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第3章 分野別に見た外交

第1節 日本と国際社会の平和と安定に向けた取組

総論

日本周辺地域における安全保障環境は、年々厳しさを増している。北朝鮮は、六者会合共同声明及び国連安全保障理事会(安保理)決議に違反して、ウラン濃縮活動を含む核・ミサイル開発を継続してきた。また、2011年12月19日に発表された金正日(キムジョンイル)国防委員長の死去が、北朝鮮の動向に今後どのような影響を及ぼすかは予断を許さず、今後の情勢を注視していく必要がある。さらに、中国の透明性を欠いた国防力の強化や自国周辺海域における海洋活動の活発化は、地域・国際社会の懸念事項である。このほか、ロシアは、自国の経済の回復などを受けて、軍事力を近代化し、極東においても活動を活発化させている。また一方で、安全保障上の新たな脅威として、大量破壊兵器やミサイルの拡散、国際テロ、海賊問題、大規模災害、サイバー攻撃など、一国では対応することが極めて困難な地球規模の課題への対応を求められている。

このような安全保障上の諸課題に対処しつつ、日本がその領土を保全し、国民の生命・財産を保護するとともに、国際社会の安定と持続的な繁栄・発展を確保するためには、伝統的脅威のみならず、非伝統的脅威への対応も含めた、多面的な安全保障政策が求められている。

第一に、日本自身の主体的な努力が重要である。このためには、2010年12月に閣議決定された新防衛大綱に従い、日本の防衛力を、より実効的な抑止と対処を可能とし、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善に効果的に貢献できる機動的なものとしていくことが必要である。この関連では、同大網において示された平和貢献活動への期待の高まりや、防衛装備品等の国際共同開発・生産が先進国で主流となっていることなどの国際環境の変化に対応すべく、2011年12月に「防衛装備品等の海外移転に関する基準」を策定した。今後は、この基準に基づき防衛装備品等の海外移転を行っていく。

第二に、日本の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための公共財でもある日米同盟を、現在の国際情勢を踏まえた形で、更に深化・発展させることが重要である。日米両国は、2011年6月の日米安全保障協議委員会(いわゆる「2+2」閣僚会合)の結果を踏まえ、ミサイル防衛、拡大抑止1、海洋、宇宙、サイバー、情報保全等といった幅広い分野における具体的な日米安保・防衛協力を引き続き進展させるべく、緊密に協議を行ってきている。また、米国は、厳しい財政事情の下にあっても、在日米軍を含むアジア太平洋地域における米軍のプレゼンスを維持・強化することを、累次の機会において表明している。同時に、普天間飛行場の移設を含む在日米軍の再編については、抑止力を維持しつつ、沖縄の負担を速やかに軽減するために、着実に実施するよう日米両国が協力して取り組んでいく。

第三に、多層的な安全保障協力関係を築いていく必要がある。米国の同盟国であり、基本的価値観や戦略的な利益を共有する韓国やオーストラリアとの二国間協力を促進するとともに、日米韓・日米豪といった3か国協力の枠組みにおける連携を進めていくことが重要である。さらには、航行の自由を含む海上安全保障等の利害を共有する関係国との関係強化に努め、同時に、地域の大国である中国とロシアとの協力関係を強化することが有意義である。これらに加えて、東アジア首脳会議(EAS)、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)などの多国間地域協力の枠組みを活用し、また、それぞれの枠組み間の多層的な協力関係を強化していく。

日本の安全と繁栄は、日本周辺の安全保障環境の改善のみで達成されるものではなく、国際社会の平和と安定という基盤の上に成り立っている。国際社会における諸課題の解決に積極的に取り組むことを通じて日本の安全と繁栄を達成するとの考え方に立ち、日本は世界の様々な問題の解決に積極的に対処してきている。

まず、国連平和維持活動(PKO)など国際社会が協力して行う平和と安定の維持のための取組に積極的に参加してきている。日本は、紛争地域において、紛争の再発防止や持続的な平和に向けた開発の基礎を築くことを念頭に置いた、紛争直後の緊急人道支援や和平プロセスの促進から、紛争後の治安の確保、復興・開発に至る継ぎ目のない取組である平和構築を重視し、主要な外交課題の一つとして取り組んでいる。平和維持・平和構築に関する具体的な取組としては、PKOなどへの貢献、政府開発援助(ODA)を活用した現場における取組、国連における取組及び人材育成等が挙げられる。

