外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

各論

1 日本企業の海外展開支援

(1)経済連携の推進

EPA及びFTAは、物品の関税やサービス貿易の障壁などの削減・撤廃、貿易・投資のルール作りなどを通じて海外の成長市場の活力を取り込み、日本経済の基盤を強化する効果がある。日本は、これまでに13の国・地域との間でEPA・FTAを締結してきている。現在もアジア太平洋地域、東アジア地域、欧州などとの経済連携を戦略的に推進している。特に2013年は、これまでに経験したことのない広域経済連携交渉を複数開始した節目の年となった。3月に日中韓FTA、4月に日EU・EPA、5月に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉を開始し、7月にTPP協定交渉に参加した。また、米国とEUとの間でもTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)交渉が開始されるなど、世界各国でEPA・FTAをめぐる動きが活発化し、まさに経済連携交渉が相互に刺激し合い、活性化した1年となった。

日本は、成長戦略の主要項目の1つとして、今後も経済連携を推進していく考えである。日本の貿易のFTA比率(貿易総額に占める発効済み・署名済みのFTA相手国の貿易額の割合)を2012年の19%から2018年までに70%に高めるとの「日本再興戦略」の目標実現に向け、EPA及びFTA交渉を推進していく。

日本の経済連携(EPA)の取組
日本の経済連携(EPA)の取組
ア 交渉中などの協定(交渉開始順。FTAAP関連は参照。)
(ア)韓国

隣国である韓国との間では、貿易・投資を含む経済の相互依存関係が強固である。同国とのEPAは、安定的な経済枠組みを提供し、将来にわたり両国に利益をもたらし得るとの考えに基づき、2003年に交渉を開始。現在同交渉は中断されているが、実務レベルの調整等を継続している。

(イ)湾岸協力理事会(GCC)

GCC1諸国は、日本に対する石油・天然ガス供給国として極めて重要である。GCCとのより一層の経済関係強化のため、2006年に開始されたFTA交渉は、GCC側の都合で延期されてきているが、日本は交渉の早期再開を求めている。

(ウ)オーストラリア

オーストラリアは、エネルギーや食料の主要な供給国という経済面のみならず、政治・安全保障の面でも日本と密接な関係にある。同国からの強い要望を踏まえ、2007年に開始したEPA交渉については、2013年12月までに16回の交渉会合を行った。また、9月に発足した新政権との間でも交渉の推進を確認した。

(エ)モンゴル

中長期的な高成長が見込まれるモンゴルとの間では、2012年にEPA交渉を開始した。エネルギー・鉱物資源を含む投資環境の改善や更なる貿易・投資の拡大を目指し、2013年12月までに5回の交渉会合を行った。

(オ)カナダ

基本的な価値観を共有し、相互補完的な経済関係にあるカナダとの間では、2012年に交渉を開始した。日本へのエネルギー、鉱物及び食料の安定供給に資するEPAとすべく、2013年12月までに4回の交渉会合を行った。

(カ)コロンビア

豊富な資源と高い経済成長を有するコロンビアは、各国とFTA締結を進めている。日本も、日本企業の投資環境整備などの観点から2012年に交渉を開始し、2013年12月までに3回の交渉会合を行った。

(キ)欧州連合(EU)

基本的価値を共有し、日本の主要貿易・投資相手でもあるEUとは、2013年3月に交渉開始を決定した。4月には、第1回交渉会合が開かれ、2014年1月までに4回の交渉会合を行った。2013年11月には日EU定期首脳協議が開催され、日EU・EPA早期締結に向けた双方の強いコミットメントが改めて確認された。

(ク)トルコ

高い経済的潜在性を有し、開放経済を推進するトルコとは、2013年7月に共同研究報告書を公表し、2014年1月に訪日したエルドアン首相と安倍総理大臣の会談において交渉開始に合意した。トルコは、関税同盟を有するEU及びロシアを含む欧州、同じイスラム圏である中東・北アフリカ、言語・民族的に近い中央アジア・コーカサスに囲まれる地政学的重要性から、国内市場だけでなく、これら周辺地域への進出・生産拠点としても日本企業の関心が高く、今後とも更なる投資の増加が期待されている。特に韓国・トルコFTAが2013年5月に発効し、工業製品の関税撤廃が合意されていることから、日本企業の競争力確保のためにもトルコとのEPA交渉を進めていく必要がある。

EPA・FTA交渉等の現状
EPA・FTA交渉等の現状
イ アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に向けた道筋
(ア)環太平洋パートナーシップ(TPP)協定

