8 女性
安倍内閣は、日本国内外において、「すべての女性が輝く社会」を実現することを標榜(ひょうぼう)し、そのための取組を強化している。
(1)国際女性会議「WAW! 2015」
2015年8月28日及び29日、安倍総理大臣のイニシアティブで前年に続き2回目となる国際女性会議「WAW! 2015」(World Assembly for Women)を開催し、8国際機関、42か国(前年の約2倍)から145人の女性分野で活躍するリーダーが集まった。2015年のテーマは「WAW!for All」で、様々な立場や世代の女性、男性が共に考え、共に社会を変革していこうというメッセージを打ち出した。女性の社会進出を阻む働き方や男女の役割分担意識の変革を訴えることに加え、若者や、困難を抱える女性の声に耳を傾け、防災、起業、教育、平和構築など女性を取り巻く世界的な課題について議論した。議論された内容は「WAW! To Do 2015」と題した提言を取りまとめ、2014年に続き国連文書(A/C.3/70/3)として発出した。

(2)国際協力における開発途上国の女性支援
安倍総理大臣は、2013年の国連総会一般討論演説において、女性の地位向上を主眼として、女性の活躍・社会進出推進と女性の能力強化、国際保健外交戦略の推進の一環としての女性の保健医療分野の取組強化、平和と安全保障分野における女性の参画と保護の3分野に3年間で30億米ドルを超す政府開発援助(ODA)の実施を表明した。日本は2014年までの2年間でこれを実施した。2015年3月のミシェル・オバマ米大統領夫人の訪日時には、安倍昭恵総理大臣夫人との間で、特に開発途上国における女子教育支援の現状と対応策について意見交換が行われた。また、この機会に日米両政府が発出したファクトシートにおいて、日本は、女児・女性のエンパワーメント(能力強化)とジェンダーに配慮した教育関連分野において、2015年からの3年間で420億円以上のODAを実施することを表明した。
(3)国連における女性外交と北京+20
① 2015年は、1995年の第4回世界女性会議(北京会議)から20年目に当たることを記念し、第59回国連婦人の地位委員会が3月に開催された。日本からは、宇都外務大臣政務官を首席代表に、橋本ヒロ子日本代表、各府省、国際協力機構(JICA)及びNGOから成る代表団が出席した。会議では、第3次男女共同参画基本計画に基づく日本国内の取組の推進、女性活躍推進法案の成立、第4次男女共同参画基本計画の検討等に加え、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関(United Nations Entity for Gender Equality and the Empowerment of Women.略称:UN Women)との連携の一層の強化や武力紛争下の女性に対する暴力撤廃プロジェクトへの支援について宇都外務大臣政務官がステートメントを行った。そのほか、12月にトルコ・イスタンブールで開催されたUN Women、国連人口基金(UNFPA)及びトルコ政府共催の会議「女性に対する暴力終焉に向けた世界会議」に山田美樹外務大臣政務官が出席し、日本の女性活躍推進に関するイニシアティブを紹介した。

② 北京会議で採択された北京宣言及び行動綱領に掲げられた目的及び目標に対するコミットメントを実現するため、9月に国連本部で開催された「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに関するグローバル・リーダーズ会合」では、北京宣言及び行動綱領実施に向けた取組や、女性活躍促進の分野で日本が世界をリードしていく決意について安倍総理大臣がステートメントを行った。
③ UN Womenに対する拠出金を、この2年で10倍に増額した。4月にはUN Women日本事務所も開設され(東京都文京区)、今後とも同機関との連携を一層深めていく予定である。
④ 日本は、「女子に対するあらゆる形態の差別撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」に基づき、第7回・第8回政府報告を2014年9月に国連に提出した。また、事前の質問事項に書面で回答を提出するとともに、2016年2月16日にジュネーブで開催された政府報告審査には、杉山晋輔外務審議官ほかが出席し、委員からの質問に答え、慰安婦問題等に関し事実関係や日本政府の取組につき説明を行った。なお、日本からは、1987年から継続して女子差別撤廃委員会に委員を輩出している。
(4)紛争下の性的暴力に関する取組
安倍総理大臣が2014年9月国連総会一般討論演説で言及したように、紛争の武器としての性的暴力は、看過できない問題である。武器としての性的暴力を防止するため、また被害者を支援することが重要であるという観点から、国連アクションや紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所といった国際機関との連携や国際的な議論の場への参加を重視しつつ、21世紀こそ女性の人権侵害のない世界にするため、日本はこの分野に一層積極的に取り組んでいる。
① バングーラ紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表は、8月にWAW!参加のため訪日した。また、2015年日本は代表事務所に255万米ドルの財政支援を行い、支援対象国の警察・司法能力強化等に貢献している。さらに、国際刑事裁判所の被害者信託基金にも引き続き拠出を行っており、累計約65万ユーロの拠出中約45万ユーロを紛争下における女性暴力対策にイヤーマーク(使途指定)し、紛争下の性的暴力の被害者に対する対策にも取り組んでいる。
② また、12月に開催された赤十字・赤新月国際会議では性的及び性に基づく暴力に関する英国のサイドイベントに日本も共催国として参加するなど、紛争下の性的暴力防止に向け、国際社会との積極的な連携に努めている。
(5)安保理決議第1325号等に関する「行動計画」
より効果的に「平和」な社会を実現するためには、紛争予防、紛争解決、平和構築のあらゆるフェーズで女性の参画を確保し、ジェンダーの視点を入れることが重要である。このため、日本は、女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議第1325号及び関連決議の履行に向けた「行動計画」を策定し、9月に発表した。
今後は、この「行動計画」の実施に移行する予定である。

