日本の安全保障と国際社会の平和と安定

日本政府代理人 鶴岡公二外務審議官による最終陳述及び最終申立て(仮訳)
国際司法裁判所(ICJ)における「南極における捕鯨」訴訟

平成25年7月16日

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裁判所長、ありがとうございます。

1.裁判所長,裁判所の裁判官の皆様,日本の口頭手続を締めくくるために,再び陳述させて頂くことを光栄に思います。

2.日本は,法の支配にコミットしている国です。科学の分野での貢献の実績を誇りとする国です。我々は,本事件の準備に向けて,多大な努力をしてきました。それは,日本にとってこの裁判所での初めての事件であるからだけではなく,本件が日本にとって極めて重要な二つの問題である法の支配と科学に関係するからです。これらは,正義,安定,発展を通じて,国際社会において現在の位置に日本をもたらしたものの柱です。

3.過去3週間,両当事者からこの法廷で聞いたことは,科学的表現が多く,かなり複雑に聞こえたかもしれません。しかし,問題となる主題は,思い切って言えば,むしろ単純です。つまり,南極海における日本の調査捕鯨の合法性です。この問題に関する我々の主張も単純です。3点に要約します。

(1)最初に,国際捕鯨取締条約(ICRW)の目的と意義は,持続可能な捕鯨のための保存及び管理であります。1946年にそうであり,今日でも変わりません。
(2)第二に日本の調査捕鯨は,偽装商業捕鯨ではありません。その目的は,科学的知識を得ることであり,その科学的知識によって,日本は条約の付表第10条(e)に規定されている「最良の科学的助言に基づく」方法でモラトリアムの解除を実現することを望んでいるのです。
(3)第三に,日本は,ICRW第8条に完全に従って,誠実に,IWCの科学委員会のパートナーと協力してJARPAIIを実施しています。

日本の弁論は,日本の主張を明確に説明したと願っていますが,もちろん,それは,裁判所長,裁判所の裁判官の皆様が判断を下すことです。

4. 裁判所長,裁判所の裁判官の皆様,ここまで来た今,私が結びの言葉として申し上げたいのは,法ではなく,また,科学でもなく,常識です。日本にとってこの3週間の経験は,価値あるものでした。我々は裁判所に対し,また裁判所を通じて世界に対して,日本の調査捕鯨の真実を示すことができました。反捕鯨の感情や日本の捕鯨に対するキャンペーンは広範囲に世界中の隅々にまで広がっていました。日本は,そのようなキャンペーンに対して効果的には対応できていなかったかもしれません。致死的調査からのデータを使用した科学論文の発表を拒否する科学雑誌をコントロールすることはできません。十分な英語力が欠如していることは,我々にとって有利に働きません。本事件が提訴されるまでは,日本の特別許可に基づく捕鯨の理由について,今回のように詳細に述べる機会は私もありませんでした。日本は,世界に対し,日本の調査捕鯨の真実を示す初めての機会を与えられたのです。この観点から,我々は豪州に対しこの様な機会を与えてくれたことに,また,裁判所にはその質問にも反映されているとおり,本件に強い関心を持って頂いたことに感謝しています。

5.もちろん裁判所は科学ではなく法に基づいて判断することが求められています。しかしながら,その判断は雄弁術ではなく事実に基づいてなされるべきであるので,我々は裁判所に対して日本の調査捕鯨に関連する事実を提示し,全ての質問に最大限答えることが適当であると考えました。豪州は我々の一部発言に気分を害されたようです。裁判所に提示した質の高い主張の功績は顧問団や私のスタッフによるものですが,批判については私がその全責任を取ります。我々は,本事件に感情を持ち込む意図はないことから,我々自身も気分を害する十分な理由があったことについて強く主張するつもりはありません。これもまた,我々にとっては一般常識です。

6.その代わり,全体的な所見を述べさせて下さい。端的に言って,手続の終わりに近づいていますが,未だ豪州の主張の一貫性や分別を把握できていません。第一に,豪州の移り変わる法的主張を理解することは困難でした。ICRWの進化に関する持論はほぼ消滅しました。今では,ICRWの目的と意義は始めから鯨類資源の保存と回復であったと主張しています。日本の不誠実性に関する強い主張は和らげられ,その代わり,第二ラウンドでの主張の際には,条約の違反という点が強調されました。

