(1) カンボディアにおいては、91年10月、包括和平合意文書である「カンボディア紛争の包括的な政治解決に関する諸協定」(いわゆるパリ和平協定)が関係国間で署名され内戦が終結した。93年には制憲議会選挙が成功裡に実施され、制憲議会により新憲法が採択された。
しかしながら、97年7月、人民党(フン・セン第二首相:当時)とフンシンペック党(ラナリット第一首相:当時)の二大政党系列の軍の間の武力衝突が発生し、その結果、フン・セン第二首相率いる人民党の勢力がカンボディア全土をほぼ制圧した。これを受けて、97年7月に予定されていたカンボディアのASEAN加盟は、ASEAN緊急外相会議により当面の間延期することが決定された。
フン・セン第二首相は、現憲法の遵守、人民党とフンシンペック党による連立政権の維持、選挙の予定通り(98年5月)の実施を表明した。その後、政府及び日本提案の4項目提案(ラナリットとポル・ポト派軍との協力停止など)等をはじめとする国際社会の事態打開への努力が実を結び、98年7月に無事総選挙が施行された。「国民の意思が信頼される形で反映された」(国際監視団)との評価があるように、選挙が概ね自由公正に行われた結果、人民党(64議席)、フンシンペック党(43議席)及びサム・ランシー党(15議席)が国会に議席を獲得し、同年11月には、人民党・フンシンペック党連立与党によるフン・セン新政権が樹立、12月には国連代表権が回復されるとともに、99年4月にはASEAN加盟が実現した。更に、クメール・ルージュ幹部の投降により同派が事実上消滅するなど、同国の復興と民主化へ向けた動きが進展している。
(参考1) 主要経済指標等
- |
90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | - | 10,024 | 10,275 | 10,480 | |
名目GNP |
総額(百万ドル) | - | 2,718 | 3,088 | 3,162 |
一人当たり(ドル) | - | 270 | 300 | 300 | |
経常収支(百万ドル) | - | -185.7 | -185.0 | -210.3 | |
財政収支(百万ドル) | - | - | - | - | |
消費者物価指数 | - | - | - | - | |
DSR(%) | - | 0.6 | 1.2 | 1.1 | |
対外債務残高(百万ドル) |
1,854 |
2,035 | 2,100 | 2,129 | |
為替レート(年平均、164ドル=リエル) |
- |
2,450.8 | 2,624.1 | 2,946.3 | |
分類(DAC/国連) | 後発開発途上国/LDC | ||||
面積(千平方キロメートル) | 176.5 |
(参考2) 主要社会開発指標
90年 | 最新年 | 90年 | 最新年 | |||
出生時の平均余命 (年) |
50 | 54(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
123 | 103(97年) | |
所得が1ドル/日以下の人口割合(%) | - | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
193 | 147(97年) | ||
下位20%の所得又は消費割合(%) | - | - | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
500(80-90年平均) | 900(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | 65 | 35x(95年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
- | - | |
初等教育純就学率 (%) |
- | 98(96年) | 安全な水を享受しうる人口割合(%) | 3(88-90年平均) | 13(96年) | |
女子生徒比率 (%) |
初等教育 | - | 45(96年) | 森林面積 (1000平方キロメートル) |
122 | 98(95年) |
中等教育 | - | - |
