3 軍縮・不拡散・原子力の平和的利用1

(1)概観

日本は、自国の安全を確保・維持し、また、日本国憲法がうたっている平和主義の理念を基礎として、平和で安全な世界を目指すため、国際社会の責任ある一員として軍縮・不拡散に取り組んでいる。この対象となるのは、大量破壊兵器(一般に核兵器・生物兵器・化学兵器を指す)、ミサイルとそれ以外の通常兵器並びにそれらの関連物資・技術である。

核兵器の存在は人類全体にとって深刻な脅威であり、日本は唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界」を実現させるべく、主体的な外交努力を行っている。核兵器不拡散条約(NPT)は、核軍縮・不拡散及び原子力の平和的利用を定めた核兵器に関する最も基本的な条約であり、NPTに基づく国際的な核軍縮・不拡散及び原子力の平和的利用の枠組みをNPT体制と呼んでいる。日本は、NPTの2010年運用検討会議において、オーストラリアと共同で最終文書の合意の基礎となる具体的な提案を行うなど、会議の成功に重要な貢献を行った。また、同年9月には、オーストラリアとの協力により、核兵器のない世界を実現する一里塚として、「核リスクの低い世界」を目指すという目的を共有する非核兵器国10か国による地域横断的なグループ「軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)」を立ち上げ、2011年には、核兵器国の軍縮の透明性確保等で具体的な成果を挙げつつある。

また、核兵器以外の大量破壊兵器である生物兵器や化学兵器については、それらの生産・保有等を禁止する生物兵器禁止条約(BWC)及び化学兵器禁止条約(CWC)が発効しており、その強化と普遍化に向けた努力を行っている。通常兵器についても、クラスター弾や対人地雷といった非人道的な兵器の使用を禁止する条約の作成と強化、不発弾除去や小型武器回収等の被害国におけるプロジェクトの実施、各国の軍縮の透明性を高める諸努力に取り組んでいる。

その他の多国間の枠組みとしては、軍縮分野で唯一の多国間交渉機関であるジュネーブ軍縮会議(CD)において、FMCTなどの新たな条約交渉の開始に向けて努力している。

IAEA2の保障措置3は、核不拡散体制の中核的措置であり、日本はその強化・効率化に取り組んでいる。また、不拡散を支持する国による輸出管理規制の国際的枠組みである、各種の国際輸出管理レジームや大量破壊兵器等の拡散を阻止するためのイニシアティブである「拡散に対する安全保障構想」(PSI)4などの取組に積極的に参画している。さらに、近年は、テロリスト等、非国家主体への核兵器、核物質及び関連資材の移転の防止など核セキュリティ5への取組が重要性を増しており、2010年4月には、オバマ米国大統領の主催の下、核テロ対策をテーマとした初めての首脳会議(核セキュリティ・サミット)が開催され、日本も国際貢献のためのイニシアティブを発表した。2012年3月にはソウルで2回目の核セキュリティ・サミットが予定されている。

日本は、これらの多国間の枠組みを通じた取組に加え、二国間の対話を通じた軍縮・不拡散外交も積極的に行っており、二国間原子力協力協定の締結などによる原子力の平和的利用の促進やロシア退役原子力潜水艦の解体支援等、その活動は多岐にわたっている。

世界の核弾頭数の状況(2011年)
世界の核弾頭数の状況(2011年)
安全で革新的な原子力エネルギーの利用に関するキエフ・サミットにおいて、ヤヌコーヴィチ・ウクライナ大統領と会談する高橋外務副大臣(左)(4月19日、ウクライナ・キエフ)
安全で革新的な原子力エネルギーの利用に関するキエフ・サミットにおいて、ヤヌコーヴィチ・ウクライナ大統領と会談する高橋外務副大臣(左)(4月19日、ウクライナ・キエフ)

(2)核軍縮

ア 核兵器不拡散条約(NPT)