TPP協定は、成長著しいアジア太平洋地域において、普遍的価値を共有する国々と、21世紀型の新たな経済統合ルールを構築する野心的な協定であり、モノだけではなく、サービス、投資、さらには知的財産、金融サービス、電子商取引、国有企業の規律など、幅広い分野で新たなルールを構築することで大きなバリュー・チェーンを作り出すことができる。2013年12月現在、日本、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、メキシコ及びカナダの12か国が交渉に参加している。

日本は、2013年3月に交渉参加を表明し、当時の交渉参加11か国との事前協議を行い、交渉参加への支持を得て、同年7月、正式に交渉に参加した。8月のブルネイ閣僚会合、10月のバリ首脳会合・閣僚会合で各国と精力的な協議を行ってきたが、野心的かつ包括的な高い水準の協定を達成するためには、いくつかの分野において引き続き議論を深めることが必要であり、2013年12月及び2014年2月に開催されたシンガポール閣僚会合では妥結には至らなかった。

日本は、各国と共に早期妥結に向けて努力し、国益をしっかりと最終的な成果に反映すべく、引き続き全力を挙げて交渉に取り組んでいく。

(イ)日中韓FTA

日中韓FTAについては、2013年3月に交渉を開始し、12月までに3回の交渉会合を行った。これまでの交渉会合では、包括的かつ高いレベルのFTAを目指すとの3か国共通の目標の下、物品貿易を始め、投資、サービス貿易、競争、知的財産といった広範な分野につき協議を行っている。

(ウ)東アジア地域包括的経済連携(RCEP)

RCEPは、人口約34億人(世界全体の約半分)、GDP約20兆米ドル(世界全体の約3割)、貿易総額10兆米ドル(世界全体の約3割)に上る広域経済圏実現を目標とした交渉である。2012年、ASEAN諸国とFTAパートナー諸国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドの6か国)の首脳は、RCEP交渉立ち上げを宣言した。2013年5月の交渉開始後、物品貿易、サービス貿易、投資、競争、知的財産などを含む分野で包括的かつ高いレベルの協定を目指し、8月には閣僚会合を開催し、12月までに2回の交渉会合を行った。

ウ 発効済みの協定

発効済みのEPAには、協定の実施の在り方について協議する合同委員会に関する規定や、発効から一定期間を経た後に協定の見直しを行う規定があり、発効済みのEPAの活用のために様々な協議が続けられている。日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定については、2010年からサービス章及び投資章の交渉を開始し、2013年12月の日・ASEAN特別首脳会議において実質合意が確認された。

エ 人の移動

EPAに基づき、これまでインドネシアやフィリピンから看護師・介護福祉士候補者の受入れを開始しており、2013年はインドネシアから156人(看護:48人、介護:108人)、フィリピンから151人(看護:64人、介護:87人)が新たに入国した。また、2013年の国家試験については、看護30人(インドネシア:20人、フィリピン:10人)、介護128人(インドネシア:86人、フィリピン:42人)が合格した。不合格者のうち、2009年及び2010年に入国し、一定の条件を満たした者の滞在期間を特例措置として1年間延長した。

また、2012年4月、ベトナムとの間で看護師・介護福祉士候補者の受入れにについて合意し、一定の日本語能力を有する候補者に日本への入国・滞在が認められることとなった。同年11月から訪日前日本語研修を実施しており、2014年半ばに第一陣が来日予定である。

日本は、候補者支援のため、訪日前日本語研修、帰国後の支援や再チャレンジ支援を行っているほか、2013年に実施される国家試験では、試験問題の全ての漢字にふりがなを付記し、試験時間を延長した。

(2)日本企業支援

ア 外務省・在外公館が一体となった日本企業の海外展開支援

外務省は、中小企業を含む日本企業の海外展開を後押しするため、「日本企業支援窓口」を全ての在外公館に設置し、日本企業への情報提供や現地政府・機関に対する申入れなどを行っている。また、在外公館施設を活用した、日本企業製品・技術の展示、日本企業製品紹介のためのセミナー、日本企業との共催による現地企業との交流会開催などにも取り組んでいる。

また、2013年1月にアルジェリアで発生した日本人等に対するテロ事件を機に、海外における日本人や企業の安全確保への関心が更に高まっていることから、企業の安全対策・リスク管理などの様々な情報提供や相談も引き続き積極的に行っている(第4章第2節「海外における日本人への支援」参照)。こうした取組に加え、インフラシステムの海外展開支援(参照)や風評被害対策を含む日本産品の輸出支援((3)参照)にも取り組んでいる。2013年12月には日本企業の海外展開支援を一層強力に推進するため、省内に、外務大臣を本部長とする「日本企業支援推進本部」を設置するとともに、「日本企業支援室」を新設した。

