エネルギー安全保障

平成28年11月28日
国際セミナー「グローバル・エネルギー・アーキテクチャーとアジアへの影響」1
国際セミナー「グローバル・エネルギー・アーキテクチャーとアジアへの影響」2

1 概要

(1)11月25日(金曜日),京王プラザホテル新宿において,外務省の主催により国際セミナー「グローバル・エネルギー・アーキテクチャーとアジアへの影響」が開催され,政府関係者,エネルギー企業関係者,研究者,在京大使館及び報道関係者等約110名が参加した(プログラム(英語)(PDF)別ウィンドウで開く)。

(2)冒頭,外務省を代表して,滝沢求外務大臣政務官が挨拶を行った。その後,基調講演として,ウルバン・ルスナック・エネルギー憲章事務局長は,国際的なエネルギー安全保障への共通ルールの基となるべき国際エネルギー憲章の意義を述べ,地域を越えてより多くの国や国際機関が関与するよう呼びかけた。また,同じく基調講演として,スン・シアンシェン国際エネルギーフォーラム(IEF)事務局長は,不確実な要素が多い昨今,グローバルなエネルギー課題に対処するためには,IEFやエネルギー憲章をはじめ国際的な協力が重要である旨述べた。

(3)近年,新興国(特にアジア諸国)のエネルギー需要の増加や油価の低迷など,エネルギーを巡る国際情勢は急速に変化している。本年は,G7,G20,IEF等で世界的なエネルギー構造・ガバナンスの議論が1年を通じて行われてきた。本セミナーは,このような状況を踏まえ,我が国を含む国際的なエネルギー安全保障の強化,関係国際機関・枠組等との連携深化,エネルギー安全保障の課題に係る内外の理解促進,我が国の進める関連施策を通じた国際エネルギー問題に係る積極的な関与についての対外発信の強化などを図るべく,エネルギー憲章会議のアウトリーチ・サイドイベントとして開催されたもの。

2 各セッションの概要

国際セミナー「グローバル・エネルギー・アーキテクチャーとアジアへの影響」3

(1)セッション1 パネルディスカッション : アジアにおける気候変動を踏まえたエネルギー安全保障強化への影響と今後の展望

モデレーターセシリア・タム アジア太平洋エネルギー研究センター顧問
パネリスト高橋美佐子 外務省経済安全保障課長
ハン・ウェンケ 中国国家発展改革委員会(NDRC)エネルギー研究所主任研究員
プラスート・シンスックプラスート タイ・エネルギー省エネルギー政策・計画局次長
ヨンピン・ザイ アジア開発銀行(ADB)テクニカルアドバイザー(エネルギー)
渡邉雅夫 三菱商事株式会社理事 中東・中央アジア統括事務所長

パネルディスカッション:

 高橋経済安全保障課長は,アジアが今後のグローバル・エネルギー・アーキテクチャーにより貢献し得ることを指摘するとともに,エネルギーに関する複数の国際機関の協力と連携を呼びかけた。

 ウェンケ主任研究員は,アジアにおいて,従来型のエネルギーを転換し,クリーンエネルギーの開発を促進するためには,エネルギー・ガバナンスの構造を改革しなければならないと論じた。

 プラスート次長は,ASEAN地域内の電力連携の現状及びそれがもたらすメリットについて説明するとともに,地域内のLNG受入基地網の見通しやASEAN石油セキュリティ協定の概要について紹介した。

 ザイADBテクニカルアドバイザーは,ADBの気候変動対策への貢献として,低炭素技術の推進のためのリスク軽減,能力構築,国際協力及びアジア地域内のパートナーシップ構築を強調した。

 渡邉事務所長は,パリ協定によるエネルギー転換の促進,それでも石油とガスの高い需要が見込まれることを踏まえ,アジアにおけるエネルギー安全保障を強化するための取組を紹介した。

 質疑応答では,アジアにおけるエネルギー安全保障の強化を巡り,既存の機関・枠組みの連携の深化などについて活発に意見が交わされた。

(2)セッション2 パネルディスカッション:世界のエネルギー構造の現状,課題と機会

モデレーター高橋美佐子 外務省経済局経済安全保障課長
パネリストクララ・ラフメトワ エネルギー憲章会議貿易・通過会合議長
吉田綾 国際エネルギー機関(IEA)アジア太平洋パートナーシップ課長
ヘニング・ウースター 国際再生エネルギー機関(IRENA)知識・政策・ファイナンス局長

パネルディスカッション:

 ラフメトワ・エネルギー憲章会議貿易・通過会合議長は,2014年にカザフスタンにおいて開催されたエネルギー憲章会議にて発出された「アスタナ宣言」の意義について紹介するとともに,より多くのアジアの国々がエネルギー憲章に参加することへの期待感を示した。

 吉田IEAアジア太平洋パートナーシップ課長は,アジア地域内のエネルギー需要急増に伴う地域内のエネルギー安全保障対策並びに大気汚染対策としての再生可能エネルギーの役割及びエネルギーの多角化の重要性を説明するとともに,IEAが今後アジア諸国との連携をさらに強化していく旨述べた。

 ウースターIRENA知識・政策・ファイナンス局長は,再生可能エネルギーがアジアのエネルギー安全保障の確保により貢献する点を指摘した上で,再生可能エネルギーへのさらなる投資促進の重要性を強調した。

(3)全体総括として,兒玉和夫欧州連合日本政府代表部特命全権大使(エネルギー憲章会議副議長)は,現代ではエネルギー安全保障について,ダイナミックに変化する地球社会にいかに対応するかが問題となり,再生可能エネルギーを含むエネルギー源の多角化とエネルギー分野における協力が求められる旨述べた。

3 評価

(1)本セミナーでは,変化を続ける国際エネルギー情勢の中で,世界を取り巻く現状と機会,及びアジアにおける気候変動対策を踏まえたエネルギー安全保障のあり方について,専門的かつ具体的な議論を通じて,実際的で有益な知見が共有された。

(2)特に,アジアにおける,エネルギー安全保障上の課題,エネルギー・ガバナンスのあり方及びエネルギー関連機関の改革・近代化への努力が今後のエネルギー情勢にもたらす影響等について有意義な議論の場となり,エネルギー憲章条約(ECT)がアジアへ裾野拡大する一助となった。

(3)本セミナーには,多くの日本企業及び研究機関等の関係者が参加した。各国のエネルギー関係者と日本企業関係者との間での新たな人的ネットワークを築く有意義な機会となった。


エネルギー安全保障へ戻る