世界貿易機関(WTO)

平成27年12月20日

 12月15日-19日,ケニア・ナイロビにおいて,第10回世界貿易機関(WTO)閣僚会議(MC10)が開催されたところ,概要と評価は以下のとおり。

1 概要

(1)WTO閣僚会議は原則2年に1度開催されるWTOの最高意思決定機関で,今次会議には162のWTO加盟国・地域の閣僚らが参加した。我が国からは林経済産業大臣,山田外務大臣政務官,佐藤農林水産大臣政務官が出席。全体会合において,林経済産業大臣が我が国を代表してスピーチした。

(2)山田外務大臣政務官は全体会合に加え,リベリア加盟議定書署名式及びアフガニスタン加盟議定書署名式にて我が国を代表してスピーチしたほか,サーリーフ・リベリア大統領,アミナ・ケニア外務国際貿易長官及びアイジャノバ・カザフスタン経済統合担当相と二国間会談を行った。

(3)今次閣僚会議においては,全参加メンバーの合意による閣僚宣言の採択に加え,情報技術協定(ITA)品目拡大交渉の合意やリベリア,アフガニスタンの新規加盟の決定等の成果があった。閣僚宣言に関しては,日程を一日延長して交渉を行い発出された。

(4)閣僚宣言は,以下のとおり3部構成(なお,第3部については,主に先進国と途上国間で意見の収斂が見られず両論併記)。

  • ア 第1部「WTO発足20年間の歩みと課題」
     WTOが発足してから20年間,多角的貿易体制維持・強化のため果たしてきた役割が強調され,今後もWTOを通して自由貿易にコミットしていくという点で一致。
  • イ 第2部「MC10の成果」
     ドーハ開発アジェンダ:「輸出競争」「途上国に対する特別セーフガード」「食糧安全保障のための公的備蓄」「綿花」「LDC原産地特恵」「LDCサービスウェーバー」
     その他通常活動にかかる決定:「小規模経済作業計画」,「TRIPS非違反・状態申し立て」,「電子商取引活動」
  • ウ 第3部「今後のWTOの方向性」
     多くのメンバーはドーハ開発アジェンダ(いわゆるドーハ・ラウンド)を従来どおりの枠組みで継続することの,全メンバーによる再確認を要求。他のメンバーは,多角的交渉から意義ある成果を得るためには新しいアプローチが必要として,ドーハ・ラウンド交渉の継続を再確認せず。

(注)交渉開始14年を経たドーハ・ラウンド交渉につき,その継続の可否をめぐり,先進国(これまで十分な成果が出せなかったことに照らし,DDA交渉の基盤となってきた閣僚合意・決定に基づき継続することはできないとの立場)と途上国メンバー(ドーハ・ラウンド交渉は「開発ラウンド交渉」であり,これまでの交渉の枠組み・基盤に基づき継続すべしとの立場)の間での立場が両極に乖離し,その溝を埋めることができなかった。このため,第3部においては,両者の立場を両論併記する内容となっている。

2 評価

(1)交渉の成果

 我が国が議長国として主導した情報技術協定(ITA)品目拡大交渉の合意は,複数国間の合意とはいえ,参加国53か国による201品目の関税撤廃を実現し,WTO加盟国全体に利益をもたらしうる大きな成果。また,交渉開始から14年となるドーハ・ラウンドにおいては,長きにわたり何らの合意を得られなかった輸出補助金を含む農業分野の輸出競争等に合意できた。これらの合意はWTOの交渉機能が完全に不全となっているわけではないことを示している。

(2)ポスト・ナイロビ

 他方,今次会議に至るまでの議論において,最大の争点となったドーハ・ラウンドの継続の是非を含む今後のWTO交渉のあり方については,各国の主張の対立から未だ見通しがついていない。ドーハ・ラウンドにて扱われていた開発を含む8分野の個別の論点も引き続き重要であるが,ドーハ・ラウンド交渉という枠組みを超えて,時代に即した課題への対応を含め,いかにして「WTO交渉機能」を再活性・強化するかとの観点から,従来とは違った新しいアプローチを検討する必要がある。来年以降の議論は,まずは各国が合意できなかった要因を分析した上で,建設的に進めていく必要がある。

(3)新規加盟

 あわせ今次閣僚会議では,リベリア及びアフガニスタンの加盟が決定され,各々の署名式にて山田外務大臣政務官がスピーチを行い,多角的貿易体制による貿易拡大の恩恵が,先進国のみならず,リベリアやアフガニスタン等の途上国の開発にも資することを強調した。両国が正式に加盟すれば,全加盟国数は164となる。


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