Dobrý den (ドブリー・デン) =こんにちは!
プラハ旧市街広場。クリスマス前なのでツリーやクリスマス市が出ています。
和田さんは平成10年外務省入省、大学ではなんと考古学を専攻していたそうです。考古学と外交・・・あまり結びつかないのですが・・・
「旅行が好き、ヨーロッパが好き。現地で働ける仕事がしたいと漠然と思っていました。最初は国際公務員に興味があったのですが、ある日、本屋で国際公務員になるためのページを開いていたら、隣のページに外務省があって・・・」
しかし、チェコ語に対しては思い入れがあったようです。
「専攻の考古学では、特にヨーロッパのケルト文化について研究していました。ケルト人の発祥はオーストリアやスイス、ハンガリーの辺りだと言われていて、中央ヨーロッパには地理的に親近感を持っていました。チェコは作曲家・ドボルザーク、そしてきれいな街並みで有名ですから、チェコ語が第一希望でした。」
―チェコ語は外務省に入ってから始めたのですね。チェコ語の第一印象は?
「こんな言語があるんだとびっくりしました。まったく聞いたことがなかったですから。」
チェコ語はロシア語やポーランド語、スロバキア語、ウクライナ語などと同じくスラブ語系の言語です。チェコは17世紀から第二次世界大戦終わりまでハプスブルク帝国の支配下にあり、ドイツ語が公用語となっていた時期がありました。その後の民族復興の気運の中でチェコ語の復興運動も盛り上がって公用語として復活した経緯があります。この「チェコ語の凍結期」を経たために、スラブ語系の中でも、かなり古い形で言葉が残されている言語かもしれません。
スロバキア語の専門家早山さんのインタビューでもご紹介しましたが、このスラブ言語系はとにかく格変化が多く、学習者泣かせ。和田さんのチェコ語へのアプローチも、まずはそうした格変化を「ひたすら暗記」することから始まります。
「文法が難しくて、東京での1年間の研修では実践会話まで進まないことは確かです。研修地プラハに着いた当初は、ビールを注文することはできても、何百種類もビールのある国ですから『どの種類がいいんだ?』と言われるともうダメ。」
「でも、基礎をしっかり固めるのは大切です。覚える苦労はあるけれど、正しい格変化を使わないと、ネイティブが聞いて耳障りなチェコ語になってしまう。外交レベルでそんな恥ずかしいチェコ語は話せないですからね。」
「とは言っても、文法をひたすら勉強し続けた結果、プラハに着いて、いざ、大学のサマーコースの入学試験を受けると、文法のテストだけだったので、実に高得点!良い点数を取りすぎてしまい、上級者コースに入れられてしまいました・・・聞き取りを含む会話レベルは超初級なのに。周りは隣国のポーランド人やスロバキア人等のスラブ系の学生が多く、彼らの場合は、母国語と同じように話せば通じるのですからとにかく会話能力が高い。大学の授業に小学生が混じっているみたいで授業にはほとんどついていけませんでした。嫌になって、登校拒否一歩手前!(笑)」
―そんな和田さんのチェコの第一印象はいかがでしたか?
「『素晴らしくきれいだなあ、おとぎ話の中みたいだ。』と。」
ドイツやイタリアなどヨーロッパから来た観光客が、「きれい!」と感嘆するような、ヨーロッパ人が憧れるヨーロッパの風景がプラハ。そして、1人当たりのビールの消費量が世界一というだけあって、とにかくビールが安くて美味しい。「ビールは飲むパン」とも言われているそうです。ビールを主食にするチェコ人ってどんな人?
