国連外交

令和8年8月27日
富田ILO駐日事務所代表へのインタビューの様子
令和8年度外務省サマープログラム参加学生の伊佐隆正さんと、国際協力局、地球規模課題総括課、地球環境課及び気候変動課の実習生のみなさん

 令和8年度外務省サマープログラム参加学生の伊佐隆正(琉球大学人文学部4年・国際協力局専門機関室実習生)が、国際労働機関(ILO)駐日事務所の富田望代表にお話を伺いました。
 ILOの活動内容や日本の取組に対する見方、富田代表のこれまでの御経験など、胸襟を開いた形で率直なお考えを語っていただきました。そのインタビューの内容を御紹介します。
 なお、今回の訪問に際しては、同じく国際協力局から、地球規模課題総括課、地球環境課及び気候変動課の実習生も同行しました。

1 ILOについて

(1)ILOの活動目的や国際機関として世界で担う役割について教えてください。

 ILOは1919年に設立された国連の専門機関であり、現在の加盟国数は187か国に上ります。第一次世界大戦の直後にILOが創設されたのは、当時の国際情勢を背景に、労働問題は、経済だけでなく、世界の平和にも影響を及ぼす重要問題であると認識されたためでしょう。ILOは、労働条件の改善を通じた社会正義を基礎とする世界の恒久平和の確立への寄与、完全雇用、労使協調、社会保障等の促進を主な目的としています。なかでも、ディーセント・ワークの実現がILOの主目標であり、そのために、国際労働基準の策定や開発協力をはじめとする様々な取組を行っています。

(2)ILOの主目標であるディーセント・ワークについて教えてください。

 ディーセント・ワークを日本語に訳すと、「働きがいのある人間らしい仕事」となります。これは、1999年にILOによって初めて提唱された概念であり、今日に至るまで、ILOの中核的な目標です。SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標の1つである「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」にも組み込まれています。

(3)国連の専門機関の中で唯一の政労使三者構成を採用しているILOですが、三者構成であることの意義とその難しさについてどのように捉えていますか。

 これは国内でも同様ですが、例えば、労働基準を策定する場合、現場でそうしたルールの影響を直接受ける労働者や使用者の合意や納得がなければ、せっかく策定した労働基準も実効性を欠くものとなってしまいます。だからこそ、労働問題については、各国の政府の意見だけを聞いてルールを設けるのではなく、当事者である労使が主体となって議論に参画することが極めて重要となります。
 その一方で、世界を見渡すと、国内の政労使の間で十分な意思疎通が行われていないという国も少なくなく、ILO加盟国でもある国の政労使がそれぞれ全く異なる主張を行うことも稀ではありません。そうした中でのコンセンサス形成にはある種の難しさもあります。

(4)ILOにおいて、日本のこれまでの取組はどのように評価されていますか。また、今後、日本にはどのような役割が求められていますか。

 日本がユニークなのは、先進国であると同時にアジアの国でもあるということです。例えば、ILOにおいては、アジア太平洋の国々から構成される「アジア太平洋グループ」(ASPAG)や「先進国市場経済国グループ」(IMEC)と呼ばれる先進国のグループ等が存在していますが、日本は、その両グループに属する珍しい国家です。
 これまで日本は、多様な立場を有するアジア諸国から成るASPAG内の調整や、ASPAGとIMECのグループ間の調整等、様々な主張が交錯する難しい状況の中で、コーディネーターとしての役割を含め、重要な貢献を果たしてきたと認識しています。今後も、日本がその立場を活かし、積極的にリーダーシップを発揮されることを期待しています。

(5)IL0が行う開発協力における様々なパートナーとの協力に関して、特に被支援国との連携において重要な点は何ですか。

 ILOの開発協力プロジェクトは、日本による任意拠出金を含む各国の財政的貢献に大きく支えられています。こうした拠出の効果を最大化する上では、やはり現地のニーズを丁寧に汲み取ることが重要です。
 同時に、被支援国の声に加え、日本として何が重要かという視点も併せ持つことも、事業への拠出をより有益なものとする上で大切かと思います。また、災害からの復興や社会保障といった日本の経験や知識を活かせる分野での支援も貴重なものです。