2010年5月にニューヨークで行われたNPT運用検討会議は、前回会議(2005年)の決裂もあり、NPTの命運をかけた分岐点であったが、結果的に、NPTの3本柱(①核軍縮、②核不拡散、③原子力の平和的利用)につき、将来に向けた具体的な行動計画を含む最終文書をコンセンサスで採択することができた。失敗回避のために国際社会が結束し、危機に直面していたNPT体制を救った意義は非常に大きく、今後は、各国がこの行動計画を着実に実施していくことが重要である。

イ 軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)

2010年9月、日本はオーストラリアと主導して、同年5月のNPT運用検討会議での合意事項の着実な実施に貢献すべく、核軍縮・不拡散分野において志を同じくする地域横断的な10か国6のグループを立ち上げた。2011年4月、ドイツにおいて行われた第2回外相会合においては、この10か国グループの名称を「軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)」とすることで一致。同年9月には、第3回外相会合が行われ、2010年のNPT運用検討会議のフォローアップ等、グループ発足から1年間の活動実績を振り返るとともに、FMCT早期交渉開始や核軍縮の報告フォームといった重要事項を中心に、2012年のNPT運用検討会議第1回準備委員会に向けた具体的な取組の方向性につき、実質的な議論を行った。

ウ 包括的核実験禁止条約(CTBT)7

日本はCTBTを、NPTを基礎とする核軍縮・不拡散体制を支える重要な柱として、その早期発効を重視し、未批准国への働きかけ等の外交努力を継続している。同条約の発効促進会議には、高村正彦外務大臣が議長を務めた1999年の第1回以来、毎回参加している。2011年9月の第7回発効促進会議には玄葉外務大臣が出席し、核兵器国、非核兵器国の対立を超え、すべての国がCTBT発効促進に向けて共同行動(United Action)をとることを呼びかけるとともに、NPDIの参加国と連携しつつ、CTBT発効促進に向けた共同行動の先頭に立つ決意を表明した。同年12月、発効要件国の一つであるインドネシアの国会においてCTBTの批准が承認され、同国が批准したことから、批准国は157か国となった。

エ 兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)8

2009年5月、CDにおいて、FMCT交渉開始を含む作業計画が決定されたものの、作業計画の実施に必要な決定案がパキスタンの修正要求により合意に至らず、結局交渉は行われなかった。2010年以降も、CDは作業計画を採択できず、2011年12月の国連総会において、CDが2012年会期中に作業計画を採択・実施できない場合は、2012年9月から始まる第67回国連総会で、交渉開始の代替案について検討するとのカナダが提出したFMCTに関する決議案が賛成多数で採択された。

オ 軍縮・不拡散教育

近年、市民に対する軍縮・不拡散についての教育は、軍縮・不拡散問題への取組を推進する上で重要であると国際社会に広く認識されてきている。日本は、唯一の戦争被爆国として、また、国際的な軍縮・不拡散体制の維持・強化を主要な外交課題と捉える立場から、軍縮・不拡散教育を積極的に推進してきている。日本の取組として、「非核特使」や被爆証言の多言語化及び各国若手外交官の被爆地研修等を通じた被爆の実相の伝達、NPT運用検討会議のプロセスにおける作業文書の提出や演説の実施、日本における国連軍縮会議開催への協力を行っている。2011年10月の国連軍縮週間には、ニューヨークの国連本部に2名の「非核特使」を派遣し、非核特使は自らの実体験に基づいた被爆証言を行った。また、国連と協力してフェイスブックを活用し開催した「平和のための詩」コンテストにおける最優秀作品の発表を、国連総会議場のそばにある広島・長崎原爆常設展示場で行った。また、同年11月には、広島市、長崎市と協力してジュネーブの国連欧州本部に原爆常設展を開設し、核軍縮の重要性を訴える等、国連と協力して核兵器使用の惨禍の実相を国際社会、特に次世代に伝える取組も行っている。

