(1) ラオスは、86年に「新思考」政策を唱えて以来、従来の親ヴィエトナム、親ソ路線を修正し、ヴィエトナムとは「特別な関係」を有するとしつつも、全方位外交を行っている。一方、経済改革を進め、市場原理導入等の経済開放化政策(「新経済メカニズム(NEM)」)を推進している。また、91年には憲法採択、92年及び97年には国民議会選挙が行われるなど、民主化も進んでいる。
97年12月に実施された第2回国民議会選挙を受け、98年2月に開催された第4期第1回国民議会総会において、カムタイ新大統領、シーサワット新首相、他閣僚が任命されたが、政策的にはこれまでの方針を踏襲している。また、近年は、タイ、中国等近隣諸国との関係の強化、西側諸国との対外関係拡大にも努力している。97年7月にはASEAN正式加盟を果たした。
(2) 内陸国という地理的条件と、長期間にわたった過去の内戦の影響により経済発展は遅れている。経済は、開放政策の下、市場経済メカニズムの積極的な導入を通じて経済の活性化に努めてきており、94年には実質経済成長率8.1%を達成し、インフレ、為替レートとも比較的安定していた。
しかし、97年7月に始まった経済危機の影響により、通貨キープの対ドルレートが急激に下落したことに加え、従来から存在していたインフレ懸念とキープ貨の減価圧力が拡大した結果、輸入品への依存度が高いラオスにおいては、国内経済への影響も大きくなってきている。また、財政赤字・貿易赤字の構造的問題も依然として解消しておらず、外貨収入や税収の増大による赤字の解消が課題となっている。更に、ASEAN加盟と同時にASEAN自由貿易地域(AFTA)にも加盟し、2005年までに関税率を5%以下へ引き下げることが義務付けられたため、同国の大きな財源となっている関税収入の代替財源の確保が急務になっている。98年の実質経済成長率は2.5%(推定値)である。主要産業は農林業(米、豆、木材等)で、国内総生産の三分の二以上を占めており、人口の80%以上が従事している。その他の主要産業は森林加工業、水力発電等に限られている。
(参考1) 主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 4,186 | 4,882 | 4,726 | 4,849 | |
名目GNP |
総額(百万ドル) | 848 | 1,694 | 1,895 | 1,924 |
一人当たり(ドル) | 200 | 350 | 400 | 400 | |
経常収支(百万ドル) | -110.8 | -346.2 | -346.8 | -316.0 | |
財政収支(百万ドル) | - | - | - | - | |
消費者物価指数(90年=100) | 100.0 | 169.9 | 191.7 | - | |
DSR(%) | 8.7 | 6.3 | 6.7 | 6.5 | |
対外債務残高(百万ドル) | 1,768 | 2,165 | 2,263 | 2,320 | |
為替レート(年平均、164ドル=キープ) | 707.75 | 804.69 | 921.14 | 1,256.73 | |
分類(DAC/国連) | 後発開発途上国/LDC | ||||
面積(千平方キロメートル) | 230.8 |
(参考2) 主要社会開発指標
- |
90年 | 最新年 | - | 90年 | 最新年 | |
出生時の平均余命(年) | 50 | 53x(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
104 | 98(97年) | |
所得が1ドル/日以下の人口割合(%) | - | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
152 | 170(97年) | ||
下位20%の所得又は消費割合(%) | 9.6(92年) | 9.6(92年) | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
- | 660(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | - | 43(95年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
- | - | |
初等教育純就学率(%) | 69 | 72(96年) | 安全な水を享受しうる人口割合(%) | 29(88-90年平均) | 51(96年) | |
女子生徒比率(%) | 初等教育 | 44 | 43(96年) | 森林面積 (1000平方キロメートル) |
132 | - |
中等教育 | 40 | 39(96年) |
(3) 96年3月の党大会において政府は、1996年から2000年までの5か年計画(年率8~8.5%の成長達成、一人当たり所得を500ドルに増大させる等)や、2020年までにLLDCからの脱却を目指した長期開発計画を掲げるとともに、これまでの経済改革・開放路線の継続を決定した。
