気候変動
第21回「気候変動に対する更なる行動」に関する非公式会合(概要)

外務省気候変動課
1 会合の目的
「『気候変動に対する更なる行動』に関する非公式会合」(略称:日伯非公式会合)は、我が国とブラジルが共同議長を務め、2002年から毎年東京にて開催されてきました。この会合は、各国の交渉実務担当者(首席交渉官級)が非公式な形で率直な議論を行うことを目的としたものです。本年の会合は、3年ぶりに対面形式で開催しました。会合では、本年11月30日から12月12日にアラブ首長国連邦で開催が予定されている国連気候変動枠組条約第28回締約国会合(COP28)に向けた交渉の方向性や課題について、意見交換が行われました。
2 日程・場所・共同議長
- (1)日程:3月16日(木曜日)・17日(金曜日)
- (2)場所:東京・三田共用会議所
- (3)共同議長
- (日本側)赤堀 毅 外務省地球規模課題審議官
- (ブラジル側)アンドレ・コヘア・ド・ラーゴ外務省気候変動・エネルギー・環境担当次官(Ambassador André Aranha Corrêa do Lago, Vice-Minister for Climate, Energy and Environment, Ministry of Foreign Affairs)
3 参加国・オブザーバー
(参加国)
豪州、ブラジル、カナダ、中国、コスタリカ、エジプト(COP27議長国)、欧州委員会、スウェーデン、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、サモア、サウジアラビア、セネガル、シンガポール、スイス、UAE(COP28議長国)、ウルグアイ、英国、米国
(オブザーバー)
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局、科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)議長、Center for Climate and Energy Solutions(C2ES)
4 議論の概要
(1)セッション1:グローバル・ストックテイク(GST)
全ての参加者から、第1回GSTの完結は、COP28の主要な成果となるとの認識の下、本年に実施される各種GSTのプロセスに積極的に貢献していく意向が表明されました。複数の参加者から、GSTの成果のとりまとめを担うハイレベル委員会の役割への期待や、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)及びパリ協定下の活動だけでなく、これらの枠組みの外で行われている気候変動対策の野心向上につながる取組の成果をGSTプロセスで活用していくべきという意見が示されました。
また、多くの参加者から、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書といった最良の科学的知見に基づき、パリ協定の目標に対する世界全体の気候変動対策の実施状況の評価を包摂的な形で行うこと、GSTの成果はパリ協定締約国と非国家主体といったステークホルダーの取組の野心強化に向けた勧告とすべきこと等について意見が出されました。複数の参加者から、勧告はパリ協定の1.5℃目標達成に向けた緩和策の強化を主要な内容とし、2025年に各締約国が提出予定の次期温室効果ガス排出削減目標(NDC)だけでなく、現行のNDC(2030年目標)の取組強化につなげていくべきとの意見があった一方、GSTが対象としている緩和、適応、実施手段及び、対応措置、ロス&ダメージをパリ協定下の決定文書に規定されているようにバランス良く扱うべきとの意見もありました。
(2)セッション2:緩和
多くの参加者から、COP26やCOP27といった過去のCOPの成果に基づきつつ、COP28において、緩和の野心向上及び実施強化につながる成果を実現すべきとの意見が表明されました。複数の参加者から、IPCCの第6次評価報告書といった最良の科学的知見に基づく指摘に沿って、パリ協定の締約国が1.5℃目標達成に整合的なNDCを設定する必要性が指摘されました。また、こうした緩和の野心向上及び実施強化には、途上国への資金、技術移転、キャパシティ・ビルディング等の支援が不可欠という意見も出されました。
COP27で内容が決定された緩和作業計画(MWP)については、複数の参加者から、同計画の下で実施される「グローバル対話」の成果として、緩和の野心向上及び実施強化のポテンシャルが特定され、各締約国が既に実施している優良事例が共有されることを期待する意見が出されました。また、グローバル対話の成果や、並行して実施されるGSTプロセスを通じた成果等を踏まえつつ、COP28で開催されるハイレベル閣僚級ラウンドテーブルでの議論を通じて、緩和の野心向上及び実施強化に向けた政治的な機運を醸成していくべきとの指摘もありました。
(3)セッション3:適応
多くの参加者から、COP26で設立された適応に関する世界全体の目標(GGA)に関するグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画(GlaSS)の下で行われている議論を通じて、革新的な適応策の実施につながる成果への期待が表明されました。加えて、GGAが、適応策の実施についてGSTプロセスへ情報をインプットすることが重要という指摘がありました。
COP27で新たに検討の開始が決定されたGGAのフレームワークについて、複数の参加者から、量的・質的にも適応策の強化につながる内容とし、UNFCCC及びパリ協定の下で行われてきた多くの既存の適応関連の取組によって蓄積された知見や経験を活用すべきという指摘がありました。また、いくつかの締約国からは、フレームワークを通じて適応資金支援のフォローアップを実施していくべきとの意見も出されました。
(4)セッション4:損失と損害(ロス&ダメージ)
多くの参加者から、COP27でのロス&ダメージ支援に関する基金の設置を含む資金面の措置及びサンティアゴ・ネットワークの運用開始についての決定を、歴史的な成果として歓迎する意見が出されました。
本年から開始される移行委員会でのロス&ダメージ支援に関する議論の進展を期待する意見が多く出され、既存支援の実施状況の整理、支援の対象の特定、資金動員源等について検討を行っていくべきとの意見が出されました。資金動員源については、これまでの先進国から途上国への支援の枠組みを超えた、より広い範囲からの資金動員や民間資金動員の拡大の重要性が指摘された一方で、先進国からの公的資金支援を期待する意見も出されました。
いくつかの国から、UNFCCC及びパリ協定外の動きとして、国際開発金融機関(MDBs)や国際金融機関(IFIs)が、ロス&ダメージ分野への支援実施を強化することを期待する発言がありました。
(5)セッション5:気候資金
複数の国から、1000億ドル資金動員目標及び適応資金支援倍増について、早期の達成が必要である旨の指摘がありました。
いくつかの国から、COP27のシャルム・エル・シェイク実施計画で設置された「パリ協定第2条1(c)に関するシャルム・エル・シェイク対話」の下で、同条項の理解や、その実施に必要な取組等について、締約国間の共通理解が醸成されることを期待する意見が出されました。
COP26以降、議論が継続されている新規合同数値化目標(NCQG)については、いくつかの国から、2024年の決定に向けて、技術専門家対話(TED)等を通じて、同目標の詳細に関する具体的なオプションを絞り込むことの必要性が指摘されました。
(6)セッション6:分野横断事項
COP27で決定された公正な移行に関する作業計画について、いくつかの参加者から、同計画の下で議論すべき事項として、エネルギー移行や社会経済の変革、途上国の脱炭素移行のための支援等、様々なテーマが提案されました。
複数の参加者から、COP27において2023年以降の継続が決定された「海洋と気候変動対話」において、海洋に基づく解決策の実施強化に向けた議論が進展することへの期待が表明されました。加えて、多くの参加者が、包摂的な気候変動対策の重要性を指摘し、先住民、ジェンダー、気候エンパワーメント行動(ACE:Action for Climate Empowerment)といった議題の下での議論を通じて、引き続き取組の進展を目指すべきであるという考えが共有されました。
また2024年以降の対応事項として、いくつかの参加者から、パリ協定第13条に基づく「強化された透明性枠組み」の下での2024年中の隔年透明性報告書(BTR)提出に向けた機運醸成の重要性が指摘されました。