カ その他多国間での取組

2011年5月に行われたG8ドーヴィル・サミット(於:フランス)では、「不拡散及び軍縮に関する宣言」が発出され、軍縮・不拡散の追求及び原子力の平和的利用の不可欠な基礎であるNPTに対する支持等が表明された。さらに、同年12月に開催された第66回国連総会においては、日本が1999年以降毎年提出している核軍縮決議が、過去最多の99か国となる共同提案国を集め、賛成169、反対1(北朝鮮)、棄権11と圧倒的多数の支持を得て採択された。

キ その他の二国間での取組

核軍縮・不拡散及び環境汚染防止の観点から、日露非核化協力委員会を通じ、ロシアにおける退役原子力潜水艦解体関連事業を実施している9。また、ウクライナ、カザフスタン及びベラルーシとの間でそれぞれ設立した非核化協力委員会を通じ、核セキュリティ強化事業に対する協力を進めている10

ク 核セキュリティ・サミット

核セキュリティについては、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件以降国際的な関心が高まっており、様々な取組が行われている。2010年4月には、オバマ米国大統領の提唱により、核セキュリティをテーマにした初めての首脳会議(核セキュリティ・サミット)が米国で開催された。このサミットには、日本を含む47か国及び3国際機関等(国連、IAEA及び欧州連合(EU))の首脳などが参加し、4年以内に全ての脆(ぜい)弱な核物質の管理を徹底するとの目標を共有するとともに、核セキュリティ強化のために具体的な措置をとっていくことで一致した。2012年3月には、第2回目となるサミットがソウルで開催され、東京電力福島第一原発事故から約1年という節目のタイミングで開催され、前回サミットで合意した作業計画の実施状況を検証し、核セキュリティ強化のための国際協力と国内措置及び核セキュリティと原子力安全のシナジーについて議論する予定である。

(3)不拡散

ア 大量破壊兵器などの拡散防止の取組

日本は、不拡散体制の強化のために様々な外交努力を行っている。IAEAは、原子力の平和的利用の促進と原子力の軍事的利用への転用防止を目的とする国際機関であり、日本はIAEA指定理事国11としてその活動に人的・財政的貢献を行っている。IAEAの保障措置は、核物質などが軍事的目的に資するような方法で利用されないことを確保するための検認制度であり、また、国際的な核不拡散体制の中核的な措置である。日本はより多くの国が追加議定書12を締結するよう様々な協議の場で各国に働きかけるとともに、IAEAと協力し、追加議定書締結支援のための、IAEAが主催する地域セミナーへの人的・財政的支援を含め、IAEAの取組を支援してきている。

輸出管理レジームは、兵器やその関連汎用品・技術の供給能力を持ち、かつ、不拡散を支持する国々による輸出管理の協調のための枠組みである。核兵器、生物・化学兵器、ミサイル13、通常兵器のそれぞれに関する多国間の輸出管理レジームが存在し、日本はこれら全てに参加し、貢献している。特に、原子力供給国グループ(NSG)に対しては、ウィーン日本政府代表部が事務局の役割を果たしている。2011年6月には、原子力供給国グループ総会において、濃縮及び再処理14の資機材や技術の移転規制が強化された。

また、日本は、「拡散に対する安全保障構想(PSI)」の取組を重視しているほか、不拡散体制への理解促進と取組の強化を目指し、アジア諸国を中心に働きかけを行っており、2003年度からアジア不拡散協議(ASTOP)15を、また、1993年度からアジア輸出管理セミナー16をそれぞれ日本において開催するなど、拡散問題に対する地域的取組の強化を率先して進めている。例えば、2011年12月のASTOPでは、2012年3月に韓国で開催される核セキュリティ・サミットを踏まえ、核セキュリティの強化に関しての同サミットに向けた国際的な動きや各国の取組、核セキュリティ分野での人材育成などの意見交換が行われた。また、日本は、ロシアなど旧ソ連諸国で大量破壊兵器やその運搬手段の研究開発に関与していた科学者などを国際科学技術センター(ISTC)を通じて平和目的の研究に従事させることにより、大量破壊兵器に関する知識・技能の拡散防止に貢献している。

