外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

第3節 経済外交

総論

安倍政権は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」による経済再生への取組を全力で進め、6月には新たな成長戦略である「日本再興戦略」をとりまとめた。外務省でも、岸田外務大臣の下、日本経済の再生に資する経済外交の強化を「外交の三本柱」の1つと位置付けて、精力的に取り組んだ。このような「アベノミクス」ともいわれる一連の取組もあり、2013年、日本経済はデフレ脱却の兆候と緩やかな景気回復を見せた。米国や欧州の一部においても回復の兆候が見られるなど、先進国の経済は好転したが、これまで世界経済をけん引してきた新興国の成長は鈍化した。また、新興国を中心としたエネルギー需要の増加と資源国における「資源ナショナリズム」の動き、さらには中東情勢の影響などにより、エネルギー価格が全般的に高水準になった。このような国際情勢の中、G8・G20サミットの場において、安倍総理大臣から、日本経済の再生を通して世界経済の成長に貢献していくことを説明し、各国首脳から高い評価と強い期待が寄せられた。

2013年は、日本にとって、特に経済連携の分野において、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓FTA(自由貿易協定)、日EU・EPA(経済連携協定)など、これまで経験したことのない大規模な経済連携協定交渉が開始された年ともなった。こうした経済連携への取組をアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)にもつながるような形で、相互補完的に発展させていくことが重要となっている。日本としては、FTAAPの実現に向けたAPEC(アジア太平洋経済協力)の議論への参加などを通じ、世界全体の貿易・投資ルール作りに引き続き貢献しつつ、日本自身の成長戦略を着実に進めていくことが重要である。

多数国間の貿易自由化交渉は長年にわたり膠着(こうちゃく)状態が続いているが、WTO(世界貿易機関)体制は新たなルール作りや紛争解決を含む既存のルールの運用面において、依然として重要な役割を果たしている。2013年12月にインドネシアのバリで開催された第9回WTO閣僚会議では、貿易円滑化、農業及び開発の3分野からなる「バリ合意」が妥結に至った。特に、貿易円滑化に関する合意は、税関手続の迅速化・透明性向上などを通じて先進国、開発途上国双方に利益をもたらすものである。WTO設立以来初めて、全加盟国が多数国間協定の内容に合意したことは、難航するドーハ・ラウンド(DDA)交渉の活性化につながるものと期待される。また、2013年夏以降、WTOに加盟する有志国・地域(2013年12月現在、23か国・地域)による「新サービス貿易協定(TiSA)」が本格的交渉段階に入っている。さらに、情報技術協定(ITA)の品目拡大交渉も早期妥結を目指して交渉が進められている。日本としては、世界全体の自由で開かれた貿易体制が維持・強化されていくよう引き続き貢献していく考えである。

日本経済は再生に向けて上向いている。この兆しを着実な成長へとつなげていくためには、日本企業の海外展開を通じて新興国を始めとする諸外国の成長を取り込んでいくことが必要である。外務省では、在外公館における「日本企業支援窓口」の設置を始め、日本企業の活動を支援してきた。この取組を更に強化するため、省内に、岸田外務大臣を本部長とする「日本企業支援推進本部」を立ち上げ、「日本企業支援室」を新設した。また、世界でインフラへの需要が拡大している中、政府としては、2020年に約30兆円のインフラを受注するという目標を掲げている。この目標に向け、要人往来の機会も最大限に活用し、安倍総理大臣や岸田外務大臣を始めとするトップセールスで、日本のインフラや技術を海外に売り込んでいる。なお、外務省では、東京電力福島第一原発事故に起因する風評被害を防ぎ、日本産品の海外輸出を促進するため、汚染水問題への対応を始めとする事故対応の取組に加え、日本産品の安全確保の措置(日本の検査基準・体制や出荷制限等)の情報を迅速かつ正確に各国に提供し、輸入規制の緩和・撤廃を粘り強く働きかけてきている。

また、「日本再興戦略」においては、「国際展開戦略」の一環として、「国家戦略特区」の活用や、政府の外国企業誘致・支援体制の抜本強化などによる対内直接投資の活性化が盛り込まれた。外務省では、対日投資促進に向けた取組について、国際会議や大使館、総領事館などの場を活用して広報に努めるほか、在外公館のホームページでも積極的なPR活動を行っている。多くの資源を海外に依存し、東日本大震災以降、化石燃料への依存度を高めている日本にとって、資源の安定的かつ安価な供給確保に向けた取組が急務となっている。外務省としても、様々な外交ツールを活用し、資源国との包括的かつ互恵的な関係の強化に努め、供給国の多角化を図るなど戦略的な資源外交を行っている。特に2013年は、安倍総理大臣、岸田外務大臣が北米、モンゴル、ロシア、中東諸国などの主要な資源国を訪問し、積極的な資源外交を展開した。また、在外公館に新たに「エネルギー・鉱物資源専門官」を配置し、情報収集などの体制強化を図った。世界的な人口増加と食糧不足が予想される中、日本としても、食料安全保障の確保のための取組を進めている。2013年には、国際的な海洋資源の管理に積極的に貢献する観点から、北太平洋漁業委員会の事務局を日本に誘致した。

1964年は、東京五輪が開催された年であるが、同時に、日本がOECD(経済協力開発機構)への加盟を果たし、名実共に先進国の仲間入りを果たした年でもある。加盟50周年に当たる2014年5月のOECD閣僚理事会において、日本は議長国を務める。2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災の経験を踏まえ、経済社会のしなやかな強靭(じん)さ(レジリエンス)や東南アジアへのアウトリーチなどについて議論するとともに、デフレからの脱却を含めた日本経済の再生を国内外に力強く印象付ける機会となる。

日本経済の再生は、日本の国際社会における発言力を取り戻し、良好な国際経済環境を実現し、世界経済の成長に貢献するものである。東日本大震災からの復興も道半ばであり、日本経済の再生に向けて、引き続き力強い経済外交を推進していく。

このページのトップへ戻る
青書・白書・提言へ戻る