(4)ジェンダー・包摂的成長
ア 女性の能力強化・参画の促進
「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」(詳細は「2030アジェンダの履行に関する自発的国家レビュー2021」を参照)では、「ジェンダー平等の実現と女性と女児の能力向上は、すべての目標とターゲットにおける進展において死活的に重要な貢献をするもの」であると力強く謳(うた)われています。また、SDGsの目標5において、「ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う」ことが掲げられています。「質の高い成長」を実現するためには、ジェンダー平等と女性の活躍推進が不可欠であり、開発協力のあらゆる段階に男女が等しく参画し、等しくその恩恵を受けることが重要です。
たとえば、これまで教育の機会に恵まれなかった女性が読み書き能力を向上させることは、公衆衛生やHIV/エイズなどの感染症予防に関する正しい知識へのアクセスを向上させるとともに、適切な家族計画につながり、女性の社会進出や経済的エンパワーメントを促進します。さらには、開発途上国の持続可能で包摂(ほうせつ)的な経済成長にも寄与するものです。
●日本の取組

インド・ヒマーチャル・プラデッシュ州の村民に豆乳および豆腐の作り方を紹介して栄養指導を行うJICA海外協力隊員(写真:JICA)

ボリビアにて、SNSなどを使ったデジタルマーケティング能力強化により小規模ビジネスを営む女性のエンパワーメントを支援する様子(写真:JICA)

紛争関連の性的暴力生存者支援事業によって、自分の裁縫店を持ち、経済的自立ができた女性の様子(写真:GSF)
女性の人権侵害のない世界にしていくため、(ⅰ)女性の権利の尊重、(ⅱ)女性の能力発揮のための基盤の整備、(ⅲ)政治、経済、公共分野への女性の参画とリーダーシップ向上を重点分野に位置付け、日本は国際社会において、ジェンダー主流化注54と女性のエンパワーメント推進に向けた取組を進めています。
日本は、2018年、女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)注55に5,000万ドルの拠出を行い、2021年6月時点で、52か国で11,181の女性が経営・所有する中小企業に支援を実施しています。具体的には、7,069の女性が経営・所有する中小企業が資金援助を受け、6,722が経営に必要な技術や知識習得のための研修を受講しました。また、世界銀行によると、途上国では女性が経営する中小企業の70%が金融機関から資金調達ができない、もしくは劣悪な借り入れ条件を課されてしまうため、We-Fiを通じて、性差別のない法制度整備の促進や、女性経営者が資金や市場に平等にアクセスできるよう支援を行っています。
このほか日本は、国連女性機関(UN Women)を通じた支援も実施しており、2020年には約2,200万ドル、2021年には約2,100万ドルを拠出し、女性の政治的参画、経済的エンパワーメント、女性・女児に対する性的およびジェンダーに基づく暴力撤廃、平和・安全保障分野の女性の役割強化、政策・予算におけるジェンダー配慮強化などの取組に貢献しています。たとえば、トルコでは、イスタンブールとイズミルのシリア難民キャンプの823人の女性たちに対して、心や社会生活に関する相談支援を行いました。また、難民も、難民を受け入れるトルコ人のコミュニティも経済的に厳しい状況に置かれており、経済的な自立のための支援が必要との観点から、キャリア・アップのための研修や、金融に関する知識の向上、SNSの発信方法習得のための研修を行ったほか、手工芸による玩具生産の技術を習得するための訓練を実施しました。さらに、共存する異なる民族の女性たちが、ワークショップや小旅行に参加し、対話の機会を重ねることにより、平和的共存や平和維持の重要性に関する認識を高めました。
紛争下の性的暴力に関しては、日本としても看過(かんか)できない問題であるという立場から、紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所(OSRSG-SVC)との連携を重視しています注56。2021年、日本は同事務所に対し、約90万ドルを拠出し、新型コロナの流行が拡大しているレバノン、ヨルダン、イラクを含む中東において、被害女性に対するオンラインでの支援を拡充しつつ、防護服等の配布などを通じて、性的暴力の被害に遭った女性の保護に貢献しています。
また、日本は、紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)解説に、2020年および2021年にそれぞれ200万ユーロを拠出し、理事会メンバーとして、コンゴ民主共和国、イラク、ギニアをはじめとする紛争影響地域での紛争関連の性的暴力生存者支援に積極的に貢献しています。
2000年に採択された国連安保理決議1325号(女性・平和・安全保障、及び関連決議)の実施のため、日本は行動計画(2015年)を策定し、国際機関や二国間支援を通して紛争影響国や脆弱(ぜいじゃく)国の女性支援を実施しています。G7の枠組みではG7WPS注57パートナーシップ・イニシアティブ(2018年)の下、日本はスリランカをパートナー国として2019年から同国の女性・平和・安全保障に関する行動計画策定支援や、その事業として26年間の内戦で取り残された寡婦(かふ)世帯を含めた女性の経済エンパワーメント支援を行っています。本パートナーシップによる生計支援により経済的に立ち直るきっかけになるとともに、地域の平和構築・回復にも貢献しているとスリランカ政府からも歓迎されています。
ガーナ一般公募






