第1節 日本と国際社会の平和と安定に向けた取組
日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。大量破壊兵器や弾道ミサイルの脅威に加え、サイバー攻撃のような新しい脅威も増大している。また、地球規模のパワーバランスの変化は、アジア太平洋地域において、安全保障面における協力の機会を提供すると同時に、多くの課題や緊張も生み出している。
このような安全保障上の諸課題に対処しつつ、日本の領土を保全し、国民の生命・財産を保護するとともに国際社会の平和と安定及び繁栄を確保するために、日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、地域や国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に寄与していく。
日本の平和と安定を確保するためには、第一に、日本自身の能力・役割の強化・拡大やそのための安全保障上の課題に対応するための制度整備が重要である。日本政府は、2014年7月に安全保障法制整備の基本方針について閣議決定を行い、あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする法案の作成作業を開始した。また、実効性の高い統合的な防衛力を整備していくとともに、領土保全にも取り組んでいく。
第二に、日米安全保障体制の下での米軍の前方展開を確保し、その抑止力を向上させていくことが、日本の安全のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。日米両政府は、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直しを始め、海洋安全保障、弾道ミサイル防衛、サイバー、宇宙、拡大抑止などの幅広い分野での日米間の安全保障・防衛協力を進めていく。在日米軍再編については、日米両政府として、現行の日米合意を着実に実施していくことにより、抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担軽減を図っていく方針である。
第三に、アジア太平洋地域内外のパートナーとの信頼・協力関係を強化し、多層的な安全保障協力関係を築いていく必要がある。日本と同様に米国の同盟国である韓国やオーストラリアを始めとして、欧州諸国や東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、インドなどとの二国間協力を促進するとともに、日米韓、日米豪、日米印といった3か国協力の枠組みにおける連携を進めていくことも重要である。また、中国やロシアと安全保障対話・交流などを通じた信頼関係を増進しつつ、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)などの多国間地域協力の枠組みにおける連携・協力を推進し、多層的な協力関係を強化していく。
日本の安全と繁栄は、日本周辺の安全保障環境の改善のみで達成されるものではなく、国際社会の平和と安定という基盤の上に成り立っている。この考えの下、日本は世界の様々な問題の解決に積極的に取り組んでいる。特に、紛争後の地域において、紛争の再発防止や持続的な平和に向けて取り組む平和維持を含め、緊急人道支援から、和平プロセスの促進、治安の確保、復興・開発に至る継ぎ目のない取組である平和構築について、日本は主要な外交課題の1つとして取り組んでいる。具体的には、国連平和維持活動(PKO)や国連平和構築委員会(PBC)などへの積極的な協力、政府開発援助(ODA)を活用した現場における取組や人材育成などが挙げられる。
国際社会に対するテロの脅威は依然高い。2014年はテロ組織「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」が、外国人テロ戦闘員問題などで国際的に大きな注目を集めた。4月にはナイジェリアでボコ・ハラムによる大規模な女子学生誘拐が発生し、12月にはパキスタンで児童を含む130人以上の命が奪われた。また、人身取引、薬物犯罪、サイバー犯罪、マネーロンダリング(資金洗浄)などの国際組織犯罪は、テロの資金源になるなど、テロとの関連性が高く、その脅威を増している。こうした中、日本は、国連安保理決議の遵守など、国際社会と協調してテロとの闘いに取り組むとともに、ASEANとの間でテロと国際組織犯罪対策のための共同宣言を採択するなどの地域協力を進めている。また、テロ対策関連の法律や制度などが十分でない国に対し、能力向上支援などの国際協力も積極的に行っている。さらに、2015年に入り発生したパリでの銃撃テロ事件やISILによる邦人殺害テロ事件を受けて、日本は「1.テロ対策の強化」「2.中東の安定と繁栄に向けた外交の強化」「3.過激主義を生み出さない社会の構築支援」の3本柱に沿った外交上の包括的な取組を進めていくこととしている。
