外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

第3節 経済外交

総論

日本経済の再生は、世界経済の成長に貢献するものであり、強い経済があってこそ初めて強力な外交を展開することができる。日本経済の再生に資する国際経済環境を創出し、力強い成長を達成するための経済外交を戦略的に展開していく。

〈日本経済と世界経済〉

安倍政権は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」による経済再生への取組を全力で進め、2014年6月には「日本再興戦略」を改訂した。外務省でも、岸田外務大臣の下、日本経済の再生に資する経済外交の強化を「外交の三本柱」の1つと位置付け、引き続き精力的に取り組んだ。「アベノミクス」ともいわれる一連の取組があり、2014年の日本経済は、消費税増税後、個人消費などに弱さがみられたものの、デフレ脱却に向けて着実に前進するとともに、緩やかな回復基調を続けた。世界経済については、米国や英国では景気が回復しているものの、ユーロ圏では経済成長率が相対的に低い水準にとどまり、新興国の中でも成長率の水準に開きがみられるなど、各国の経済は様々な傾向を見せた。2014年秋以降、主として欧州や新興国の景気低迷から石油需要が減少する一方、米シェールオイルなど非OPEC(石油輸出国機構)諸国産の供給が拡大した。こうした石油市場の需給緩和などから、石油価格は下落し2009年以来の安値水準となった。このような国際情勢の中、G7・G20サミットの場において、安倍総理大臣は、日本経済の再生を通して世界経済の成長に貢献していくことを説明し、各国首脳からは強い期待が寄せられた。

〈経済連携の推進〉

高いレベルの経済連携を推進していくことは、成長戦略の柱の1つである。2014年には、7年越しの交渉の末、日・豪経済連携協定(EPA)が署名に至り、2015年1月に発効した。このほか2014年7月には日・モンゴルEPA交渉について大筋合意に至り、12月には日・トルコEPA交渉を開始するなど、経済連携の取組は着実に前進している。日本は、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓自由貿易協定(FTA)、日EU・EPAなどの経済連携協定の交渉に同時並行的に取り組むことで、世界全体の貿易・投資ルール作りに貢献していく考えである。アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)にもつながるような形で、こうした経済連携の取組を相互補完的に発展させていくことも重要である。2014年北京APEC(アジア太平洋経済協力)においては、「FTAAPの実現に向けたAPECの貢献のための北京ロードマップ」が策定された。日本としては、APECの議論への積極的な参加を通じ、FTAAPを始めとした地域経済統合を引き続き推進していく。

〈多数国間の貿易自由化〉

多数国間の貿易自由化交渉については、長年にわたり膠着(こうちゃく)状態が続いてきているものの、世界貿易機関(WTO)を中心とする多角的貿易体制は、新たなルール作りや紛争解決を含む既存のルールの運用面において重要な役割を果たしている。2013年に妥結に至った、貿易円滑化、農業及び開発の3分野から成る「バリ合意」に関しては、貿易円滑化に関する協定をWTO協定の一部に組み込む議定書について、合意されていた2014年7月末の採択期限が守られず、その実施が停滞した。しかし、同議定書は2014年11月のWTO一般理事会特別会合において採択された。貿易円滑化に関する協定が発効すれば、WTO設立後、初めて全加盟国を拘束する協定が実現することになる。日本としては、今後「バリ合意」の着実な実施とドーハ・ラウンド(DDA)交渉の妥結に向け積極的に関与していく考えである。また、WTOに加盟する有志国・地域の取組として、情報技術協定(ITA)の品目拡大について早期の妥結を目指して交渉が進められ、サービスの貿易に関する新しい協定(TiSA)も引き続き交渉が行われている。さらに、7月には、環境物品に関する協定(EGA)について交渉が開始された。日本として、世界全体の自由で開かれた貿易体制の維持・強化のため、引き続き幅広く取り組んでいく考えである。

〈日本企業支援と対日投資促進〉

日本経済は再生に向けて上向いている。この兆しを着実な成長へとつなげていくためには、日本企業の海外展開を通じて、新興国を始めとする諸外国の成長を取り込んでいくことが必要である。外務省では、岸田外務大臣を本部長とする「日本企業支援推進本部」の指揮の下、在外公館では公館長が先頭に立って、官民連携により日本企業の活動展開を推進している。また、世界でインフラへの需要が拡大している中、政府としては、2020年に約30兆円のインフラを受注するという目標を掲げている。この目標に向け、要人往来の機会も最大限活用し、安倍総理大臣や岸田外務大臣を始めとするトップセールスで、日本のインフラや技術を海外に売り込んでいる。なお、外務省では、東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する風評被害を防ぎ、日本産品の海外輸出を促進するため、汚染水問題への対応を始めとする事故対応の取組や日本産品の安全確保の措置(日本の検査基準・体制や出荷制限等)の情報を迅速かつ正確に各国に提供し、輸入規制の緩和・撤廃を粘り強く働きかけてきている。また、「日本再興戦略」においては、2020年までに外国企業の対内直接投資残高を35兆円に倍増するとの目標が盛り込まれた。外務省では、対日投資促進に向けた取組について、国際会議の場や大使館、総領事館などを活用して広報に努めている。また、在外公館のホームページでも積極的なPR活動を行っている。

〈エネルギー・鉱物資源・食料安全保障〉

多くの資源を海外に依存し、東日本大震災以降、化石燃料への依存度を高めている日本にとって、資源の安定的かつ安価な供給確保に向けた取組が急務となっている。外務省としても、様々な外交手段を活用し、資源国との包括的かつ互恵的な関係の強化に努め、供給国の多角化を図るなど戦略的な資源外交を行っている。特に、2014年には、安倍総理大臣が中東・アフリカ、大洋州、中南米諸国などの主要な資源国を訪問し、積極的な資源外交を展開した。また、2013年に新設された「エネルギー・鉱物資源専門官」制度を活用し、引き続き情報収集などの体制強化を図った。世界的な人口増加と食料不足が予想される中、日本としても、食料安全保障の確保のための取組を進めている。日本は水産資源の適切な保存管理に積極的な役割を果たしており、2014年7月、南インド洋漁業協定(SIOFA)の締約国となった。また、国際司法裁判所(ICJ)の判決に従って、第2期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)を中止した上で、同判決を考慮して策定した新たな調査計画案を国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会に提出した。

〈国際的な議論を主導〉

2014年、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟50周年を迎え、36年ぶり2度目の閣僚理事会議長国として安倍総理大臣、岸田外務大臣に加え3閣僚が閣僚理事会に出席した。その際、しなやかで強靭(じん)な(レジリエントな)経済社会やOECDと東南アジアとの関係強化を2本柱として加盟国間の議論を主導した。経済のレジリエンスについては、その後のG20ブリスベン・サミットでも主要なテーマとして挙げられるなど、国際経済の方向性を日本がリードする形となった。また、安倍総理大臣が東南アジア諸国連合(ASEAN)閣僚などと共に立ち上げた「OECD東南アジア地域プログラム」は、OECDのアウトリーチ活動の目玉(OECD本体予算を用いてアウトリーチ活動を行うのは対東南アジアのみ。)である。本プログラムを通じてASEAN諸国のビジネス環境を整備するとともに、日本企業の進出を促進していく。

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