(4) 我が国との関係では、89年に、ラオスの最高指導者であったカイソーン首相(当時)が「明治維新に学べ」との方針の下、初めての先進諸国訪問として訪日し、90年には中山外務大臣(当時)がラオス訪問を行った。92年にはヌーハック最高人民議会議長(現大統領)の訪日、95年にはカムタイ首相の訪日が、98年には町村政務次官のラオス訪問がそれぞれ実現し、要人往来は活発化してきている。
我が国の対ラオス貿易は一貫して我が国の輸出超過であり、我が国からの輸出品は、一般機械、トラック、自動車、鉄鋼製品等であり、我が国の輸入品は主として木材である。我が国からの直接投資としては、オートバイの組立工場等があるが、全般的に低調であり、ラオスへの全投資の0.17%程度に過ぎない。
(1) 我が国は、1)伝統的友好関係にあるラオスの安定・発展がインドシナ全体の経済圏としての発展を図る上で重要であり、2)後発開発途上国(LLDC)であることに加え、内陸山岳国であるとの制約があること、3)経済開放化政策や民主化を進めていること、さらに、4)97年アジア経済危機が徐々に浸透する中で、構造的な問題を抱えており、また2008年までのASEAN域内関税の引き下げに対応するために、財政構造改革や制度・組織体制等の整備が不可欠であり、支援を必要としていること等を踏まえ、DAC新開発戦略及び我が国ODA大綱の理念・原則を踏まえつつラオスの経済開放政策に基づく国造りの努力に対し、着実に支援を行っていくこととしている。
(2) 我が国は、ラオスにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び98年3月に派遣した経済協力総合調査団等によるラオス側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。
(イ) 人造り
ラオスではあらゆる分野において人材が不足しており、人造りが最重要課題である。市場経済化促進、行政強化、農業開発、インフラ整備等に資する人材育成を重視し、特に、1)行政官の育成、2)税関職員・徴税官吏の育成、3)公共企業及び民間部門の実務者・技術者の育成、4)高等教育支援、5)銀行・金融部門における人材育成を重点的に行う。
(ロ) BHN支援
1)初等教育(校舎建設・改修、機材供与等)、2)保健・医療(基幹病院を中心に施設改修・機材整備、子供の健康)、3)環境保全(森林造成等)
(ハ) 農林業
農業はGDPの約6割、労働人口の約8割を占めるが、人口増等に伴い食料輸入が増える懸念もあり、依然食料自給の見通しは定かではない。具体的には、1)農業政策の企画・策定、2)灌漑施設整備、3)ポストハーベスト(貯蔵、流通、加工)改善、4)焼畑対策/森林保全、5)農村開発を重点として農林業分野への支援を行う。
(ニ) インフラ整備
水力発電は重要な外貨獲得源となっているが、今後、売電以外の産業育成に努めつつ、環境配慮、近隣国の電力需要等を見極めつつ慎重に対応していく。道路及び橋の整備については、国土の東西・南北の骨格となる幹線道路整備を当面の目標とし、その後維持面の強化を図る。
協力に当たっては、ラオスの援助吸収能力の現状に鑑み、他の援助国・国際機関との援助調整に配慮する必要がある。また上記の合意された個々の重要分野への支援継続と並び、ラオス側の開発計画の策定と実施の体制を支えるために、分野横断的な課題として政策支援型の技術協力(政策アドバイザーの派遣、開発計画策定・政策実施の能力向上、法的・制度的基礎強化の為の支援等)も常に念頭に置く必要がある。
また、ラオスは市場経済への移行方針の下に経済運営のノウハウ修得等につき我が国への協力を求めており、我が国としてもラオスのこのような姿勢を歓迎し、支援することとしている。
(3) 99年7月に行われた政策協議(無償・技協・開協)においては、4つの重点分野の有効性が確認され、また、東西経済回廊の活性化への協力、金融分野をはじめとするマクロ経済政策への支援等の重要性についても確認された。
(4) また、我が国は、95年2月インドシナ総合開発フォーラム閣僚会議を開催するなど、ラオスを含むインドシナ地域の開発に積極的に取り組んでいる。97年6月には、我が国を含むドナー国・国際機関他が参加し、ジュネーヴで第6回ラオス円卓会議が開催され、地域アプローチや環境保護の重要性等について確認するとともに、経済改革と社会開発・環境への配慮を通じた持続可能な成長に関するコンセンサスが得られた。同時にラオス側より、開放政策の堅持や2000年までの社会・経済計画を通じた持続的成長を目指す旨表明され、これに対し、ドナーより2000年までの支援として合計約12億ドルが表明された。一方、99年3月にはラオス政府のマクロ経済政策措置が不十分との理由で、世銀による構造調整融資が中断されている。