(2) カンボディアは一人当たり国民所得が97年300ドル(世銀資料)で、後発開発途上国(LLDC)の一つである。主要産業は農林水産業であり、GDPの約43%を占めるが、単位当たりの収量は極めて低い。また、全労働人口の約8割が第一次産業に従事している。70年代の動乱により経済は一時壊滅状態に陥ったが、85年以降、市場経済化へ向けた政策を進めつつある。91年の和平以降カンボディアは、国際社会からの支援を受け国家再建に取り組んでいるが、徴税制度が不十分なこともあり新政府の財政は非常に厳しいものとなっている。但し、経済改革努力により、インフレ率が150%(91年)から9.0%(97年推定)に減少し、国内の歳入ベースが対GDP比4.3%(91年)から8.1%(98年推定)に抑制されている。なお、GDP成長率は96年6.5%であったが、97年7月の二大政党間の武力衝突及びアジア経済危機による外国援助や投資及び観光収入が減少するなど経済が悪化し、97年1.0%、98年は0.0%(推定)と低下している。
(3) 我が国との間では、政治・文化面での交流が活発になってきている。政治面では、国内で小規模な武力衝突が発生していた97年4月に、高村外務政務次官(当時)がカンボディアを訪問し、ラナリット、フン・セン両首相(当時)等と会見し、内政安定の重要性を強調した。また、99年2月に東京で開催された第3回カンボディア支援国会合(CG)に際しては、フン・セン首相が来日し、小渕総理大臣、高村外務大臣らと会談している。文化面では、93年10月に東京で「アンコール遺跡救済国際会議」を主催し、この会議で設置されたアンコール遺跡保存修復国際調整委員会をフランスとの共同議長により開催するなど、幅広い分野においてカンボディアに対する支援の中心的役割を果たしてきている。
(1) 我が国は、アジア・太平洋地域の平和と安定及び発展にとりカンボディアの安定が不可欠であり、カンボディアが和平合意後の荒廃した国土の復旧・復興及び民主化を達成していくため、新政府が安定した政権を維持する必要があるとの認識の下、同国の復興及び民主化に向けた努力を積極的に支援することとし、DAC新開発戦略の重点国として、我が国ODA大綱を踏まえつつ協力を行っている。
なお、我が国は97年7月の二大政党間の武力衝突以降、カンボディア政府が、1)パリ和平協定を尊重し、2)現在の憲法及び政治体制を維持し、3)基本的人権や自由を保障する(4)自由公正な選挙の実施に向け努力する)、との前提の下、現地の治安状況の改善等を慎重に見極めつつ、援助を実施することとしてきている。
重要な点として、DAC新開発戦略の具体的実施、ハード面及び法制度支援等ソフト面の協力、官民の有機的な連携、インドシナの広域的視点からの開発、治安への配慮等が挙げられる。
(2) 我が国は、カンボディア側との政策対話を踏まえ、人道援助を中心に緊急に必要とされる援助を実施するとともに、中長期的な視野に立って、1)経済インフラ、2)保健・医療等の基礎的生活分野、3)農業、4)人材育成等の分野を重点分野とし各種スキームを有機的に連携させて支援を行うこととしており、これまで無償資金協力及び技術協力を実施してきている。
(3) 我が国は、カンボディアの和平・復興及び安定に向け種々の外交努力を行ってきている。92年6月に「カンボディア復興閣僚会議」を主催したのをはじめ、中長期的な復興援助の調整メカニズムとしての「カンボディア復興国際委員会」(ICORC)の議長を務めており、ICORCはこれまでに合計3回開催された。また、96年7月には国際支援の新たな援助調整会合として、「第1回カンボディア支援国会合」(CG)が東京で開催され、我が国は世銀と共同議長を務めた。97年7月には同第2回会合が、パリにて開催され、我が国は97年度分として総額約80億円の開発援助及び100万ドルの地雷除去支援をプレッジした。この直後の二大政党間の武力衝突以後、我が国はカンボディアによる自由公正な選挙実施を働きかけ、また政治的膠着状態打開のため4項目案を提出するなど積極外交を展開し、98年の選挙に際しても支援を行っている。
99年2月24・25日、カンボディア支援国会合(CG)の第3回会合が、世銀を議長として、フン・セン首相をはじめ、主要援助国・機関の参加を得て、東京で開催された。この会合では、カンボディアにおける兵員削減、森林保全、行政改革の必要性について確認され、それぞれのフォローアップのためのモニタリング会合を四半期毎に開催することで合意し、総額4.7億ドルの資金援助が表明された。
