3 科学技術外交
「科学技術外交」の推進に当たっては、優れた日本の科学技術力を活かすとともに、新興国の影響力の増大といった国際社会の動向も踏まえながら、様々な取組を進めている。特に、2014年7月から岸田外務大臣の下に「科学技術外交のあり方に関する有識者懇談会」(1)を設置し、科学技術外交の一層の推進に向けた具体的方策について有識者の間で議論を行っている。
(1)科学技術・イノベーションを促進するための二国間又は多国間の協力
二国間の協力については、2014年には、米国、インド、英国、スイスなど6か国(2)との間でそれぞれ科学技術協力協定(3)に基づく合同委員会を開催し、協力の現状、今後の協力の方向性などについて協議した。
多国間における協力については、例えば、熱核融合実験炉を建設・運用する「イーター(ITER)計画」を始め、大規模国際科学技術プロジェクトにも積極的に関わっている。
(2)地球規模の課題の解決に向けた科学技術の活用
科学技術を活用して国際社会が抱える諸課題に対応していくことも、科学技術外交の重要な柱の1つである。環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症対策などの分野で、日本と開発途上国の大学や研究機関などが共同で行う地球規模の課題の解決に資する研究などを、ODA(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS))(4)を活用して支援している。例えば、ザンビアでは、高田礼人北海道大学教授ほかがザンビア大学の研究者とともにエボラウィルスなどの感染経路の解明や診断法の開発に取り組んでいる。
(3)科学技術協力を通じた二国間関係の増進
科学技術分野における協力関係の強化は、日本と相手国の双方に恩恵をもたらし、二国間関係に厚みを与えている。国によって科学技術事情は大きく異なるため、日本の強みと相手国の必要性を勘案して効果的に進めることが重要である。例えば、7月の第14回日米科学技術協力合同実務級委員会の際には、政府間会合に続き、産学の有識者が参画する第2回日米科学技術オープンフォーラムを日本で開催し、科学的知見と意思決定やイノベーション人材育成といったテーマの下で議論した。また、上述のODAと連携した国際共同研究の推進は、開発途上国との二国間関係の増進にも貢献している。
(4)科学技術立国としてのソフトパワーの発信
日本の優れた科学技術は、文化と共に、対日理解の促進や対日イメージの向上に資する。2014年には、クロスカップリング反応(5)や材料工学分野の著名な日本人科学者などを欧州、北米、アジア11か国(6)に派遣し、研究者間のネットワーク構築に加え、先端的な研究の紹介によるパブリック・ディプロマシーを推進した。

1 白石隆政策研究大学院大学長(座長)、岩永勝独立行政法人国際農林水産業研究センター理事長、金子将史政策シンクタンクPHP総研国際戦略研究センター長兼主席研究員、角南篤政策研究大学院大学教授・学長補佐、長谷川眞理子総合研究大学院大学理事・副学長、細谷雄一慶應義塾大学法学部教授、山下光彦日産自動車株式会社 取締役・上級技術顧問により構成
2 米国、スペイン、インド、英国、ポーランド、スイス
3 日本は、32の科学技術協力協定を署名又は締結しており、47か国・機関に適用されている。
4 開発途上国のニーズを踏まえ、外務省、文部科学省、JICA、科学技術振興機構(JST)が連携し、日本と開発途上国の大学・研究機関などが環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症対策などの分野で行う共同研究や能力向上支援を行う。
5 異なる構造をもつ2つの分子を結合させて1つの分子にする化学反応。鈴木北海道大学名誉教授は、パラジウム触媒を使用した炭素どうしの「鈴木カップリング」を編み出し、2010年にノーベル化学賞を受賞。「鈴木カップリング」は、胃薬や農薬、液晶画面からLEDライトに至るまで幅広く社会に貢献している。鈴木教授が同技術の特許を取得しなかったことがこの技術の普及を促し、応用製品が多数実用化された。
6 ドイツ、英国、アイルランド、カナダ、リトアニア、エストニア、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スリランカ