1 海外における危険と日本人の安全
(1)2013年の事件・事故等と対策
2013年は、日系企業関係者10人が犠牲になったアルジェリアにおける日本人等に対するテロ事件を始め、海外において日本人が凶悪な事件や不測の事故に巻き込まれる事案が多く発生した(詳細については第3章第1節3(3)「治安上の脅威に対する取組」参照)。
テロについては、中東、アフリカ、南西アジアを中心に、治安当局などの政府施設を狙った襲撃や、公共交通機関、宗教施設、市場など人が多く集まる場所において一般市民を狙った無差別テロが相次いで発生した。4月にはボストン(米国)において、ボストン・マラソンのゴール地点付近で爆発事件が発生した。また、9月にはナイロビ(ケニア)のショッピング・モールで武装グループによる襲撃・人質立てこもり事件が発生した。
誘拐については、12月にマニラ(フィリピン)において、日本人が武装したグループによって誘拐される事件が発生(後に無事解放)したほか、外国人を標的とした誘拐事件が世界各地で発生した。
犯罪被害については、2月にグアム島(米国)の繁華街での無差別殺傷事件、7月にはモンバサ(ケニア)において日本人襲撃事件、さらに、9月にカッパドキア(トルコ)、12月にグアヤキル(エクアドル)において日本人観光客襲撃事件が発生した。これらの事件では、日本人の死者が発生した。
大規模事故については、2月にルクソール(エジプト)において、熱気球の空中炎上落下事故、5月にネパールにおいて小型飛行機着陸失敗事故が発生した。これらの事故では、日本人の人的被害が生じた。
自然災害については、11月にフィリピンを襲った大型台風により多数の死傷者が出た。特に被害の大きかったレイテ島・サマール島では、市が壊滅状態となり、通信連絡網も寸断された。このため、在留する日本人の安否確認は困難を極めたが、最終的にこれら被災地域における日本人全員の安全を確認した。
政情不安などに起因した情勢悪化については、日本人の深刻な被害には至らなかったものの、エジプトにおける大統領支持派と反大統領派の大規模デモを契機とした断続的な衝突により、多くの死傷者が出る等の混乱が数か月にわたり継続した。タイにおいてもインラック政権に反発する大規模デモがバンコクで繰り返し行われるなど、現地に滞在する日本人の安全を脅かす事態が生じた。
中高齢者が海外で山岳・海難事故に遭遇したり、旅行中に発病したりする事例も多く報告されている。5月には、ネパールのヒマラヤ高峰ダウラギリにおいて、日本人女性登山家が遭難により死亡する事故が発生したほか、エベレストを登山中の日本人が体調不良により死亡する事案も複数発生した。
出張者や企業駐在員などが宿泊先のホテルや海外の自宅において急病のために亡くなる事例も引き続き発生した。日本国内に比べて高額の医療費や搬送費用が発生したり、不十分な医療サービスなどのために、家族や所属企業等がその対応に窮する例が散見される。家族や所属企業は、旅行者や社員に十分配慮するとともに、海外旅行保険に加入させるなどの対策をとることが望ましい。
感染症については、中国等において鳥インフルエンザA(H7N9)が、中東地域においてMERSコロナウィルスが発生した。また、デング熱やマラリアなど蚊が媒介する感染症などが引き続き世界各地で流行した。さらに、中国、インド、東南アジアなどを中心とした新興国では、大気汚染による健康被害に対する懸念が高まった。
このように、緊急事態は日々世界中の様々な地域で発生している。海外に渡航・滞在する場合には、①現地の治安などに関する情報を事前に十分確認すること、②滞在中も緊急時に備え、安全対策を充実させ、危険を回避する行動をとること、③緊急事態が発生した場合には最寄りの大使館・総領事館や留守家族などに連絡をとることなどが重要である。また、海外での病気や事故被害などのため高額な医療費が求められた場合、海外旅行保険に加入していなければ、適切な医療機関での受診及び医療費などの支払いに困難を来す場合も多い。それぞれの渡航者が海外旅行保険に加入することが非常に重要である。

(2)海外における日本人の安全対策
海外に永住・長期滞在する日本人は、2012年に約125万人に上り、また、海外に渡航する日本人は、年間延べ約1,849万人となっている。このように日本人が国際社会で活躍の幅を広げている中、日本の在外公館及び財団法人交流協会が2012年に取り扱った海外における日本人の援護人数は、10年前(2002年)の1万6,996人から約2割増加の2万378人に上った(1)。海外における日本人の安全確保のために、在外公館などにおける日本人援護体制の強化に努めているが、海外への渡航者一人一人が危機管理意識を持って渡航・滞在先の危険の傾向と対策を把握して行動することが必要である。
このため、外務省は、海外における日本人の安全のための情報を提供する海外安全ホームページの内容の充実を図っている。また、日本から携行する携帯電話の国際ローミングサービス(2)を通じて、滞在先の渡航情報を受信できるようにするなど、利便性の向上に努めている。