(5) 我が国は、91年度以降継続してラオスに対するトップ・ドナーとしての地位を占めており、97年の実績では、対ラオス援助全体の23.09%、対ラオス二国間援助の47.9%を占めている。
有償資金協力では、第5回ラオス円卓会議での表明を受け、95年5月のカムタイ首相来日時に表明したアジア開発銀行(ADB)との協調融資による「ナム・ルック水力発電所建設計画」に対する円借款の供与(供与額約39億300万円)を96年10月に実施した。なお、98年12月には、「第二メコン国際架橋事業」(約40億円)の実施につき表明している(インドシナ中央部の南北・東西と結ぶ国道9号線のラオス・タイ国境に設置)。
無償資金協力では、ラオスがLLDCであることから、農業、農村開発、医療等基礎生活分野における援助を行うとともに、国際機関等他のドナーとの協調を図りつつ運輸インフラ整備に対する援助も実施している。98年度は、運輸インフラ(空港・橋梁)、農業・農村開発、森林保全、保健医療など、幅広い協力を行った。また、経済危機の影響緩和のため、特に社会的弱者対策を中心とした経済構造改善努力支援のためのノン・プロジェクト無償資金協力(15億円)を99年1月に実施した。
技術協力については、人造り、社会基盤整備、農業、保健医療分野を中心に実施しており、近年実績は拡大している。90年度からは、青年海外協力隊の派遣を再開しており、92年にはプロジェクト方式技術協力が再開された(公衆衛生プロジェクト)。また、「日・インドシナ友情計画」の下、95年度から毎年20名のラオス青年を5年間我が国に招聘している。
(6) WID(途上国の女性支援)の分野では、96年1月の「インドシナ地域WIDセミナー」を受けて、同年6月のラオス国別ワークショップ(ラオス女性連合、日本、ESCAP、UNDPの共催)において国別行動計画が採択された。また、98年12月には、UNDP、WID基金を活用してラオス女性連盟支援プロジェクトを実施し、同女性連盟の特に地方における活動を支援した。なお、同連盟に対しては、95年度草の根無償資金協力により、同連盟の寄宿舎建設、広報ビデオ作成等を支援した実績がある。
(1) 我が国のODA実績 |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 贈与 | 政府貸付 | 合計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
44.59(-) 78.79(-) 39.31(-) 59.45(76) 61.61(72) |
17.84(-) 22.31(-) 20.43(-) 18.83(24) 20.90(24) |
62.43(-) 101.10(-) 59.74(-) 78.28(100) 82.51(96) |
- - - 2.41 4.99 |
-1.72(-) -3.52(-) -2.33(-) 0.32(0) 3.06(4) |
60.71(100) 97.58(100) 57.41(100) 78.59(100) 85.58(100) |
累計 | 469.33(-) | 149.60(-) | 618.91(-) | 26.23 | -1.70(-) | 617.21(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績(97年支出純額、単位:百万ドル)
DAC諸国、ODA NET | (支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合計 |
95 96 97 |
日本 97.6 日本 57.4 日本 78.6 |
ドイツ 17.4 ドイツ 22.9 ドイツ 16.6 |
スウェーデン 13.4 スウェーデン 17.7 スウェーデン 15.5 |
豪州 13.1 フランス 16.4 フランス 14.8 |
フランス 8.4 豪州 12.4 豪州 14.3 |
97.6 57.4 78.6 |
170.0 147.5 164.8 |
国際機関、ODA NET | (支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 |
95 96 97 |
ADB 61.4 ADB 83.6 ADB 85.6 |
IDA 27.1 IDA 59.0 IDA 40.9 |
IMF 15.9 CEC 12.8 CEC 14.7 |
CEC 11.0 UNDP 11.5 WFP 12.0 |
UNDP 8.1 IMF 5.5 UNDP 11.6 |
11.7 13.3 11.9 |
135.2 185.8 176.7 |
(3) 年度別・形態別実績 |
(単位:億円) |
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 | 技術協力 |
90年度までの累計 |