日本は、「核兵器のない世界」の実現に向け、積極的な取組を進めている。これは、唯一の戦争被爆国として世界に核兵器使用の惨禍を訴える日本の責務を体現するとともに、日本を取り巻く安全保障環境の改善を図るための政策でもある。2014年1月、岸田外務大臣は長崎において核軍縮・不拡散に関するスピーチを行い、「三つの低減」、「三つの阻止」を含む政策を発表した。2010年に日本とオーストラリアが中心となり立ち上げた「軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)」の枠組みでは、2014年に被爆地である広島で外相会合(第8回)が開かれ、世界の政治指導者の広島訪問を呼びかける「広島宣言」を採択した。日本が毎年国連総会に提出している核軍縮決議は、2014年には共同提案国が過去最多の116か国となり、圧倒的多数の賛成を得て採択された。さらに、日本は10月、国連総会第一委員会においてオーストラリア及びニュージーランドがそれぞれ主導した核兵器の人道的結末に関する共同ステートメントの双方に、昨年同様参加した。以上に加え、若い世代が海外の国際会議などの場で被爆の実相を伝達する活動を後押しする「ユース非核特使」制度を創設し、このような活動の将来世代への継承に力を入れている(詳細については169ページのコラム参照)。
力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序に支えられた「開かれ安定した海洋」は、国際社会全体の平和と繁栄に不可欠な公共財である。この観点から、海賊対策を始め様々な取組や各国との連携を通じて公海における航行・飛行の自由や安全の確保に尽力している。特に、四方を海に囲まれた海洋国家である日本にとって、海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)(UNCLOS)が根幹を成す海洋の国際法は、海洋権益の確保や海洋に関する活動を円滑に行うために不可欠なものである。
サイバー空間についても、法の支配の実現・強化について、同盟国である米国や関心を共有する国々との政策協議を進めつつ、国際規範形成や各国間の信頼醸成措置に向けた動きに積極的に関与している。また、開発途上国の能力構築に取り組んでいる。
特に、宇宙分野では、第2回ARF宇宙セキュリティワークショップを日本で開催し、日本の取組や考え方の周知を図るとともに、宇宙のルール作りや平和かつ安全な利用に関する議論の進展に貢献した。
2015年は国連創設から70年という節目の年である。日本は、戦後70年間の平和国家としての歩みやこれまでの貢献を国際社会にしっかり示すとともに、今後とも未来に向けて国際社会の平和と繁栄のためにより一層積極的に貢献していく。
地球規模の課題や国境を越える課題など、国際社会が多様な課題に直面する中、普遍的かつ包括的な国際機関としての国連が果たす役割はますます重要となっており、今日の国際社会の現実を反映した形での国連の機能強化が不可欠となっている。今後、国連が一層効果的・効率的に新たな課題に対処できるよう、日本は国連を始めとする国際機関と協調しつつ、知的・人的・財政的貢献をより一層積極的に行い、国際社会において指導力を発揮していく。
国際社会における法の支配の確立は、国家間の関係を安定させ、紛争の平和的解決を図る上で重要である。また、日本としては、力による一方的な現状変更の試みに反対し、領土の保全、海洋権益や経済的利益の確保、国民の保護などに取り組む中で、法の支配の強化を外交政策の柱の1つに位置付けている。このような考えの下、安全保障や経済・社会分野を始めとする様々な分野において二国間・多国間でのルール作りを推進している。また、紛争の平和的解決を促進するため、国際司法裁判所(ICJ)、国際海洋法裁判所(ITLOS)や国際刑事裁判所(ICC)を始めとする国際司法機関の機能強化に人材面・財政面からも貢献している。そのほかにも、法整備支援や国際法関連イベントの開催を通じた国際法の知識普及などを通じて、法の支配の強化に努めている。
人権や基本的自由は普遍的価値である。その保護・促進は全ての国家の基本的な責務であると同時に、国際社会全体の正当な関心事項である。これらは日本国民に深く浸透し、国家の根本を支える柱となっている。日本国内の平和と繁栄のため、さらには国際社会に平和と安定の礎を築いていくために、日本は人権分野にこれまで以上に積極的に取り組んでいる。具体的には、世界の人権・人道問題の改善を目指し、それぞれの国・地域の歴史的・文化的背景を踏まえ、対話と協力の姿勢に立った上で、国連を始めとする多数国間のフォーラムや、二国間での対話を通じ、積極的な貢献を行っている。
2015年は、第4回世界女性会議(於:北京(中国))から20年(「北京+20」)、日本が女子差別撤廃条約を締結して30年の節目の年である。女性が持つ力を最大限発揮できるようにすることは、社会全体に活力をもたらし、成長を支えていく上で不可欠である。こうした考えに立ち、日本は、①女性の社会進出と能力強化、②国際保健外交戦略の推進の一環としての女性の保健医療分野の取組強化、③平和と安全保障分野における女性の参画と保護を重点分野に位置付け、女性のエンパワーメントに向けた取組を国際的に推進している。安倍総理大臣が2014年9月の国連総会一般討論演説において、21世紀こそ、女性の人権侵害のない世界を目指すことを強調したように、日本は国内外で「女性が輝く社会」を構築するべく、国際社会の先頭に立って取組を進めていく。