イ 地域の不拡散問題

北朝鮮の核・ミサイル問題は、国際社会の平和と安全に対する重大な脅威であり、特に核問題は国際的な核不拡散体制に対する重大な挑戦である。2002年10月に北朝鮮がウラン濃縮計画の保有を認め、これを契機に核問題が再び深刻化し17、2006年7月にテポドン2を含む7発の弾道ミサイルが発射され、10月には核実験実施発表に至った。2007年から2008年にかけて寧辺(ヨンビョン)の三つの核施設(5メガワット実験炉、再処理工場及び核燃料棒製造施設)の無能力化作業への着手及び核計画に関する申告がなされたが、北朝鮮は、2009年4月にミサイルを発射、5月に核実験実施を発表し、6月には新たに抽出されるプルトニウム全量の兵器化及びウラン濃縮作業着手を発表し、7月には複数発の弾道ミサイルを発射、9月には試験的ウラン濃縮が最終段階に達した旨を宣明する書簡を国連安保理議長宛てに送付し、11月には使用済み核燃料棒の再処理を成功裏に終了した旨を発表するなど、強硬姿勢を強めている。また、2010年11月には、米国のプリチャード元朝鮮半島和平担当特使とヘッカー・スタンフォード大学教授(元ロスアラモス研究所長)が寧辺を訪問した際、北朝鮮が実験用軽水炉建設現場とウラン濃縮施設を視察させた旨が報告されている。日本は、引き続き北朝鮮に対し、2005年9月の六者会合共同声明及び関連する国連安保理決議への違反であるウラン濃縮活動の即時停止を含め、すべての核兵器及び既存の核計画の放棄に向けた措置を着実に実施するよう強く求めつつ、北朝鮮の非核化に向けて引き続き米韓を含む関係国と緊密に連携していく考えである。

また、IAEAに未申告のウラン濃縮関連活動が2002年に発覚したイランの核問題は、国際的な核不拡散体制への重大な挑戦であり、2003年以降、その活動の停止などを求めるIAEA理事会決議18及び国連安保理決議19がそれぞれ採択されてきた。イランは未解決の問題に関し、IAEAとの協議や、更なる情報提供、さらにはIAEAの懸念を払拭するために必要な人や場所へのアクセス提供を実施していない。さらに、2009年9月には、新たなウラン濃縮施設が建設中であることが明らかになり、2010年2月には、自国でのテヘラン研究用原子炉(TRR)用燃料生産を目的として約20%のウラン濃縮を開始するなど、イランは依然として国連安保理決議に反してウラン濃縮関連活動を継続・拡大している。このような動きに対し、2010年6月には国連安保理決議第1929号が採択され、イランに対する制裁措置が強化された。さらには、2011年11月には、イランの核計画に関する軍事的側面の可能性についてのIAEA事務局長報告の発出やIAEA理事会決議の採択等を踏まえ、米・EU等によるイランに対する追加的な制裁措置が行われた。日本は、関係国と緊密に連携しつつ、イランとの伝統的に良好な関係に基づく働きかけを継続し、核問題の平和的・外交的解決に向け努力していく考えである(詳細については第2章第6節2(8)「イラン」を参照)。

シリアによるIAEA保障措置の履行に関する問題も、2008年11月以降、IAEA理事会において取り上げられており、2011年6月のIAEA理事会において、デイル・エッゾールにおける未申告での原子炉建設がIAEA保障措置協定下の違反を構成することを認定し、IAEA全加盟国、国連安保理及び国連総会にシリアの保障措置協定違反を報告することを決定する決議が採択された。日本は、シリアがIAEAに対して完全に協力し、事実関係が解明されることを強く期待し、そのためにも同国が追加議定書を署名・批准し、これを実施することが極めて重要であると考えている。

大量破壊兵器、ミサイル及び通常兵器(関連物質などを含む)の軍縮・不拡散体制の概要
大量破壊兵器、ミサイル及び通常兵器(関連物質などを含む)の軍縮・不拡散体制の概要