我が国は、同会合をカンボディアの発展と繁栄とプロセスの開始への重要な節目と位置付け、1)退役軍人支援分野、2)地雷除去・被災者支援分野、3)森林保全分野、4)基礎生活分野、5)インフラ整備等無償・技術協力を中心に総額120億円(約1億ドル)の開発援助及び90万ドルの地雷除去支援を表明した。また、有償資金協力についても支援の可能性を検討していく旨表明した。
(4) 98年度における我が国の対カンボディア経済協力は、総額96.73億円、無償資金協力が78.23億円、技術協力が18.50億円である。
有償資金協力については、同国がLLDCであり、政治的に不安定であったことから従来は見送ってきたが、最近の政治的安定及び新政権による経済再建のための種々の政策の着実な実施に鑑み、小規模インフラ案件から試行的に行うこととしている。
無償資金協力では、運輸インフラ(道路・橋梁)整備、社会インフラ(上水道・電力)、農業案件、選挙支援を行っている。技術協力では、母子保健、結核対策や法制度整備(重要政策中枢支援)を支援している。地雷対策として98年度に、カンボディア地雷対策センター(CMAC)への90万ドル拠出及び専門家派遣、無償資金協力案件「地雷除去活動機材整備計画」(4億7,000万円)のほか、CMACのフォーラム開催への援助、草の根無償を活用したNGOへの援助を行った。
またカンボディアにおけるユニークな協力として、93年度よりUNHCR(94年度からはUNDP)に対する我が国の拠出金を活用して派遣されるASEANの専門家と我が国の専門家、青年海外協力隊員とが共同で技術協力を行う「カンボディア難民再定住・農村開発カンボディア計画」(いわゆるカンボディア三角協力)が実施されている。更に「日・インドシナ友情計画」の下、95年度から毎年30名のカンボディア青年を我が国に招聘することとしている。なお、98年7月の選挙運営への協力のため、580万ドルの国連開発計画(UNDP)信託基金への拠出を行うとともに、ノンプロ無償見返り資金のうち約300万ドルの使用を承認している。また、32名の選挙監視要員派遣を行った。なお、我が国は、国連を通じてカンボディアの司法制度整備に協力している。
(5) カンボディアの女性が経済・社会開発に果たしている重要な役割に鑑み、途上国の女性支援(WID)の分野での協力を強化している。例えば、草の根無償資金協力による各地の「WIDセンター」建設支援、カンボディア女性問題省への専門家派遣、「インドシナ地域WIDセミナー」(東アジア地域の概説参照)の結果を踏まえ96年11月に開催された「カンボディア国別ワークショップ」への協力、女性を主たる対象とした農村金融開発を行っている現地NGOへの支援、開発福祉支援事業による貧困軽減に向けてのリプロダクティブヘルス向上計画、母子保健に関するプロジェクト方式技術協力等が挙げられる。
また、カンボディアは、日米コモン・アジェンダにおけるWID分野での連携対象国とされており、日米両国は、女性を主な対象とした農村開発金融を行っている現地NGO支援を行うなど、成果を上げている。
(1) 我が国のODA実績
暦年 | 贈与 | 政府貸付 | 合計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
51.39(80) 134.90(89) 55.40(-) 36.11(59) 58.35(72) |
13.12(20) 17.14(11) 20.12(-) 25.52(41) 23.05(28) |
64.52(100) 152.04(100) 75.52(-) 61.63(100) 81.40(100) |
- - 7.38 - - |
-(-) -(-) -4.18(-)7 -(-) -(-) |
64.52(100) 152.04(100) 1.33(100) 61.63(100) 81.40(100) |
累計 | 424.30(-) | 118.26(-) | 542.57(-) | 11.22 | -0.34(-) | 542.22(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
DAC諸国、ODA NET | (支出純額、単位:百万ドル) |
国際機関、ODA NET | (支出純額、単位:百万ドル) |
(3) 年度別・形態別実績
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 |
技術協力 |
90年度までの累計 |
