外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

7 人権

(1)国連における取組

ア 国連人権理事会

国連人権理事会は、国連における人権の主流化の流れの中で、国連の人権問題への対処能力の強化を目的に設立された(於:ジュネーブ(スイス))。年間を通じて会合が開催され(年3回の定期会合、合計10週間以上)、人権や基本的自由の保護・促進に向けて、審議・勧告などを行っている。

3月の第28会期ハイレベルセグメントにおいては、宇都外務大臣政務官がステートメントを行い、世界各国の人権状況の変化や日本政府の立場について言及するとともに、スリランカやミャンマーなど各国の人権状況改善のための日本の支援や人権理事会との協力について紹介した。同会期では、日本とEUが共同で提出した北朝鮮人権状況決議案が賛成多数で採択された(8年連続8回目)。同決議は、2014年に国連安保理で初めて「北朝鮮の状況」が議題として採択され、人権状況を含む北朝鮮の状況が議論されたことを歓迎し、安保理の継続的かつ積極的な関与を期待するとしている。さらに、同会期に提出された、マルズキ・ダルスマン北朝鮮人権状況特別報告者の報告書を歓迎するとともに、第30会期でパネル・ディスカッションを開催することを決定した。

6月の第29会期では、ハンセン病に関する差別に苦しむ人々の人権を守るため、人権理事会においてハンセン病差別問題を議論し差別撲滅のための実効的方法などの検討を目的として、日本はハンセン病差別撤廃決議案をコアグループ(ブラジル、エストニア、エチオピア、モロッコ、ポルトガル及びルーマニア)と共に提出し、全会一致で採択された。同決議案の提出は5年ぶりであり、共同提案国は、人権理事会及び国連総会にて提出された関連決議を上回り過去最多(97か国)となった。

9月の第30会期では、日本はカンボジア人権状況特別報告者マンデート(委任された権限)延長決議案を主提案国として提出し、27か国の共同提案国を得て、全会一致で採択された。同決議は、自国の人権状況改善に向けたカンボジア政府の前向きな努力への支援を継続することを目的としており、カンボジア特別法廷に進展があったことなどを歓迎する内容となっている。また、同決議によって同特別報告者のマンデートは2年間延長された。

また、同会期中に、「国際的な拉致問題、強制失踪及び関連する事項を含む、北朝鮮の人権状況に関するパネル・ディスカッション」が開催され、日本からは、拉致被害者御家族代表がパネリストとして出席したほか、日本政府も参加し、北朝鮮に対し、拉致問題の解決を含む人権状況の改善に向けた具体的な行動を求めた。

日本は、引き続き国際社会における人権問題の解決のための議論に積極的に参加していく。

イ 国連総会第3委員会

国連総会第3委員会は、人権理事会と並ぶ国連の主要な人権フォーラムである。同委員会では、10月から11月にかけて、社会開発、女性、児童、人種差別、難民、犯罪防止、刑事司法など幅広いテーマが議論されるほか、北朝鮮、シリア、イランなどの国別人権状況に関する議論が行われている。第3委員会で採択された決議は、総会本会議に提出され、国際社会の規範形成に寄与している。

日本は、2005年から毎年、EUと共同で北朝鮮人権状況決議案を国連総会に提出している。2015年も第70会期に同決議案を提出し、12月の総会本会議において、前年を上回る119票の賛成票を得て、賛成多数にて採択された。同決議は、「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」の報告書の内容を反映させた前年の国連総会決議を基に、3月の人権理事会決議の内容も踏まえた、強い内容となっている。具体的には、前年同様、北朝鮮の組織的かつ広範で深刻な人権侵害を非難するとともに、国連安保理に対し、北朝鮮の事態のICCへの付託の検討や制裁の範囲に関する検討などを通じ、適切な行動をとることを促している。

日本は、シリア、イラン、ミャンマーなどの国別人権状況や、各種人権問題(社会開発、児童の権利など)についての議論にも積極的に参加した。また、これまで同様、女性NGO代表を第70回国連総会第3委員会の政府代表顧問として派遣した。

(2)国際人権法・国際人道法に関する取組

ア 国際人権法

2014年1月20日、日本は、障害者の人権・基本的自由の享有の確保、障害者の固有の尊厳の尊重の促進を目的とし、締約国がとるべき措置などを規定した「障害者の権利に関する条約」を締結した。2007年の署名以降に実施されてきた条約の締約に先立つ国内法制度整備の一環として成立した「障害者差別解消法」も、2016年4月に施行予定であり、同条約の締結により、日本における障害者の権利の実現に向けた取組が一層強化され、人権尊重についての国際協力が促進されることが期待される。

また、締結している人権諸条約については、各条約の規定に従い、国内における条約の実施状況に関する政府報告の審査を定期的に受けている。3月には、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)の第3回政府報告に関し、2013年に公表された社会権規約委員会の最終見解の中で勧告されていた事項について、同委員会に対して日本の取組状況についての追加的情報を提出した。8月には、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)の第6回政府報告に関し、2014年に公表された自由権規約委員会の最終見解の中で1年以内のフォローアップを求められていた事項について、同委員会に対して日本の取組状況についての追加的情報を提出した。

イ 国際人道法

外務省は、4月及び12月に、国際人道法に関する一連の国際会議(於:ジュネーブ(スイス))に政府代表団を派遣し、国際人道法の履行強化に関する国際的な議論に貢献した。12月の国際会議では、日本赤十字社と共同で国際人道法の普及に関する共同プレッジ(約束)を提出した。また、国際人道法の啓発の一環として、赤十字国際委員会(ICRC)主催の国際人道法模擬裁判大会に講師を派遣した。

(3)二国間の対話を通じた取組

国連など多国間の枠組みにおける取組に加え、人権の保護・促進のため、日本は二国間対話の実施を重視している。2月には第3回日・ミャンマー人権対話(於:ネーピードー)、8月には第7回日・カンボジア人権対話(於:プノンペン)、10月には第21回日・EU人権対話(テレビ会議形式)を開催した。それぞれ人権分野における両者の取組について紹介するとともに、国連などの多国間の場における協力について意見交換を行った。

(4)難民問題への貢献

日本は、国際貢献や人道支援の観点から、2010年度から(当初3年間の予定を2012年に2年間延長)、パイロットケースとして、第三国定住(難民が、庇護(ひご)を求めた国から新たに受入れに同意した第三国に移り、定住すること)によるミャンマー難民の受入れを開始した。

また、2015年度以降は、2014年1月に閣議了解がなされ、パイロットケースではなく事業を継続していくこと、マレーシアのミャンマー難民を対象として受け入れ、タイからは相互扶助を前提に既に来日した第三国定住難民の家族の呼寄せを認めることが決定された。パイロットケースを含めてこれまでに合計24家族105人が来日している。

第三国定住による難民受入れはこれまで欧米諸国を中心として行われており、日本がアジアで初めての受入れ国であることから、難民問題への日本の積極的な取組として、国際社会からも高い評価と期待を集めている。また、日本における難民認定申請者が近年増加傾向にある中、真に支援を必要としている人々へのきめ細かな支援に引き続き取り組んでいる。

入国後、宿泊施設へ移動する第三国定住難民(9月29日、写真提供:難民事業本部)
入国後、宿泊施設へ移動する第三国定住難民(9月29日、写真提供:難民事業本部)
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