51.90億円 (内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照) |
232.14億円 (内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照) |
46.13億円
研修員受入 392人 |
91 | なし |
29.64億円
首都郊外農村開発計画(2/3期) (6.88) |
6.82億円
研修員受入 37人 |
92 | なし |
28.38億円
首都郊外農村開発計画(3/3期) (4.50) |
10.84億円
研修員受入 50人 |
93 | なし |
49.66億円
ヴィエンチァン市上水道改善計画(2/3期) (13.35) |
14.59億円
研修員受入 72人 |
94 | なし |
46.47億円
ヴィエンチャン市上水道改善計画(3/3期) (11.20) |
18.52億円
専門家派遣 19人 |
95 | なし |
56.88億円
国道13号線橋梁改修計画(2/2期-1) (2.72) |
19.65億円
研修員受入 121人 |
96 |
39.03億円 ナム・ルック水力発電計画 (39.03) |
54.47億円
国道13号線橋梁改修計画(国債II) (8.76) |
16.21億円
研修員受入 152人 |
97 | なし |
91.24億円
ヴィエンチャン国際空港改修計画(国債2/3期) (18.50) |
18.27億円
研修員受入 178人 |
98 | なし |
74.77億円
ヴィエンチャン国際空港改修計画(国債3/3) (2.37) |
29.84億円
研修員受入 349人 |
98年度までの累計 | 90.93億円 | 662.66億円 |
180.88億円
研修員受入 1,421人 |
(注)1.「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。)
2.「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。
3.その他に我が国は、65年より75年まで毎年、ラオス外国為替操作基金(FEOF)に対し、総額7,564百万円の拠出を行った実績がある。
4.66年度から90年度までの有償資金協力及び無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/j_90sbefore/901-13.htm)
(参考1) 98年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
案件名 | 協力期間 |
ルアンプラバン病院 タゴン医療センター タゴンパイロット農場 日本・WHO公衆衛生 ヴィエンチャン県農業農村開発計画 森林保全・復旧計画 ヴィエンチャン県農業農村開発計画(II) 森林保全・復旧計画(II) 小児感染症予防 |
67.4~74.3 |
(参考2) 98年度実施開発調査案件
案件名 |
メコン河流域地理情報作成調査(第1年次) ナムニアップI水力発電開発計画調査(第1年次) メコン河沿岸貧困地域小規模農村環境改善計画調査(第1年次) 再生可能エネルギー利用地方電化計画調査(第1年次) 北西部村落給水・衛生改善計画調査 ヴァンヴィエン地域森林保全流域管理計画調査(第3年次) 北西部村落給水・衛生改善計画事前調査(S/W協議) メコン河流域地理情報作成予備調査(第2年次) 北西部村落給水・衛生改善計画事前調査(S/W協議) メコン河流域地理情報作成事前調査 メコン河流域地理情報作成調査(技術評価審査)(第1年次) 第2メコン国際橋架橋事業実施設計調査(第1年次) |
(参考3) 98年度実施草の根無償資金協力案件
案件名 |
ヴィエンチャン高校学生寮建設計画 医療機器補修センター建設計画 マラリア寄生虫昆虫研究所整備計画 カムアン県立病院機材整備計画 ボリカムサイ県マラリア・センター建設計画 カムアン県マラリア・センター建設計画 ヴィエンチャン県マラリア・センター建設計画 サバナケート県水文観測網整備計画 サヤブリ県職業訓練センター建設計画 セコン県水産養殖場建設計画 ラオス国立大学医学部機材整備計画 マホソット病院研修センター建設計画 女性識字教育センター建設計画 サナムサイ群潅漑設置建設計画 ウドムサイ県職業訓練センター建設計画 献血促進計画 ワンノム地区潅漑施設建設計画 ムアンボー地区潅漑設置建設計画 ナハン地区潅漑建設設計計画 子供の家拡充計画 ウドムサイ県種子センター改善計画 ボリカムサイ県村落給水計画 バクスワン農業学校整備計画 バンビエン群潅漑施設建設計画 ウドムサイ県赤十字診療所建設計画 ビエンチャラン小学校建設計画 ポントン小学校建設計画 ナトン小学校建設計画 ノンボン小学校建設計画 身障者用設置改善計画 感染症監視システム整備計画 ラッセン農場研修センター建設計画 |