15.17億円 (内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照) |
26.37億円 (内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照) |
17.06億円
研修員受入 461人 |
91 |
なし |
1.39億円
災害緊急援助(国内避難民救済)(日赤経由) (1.29) |
0.97億円
研修員受入 2人 |
92 | なし |
61.20億円
チュルイ・チョンバー橋修復計画(1/2期) (27.94) |
7.51億円
研修員受入 54人 |
93 | なし |
84.27億円
チュルイ・チョンバー橋修復計画(2/2期) (1.95) |
10.13億円
研修員受入 85人 |
94 | なし |
118.21億円
国道6A号線修復計画(2/2期) (15.94) |
11.05億円
研修員受入 133人 |
95 | なし |
64.19億円
プノンペン港改修計画(2/2期) (14.71) |
14.86億円
研修員受入 183人 |
96 |
8.03億円 債務繰延 (8.03) |
71.78億円
プノンペン市電気通信網整備計画(II) (12.73) |
23.66億円
研修員受入 196人 |
97 | なし |
41.84億円
メコン架橋建設計画(国債1/4期) (10.30) |
27.08億円
研修員受入 188人 |
98 | なし |
78.23億円
カンダール州メコン河沿岸潅漑施設改善計画(詳細設計) (0.43) |
18.50億円
研修員受入 232人 |
98年度までの累計 |
23.20億円 |
547.47億円 (注3) |
130.82億円
研修員受入 1,553人 |
(注)1.「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。)
2.「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。
3.そのほかに我が国は、72年度、73年度及び74年度に為替安定基金(ESF)に対し、総額5,852百万円の拠出を行った実績がある。
4.68年度から90年度までの有償資金協力及び無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/j_90sbefore/901-04.htm)
5.ICRC経由でアフガニスタン、アンゴラ、アゼルバイジャン等、11か国への供与にて合計約1.7億円。
(参考1) 98年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
案件名 | 協力期間 |
畜産センター 農業センター 医療センター 農業技術センター及び畜産センター とうもろこし開発 母子保健 |
59.7~66.7 |
(参考2) 98年度実施開発調査案件
案件名 |
プノンペン市都市排水・洪水対策計画調査(第2年次) 緊急復興のための地図情報作成調査(第3年次) 南部地下水開発計画調査(第2年次) シェムリアップ市上水道整備計画調査(第3年次) シェムリアップ州及びアンコール遺跡公園地形図作成調査(第3年次) |
(参考3)98年度実施草の根無償資金協力案件
案件名 |
チャックオングレブーム3小学校建設計画 アエカピエップ小学校建設計画 人道的地雷除去作業の部分的機械化支援計画 オンコーボーレイ郡小学校整備計画フェーズ1 オンコーボーレイ郡小学校整備計画フェーズ2 カンダール州小学校建設計画 タマオ溜め池改修計画 コンポントム州保健所建設計画 シハヌーク病院エイズ病棟拡張計画 クラコー郡ヘルスセンター建設計画 コンポンスプー州カンダール州小学校総合整備計画フェーズ3 コンポンチャム州地方看護研修センター歯科研修施設整備計画 地雷被災者アウトリーチ・プログラムのための車両供与計画 日本カンボディア友好技術訓練センター木工機械供与計画 スレイシット小学校建設計画 スバイリエン州小学校建設計画 カンダール州立教員養成学校家庭科施設整備計画 キエンスバイ郡病院肺結核病棟建設計画 カンダールストゥング郡保健所建設計画 ラアントゥックチュップ小学校建設計画 トゥールコーク小学校建設計画 トールプラッティアット小学校建設計画 プレックオンプル小学校建設計画 日本カンボディア友好技術訓練センター支援計画 トゥールコーク小学校バスケットコート建設計画 |