海洋国家であり貿易立国でもある日本にとって、海上の安全を確保することは、国家の存立・繁栄に直結する問題だけでなく、地域の経済発展を図る上でも極めて重要な課題である。特に、ソマリア海賊問題は、その活動が湾岸諸国及び欧州諸国などから日本への原油等の物資輸送に影響を及ぼす問題であるだけに、深刻である。2011年は、同海域における船舶の襲撃数は過去最大に達し、日本関係の船舶を襲撃した海賊を日本に移送し、日本国内で訴追した事案も発生している。日本は、ソマリア沖・アデン湾への自衛隊の派遣に加え、ソマリア周辺国の海上取締能力や訴追能力の向上、さらには、不安定なソマリア情勢の安定化といった中長期的な観点からも、海賊問題解決のための多層的な取組を行っている。

2001年に発生した米国同時多発テロから10年を経た現在でも、テロ行為は発生し、またその手口や主体は多様化しており、国際社会にとって引き続き大きな脅威となっている。さらに、グローバル化の進展や情報通信技術の発展に伴い、国境を越えて大規模かつ組織的に行われる国際組織犯罪の問題が深刻化している。テロや国際組織犯罪は、市民社会の安全、「法の支配」、市場経済に大きな脅威を与えるものであり、日本にとっての脅威であると同時に、国際社会が協力して取り組む必要性が高まっている。日本は、国連、G8、ASEANなどの地域的な枠組みでのテロ対策や国際組織犯罪対策の議論や協力に対し、積極的に貢献している。

また、日本は唯一の戦争被爆国として核兵器使用の惨禍を訴える責務を有する国であるとともに、日本を取り巻く安全保障環境の改善を図るため、「核兵器のない世界」の実現に向け、積極的な取組を進めている。2010年9月に日豪両国が中心となって立ち上げた地域横断的なグループ「軍縮・不拡散イニシアティブ」(NPDI)の枠組みでは、2011年4月、9月にそれぞれ第2回・第3回外相会合が開かれ、核兵器に関する透明性向上や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)など軍縮・不拡散分野の主要課題につき実質的な議論を行った。また、日本が毎年国連総会に提出している核軍縮決議を、2011年も「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」と題して提出し、過去最多の99か国の共同提案国を集め圧倒的多数の賛成を得て採択された。また、同年10月の国連軍縮週間には、国連と共催で、非核特使22名による被爆体験の証言を共有するサイドイベントを開催し、核兵器使用の惨禍の実相を発信するなど、日本は、核軍縮分野において、国際社会の議論を主導すべく積極的に活動している。

これらの問題に加え、国際社会は依然として貧困、飢餓、感染症、大量破壊兵器やミサイルの拡散、地域紛争、地球環境問題など国境を越えた多様な課題に直面している。このような現在の国際社会において、国連が果たす役割は以前にも増して重要になってきている。国連は、唯一の普遍的かつ包括的な国際機関として、総会や安保理を始めとする諸機関の活動を通じ、様々な分野における国際協力を推進することを通して、国際社会の平和と安全の維持を図るとともに、諸国間の友好関係を発展させるための努力を行っている。

多岐にわたる国際社会の諸課題に国際社会が一致して対処するためには、国連がより有効な手立てをとれるよう、実行性と効率性を更に高め、その機能を強化することが重要である。このような考えの下、日本は安保理改革を始めとする国連改革の早期実現を目指すとともに、国連を始めとする国際機関における指導力を発揮し、財政的貢献に加え、一層の人的貢献を行っていく。

国際社会における「法の支配」の確立は、国家間の関係を安定させ、紛争の平和的解決を図り、各国内の「良い統治」を促進する上で重要である。日本は国際社会における「法の支配」の確立を外交政策の柱の一つとして位置付け、様々な取組を積極的に行っている。「法の支配」の確立は、日本の領土の保全、海洋権益及び経済的利益の確保、国民の保護などの観点からも重要である。

普遍的な価値である人権及び基本的自由が各国において十分に保障されることは、平和で繁栄した社会の確立、ひいては、国際社会の平和と安定に資するものである。日本は、人権及び基本的自由の保障が国家の基本的な責務であるという考えの下、世界の人権状況を改善するため、それぞれの国・地域の特殊性や様々な歴史的・文化的背景を踏まえた取組として対話と協力を重視している。こうした方針の下、国連を始めとする多数国間の場における取組と、人権対話などを通じた二国間の場における取組を両輪とした、包括的な人権外交を行っていく。

1 同盟国を第三国の攻撃から防衛するため、自国の軍事力による抑止力を提供するという概念。

2 非核特使(Special Communicator for a World without Nuclear Weapons)は、2010年8月の広島・長崎平和記念式典において、菅総理大臣が制度の創設を表明し、9月に最初の委嘱を実施。自らの経験に基づく被爆証言を通じて核兵器使用の惨禍の実相を広く国際社会に伝達する被爆者等に対して、日本政府が「非核特使」が委嘱することにより、その取組を後押しするもの。2012年1月現在の委嘱人数は延べ61名に上る。

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