さらに、ODAを活用した支援スキームを拡充したり「海外展開一貫支援ファストパス制度」2を経済産業省と共に立ち上げるなど、中小企業の海外展開支援についても一層強化している。

公邸でのレセプションにおける日本企業PRブース出展(在トルコ日本国大使館)
公邸でのレセプションにおける日本企業PRブース出展(在トルコ日本国大使館)
イ インフラシステムの海外展開支援

新興国を中心としたインフラ需要を取り込み、日本企業によるインフラ輸出を促進するため、2013年3月、関係閣僚をメンバーとする「経協インフラ戦略会議」が政府内に設立された。以来、外交日程に合わせて、「ミャンマー」、「中東・北アフリカ」、「第5回アフリカ開発会議(TICAD V)及びインフラシステム輸出戦略」、「ASEAN連結性支援」、「インド」などをテーマに8回の会合が行われた(2014年1月時点)。5月に策定された「インフラシステム輸出戦略」は、2020年に約30兆円(現状約10兆円)のインフラシステムの受注達成を目標としている。

このような目標達成のため、総理大臣、外務大臣を始めとするトップセールスの推進、JICA海外投融資の本格再開、円借款をより戦略的に活用するための制度改善など、インフラシステムの海外展開推進の体制整備・強化が進められている。

外務省は、インフラプロジェクトに関する情報の収集・集約などを行う「インフラプロジェクト専門官」を重点国の在外公館に指名している(2013年12月現在、50か国58公館127人)。

このような取組の具体的な成果として、貨物専用鉄道(インド)、首都圏都市鉄道(インドネシア)、鉄道車両(英国、米国)、高効率石炭火力発電所(マレーシア)、化学プラント(トルクメニスタン)、都市鉄道車両、信号・変電・通信設備などのパッケージ(タイ)等を日本企業や日本企業を含むグループが受注している。

ウ 投資協定/租税条約/社会保障協定
(ア)投資協定

海外における日本企業の良好な投資環境の創出・整備を促進し、日本市場に海外投資を呼び込むために、日本は投資協定の締結に積極的に取り組んでいる。2013年には、サウジアラビア、モザンビーク及びミャンマーとの間で、投資協定に署名した(これまでの合計で23件の投資協定を締結又は署名)ほか、オマーン及びカザフスタンとの間で実質合意に達した。また、アンゴラ、ウクライナ、アルジェリア、ウルグアイ、カタール及びアラブ首長国連邦との間で、それぞれ投資協定交渉を進めている。さらに、投資に関する規定を含むEPAの締結にも取り組んでいる。これまでに日本が締結した13のEPAのうち10のEPAは投資に関する規定を含むものである(また、投資に関する規定を含んでいなかった日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定は、2013年12月に日・ASEAN特別首脳会議で投資章の交渉実質合意が歓迎された。)。また、現在行われているTPP協定、日中韓FTA、RCEP及びEU、カナダ、モンゴル、オーストラリアなどとの間のEPAの交渉においても投資に関する議論が行われている。

このほか、日本は、OECDやAPECなどの国際的な枠組みにおいても、投資の自由化や円滑化を促進するための多数国間ルールの形成に積極的に取り組んできている。

(イ)租税条約

租税条約は、国境を越える経済活動に対する国際的な二重課税を回避するとともに、投資所得(配当、利子、使用料)に対する源泉地国課税の減免などを通じて投資交流を促進するための重要な法的基盤である。また、租税に関する情報交換などといった税務当局間の国際協力推進のための規定もあり、脱税、租税回避行為などを防止する観点からも重要なものである。日本は、租税条約ネットワークの拡充に積極的に取り組んでいる。具体的には、米国との改正議定書(1月)やアラブ首長国連邦との条約(5月)、スウェーデン及び英国との改正議定書(それぞれ12月)が署名された。また、クウェート(6月)、ポルトガル(7月)及びニュージーランド(10月)との条約及びベルギーとの改正議定書(12月)が発効した。さらに、租税に関する行政支援を相互に行うための多数国間条約である税務行政執行共助条約が、日本について10月に発効した。なお、租税に関する情報交換ネットワークの整備や拡充を主要な目的とした協定については、マカオ及び英領バージン諸島との間でそれぞれ4月に基本合意に達し、サモア(7月)、ガーンジー及びジャージー(それぞれ8月)との間で発効した。この結果、日本は2013年末時点で60の租税条約(79か国・地域に適用)を締結したことになる。