(4)原子力の平和的利用

ア 多数国間での取組

近年、国際的なエネルギー需要の拡大や地球温暖化問題への対処の必要性等から、原子力発電の拡充及び新規導入を計画する国が増加しており、東京電力福島第一原子力発電所の事故後も、原子力発電は国際社会における重要なエネルギー源となっている20

一方、原子力発電に利用される技術や機材、核物質は軍事転用が可能であることや、一国の事故が周辺諸国にも大きな影響を与え得ることから、原子力の平和的利用に当たっては、①核不拡散、②原子力安全(原子力事故の防止に向けた安全性の確保等)、③核セキュリティ(核テロリズムの危険への対応等)の「3S」21の確保が重要であるとの考えの下、日本はこれまで、二国間、多数国間の枠組みを通じて、「3S」確保の重要性を国際社会の共通認識とするための外交を展開している。

特に、2011年の原発事故を踏まえ、事故の経験と教訓を国際社会と共有し、これにより、国際的な原子力安全の向上に貢献していくことは、日本が果たすべき責務と考えている。

イ 二国間原子力協定

二国間原子力協定は、特に原子力の平和的利用の推進と核不拡散の観点から、核物質、原子炉などの主要な原子力関連資機材及び技術を移転するに当たり、移転先の国からこれらの平和的利用などに関する法的な保証を取り付けるために締結するものである。

また、日本としては、「3S」を重視する観点から、最近の原子力協定においては、原子力安全面に関する規定も設けており、協定の締結により、原子力安全の強化等に関し協定に基づく協力の促進も可能となる。

2011年には、トルコ等との間で原子力協定の締結交渉を行い、ベトナムとの間で原子力協定に署名した。また、12月には、ヨルダン、ロシア、韓国及びベトナムとの原子力協定が日本の国会において承認された22。日本の原子力技術に対する期待は、引き続き、幾つかの国から表明されており、諸外国が日本の原子力技術を活用したいと希望する場合には、日本としては、相手国の事情を見極めつつ、核不拡散・平和的利用等を確保しながら、相手国に高い水準の安全性を有するものを提供するなど、原子力協力を行っていくことには基本的な意義があるものと考える。このため、原子力協定の枠組みを整備するかどうかについて、核不拡散の観点や、相手国の原子力政策、相手国の日本への信頼と期待、二国間関係等を総合的に踏まえて、個別に検討していくこととなる。

なお、日本は、2011年末までに米国、英国、カナダ、オーストラリア、フランス、中国、欧州原子力共同体(EURATOM)及びカザフスタンと原子力協定を締結している。

(5)生物兵器・化学兵器

ア 生物兵器

生物兵器禁止条約(BWC)23は、生物兵器の開発・生産・保有等を包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みであるが、条約遵守の検証手段に関する規定がない。検証手段の導入については、生物剤や毒素への実効的な検証が極めて困難であるなどの問題があり、条約をいかに強化するかが課題となっている。

2011年は条約の運用状況を検討するため5年ごとに開催されている第7回運用検討会議が開催され、①国際協力・支援、②科学技術の進展の見直し、③国内実施強化、の三つを常設課題とする専門家会合・締約国会合の毎年の開催、締約国間の国際協力・支援を促進するためのデータベース設置等につき合意された。日本は、バイオ技術・生物剤が本来の目的から外れ悪用・誤用され得るという二重用途性(デュアルユース)問題に関する科学者への教育・意識向上や、次期会期期間活動等に関する作業文書を提出したほか、会議開催中にデュアルユース問題に関するサイドイベントをスイスと共催する等、条約強化のための議論に貢献した。

イ 化学兵器

化学兵器禁止条約(CWC)24は、化学兵器の生産・保有・使用等を包括的に禁止し、既存の化学兵器の全廃を定めるとともに、条約の遵守を検証制度(申告と査察)によって確保しており、大量破壊兵器の軍縮・不拡散に関する国際約束としては画期的な条約である。CWCの実施機関として、オランダ・ハーグに化学兵器禁止機関(OPCW)が設置されている。

