国連外交
安保理決議に基づく対北朝鮮制裁
概要
北朝鮮に対して制裁を科す安保理決議は、2006年から2017年にかけての11年間で11本が採択されています。それらの決議番号、採択年月日、採択のきっかけとなった北朝鮮の挑発行為は次のとおりです。
- (1) 第1695号:2006年7月15日(7月5日の弾道ミサイル発射)
- (2) 第1718号:2006年10月14日(10月9日の核実験(1回目)。
この決議により北朝鮮制裁委員会(以下、制裁委員会)を設置。) - (3) 第1874号:2009年6月12日(5月25日の核実験(2回目)。
この決議により北朝鮮制裁委員会専門家パネル(以下、専門家パネル)を設置。) - (4) 第2087号:2013年1月22日(前年12月12日の弾道ミサイル発射)
- (5) 第2094号:2013年3月7日(2月12日の核実験(3回目))
- (6) 第2270号 :2016年3月2日(1月6日の核実験(4回目)及び2月7日の弾道ミサイル発射)
- (7) 第2321号 :2016年11月30日(9月9日の核実験(5回目))
- (8) 第2356号 :2017年6月2日(累次の弾道ミサイル発射等)
- (9) 第2371号 :2017年8月5日(7月4日及び28日の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイル発射)
- (10) 第2375号 :2017年9月11日(9月3日の核実験(6回目))
- (11) 第2397号 :2017年12月22日(11月29日のICBM級弾道ミサイル発射)
これらの安保理決議のうち、(4)及び(5)を除く9本の決議は、日本が安保理理事国であった時期に採択されました。また、11本の決議全てが全会一致で採択されています。特に、北朝鮮による核実験、弾道ミサイル発射等の挑発行為が激しくなった2016年及び2017年の2年間に6本の決議が採択され、制裁の内容もより厳格化されています。
一連の安保理決議は、北朝鮮に対し次の3点を義務付けています。
- (1) 弾道ミサイル技術を使用した発射、核実験又はその他の挑発をこれ以上行わないこと。
- (2) 弾道ミサイル及び核関連活動を直ちに停止すること。
- (3)全ての核兵器、核計画、その他のいかなる大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画も完全な、検証可能な、かつ、不可逆な方法で放棄すること。
制裁措置の内容
安保理決議に基づく対北朝鮮制裁措置は、ヒト、モノ、カネの流れの規制、海上・航空輸送等、多岐にわたっています。主な内容を大別すると次のとおりです。
1 ヒト
- 安保理又は制裁委員会により指定された個人及びその家族の構成員の入国・領域通過禁止
- 加盟国の管轄権内において収入を得る北朝鮮「国民」を北朝鮮に送還することを義務付け
- 北朝鮮からの輸入等の禁止:全ての武器、特定の天然資源(石炭、鉄、鉄鉱石、銅、ニッケル、銀、亜鉛、鉛、鉛鉱石を含む)、海産物(漁業権を含む)、繊維製品、農産物、機械類、電気機器、土石類、木材、船舶等
- 北朝鮮への輸出等の禁止:全ての武器、奢侈品、航空燃料、新品のヘリコプター及び船舶、原油(上限:年間400万バレル又は52.5万トン)、石油精製品(上限:年間50万バレル)、機械類、電気機器、輸送機器、鉄鋼、卑金属等
- 安保理又は制裁委員会により指定された個人又は団体の資産凍結
- 本邦金融機関等による北朝鮮における支店開設及び北朝鮮の金融機関とのコルレス関係の確立、並びに北朝鮮金融機関の本邦における支店開設等の原則全面禁止
- 北朝鮮の団体及び個人との合弁企業等の開設・維持・運営の禁止
- 北朝鮮関連の貨物の自国領域内における検査の実施、禁制品の押収・処分