7. 第二に,事実関係について間違った陳述が多くありました。日本がホエール・ウォッチングに関する議論に参加することを拒否したと証言することは,日本代表団の著名な科学者が分科委員会の議長を10年以上務め,また継続して委員を務めている中,単純な誤りとして見過ごすことはできません。

8.また,豪州が,選択した参考資料や引用を誤解を招く形で使用したことは遺憾です。特に,第2ラウンドにおけるワロー教授の発言をねじ曲げたことは,行き過ぎでした。このような名高い科学者の職業意識と品位に対する誠実かつ敬意を払った対応とは言えないものでした。ワロー教授は,日本の要請に応じて独立した専門家としての見解を示すために裁判所に来たのです。そして,実際にその役割を完璧に果たしました。

9.また,先週提示されたニュージーランドの申立てに対しても懸念を改めて表明したいと思います。裁判所の判断すべきことですが,ニュージーランドの申立ては,条約の解釈の問題を明らかに越えるものであったと日本側は考えています。

10.裁判所長,裁判所の裁判官の皆様,私達の目を将来へと向けましょう。JARPAIIは,来年,IWCの科学委員会によって見直しが行われます。日本は,これまで多くの資源と努力を費やしてきたこの計画について,真剣かつ建設的に科学的な見直しがなされる機会をとても楽しみにしています。日本としては,見直しにおける議論とその結論を十分に検討した上で,必要であれば,調査捕鯨の計画を修正する用意があります。

11.最後に,私が冒頭陳述で述べた主題に戻らずにはいられません。パクタ・スント・セルヴァンダ(「合意は拘束する」)。合意したことは,守らなければならない。合意していないことには,拘束されない。これは国際法の中核的な原則です。日本がモラトリアムを遵守しているのは,ICRWの付表第10条(e)が日本をそのように拘束するからです。しかし,科学的な調査捕鯨を実施することは,ICRWに合致しているので,禁止されていないと考えています。豪州自身の政策及び一連の拘束力のない決議と関連するIWCにおける外交活動は,この事実を変えるものではありません。

12.裁判所長,裁判所の裁判官の皆様,多様な文化,伝統及び価値観のあるこの世界において,多国間主義とは人類の様々な経験を経て受け継がれてきた知恵です。また,パクタ・スント・セルヴァンダ原則は,様々な多国間の協力の枠組みの根底にある原則です。国家がそのような枠組みに参加できるのは,自らが合意していない義務を強制されないと安心して信頼できるときです。しかしそのような信頼が失われ,ある朝目覚めたら,自国が多数派の政策により拘束されていることに突然なっており,そこから出られる唯一の方法がその組織を脱退することであるとしたら,安定的な多国間の枠組みはどうなってしまうのでしょうか。日本は,法の支配を重視する国として,本事件の結果は,安定的な多国間主義を守るものとなると信頼しています。

13.裁判所長,裁判所の裁判官の皆様,私と私の同僚は,口頭手続を通じての皆様の傾聴,忍耐,そして丁重さに対し心から感謝申し上げます。

14.さらに,日本代表団を代表して,クーヴルール書記及び通訳を含む彼の全てのスタッフに対し,この口頭手続が円滑に進められたことと,本件の運営が成功裏に行われてきていることにも感謝申し上げます。

15.次に,我々と共に過ごした豪州のチームに対しても謝意を表します。豪州が本事件に対して費やした資源の量に敬服します。ニュージーランドの代表団にも感謝します。

16.最後に,この機会に,日本代表団全員に対し,プロとして勤勉に働いてくれたことに感謝します。

17.裁判所長,裁判所の裁判官の皆様,それではこれから日本の正式な申立てを行います。
日本は,裁判所が次のことを判断し宣言することを要請します。

(1)- 裁判所は,2010年5月31日の訴状によって裁判所に付託された,豪州の日本に対する請求について管轄権がないこと。
  - そして結果として,豪州が日本に対して開始した手続についてニュージーランドが行った参加の許可の要請は失効すること。
(2)あるいは,
  - 豪州の請求は却下されること。

裁判所長、裁判所の裁判官の皆様。これで本事件に関する日本の口頭による申立てを終わります。しかし,天国にいる父への言葉なしには完結とはなりません。裁判所長,許可を頂き,私は父に対して,終わったよ,安らかに眠って下さいと述べさせて頂きます。御静聴ありがとうございました。


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