CWCの目的である化学兵器のない世界を実現する上で、加盟国を増やすための協力、条約の実効性を高めるための締約国による条約の国内実施措置の強化及びそのための国際協力が不可欠であり、日本はこれらの課題につき積極的に取り組んでいる。9月には、2011年が「国際化学年」であることを記念して、OPCWが開催した国際協力と化学の安全管理に関するセミナーに政府関係者及び専門家が出席した。また、例年どおりOPCWのプログラムの下で、8月から9月の3週間にわたり、日本の化学工場にインドネシア、マレーシアからの研修生2名を受け入れ、産業研修を実施した。

なお、日本は、CWCに基づき、中国に遺棄された旧日本軍の化学兵器について、国内の老朽化した化学兵器と同様に廃棄義務を負っており、中国と協力しつつ、1日も早い廃棄の完了を目指して最大限の努力を行っている。

(6)通常兵器

ア クラスター弾25

日本は、クラスター弾の人道上の問題を深刻に受け止め、被害者支援や不発弾処理といった対策を実施するとともに、「クラスター弾に関する条約(CCM)」26の締約国を拡大する取組を、同条約の加盟国を増やすための調整者として推進してきた。大量生産国・保有国も締結している特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みで行われてきたクラスター弾の規制についての議定書交渉は、2011年の第4回CCW運用検討会議において合意に至らなかったが、日本としては、引き続き同交渉に関する国際的な議論を注視するとともに、今後とも、CCMの加盟国を増やすための努力を継続していく考えである。

イ 小型武器

事実上の大量破壊兵器とも称される小型武器は、その操作の手軽さゆえに、非合法拡散が続き、少なくとも年間70万人が小型武器の使用の結果死亡しているとされ、紛争の長期化や激化、治安回復や復興開発の阻害などの問題の一因となっている。そのような小型武器の非合法取引の防止・撲滅等を目的とする国連小型武器行動計画(2001年採択)のプロセスの中で、2011年には非合法な小型武器の流通・使用を防止するための刻印・記録保持・追跡を議題として政府専門家会合が開催された。2012年には、2006年以来6年ぶりに、国連小型武器行動計画の履行検討会議が開催される予定である。日本は、毎年の国連小型武器決議の国連総会への提出を始め、国連における取組に貢献すると同時に、世界各地において武器回収、廃棄、研修等の小型武器対策プロジェクトを支援している。

ウ 対人地雷

日本は、実効的な対人地雷禁止と、被害国への地雷対策支援(地雷除去、被害者支援等)の双方を強化する包括的な取組を推進しており、アジア太平洋地域各国への対人地雷禁止条約(オタワ条約)27締結の働きかけに加え、1998年以降、42か国・地域に対して約479億円の地雷対策支援を実施してきている。

エ 武器貿易条約構想

通常兵器の輸出入等に関する国際的な共通基準を確立するための武器貿易条約(ATT:Arms Trade Treaty)の交渉のための国連会議は、2012年7月に1か月にわたり開催される予定である。これに先立ち、2011年には、二度にわたり準備委員会が開催され、条約全般(目標・目的、対象範囲、移譲基準、実施メカニズム等)について主要な要素をとりまとめた議長統合ペーパーが作成された。

オ 国連軍事支出報告制度

2011年には、自国の軍事支出額を国連に報告することにより、透明性向上、信頼醸成に貢献する本件制度の運用状況、報告のあり方、今後の発展について検討する政府専門家会合が2010年に引き続き開催された。その結果、本件制度を近年の国際情勢にかなったものとするため、報告フォーマットの改善を含む報告書が取りまとめられた。

1 より詳細な日本の核軍縮・不拡散分野の政策については2011年発行の「日本の軍縮・不拡散外交(第5版)」(外務省編http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/honsho-pub.html)を参照。