(1)児童労働の撤廃と予防への支援、(2)ガーナ国カカオ・セクターを中心とした児童労働に係る情報収集・確認調査
(1)ACE資金(2009年~)、(2)JICA基礎情報収集・確認調査(2020年10月〜2022年3月)

CLFZ導入に向けての郡レベルのコンサルテーション・ミーティングの様子(写真:ACE)
日本に輸入されるカカオ豆の約7割はガーナで生産されていますが、同国が位置するサブサハラ・アフリカ地域では児童労働の実態が指摘されています。世界の児童労働者数は1億6,000万人、その7割が農林水産分野での労働に従事していると言われますが注1、子どもたちを守り、教育の機会を保障する対策が求められています。
このような状況を受け、特定非営利活動法人ACE(以下、ACE)は、現地NGOと協力し、コミュニティ・レベルで児童労働を根本的に解決するモデルを作りながら、教育支援、貧困家庭の自立支援、学校やインフラの整備など、様々な支援を行ってきました。また、チョコレートを食べる人と作る人がみんな一緒に幸せになれるよう、日本の企業や消費者と協力して、その寄付によって子どもたちを児童労働から守る活動を推進しています。
さらに、コミュニティ・レベルで確立した児童労働の予防・解決モデルを国レベルに広げる取組として、ACEは2018年からガーナ政府と連携して「児童労働フリーゾーン(CLFZ)」制度の構築を進めています。CLFZ制度は、ガーナを児童労働のない国にすべく、国家戦略の一つに掲げられていたものの、政府の取組としてなかなか実行に移されていませんでした。
そこで、ACEとデロイト・トーマツコンサルティング合同会社が技術面・財政面からガーナの雇用労働省を全面支援し、国際労働機関(ILO)やNGOなどとも連携した上でCLFZガイドライン注2を作成し、2020年3月に施行されました。このガイドラインにより、児童労働を日常的に監視・予防し、問題が起きた時にコミュニティの住民と地方公共団体が協力し、地域全体で対応するための基準ができました。児童労働に関する活動は、ガイドラインに沿って行うことが推奨されており、国全体に児童労働撤廃の取組が広がることが期待されています。
ACEは、制度導入後も、アイ・シー・ネット株式会社と共同事業体を組んで、児童労働の撤廃に向けた課題や支援ニーズを特定するための調査や分析をJICA事業として行っています。また、国際機関、産業界、NGOなどの多様なアクターとの連携や、JICAの「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」注3との連携も視野に入れながら、CLFZの普及地域を拡大し、児童労働撤廃に向けた活動が推進されています。
注1 児童労働の世界推計(2017-2020)(ILO・UNICEF, 2021年6月)
注2 同ガイドラインでは、児童労働の予防と解決が進む地域をCLFZと定義し、児童労働発生率が10%未満、コミュニティ・レベルでの児童労働モニタリングの仕組の有無、貧困家庭および子どもを支援する行政サービスが機能していること等、一定の要件を満たし児童労働が無い状態を維持することができる地方公共団体(郡)をガーナ政府がCLFZとして認定する。
注3 カカオを取り巻く多くの課題を解決するために、企業、NGOなどあらゆる関係者が知見を共有し協働していく場として、2020年1月にJICAが設立。
用語解説
- 紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)
- 2018年ノーベル平和賞受賞者であるデニ・ムクウェゲ医師およびナディア・ムラド女史が中心となって創設した基金。紛争関連の性的暴力によって傷ついた生存者の多くが公式な償いを受けていないという状況を背景に、生存者に対する償いや救済へのアクセスの促進を目的としている。生存者支援や救済のための司法制度の整備に関する啓発活動を行っている。2021年9月、日本はGSFおよび理事会メンバー(フランス、英国、韓国等)等とオンラインの活動紹介イベントを共催。
イ 格差是正(脆弱な立場に置かれやすい人々への支援)
貧困・紛争・感染症・テロ・災害などの様々な課題から生じる影響は、国や地域、女性や子どもなど、個人の置かれた立場によって異なります。また、新型コロナの感染拡大は、特に社会的に脆弱な立場に置かれているすべての人びとの生存と生活に大きな影響を与えています。SDGsの理念である「誰一人取り残さない」社会を実現するためには、一人ひとりの保護と強化に焦点を当てた人間の安全保障の考え方が重要です。
●日本の取組
■障害者支援

