モスクワ)
北京・上海では、イベントや試食会の開催を通じた日本産米などの日本産品の魅力の発信、日本料理店などでの日本産米実体験を実施し、計15の日本の地方自治体が参加した。また、3月のモスクワの事業では地域の魅力ある産品や観光資源の理解促進と消費拡大を目的とした広報イベント「桜×祭」を開催し、2日間で約2万人が来場した。イベントには15の自治体が出展し特産品などを紹介したほか、各地を代表するパフォーマンスが披露された。11月から12月の中国各地の事業では、小売店、EC(電子商取引)、日本料理店などが主催する日本産品の広報販促イベントや日本料理のフェアを「連携事業」として実施し、11の自治体が連携事業者と共同して参加した。
また、在外公館施設を活用して自治体が地方の魅力を発信することを通じて、地場産業や地域経済の発展を図るための支援策である「地方の魅力発信プロジェクト」をアジア、北米及び欧州地域において計10件実施した。

おける焼酎・泡盛紹介セミナー(2月11日、米国・ニューヨーク)
このほか、外務省では様々な取組を通じて日本と海外の間の姉妹都市交流や2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のホストタウン交流を始めとする日本の地方自治体と海外との間の交流を支援している。具体的には、在外公館長や館員が海外の姉妹都市提携先を訪問して、国際交流・経済交流関係担当幹部などと意見交換を行ったり、在外公館長の赴任前や一時帰国の際に地方都市を訪問し、姉妹都市交流やホストタウン交流に関する意見交換や講演を行ったりすることで、地方の国際化を後押ししている。加えて、日本の自治体と姉妹都市提携を希望している海外の都市などがある場合は、都道府県及び政令指定都市などに情報提供するとともに、外務省ホームページの「グローカル外交ネット」で広報するなどの側面支援を行っている5(コラム参照)。
また、各地の日本産酒類(日本酒、日本ワイン、焼酎・泡盛など)の海外普及促進の一環として、各在外公館における任国要人や外交団との会食で日本産酒類を提供したり、天皇誕生日祝賀レセプション等の大規模な行事の際に日本酒で乾杯をするなど日本産酒類の積極的な紹介を行うなど、日本酒を始めとする日本産酒類の宣伝に積極的に取り組んでいる(237ページ 特集参照)。
さらに、開発途上国の急速な経済開発に伴いニーズが急増している水処理、廃棄物処理、都市交通、公害対策などについて、ODAを活用して日本の地方自治体の経験やノウハウ、また、これを支える各地域の中小企業の優れた技術や製品も活用した開発協力を進めるとともに、そうした途上国の開発ニーズと企業の製品・技術とのマッチングを進めるための支援を実施している。これらの取組は、地元企業の国際展開やグローバル人材育成、日本方式のインフラ輸出にも寄与し、ひいては地域経済・日本経済全体の活性化にもつながっている。
~ホストタウンでつながる日本の地方と世界~
遡ること7年。オリンピック・パラリンピック大会開催地招致時に世界の人々の期待を一気に高めた言葉、「おもてなし」。記憶に残っている方も多いことでしょう。2019年9月、韓国で行われた試合の帰途、台風の影響で成田空港に足止めになったニカラグアの野球選手をホストタウンの群馬県甘楽町(かんらまち)が温かく迎え入れました。これはまさにホストタウンのおもてなしを体現する出来事でした。
ホストタウン=(イコール)公認キャンプ地とイメージする方も多いと思いますが、東京大会のホストタウンは、独自の取組として、大会出場選手との交流、大会出場国・地域の市民との交流、日本人オリンピアン・パラリンピアンとの交流が登録要件となっており、選手の事前キャンプ地とはならない地方自治体もホストタウンとなって、出場国・地域の応援団として交流を深めることができます。この東京大会のホストタウンにおける交流の取組は、2019年12月の国連総会で全会一致で採択された「オリンピック休戦決議」※においても「ホストタウン・イニシアチブ」として明記されました。
ホストタウンとして活動する地方自治体は492ありますが(相手国・地域は169。2020年3月末時点)、その交流のきっかけは、これまでの姉妹都市交流でお互いをよく知っているもの、今回初めてご縁があったもの、東日本大震災で支援してくれた国・地域に対し復興した姿を見せたいというものなど、千差万別です。中には、ハイチ(公用語のフランス語では「アイチ」と発音)とアイチ(愛知)県(幸田町(こうたちょう))という言葉の響きが縁で結びついた例もあります。
交流活動は、相手国・地域の選手や市民の皆様が訪日した機会を捉え、地域が誇る伝統芸能や食文化を紹介したり、小中高生同士での交流を深めたりと様々です。
また、世界各国のパラリンピアンとの交流をきっかけに、地域の共生社会の実現を目指す取組を展開するホストタウンや、今後外国人の増加が見込まれる地域社会の未来に向けて、将来を担う子供たちが世界に開かれた視点を持って多文化社会に適応できるよう積極的に交流を推進するホストタウンもあります。
「ホストタウン事業に携わることでコミュニケーション力がついた。相手国の言葉を覚えて、自分が住む町や日本文化の魅力を伝えたい。」
「言葉が通じなくても気持ちを通わせて交流できる。相手を尊重し理解する姿勢は壁を超える。」
ホストタウン交流に主体的に関わる学生や子供たちからはこうした頼もしい声が聞こえてきます。
このような交流が、地域の活性化や、相手国・地域との関係強化といった将来につながる遺産(レガシー)となることが期待されています。
既に、日本の数多くのホストタウンが、おもてなしの精神で外国の選手や市民の皆様を大切にお迎えし、多種多様な活動を展開しています。
「自国選手が東京大会で最高のパフォーマンスを発揮するために応援してくれるサポーターがこんなにも多いことに感動した。」ある国の駐日大使の言葉です。
ホストタウンの取組が、2020年を超えて大会後も末永く続くことを心から願ってやみません。

(8月30日、横浜 写真提供:内閣官房)

(8月12日 写真提供:徳島県)
※ オリンピック休戦決議:1994年のリレハンメル冬季大会以降採択されてきた国連総会決議で、オリンピック開催の7日前からパラリンピック後7日間の期間、世界での休戦を求めるもの。2019年12月に日本が国連総会に提出した休戦決議には、2020年東京大会独自の部分として、大会のコンセプト、平和への貢献などとともに、「ホストタウン・イチシアチブ」が含まれている。
5 2019年12月現在日本との姉妹提携数(都道府県、市区町村含む。)が多い国は、多い順に米国(455件)、中国(370件)、韓国(163件)、オーストラリア(108件)、カナダ(71件)など(一般財団法人自治体国際化協会による集計、同協会ホームページhttp://www.clair.or.jp/j/exchange/shimai/countries/ 参照)