2 IAEA(International Atomic Energy Agency)は、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的とし、1957年に設立され、事務局はウィーンに設置されている。最高意思決定機関は全加盟国で構成され年1回開催される総会であり、総会に対して責任を負うことを条件に、35か国で構成される理事会がIAEAの任務を遂行する機関として機能している。2012年2月現在、153か国が加盟。天野之弥氏が、2009年12月以降事務局長を務めている。

3 IAEAが各国と個別に締結した保障措置協定に基づき、査察などの手段により、核物質が平和的目的だけに利用され、核兵器などに転用されないことを担保するために行われる検認活動(査察、各国の計量管理(核物質の在庫量の管理)記録のチェックなど)。NPT締約国たる非核兵器国は、NPT第3条に基づき、IAEAとの間で保障措置協定を締結し、国内の全ての核物質について保障措置(包括的保障措置)を受け入れることが求められている。

4 PSI(Proliferation Security Initiative)とは、大量破壊兵器などの拡散阻止のため各国が国際法・各国国内法の範囲内で共同してとり得る措置を実施・検討するための取組で、2003年5月に開始。2011年3月現在約100か国が、PSIの活動に参加・協力している。日本は、PSI海上阻止訓練を2004年及び2007年の二度主催し、2010年11月に東京においてオペレーション専門家会合(OEG)を主催した。また、他国が主催する訓練及び関連会合にも積極的に参加している。

5 核物質等がテロリストやその他の犯罪者の手に渡ることを防ぐための措置。

6 日豪のほかは、カナダ、チリ、ドイツ、ポーランド、メキシコ、オランダ、トルコ及びUAE。

7 宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる場所における核兵器の実験的爆発及び核爆発を禁止。1996年に署名開放されたが、2012年2月現在、条約発効のために批准が必要な国(発効要件国)全44か国のうち、中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国が未批准、インド、北朝鮮、パキスタンが未署名のために未発効となっている。

8 核兵器その他の核爆発装置製造のための原料となる核分裂性物質(高濃縮ウラン及びプルトニウムなど)の生産を禁止することにより、核兵器の数量増加を止めることを目的とする条約構想。

9 退役原子力潜水艦解体事業「希望の星」は、2002年6月のG8カナナスキス・サミット(於:カナダ)において合意され、大量破壊兵器及びその関連物質の拡散防止を主な目的とする「G8グローバル・パートナーシップ」の一環として実施されたもので、2009年12月までに計6隻を解体して完了した。2010年8月からは、解体した原子力潜水艦の原子炉区画を安全に保管する施設の建設に対する協力を実施している。

10 2010年7月、日・ベラルーシ非核化協力委員会を通じ、ベラルーシ国境における核・放射性物質不法移転防止システムの強化に対する協力を開始し、2011年8月に完了した。また、2011年1月、日・ウクライナ非核化協力委員会を通じ、ハリコフ物理化学研究所核セキュリティ強化、さらに、同年11月、日・カザフスタン非核化協力委員会を通じ、カザフスタン核セキュリティ防護資機材整備に対する協力をそれぞれ開始した。

11 IAEA理事会で指定される13か国。日本を始めG8などの原子力先進国が指定されている。

12 包括的保障措置協定に追加して各国がIAEAとの間で締結する議定書。追加議定書の締結により、IAEAに申告すべき原子力活動情報の範囲が拡大されるなど、検認活動が強化される。2012年2月現在、115か国が締結。

13 弾道ミサイルに関しては、輸出管理体制のほかにも、その開発・配備の自制などを原則とする弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)があり、日本はこれにも参加している。

14 濃縮とは、天然ウラン中にわずか(0.7%)しか存在しないウラン235の割合を高めること。再処理とは、使用済核燃料に含まれるプルトニウム239を抽出すること。高濃度のウラン235や、プルトニウム239は、核兵器の原料になり得る。