「首都プラハの人々は、文化と歴史にとても誇りを持っている様子が伺えます。地方の人たちはもうちょっととっつきやすくて優しいですね。実は、研修の2年間は、プラハっ子ではなく、地方出身の友人に恵まれました。」
和田さんによると、ドイツやロシアという大国に囲まれ、歴史的にそうした大国の思惑に翻弄されてきたという国家経験があるからかもしれませんが、チェコ人は、ガードが堅く、初対面の人には自分の意見をあまり言わなかったり、始めはうち解けにくい雰囲気があるそうです。
和田さんは、研修に出発する前に、外務省のチェコ語の先輩からアドバイスを受けました。
「スペイン語やイタリア語をやっている同期が、現地ですぐに親友ができた、などと報告してきて、自分と比べて焦るかもしれない。でも心配しなくていいよ。チェコでは最低半年は友だちなんてできないのが普通だから。」
実際、同期からすぐにそういう「報告」を受けた和田さん。確かにまだ自分には親しいと言えるチェコ人の友だちはいない・・・。本当に「為になる」先輩の一言だったそうです。それがなければ、和田さんは同期の友人と自分を比較して、落ち込んでしまうところでした。でも、一度うち解けると、チェコ人は優しくて、いろいろと相談に乗ってくれたり、ユーモアのある人たちだそうです。
「チェコ語を勉強したかったら居酒屋に行け、とよく言われます。僕も毎日のように居酒屋に行ってビールを飲み、居酒屋に居合わせた人々と盛り上がっていました。」
ビールも美味しい、チェコ語もうまくなる・・・一石二鳥ですね。
研修の2年間とその後のチェコ大使館での勤務、合計して5年間、チェコにどっぷりと浸っていた和田さん。大使館での勤務が始まって、初めての大舞台=初通訳の思い出はと言うと、
「チェコ語ではなくてスロバキア語を通訳しました。」
日本から国会議員一行が国際会議に出席するためにスロバキアを訪れたときでした。当時はまだスロバキアに日本の大使館がなかったため、スロバキアに日本の要人が訪れると、チェコにある大使館が仕事を担当。15人程いた大使館の館員のうち、スロバキア語の専門家は1人だけ、チェコ語の専門家も2人のみ。和田さんも通訳として駆り出されましたが、なんとお相手はスロバキアの観光担当大臣だったそうです。
初めての通訳で、勉強したチェコ語ではないスロバキア語の通訳をするなんて!通訳は単に語学能力だけではなく、テクニックや経験が重要ですから大変なことです。チェコ語とスロバキア語って、そんなに似ているのでしょうか。
「スロバキア語は、書かれた物であれば8割くらいは理解できますが、発音が違います。相手の大臣がゆっくりしゃべってくれたこともあって、なんとかやり遂げることがきました。でも、とにかく少ない人数で仕事をしているわけですから、仕方ないですよね。こんなことは良くあることだと先輩に教えられました。」
和田さんにとって、スロバキア語の響きは、「ゆったりしていてかわいい感じ」で、チェコ語の響きはそれに比べて少し平坦な感じがするそうです。
例えば、「何?」を意味する言葉は、チェコ語では「ツォ」、スロバキア語では「チョ」だそうです。町中でがっちりした強面の男の人なんかが、「チョチョチョ?」なんて言っているのを聞くと、つい、「かわいい!」と笑ってしまうとか。
「今でも自分のチェコ語に確信は持てないですよ。やればやるほど奥が深くなって、螺旋階段をくるくる上っていくような感じです。少しずつ上達はしていると思うけど。細かい表現など、取り入れたいものが次々に出てきます。」
これからもネイティブのチェコ語を目指して研鑽を続けて下さい!
12月6日の聖ミクラーシュ(サンタクロース的存在)の日の前日(12月5日)夜は、聖ミクラーシュに扮した人が、天使と悪魔を引き連れて、子どもたちに一年間よい子にしていたか聞いて回り、ご褒美をあげたりする行事があります。
和田さんもアジア版ミクラーシュとして参加したときの写真。
Děkuji Vám(ジェクイ・ヴァーム):ありがとう
Ano(アノ):はい(Yesの意)。初めて聞いた時は、日本語の「あの」を思い出し、不思議な感じでした
Ještě jednou(イエシュチェ・イエドゥノウ):one moreの意。居酒屋では「もう一杯」という意味になるので、チェコにいる間に最もよく使用したフレーズの一つでした。
★チェコ語を主要言語とする国: チェコ共和国