世界貿易機関(WTO)
第22回:WTOでの新しいルール作り:4つの「JSI」とは(その2:サービス国内規制)
2020年は、新型コロナにより外出自粛が進んだこともあり、様々な形態での飲食デリバリー(出前代行)サービスが急増した。街中では、大きなバッグを背負った、自転車やバイクを見かけることが多くなった。交通マナーや配送不備に関するトラブルも日常茶飯事である。
今回は、4つのJSI(共同声明イニシアチブ(Joint Statement Initiative))のうち、サービス分野の国内規制をルール化する取組を紹介したい。各国政府は、提供されるサービスの質や、利用者の安全を確保するため、様々な国内規制を設けている。しかし、その国内規制が、不透明な手続、不公平な条件や過剰な障害を抱えるために、海外の事業者が参入できないとすれば、より良いサービスの選択肢を求める利用者にとって、望ましくない。そこで、サービス分野で海外進出する企業の利便性を高めるべく、法令の公表や許認可などの国内手続に関する最低限の指針を定めようと、2017年の第11回WTO閣僚会議において、日本を含む49加盟国が共同声明を発出した(現在は63か国が交渉に参加)。

貿易というと、最初に思い浮かべるのは自動車やテレビなど家電を始めとする物品の輸出入だと思うが、このような目に見える製品の輸出入以外にも、外貨両替や国際航空便のようなサービスの越境取引が様々な形態で行われている。世界の貿易(輸入額)に占めるサービス貿易の割合は約2割を占めている(対内直接投資等による業務拠点の設置を通じたサービス提供を除く)。その一方で、サービス貿易にかかるコストは物品貿易の約2倍。これは国ごとに法令や手続が異なり、不透明かつ複雑であるのが原因だ。サービス分野の規制改革は、サービスの安全性や質を確保するための各国の国内規制を統一のルールの下におくことで透明性、予測可能性そして利便性を高め、地域経済の発展、世界経済の活力創出に繋がる効果を持つ。
現在、サービス国内規制の国際的なルール化に向け、具体的なテキスト(条文)の交渉が進んでいる。具体的には、(1)免許の要件及び手続、(2)資格の要件及び手続、(3)技術基準を検討している。それぞれ、(1)については所定の審査手続を受けて設立が認可される銀行業の免許(2)は、試験に加えて一定の実務経験が必要な中小企業診断士の資格がよい例である。(3)については耐震基準などの建築基準をイメージしてもらえると分かりやすいだろう。
これらの要素について、企業の利便性を高めるべく、許認可の手数料を合理かつ透明なものにすることや、上記(1)~(3)の国内法令の事前公表やパブリックコメント機会を確保すべしといったルールが出来つつある。
サービス国内規制は、実は90年代当初はすべての加盟国が議論していた。しかし、加盟国間の立場の違いから長い間、こう着状況が続いたため、2017年頃から、日本をはじめとする積極派がこのJSIを立ち上げた。テキスト合意まであと一歩。サービス国内規制に関するルール作りはWTOにおける有志国のWTO改革の取組の優等生といえる。
次回は、4つのJSIの3つ目、投資の円滑化に関するルール作りの取組を紹介する。