15 ASTOP(Asian Senior-level Talks on Non-Proliferation)とは、日本の他、ASEAN10か国、中国、韓国、米国、オーストラリア、カナダ及びニュージーランドが参加し、アジアにおける不拡散体制の強化に関する諸問題について議論を行う日本主催の多国間協議。最近では2011年12月に開催された。

16 アジア諸国・地域の輸出管理当局関係者などの参加により、アジア地域における輸出管理強化に向けて意見・情報交換をするセミナー。1993年から毎年東京で開催しており、最近では2011年2月に開催し、28か国・地域が参加した。

17 2003年1月には、北朝鮮はNPTから脱退することを通告し、その後、北朝鮮は、1994年10月に米朝間で署名された「合意された枠組み」の下で凍結していた5メガワットの実験炉を再稼働させ、使用済み核燃料棒の再処理を再開した。

18 2003年9月のIAEA理事会決議や10月のEU3(英国、フランス、ドイツ)とのテヘラン合意を受け、イランは濃縮関連活動の停止の約束の他、保障措置に関する是正措置やIAEA追加議定書の署名など一時的には前向きな対応を見せたものの、活動を継続した。また、2004年11月のEU3とのパリ合意により同活動を停止したものの、2005年8月には再開している。これを受け、2005年9月、IAEA理事会は、イランによる保障措置協定の違反を認定し、2006年2月のIAEA特別理事会において、イランの核問題を国連安保理に報告する決議を採択し、これ以降、イランの核問題は安保理でも協議されるようになった。

19 国連安保理決議第1696号(2006年7月31日採択)、決議第1737号(2006年12月23日採択)、決議第1747号(2007年3月24日採択)、決議第1803号(2008年3月3日採択)、決議第1835号(2008年9月27日採択)、及び決議第1929号(2010年6月9日採択)を指す。決議第1696、1737、1747、1803号は、国連憲章第7章下で、イランに対し、全ての濃縮関連・再処理活動及び重水関連計画の停止、未解決の問題の解決などのため、IAEAに対するアクセス及び協力を提供することを義務付け、また、追加議定書の迅速な批准を要請しており、決議第1835号は、イランに対しこれら4本の決議の義務を遅滞なく遵守するよう求めている。また、決議第1737、1747、1803号は、核関連物資の対イラン禁輸やイランの核・ミサイル関連個人・団体の資産凍結などの憲章第7章第41条下のイランに対する制裁措置を含んでおり、決議第1929号は、イランに対する追加的な措置として、武器禁輸の拡大、弾道ミサイル開発の規制、資産凍結・渡航制限対象の拡大、金融・商業分野、銀行に対する規制の強化、貨物検査などの包括的な制裁措置を含んでいる。

20 IAEAによれば、2011年12月現在、原子炉は世界中で435基が稼働中であり、63基が建設中(http://www.iaea.org/programmes/a2/)。また、60か国以上が原子力発電の新規導入に関心を示している。

21 核不拡散の代表的な措置であるIAEAの保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)及び核セキュリティ(Security)の頭文字を取って「3S」と称されている。

22 これらの協定のうち、韓国及びベトナムとの協定については2012年1月21日、ヨルダンとの協定については2月7日に発効。

23 1975年3月発効。締約国数は165か国(2011年12月現在)。

24 1997年4月発効。締約国数は188か国(2011年12月現在)。

25 一般的に、航空機などから投下、発射される容器の中に複数の子弾を内蔵した弾薬のこと。不発弾が多いことが問題とされ、不発弾による民間人の被害が問題となっている。

26 クラスター弾の使用、所持、製造などを禁止するとともに、貯蔵クラスター弾の廃棄、汚染地域におけるクラスター弾の除去などを義務付ける条約で、2010年8月に発効した。2012年1月現在の締約国数は、日本を含め68か国。

27 対人地雷の使用・生産などを禁止するとともに、貯蔵地雷の廃棄、埋設地雷の除去などを義務付ける条約で、1999年3月に発効した。2011年12月現在の締約国数は、日本を含め159か国。

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