(ウ)社会保障協定

社会保障協定は、社会保険料の二重負担や掛け捨てなどの問題を解消することを目的としており、海外に進出する日本企業や国民の負担を軽減し、ひいては相手国との人的交流が円滑化され、経済交流を含む二国間関係がより一層緊密化することが期待される。日本は、8月にハンガリーとの協定に署名し(2014年1月発効)、2013年末時点で社会保障協定を締結又は署名している国は17か国となった。また、2013年中には、フィリピン、トルコ及びフィンランドとの間で、それぞれ政府間交渉又は交渉開始に向けた予備協議を行った。

エ 知的財産

知的財産保護の強化は、技術革新の促進、ひいては経済の発展にとって極めて重要である。日本は、G8サミット、APEC、OECD、WTO(TRIPS理事会3)、世界知的所有権機関(WIPO)などにおける多国間の議論に積極的に参画している。2013年6月には、WIPOにおいて、点字図書の輸出入促進などにより視覚障害者などの著作物へのアクセスを容易にする新しい条約が採択された。EPA4においても、可能な限り知的財産権に関する規定を設けることとしている。また、偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)の発効に向けた働きかけを引き続き行っている。知的財産保護の強化や模倣品・海賊版対策における開発途上国の政府職員などの能力向上のため、JICAを通じて、専門家派遣、研修員受入れなどを行っている。

また、外務省は、海外における知的財産の保護強化、模倣品・海賊版対策などに関する施策を実施している。例えば、海外において模倣品・海賊版被害を受けている日本企業を迅速かつ効果的に支援することを目的として、ほぼ全ての在外公館において知的財産担当官を任命しており、日本企業への助言や相手国政府への照会、働きかけなどを行っている。

(3)風評被害対策

外務省では、東京電力福島第一原発事故に起因する風評被害を防ぎ、日本産品の海外輸出を促進するため、汚染水問題への対応を始めとする事故対応の取組に加え、日本産品の安全確保の措置(日本の検査基準・体制や出荷制限等)の情報を迅速かつ正確に各国に提供し、輸入規制の緩和・撤廃を粘り強く働きかけてきている。

具体的には、規制を実施している国に対し、在外公館からの働きかけや首脳・閣僚レベルからの規制の緩和・撤廃の申入れを行っているほか、海外産業界向けのPR事業などを実施してきた。

こうした取組の結果、米国のように日本国内の規制を前提とした制度を採る国のほか2013年1月までに、13か国(カナダ、メキシコ、ニュージーランド、マレーシア、コロンビア、ミャンマー、セルビア、チリ、ペルー、ギニア、エクアドル、ベトナム、オーストラリア)が規制を完全に解除した。また、EUなどは規制を緩和し、対象地域・品目を縮小している。しかし、依然として約70か国・地域において何らかの規制が継続している。規制緩和・撤廃に向けた働きかけを引き続き粘り強く行っていく。

また、酒類を含む日本の農林水産物・食品の輸出を促進するため、地方自治体や日本企業と連携し、日本産品の魅力発信にも積極的に取り組んでいる。例えば、2013年4月に安倍総理大臣がロシアを訪問した際には、在ロシア日本国大使館にて、日本食のPRレセプションを行い、来訪したロシアの人々から好評を博した。今後も海外における日本の農林水産物・食品の市場拡大に向け、日本企業の輸出に向けた取組を積極的に後押ししていく。

安倍総理大臣訪露時の日本食レセプションの様子(4月30日、写真提供:内閣広報室)
安倍総理大臣訪露時の日本食レセプションの様子(4月30日、写真提供:内閣広報室)

1 GCC:湾岸協力理事会(Gulf Cooperation Council)。バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の6か国から構成。

2 地域金融機関や商工会議所などの企業支援機関から、外務省(在外公館を含む。)、JETROなど海外展開支援に知見のある機関に対して、有望企業の紹介を円滑に行う制度

3 TRIPS理事会とは、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)の実施、特に加盟国による義務の遵守を監視し、同協定に関する事項の協議を行う場

4 ASEAN、ブルネイ、チリ、インド、インドネシア、マレーシア、メキシコ、ペルー、フィリピン、シンガポール、スイス、ベトナム、タイとの間で知的財産権に関する規定を含む協定を締結し、既に効力が発生している。

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