南アフリカでの技術協力「障害者のエンパワメントと障害主流化促進プロジェクト」でのグループディスカションの様子(写真:JICA)
社会において弱い立場にある人々、特に障害のある人たちが社会に参加し、包容されるよう、日本のODAでは、障害のある人を含めた社会的弱者の状況に配慮しています。障害者権利条約第32条注58も、締約国は国際協力およびその促進のための措置をとることとしています。
障害者施策は福祉、保健・医療、教育、雇用など、多くの分野にわたっており、日本はこれらの分野で積み重ねてきた技術や経験を、ODAやNGOの活動などを通じて開発途上国の障害者施策に役立てています(「案件紹介」も参照)。
たとえば、日本は、鉄道建設、空港建設の設計においてバリアフリー化を図るとともに、リハビリテーション施設や職業訓練施設整備、移動用ミニバスの供与を行うなど、現地の様々なニーズにきめ細かく対応しています(「国際協力の現場から」も参照)。また、障害者支援に携わる組織や人材の能力向上を図るために、JICAを通じて、途上国からの研修員の受入れや、理学・作業療法士やソーシャルワーカーをはじめとした専門家、JICA海外協力隊の派遣などを通じ、幅広い技術協力も行っています。
■子どもへの支援

ガーナにおける「児童労働フリーゾーン設置のための手順およびガイドライン文書」の施行を宣言する会合の様子(写真:特定非営利活動法人ACE)(本事業の詳細は「案件紹介」を参照)

ニカラグアのハリケーン被災地にて、緊急無償資金協力による支援で配給された給食を食べる子どもたちの様子
一般に、子どもは脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれやすく、今日、紛争や自然災害などに加え、新型コロナの影響もあり、世界各地で多くの子どもたちが苛酷(かこく)な状況に置かれています。また、子どもの難民や国内避難民も急増しており、日本は二国間の支援や国際機関を経由した支援など、様々な形で人道支援や開発支援を行っています(「案件紹介」も参照)。2021年には、国連児童基金(UNICEF)を通じて、アジア、中東、アフリカ地域等の86か国において、新型コロナへの感染防止のための物資供与や保健従事者への技術協力、感染リスク啓発活動などを支援しました。
また、草の根・人間の安全保障無償資金協力注59では、特に草の根レベルで住民に直接裨益(ひえき)するような協力を行っており、小・中学校の建設や改修、病院への医療機材の供与、井戸や給水設備の整備などを通じて、子どもたちの生活状況の改善に貢献するプロジェクトを実施しています。
たとえば、現在、タイにおいて、シーサケット県クカン郡に位置し、児童が多く通学するニコム3(グロムプラチャーソンクロ)学校において、幼児教育用の校舎建設に協力しています。この協力によって、教室不足で適切な環境下で授業を受けられていなかった児童の学習環境が改善されることが期待されます。また、アルメニアにおいては、ロリ州マーガホヴィト村にある義務教育課程の児童が通う村立学校において遊具や運動施設を整備する協力を行いました。これにより、同学校に通う児童や近隣の子どもたちの心身の健全な発育や発達、運動能力の強化、健康維持などに貢献することが期待されます。
ほかにも、無償資金協力「カンボジアにおける児童に対する暴力の防止及び暴力への対応計画(UNICEF連携)」においては、約2,600名の政府関係者とソーシャルワーカー・医療関係者等が研修を受けました。これにより、教育現場等における身体的暴力の減少および身体的暴力を受けた児童が専門官などに相談しやすい環境の整備が期待されます。
- 注54 : あらゆる分野でのジェンダー平等を達成するため、すべての政策、施策および事業について、ジェンダーの視点を取り込むこと。開発分野においては、開発政策や施策、事業は男女それぞれに異なる影響を及ぼすという前提に立ち、すべての開発政策、施策、事業の計画・実施・モニタリング・評価のあらゆる段階で、男女それぞれの開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスのこと。
- 注55 : 2018年のG20ハンブルク・サミットにて立ち上げを発表。同イニシアティブは、途上国の女性起業家や、女性が所有・経営する中小企業等が直面する、資金アクセスや制度上の様々な障壁の克服を支援することで、途上国の女性の迅速な経済的自立および経済・社会参画を促進し、地域の安定、復興、平和構築を実現することを目的としている。
- 注56 : 紛争下の性的暴力防止に関する日本の取組については、外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pc/page1w_000129.html)にも掲載しています。
- 注57 : G7 Women, Peace and Securityの略。
- 注58 : 日本は2014年に締結した。
- 注59 : 事業の概要や実績の詳細については、外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/kaigai/human_ah/)に掲載しています。