気候変動
アジア・大洋州における気候変動と脆弱性に関する国際会議
長期リスクの科学・地域情勢・ビジネスの連関
外務省は,2018年7月12日に東京都港区の三田共用会議所において,アジア・大洋州における気候変動と脆弱性に関する国際会議を開催しました。会議には国内外の政府関係者・国連機関職員のほか,気候変動や安全保障に関する専門家や企業・投資関係者,研究者,市民団体のメンバーなど計130名以上が参加し,気候変動が国家の脆弱性に与える影響や今後生じうるリスクに対する有効なアプローチ等について活発な議論が行われ,アジア・大洋州における気候変動と脆弱性について様々な視点から検討・討議する良い機会となりました。
1 開催の背景と目的
気候変動は,地球規模の安全保障及び経済の繁栄に脅威をもたらすものとして,最も深刻な課題の一つと捉えられています。2013年に議長国であった英国の主導により,気候変動が安全保障と経済に与える影響を扱うG8各国(当時)の専門家会合が開催され,その後も,2015年4月のドイツ・リューベックG7外相会合で気候変動と脆弱性に関する作業部会が立ち上げられるなど,G7外相会合や作業部会において継続的に議論が行われてきました。2016年にわが国が議長国として広島において開催したG7外相会合では,気候変動の脆弱性リスクに対して緊急に対処する必要性があることを認識するとともに,気候変動に対する地球規模の回復力を高めるために,脆弱性リスクを低減するという共通の目的に向けて行動することの重要性が強調されました。
これを受けて2017年1月19日に外務省が開催した「気候変動と脆弱性の国際安全保障への影響」に関する円卓セミナー及びそのフォローアップの検討会では,わが国はアジア・大洋州に焦点を絞って調査・議論し,政府として取り組むべき具体的な方途を検討していくとともに,G7外相プロセスにおける気候変動と脆弱性に関する議論において具体的な提案を行っていくことが示唆されています。外務省では,2017年5月のイタリア・ルッカG7外相会合において,上記作業部会が脆弱な諸国における強靭性を高めるための行動に係る提言を特定することが奨励されたことも踏まえ,気候変動が自然災害にもたらす影響と地域の社会経済的な脆弱性の関連性について,日本の分析をまとめた報告書「気候変動に伴うアジア・太平洋地域における自然災害の分析と脆弱性への影響を踏まえた外交政策の分析・立案」を作成し,作業部会へ提出しました。
今回の会議は,上記報告書及びそのフォローアップとして2018年3月28日に開催した国内関係者による意見交換会の内容も踏まえつつ,気候変動と安全保障及びビジネスに関する国際的な議論の動向を参加者に共有し,アジア・大洋州における気候変動の脆弱性や安全保障,展開する企業の危機管理,投資に与える影響や,今後生じうるリスクに対して政府・自治体・企業等それぞれがとるべきアプローチ等について議論を深めることを目的に開催しました。
2 会議の概要
- 日時:
- 2018年7月12日(木曜日)10時00分~16時00分
- 場所:
- 東京都港区 三田共用会議所(〒108-0073 東京都港区三田2丁目1-8)
- 出席者:
- 国内外の気候変動や地域情勢,開発援助に関する研究者・専門家,シンクタンク,国内NGO
アジア・大洋州に展開する国内企業・投資関係者,在京大使館,政府関係者など,計130名以上 - 言語:
- 英語(同時通訳なし。分科会でのディスカッションも英語で実施。)
- 午前:
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- (1)開会
- 中根一幸 外務副大臣(副大臣による開会挨拶はこちら(PDF))
- (2)基調講演
- 一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ 加藤洋一研究主幹(元朝日新聞アメリカ総局長,外交・安全保障担当編集委員)
- 加藤氏は,気候変動問題が国際的な安全保障戦略の中でどのように位置づけられ,議論されてきたかを概観した上で,北極海を巡る動向を例に挙げ,気候変動問題が地政学的な観点だけでなく,経済上の競争の観点からも国際社会への安定にも影響を及ぼしている点を指摘しました。
- (3)パネルディスカッション1
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- アレクサンダー・カリウス adelphi共同創設者兼ディレクター
- 国立環境研究所社会環境システム研究センター 亀山康子副センター長
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社環境戦略アドバイザリー部 吉高まりチーフ環境・社会ストラテジスト
- 国際協力機構(JICA) 武藤めぐみ地球環境部長
- 上智大学 東大作教授
- 午前中のパネルディスカッションでは,気候変動と安全保障及びビジネスに関する国際的な議論の動向を共有しつつ,アジア・大洋州において気候変動が脆弱性や安全保障,展開する企業の危機管理,投資に与える影響や,今後生じうるリスクに対して幅広い意味での当事者がとるべきアプローチ等について,議論を深めました。
- 午後:
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- (4)分科会形式によるロールプレイを通じたディスカッション
- 分科会では,出席者を20数名程度の小グループに分け,近未来におけるアジア・大洋州のとある地域を舞台とした,一定程度の細部の事実関係を設定した架空のシナリオの下,気候変動の影響を受けた自然災害への対処と長期的なリスクの検討について議論を行いました。具体的には,出席者は,日系企業の現地責任者,本社関係者,地元政府関係者,または日本政府関係者(大使館・総領事館)の役を割り振られ,その立場から,短期的な危機対応だけでなく,中長期的な気候変動対策・事業や投資判断を巡るリスク情報の開示等を含む重要な要素,重要な判断を下す上での科学的なデータや論証の必要性といった複合的な論点について議論しました。
- (5)パネルディスカッション2
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- サモア自然資源環境省 フェトロアイ・ヤンダール・アラマCEO補
- インドネシア国家開発計画省環境局 スディアーニ・プラティウィ次長(気候変動・環境品質担当)
- スティムソン・センター サリー・ヨーゼル上級研究員
- 防災科学技術研究所 大楽浩司主任研究員
- ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス 黒崎美穂日本韓国リサーチ責任者
- 午後のパネルディスカッションでは,政策・経営戦略への気候変動対策の取り組みや,その際に必要となる科学的なデータの果たす役割等について議論しました。
- (6)閉会
3 会議の主な成果
- (1)今回の会議には,国内外より,気候変動問題の専門家のみならず,企業関係者が多数参加し,環境問題に留まらない,経済,社会,安全保障にも影響を及ぼす複合的な課題である気候変動の最新動向について活発な議論を行う機会となりました。特に午後の分科会においては,近未来の架空のシナリオに基づき,様々な角度から長期的な気候変動リスクが社会経済に与える影響につき検討することができました。
- (2)多くの参加者より,日頃接することの少ない自然科学,地域情勢,企業・投資といった異なる分野の専門家が一堂に会することで,新しい視点から気候変動問題をとらえる良い場であったとの好意的な意見が聞かれました。また異なる利害関係を有する幅広い当事者が,不確実性を有する将来の見通しを踏まえつつ,どのようなデータや論拠を共有した上で,重要な政策決定や経営判断をするべきかについて考えることができたとの見方も示されました。
- (3)効果的な気候変動対策を講じる上では,科学的なデータに基づき,幅広い当事者が危機感と,気候変動対策がもたらす経済成長の機会を認識することが重要です。G7,G20をはじめとする国際的な場では,気候変動と安全保障上の課題を関連づけるとともに,経済成長を促すための方途につき議論がされています。外務省は,今回の会議を通じて得られた知見や共有された認識を今後の国際的な議論の場,特に2019年のG20議長国の機会に活用していきます。
(注)この報告書には,会議プログラム,参加機関リスト及び分科会で用いた2種類のシナリオの概要が付属しています。