2 ILO駐日事務所について

(1)ILO駐日事務所から見て、労働分野における日本ならではの強みは、どのような点にあるとお考えですか。

 労働分野における日本の強みは、なんと言っても、政労使の三者の足並みがしっかりと揃っていることです。つまり、労側の代表である日本労働組合総連合会(連合)、使側の代表である日本経済団体連合会(経団連)及び日本政府の間で、平素から緊密な意思疎通が行われているということです。日本の政労使はいずれもILO理事会の正理事の地位にあるという事情もあり、これら三者が一致していることはILOにとっても有り難いことです。

(2)ILO駐日事務所として、今後どのような役割を果たしていきたいと考えていますか。

 まずは、日本の強みである政労使の緊密なコミュニケーションをILO駐日事務所としても引き続き促進していきたいと考えています。また、未批准のILO条約の締結に資する環境整備や、批准済みのILO条約の履行確保に向けた普及活動など、日本という先進国にふさわしい国際労働基準を確保するためのサポートも行っていきます。
 それから、ILO邦人職員数の増強には外務省が熱心に取り組んでいると承知していますが、昨年はILO駐日事務所と外務省が緊密に連携してILOキャリア・セミナーを共催しました。やはり特に若い方々に国際機関でのキャリアに関心を持っていただくことが重要ですので、今後は、大学向けの講演なども多く実施できればと思っているところです。

3 ILO条約について

(1)日本は、憲法が定める条約誠実遵守義務の下、国内法制との整合性等に関する真剣な検討等を積み重ね、ILO基本条約について10本中9本を締結するに至るなど、着実に歩みを進めてきたと聞きました。こうした日本の軌跡をどのように評価していますか。

 日本はILO条約の批准について非常に努力していると受け止めています。条約の批准と一言でいっても、国によって考え方が大きく異なり、まずは条約の批准を先に行い、その実施確保のための国内の制度の整備等は後から進めれば良いという考えの国もあります。
 これに対し、日本は、憲法上の要請に従い、まずは国内法との整合性について真剣に調査等を重ね、条約を誠実に遵守するための国内担保が確認できて初めて締結に向けた国会上程を行うこととしていると理解しています。
 また、日本のもう一つの特徴は、ひとたび国内担保法が整えば、そこから締結に至るまでの動きが非常に速いことです。例えば、直近で日本が締結したILO基本条約である第155号条約(職業安全衛生条約)に関し、その国内担保法である改正労働安全衛生法は昨年5月に成立したところですが、早くも同月中に国会承認を得て、本年4月には批准が完了しています。こうした日本政府のスピーディーな条約批准は、政労使の連携の成果の一つであるともいえるでしょう。

(2)ILO第111号条約(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約)やILO第190号条約(仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約)といった日本が未締結の条約について、駐日事務所はどのような取組を行っていますか。

 ILO条約の批准に関し、その一番の推進力は、ILO活動推進議員連盟です。国会議員の方々のILO条約への高い御関心が、締結に向けた議論の活性化につながっていると考えています。その上で、ILO駐日事務所としては、勉強会の実施や広報などを通じ、ILO条約の批准を後押ししていければと考えています。

4 富田駐日代表への質問

(1)前職の御経験も踏まえ、ILO駐日事務所長を目指されたきっかけを教えてください。

 ILO駐日事務所長に就任する前は厚生労働省に勤めていましたが、そこで総括審議官(国際担当)のポストを経験したのが大きかったと思います。それまで私は自分は国内派だと思っていたので予想外の発令でしたが、総括審議官(国際担当)としてILO理事会やILO総会に政府側代表として出席する等の経験を重ねる中で、ILOへの理解を深めることができました。また、若い頃は条約の個人への適用といった問題に関心があったこともあり、労働者や使用者といった個人も扱うILO条約は今でも奥が深いと感じます。

(2)ILO駐日代表としての目標をお聞かせください。

 国際機関の在り方に対する厳しい意見等も見られる中、目下、ILOは身を切る改革を推し進めていますが、財政事情はかなり厳しい状況にあります。ILO駐日事務所も例外ではなく、財政的な制約故に実施できない事業等が数多く生じています。こうした中、ILO駐日事務所としては、IOM(国際移住機関)駐日事務所やUNHCR(国連難民高等弁務官)駐日事務所、WHO(世界保健機関)東京事務所といった日本に事務所を有する国際機関との連携強化なども通じ、現下の困難な状況を乗り越えていきたいと考えています。


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