~様々な立場や世代の女性・男性と共に~
2015年8月28日・29日に日本政府主催で国際女性会議「WAW!(World Assembly for Women)2015」が開催されました。今回で2回目となるWAW!には、42か国・8国際機関から145人の女性分野で活躍するリーダーが集まりました。

2015年のWAW!は「WAW! for All ~様々な立場や世代の女性・男性と共に~」をテーマとして、幅広い世代、立場の女性、そして男性に参加いただきました。WAW!を作り上げる上でご協力いただいた有識者から、WAW!当日の議論と、それを生かした今後の取組や活動について聞きました(インタビュー対象者:大崎麻子・Gender Action Platform 理事、太田彩子・営業部女子課の会代表理事、白河桃子・少子化ジャーナリスト、本田哲也・ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長、弓削昭子・法政大学法学部国際政治学科教授/聞き手:外務省総合外交政策局女性参画推進室(以下敬称略))。





―WAW!の魅力とは。参加されたことで変化はありましたか。
弓削:WAW!はジェンダーについて幅広い課題を取り上げ、多様な参加者がセクターを超えて議論します。私もこれまで開発の観点から見ていたジェンダーの違う面も見ることができました。これまで2回参加しましたが、参加者が自由に発言でき、良い意味で形式的な雰囲気がなく、ディスカッションが活性化することがWAW!の一番の魅力です。
白河:今年初めて参加しましたが、世界の女性分野で活躍されている方々が集まる刺激的でパワフルな会議でした。日本は途上国を援助する立場でもあるし、女性活躍の文脈では途上国並みのところもあるし、非常に複雑な立場であることが分かりました。一方で、ミレニアム世代についての議論では、仕事に対して、お金ではなく、ワークライフ・バランスを若い世代が求めているのは、アメリカ、タイでも同じで、世界共通であることを知りました。この会議を機に、20代の女性たちと「ミレニアム世代の働き方研究会」をつくりました。
大崎:「トイレを通じた女性のエンパワーメント」のセッションのモデレーターをしたのですが、非常に面白かったです。安全で衛生的なトイレの普及は女性の尊厳や人権に直結しているのに、これまで重点化されてきませんでした。そのテーマについて、クラークUNDP総裁、バングーラ紛争下の性的暴力国連事務総長特別代表、ワドワ駐日インド特命全権大使、日本からは有村治子女性活躍推進大臣らのリーダーたちがこれまでの経験を踏まえ、トイレの重要性について発表、議論しました。LIXIL社で無水トイレを開発し、ケニアで実際に普及してこられた山上氏から、具体的な解決策が紹介されたことも、多様な人が参加するWAW!ならではだと思います。安倍総理がセッションに顔を出された際、ワドワ大使に「インドのトイレ問題解決のために、何か要望はありますか」とお伺いしたところ、「この方(山上さん)をインドに輸出してほしい!」という発言がありました。民間の女性技術者が増えれば、世界に貢献できるフィールドも広がるだろうと確信しました。まずはリケジョ(理系女子)を増やさなければ!
本田:WAW!には唯一の男性アドバイザーとして参加し、非常に貴重な経験をしました。当日は「男性と共に変革する」のセッションに参加しましたが、スウェーデン、オーストラリアなどの男性参加者の話を聞いて、女性活躍について理解が深いことに驚きました。自分は断片的にしか理解していないことに気付きました。事前のアドバイザーズ会合から参画することで、この分野の理解が深まりました。私にも変化があったので、もっと男性にも参画してほしいですね。
―WAW!で感銘を受けた言葉、勇気付けられた言葉・提案はありましたか。それが、新たな活動や取組につながったことはありますか。
大崎:公開フォーラムは、世界のいわゆるエリート女性たちが登壇されていたのですが、驚いたのは、母子家庭だったり、農村の4人姉妹だったり、移民だったり……皆さん多様な背景をお持ちだということ。しかし、共通しておっしゃっていたのは、親から「あなたの可能性には限界はない」といわれて育ったということです。女の子の将来を決定付ける要因として、親のジェンダー観やかける言葉の影響が大きいことに改めて気付かされました。今後の自分の活動でも、日本の女の子たちにそのようなメッセージを伝えていきたいです。
聞き手:公開フォーラムでは、力強いメッセージが発されていました。サーリーフ・リベリア大統領の“The dream is not big enough if it doesn’t scare you”(もし恐怖を感じないなら、あなたの夢は十分に大きくない)という言葉にとても感銘を受けました。
本田:メラニー・バービア大使と対談させていただいたのですが、「今の仕組みは、女性が活躍する前の仕組み。ダイナミックな改革が必要」という言葉には感銘を受けました。今は、女性活躍のことを女性だけの課題ではなく、社会の構造を見直す改革だと感じています。その発想を男性にももっと広めたいですね。セッションでも、「女性活躍ではなく、ライフスタイル革命と打ち出すべき」と話しましたが、海外参加者からの同意の方が多かったです。日本ではまだ難しくても、世界には賛同していただける方もいることが分かって、勇気付けられました。
―今後のWAW!に期待されること、WAW!をより有意義にするためのアイディアはありますか。
大崎:昨年(2015年)はSDGs(持続可能な開発のための目標)が策定されました。これまでは日本は支援する立場でしたが、今後は当事者国でもあります。ジェンダーに関するゴールも含め、日本がSDGsにどのように率先して取り組むかが注目されます。その点も次回のWAW!で取り上げるとインパクトが高まると思います。
弓削:私が参加したセッションでは、民間企業のノウハウを途上国の課題解決に活用することについて議論しました。民間企業、政府、国際機関が連携して生まれるシナジー効果が必要不可欠になってきています。そういう意味では、様々なステークホルダーが関わる「メディア」において女性がどのように描かれているかを取り上げてみてはいかがでしょうか。また、2015年は開発分野で進展があった年だったので、2016年はそれをフォローアップする初年度になります。パリ協定もあったので、「気候変動」も取り上げるべきテーマかもしれません。WAW!が国際社会に向けて発信する場になればよいと思います。
白河:WAW!を通じて、社会変革できる人たちを養成できたらよいですね。情報が届きにくい地方の方にもWAW!に参画してもらうことは、世界に目を向けるきっかけになると思います。そういう意味では「WAW!枠」を設けて、女性に留学の機会を提供するというアイディアはどうでしょうか。
太田:昨年は、グーグルと営業部女子課でコラボレーションをして、地方を含む全国からの声を集め、発信しました。その活動を通じて、地方の女性の状況を知ることができました。地方での「ミニWAW!」の開催など、昨年(2015年)できたネットワークを活用して、地方展開を更に進めていきたいです。
本田:「女性活躍」は労働人口の問題だけではありません。女性の活躍が進んでいない日本は女性らしい感覚に乏しい製品、サービスが多いように思います。これはグローバルで見た場合に、ソフトパワーが弱いということです。女性の感性をもっと取り込んでいかなくては、グローバルな市場で勝てないという新たな視点でのメッセージも発信できればと思います。
WAW!は今年も開催します。国内外のリーダーたちが発信する力強いメッセージは、互いを勇気付け、取組を更に活性化させます。また、まだまだ女性活躍が進んでいない日本の国内でも、特に男性や地方の女性たちにも参画してもらうことで、ライフスタイルの変革を起こすムーブメントを起こしていきます。