さらに、携帯電話の国際的な普及に伴い、緊急事態発生時に日本人の迅速な安否確認を行う手段の1つとして、携帯電話のショート・メッセージ・サービス(SMS)(3)の利用も一部開始するなど、海外の日本人の安全を図るための連絡手段の構築を目指している。
外務省の領事サービスセンターは、海外での安全に関する相談に応じている。また、海外での日本人の活動にきめ細かに対応できるよう、総合的な安全対策を取りまとめた「海外安全虎の巻」やテロ・誘拐・脅迫など想定される事案ごとに対策を記したパンフレットを配布している。これらのパンフレットは、海外安全ホームページからもダウンロードして入手できる。
外務省は、このような安全対策上の取組及び海外安全対策の必要性を国民に知らせる目的で、毎年、「海外安全・パスポート管理促進キャンペーン」を展開している。2013年度については、12月1日から2014年3月31日までをキャンペーン期間とした。地下鉄車内や駅構内、空港、旅券事務所、旅行会社などにポスターを掲示するほか、インターネットを通じた広告を行っている。これにより、海外安全ホームページを活用した安全対策や海外において唯一の身分証明書となるパスポートの管理の重要性を呼びかけている。
2013年10月に内閣府が実施した「外交に関する世論調査」においては、海外における日本人の安全確保や支援について政府による保護や支援を必要だと感じている回答者は、全体の約92%を占めている。一方、全体の40%の回答者が「自らの責任で対応する」意識を有しており、自らの努力で危険を回避し、問題を解決しようとする意識も一定の割合を占めている。外務省は、国民のこのような要請に応え、的確な支援を行うため、在外公館などの支援体制の整備・強化を進めている。
2013年1月に発生したアルジェリアにおける日本人等に対するテロ事件を受けて設置された政府検証委員会の検証報告書及び有識者懇談会の報告書などにおいて、官民連携の強化について提言が行われた。この提言の具体策の1つとして、民間企業安全対策担当者の危機管理に関する知識及び能力の向上を図ることを目的に、外務省は関係省庁との共催で、日本で7月から11月にかけて4回にわたり、「海外安全対策に係る官民集中セミナー」を開催した。また、海外で活躍する民間企業・団体と外務省との間で情報・意見交換を行い、共通に関心を有する課題について協議し、検討を行うために、「海外安全官民連絡協議会」も定期的に開催している。
在外公館においても、現地日本人組織や民間代表者などとの間で「安全対策連絡協議会」を定期的に開催し、安全対策に関する意見交換や情報共有を強化している。また、9月には、海外に滞在する日本人を対象に、安全対策・危機管理に関する啓発を図るための「在外危機管理セミナー」をチュニス(チュニジア)、アルジェ及びコンスタンチーヌ(アルジェリア)、ラゴス(ナイジェリア)でそれぞれ開催した。
順位 | 在外公館名 | 件数 |
---|---|---|
1 | 在上海日本国総領事館(中国) | 1,369件 |
2 | 在タイ日本国大使館 | 1,257件 |
3 | 在フランス日本国大使館 | 967件 |
4 | 在英国日本国大使館 | 787件 |
5 | 在ロサンゼルス日本国総領事館(米国) | 703件 |
6 | 在フィリピン日本国大使館 | 641件 |
7 | 在ニューヨーク日本国総領事館(米国) | 632件 |
8 | 在大韓民国日本国大使館 | 538件 |
9 | 在ホノルル日本国総領事館(米国) | 402件 |
10 | 在サンフランシスコ日本国総領事館(米国) | 369件 |
11 | 在バルセロナ日本国総領事館(スペイン) | 357件 |
12 | 在香港日本国総領事館(中国) | 307件 |
13 | 在イタリア日本国大使館 | 297件 |
14 | 在ホーチミン日本国総領事館(ベトナム) | 253件 |
15 | 在広州日本国総領事館(中国) | 252件 |
16 | 在バンクーバー日本国総領事館(カナダ) | 249件 |
16 | 在ベルギー日本国大使館 | 249件 |
18 | 在中華人民共和国日本国大使館 | 223件 |
19 | 在ハガッニャ日本国総領事館(米国) | 211件 |
20 | 在デンバー日本国総領事館(米国) | 201件 |



1 海外日本人援護統計は、日本の在外公館及び財団法人交流協会が、海外において事件・事故、犯罪加害、犯罪被害、災害など何らかのトラブルに遭遇した日本人に対し行った援護の件数及び人数を年ごとにとりまとめたものであり、1986年に集計を開始した。
2 海外と日本の携帯電話事業者間の提携により、日本で使用している携帯電話やPHSの端末を外国でも日本国内と同様に利用できるシステム
3 携帯電話やPHS同士で短いテキストによるメッセージを送受信するサービス