- 禁制品を積載していると信じる合理的根拠がある航空機の離着陸・上空通過の禁止
- 指定船舶、指定個人・団体が所有・管理すると信じる合理的根拠がある船舶、及び北朝鮮から禁止された品目を輸送すると信じる合理的根拠がある船舶の加盟国への入港の禁止
- 北朝鮮籍船舶に対する又は北朝鮮籍船舶からの船舶間の積替え(「瀬取り」)を容易にし、又は関与することの禁止
国連安保理北朝鮮制裁委員会・専門家パネル
1 国連安保理北朝鮮制裁委員会
2006年、安保理決議第1718号主文12に基づき、安保理理事国15か国により構成される国連安保理北朝鮮制裁委員会が設置されました。
同委員会は、全ての国連加盟国に対し、安保理決議に基づく制裁措置の履行のためにとった行動に関する情報等を求め、各国から寄せられた決議違反に関する情報を検討し適切な行動をとることを任務としています。制裁措置の履行を促進するために必要な指針を定め、制裁措置の対象となる追加の品目、個人・団体、船舶等を指定します。また、制裁の適用除外申請を受けた場合にはこれを検討し、決定します。
2 専門家パネル
2009年、安保理決議第1874号主文26に基づき、北朝鮮制裁委員会の下に専門家パネルが設置されました。専門家パネルはその設置以来、毎年安保理において全会一致でマンデートを更新し、関連安保理決議の実効性を向上させるための重要な役割を果たしてきました。しかし、2024年3月、マンデート更新に関する安保理決議案にロシアが拒否権を行使したため、専門家パネルは同年4月で活動を終了しました。
専門家パネル委員は、様々な分野の専門家が、個人としての資格で国連事務総長により任命され、国連加盟国、関係機関、その他の関係当事者から、安保理決議に基づく制裁措置の履行状況(特に制裁違反)に関する情報を収集・審査・分析し、北朝鮮制裁委員会の任務遂行を支援していました。また、安保理、北朝鮮制裁委員会又は加盟国が検討し得る制裁措置の履行改善のための行動について勧告を行うとともに、加盟国による制裁措置の履行状況等について、年次報告書(及び中間報告書)を作成し、委員会との議論を経て、安保理に提出していました。
対北朝鮮制裁の履行を巡る課題
安保理決議に基づく制裁の履行を巡っては、制裁逃れの事案が様々な分野で続いており、課題となっています。制裁を逃れる手法も巧妙化しており、時には第三国(政府)や民間企業等、様々なアクターが、意図せずこうした事案に関与してしまう場合もあります。
例えば、以下のようなケースが考えられます(対北朝鮮制裁を想定。実例ではありません。)。
A国の企業Bが工業機械をC国の企業Dに輸出し、企業DがE国の企業Fに当該工業機械を再輸出したとします。その後、企業Fが北朝鮮に工業機械を再輸出したとすると、企業Fは安保理決議第2397号主文7が禁止する全ての工業機械類の北朝鮮への販売に関与したことになります。また、同決議主文7は北朝鮮への工業機械類等の直接の供給、販売又は移転を禁止しているだけでなく、間接の供給、販売又は移転を禁止しているので、A国企業B及びC国企業Dもこの違法な販売に関わったとの指摘を受け得ます。
上記のように、意図せず安保理決議違反に関与してしまわないためには、安保理又は制裁委員会によって資産凍結措置の対象として指定された団体や個人と一切取引を行わないこと、安保理又は制裁委員会によって入港禁止等の制裁措置の対象として指定された船舶と取引を行わないことが重要です。
また、安保理又は制裁委員会によって制裁措置の対象として指定されている船舶ではなくとも、米国等が独自の制裁措置の対象としている船舶、また過去の専門家パネルの年次報告書(及び中間報告書)において安保理決議違反の活動に関わった疑いがあるなどと言及されている船舶についても注意が必要です。これらの船舶は、制裁委員会等により、今後、制裁措置の対象として指定される可能性があります。