世界には、今なお貧困、暴力、紛争・テロ、そして女性の社会的・経済的・政治的機会を奪う社会的習慣など様々な課題が残されています。日本は、安倍政権の下、「女性が輝く社会」づくりに向けて様々な取組を行っています。その1つが安保理決議第1325号及び関連決議の履行を促すための「行動計画」の策定と実施です。では、「行動計画」を策定するきっかけとなった安保理決議第1325号とはどのような決議なのでしょうか。
安保理決議第1325号は、2000年に国連安全保障理事会にて採択された、女性と平和・安全保障を初めて関連づけた決議で、女性が紛争に影響を受けていることを認識するとともに、紛争予防や紛争解決、紛争後の平和構築に至るまで、全ての段階における女性の積極的な参画や女性の人権保護の増進を加盟国に要請しています。また、こうした平和構築に関連するあらゆる活動においてジェンダーの視点を主流化することを求めています。
同決議の履行を促すための「行動計画」には、策定する際に盛り込むことが期待される要素が4点あります。①紛争下・紛争後の女性・女児へのあらゆる形態の暴力の予防、②国家・地域・国際レベルにおける平和・安全保障にかかる意思決定への女性の参画、③紛争下・紛争後の女性・女児の人権保護の増進及び④女性・女児固有のニーズへの対処及び人道・復興支援における女性の能力強化
日本の「行動計画」には、これらの点を踏まえ、また、女性の意思決定への参画を促し、女性の人権やジェンダーの視点を平和・安全保障の課題に盛り込むため、参画、予防、保護、人道・復興、モニタリング・評価の5分野において、政府開発援助(ODA)や国連平和維持活動(PKO)分野の施策を含む指標を特定しています。中でも国内外双方の取組に対応していること、紛争関連の事態のみならず自然災害にも対応していることが特徴です。
日本の「行動計画」は2015年9月に策定されました。これから実施段階へと進んでいくことにより、女性・平和・安全保障分野における日本の役割をより一層果たしてまいります。
