2021年版開発協力白書 日本の国際協力

(5)文化・スポーツ

マダガスカルにて柔道の指導を行うJICA海外協力隊員(写真:久野真一/JICA)

マダガスカルにて柔道の指導を行うJICA海外協力隊員(写真:久野真一/JICA)

国を象徴するような文化遺産は、観光資源として周辺住民の生活向上に有効に活用できます。一方で、資金や機材、技術などの不足から、存続の危機に晒(さら)されている文化遺産も多く存在し、このような文化遺産を守るための支援が必要とされています。また、こうした開発途上国の貴重な文化遺産をはじめとする文化の保護・振興は、対象国のみならず、国際社会全体が取り組むべき課題でもあります。

スポーツは、国民の健康の維持・増進に寄与するのみならず、相手を尊重する気持ちや他者との相互理解の精神、および規範意識を育むことに貢献しており、スポーツの持つ影響力やポジティブな力は、途上国に開発・発展の「きっかけ」を与える役割を果たします。

●日本の取組

日本は、文化無償資金協力解説を通じて、1975年から、途上国の文化(スポーツを含む)高等教育の振興、文化遺産の保全などのための支援を実施しています。文化無償資金協力によって整備された施設は、日本に関する情報発信や日本との文化交流の拠点にもなり、日本に対する理解を深め、親日感情を培(つちか)う効果があります。2021年には、日本語教育を含む教育分野、文化遺産保存分野、スポーツ分野への支援を含む14件の文化無償資金協力を実施しました。

また、日本は、UNESCOに設置した「日本信託基金」等を通じて、文化遺産の保存・修復作業、機材供与や事前調査などを支援しています。2021年度は約7億円を拠出し、その中から文化遺産分野の事業を複数実施しています。特に、将来、自らの手で自国の文化遺産を守っていけるよう、日本は途上国の人材育成に力を入れており、日本人専門家を中心とした国際的専門家の派遣や、ワークショップの開催などにより、技術や知識の移転に努めています。また、いわゆる有形の文化遺産だけでなく、伝統的な舞踊や音楽、工芸技術、口承伝承(語り伝え)などの無形文化遺産についても、同じく日本信託基金を通じて、継承者の育成や記録保存、保護のための体制作りなどの支援を行っています。

ほかにも、アジア・太平洋地域世界遺産等文化財保護協力推進事業として、アジア太平洋地域から文化遺産保護に携わる若手専門家を招き、文化遺産保護の能力向上を目的とした研修事業を実施しています。木造建築物の保存修復と考古遺跡の調査記録についての研修を隔年で行っているほか、2021年はインドネシアの専門家を対象に文化財建造物の写真記録に関する研修等をテレビ会議形式で実施しました。

また、日本は、2021年に開催された2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催国として、スポーツの価値とオリンピック・パラリンピックムーブメントを広めていくためのスポーツを通じた国際貢献策「スポーツ・フォー・トゥモロー」注60を推進すべく、ODAやスポーツ外交推進事業を活用したスポーツ支援を行いました注61。このほか、スポーツ分野において23名のJICA海外協力隊員を派遣しました(南スーダンでの日本の取組について「平和と安定」を、JICA海外協力隊の活躍については、「案件紹介」を参照)。

マラウイ

SDGs17

マラウイへのJICA海外協力隊派遣50周年素振りがつないだ日本とマラウイの絆(きずな)
JICAボランティア派遣事業(1971年から現在)

アフリカ南東部のマラウイにJICA海外協力隊注17名が初めて派遣されてから、2021年8月で50年が経過しました。マラウイへの累計派遣隊員数はのべ1,897名(2021年10月末時点)であり、世界で最も多くの隊員が派遣された国となっています。JICA海外協力隊は、現地の人々が抱える問題に共に取り組み、様々な分野でマラウイの発展に貢献してきました。また、配属先で担当職種に関する活動を行うだけでなく、人々と共に生活し、同じ言葉を話し、地域に溶け込みながら様々な協力や交流も行ってきました。

1992年、南部の都市ブランタイヤの病院に派遣された栄養士の隊員が、活動の合間の息抜きに庭先で剣道の素振りを行っていたところ、その姿に近所の子どもたちが興味を持ち、一緒に練習をするようになりました。その隊員の帰国後も、その時々の隊員が子どもたちと一緒に練習を続け、やがて子どもたちは成長とともに剣道の指導者となりました。

これまでマラウイに剣道の指導を目的とした隊員が派遣されたことはなく、また防具や施設が十分に整備されている訳でもありません。しかし、各分野で派遣された隊員が、現地での暮らしの中でマラウイの人たちと一緒に練習を行ってきたことが、マラウイでの剣道の普及に繋がりました。その結果、1999年にはマラウイ剣道協会が設立され、その後も隊員を通じた剣道交流や文化交流が継続されています。2022年には剣道(庭先での素振り)が始まってから30周年を迎えます。

「JICA海外協力隊が現地で活動している」という事実が、マラウイと日本の友好親善、相互理解に繋がり、日本の「顔の見える協力」として高く評価されています。

首都のショッピングモールにて開催された、協力隊マラウイ派遣50周年記念写真パネル展(写真:JICA)

首都のショッピングモールにて開催された、協力隊マラウイ派遣50周年記念写真パネル展(写真:JICA)

1993年頃、子どもたちへ剣道指導を行うJICA海外協力隊(写真:JICA)

1993年頃、子どもたちへ剣道指導を行うJICA海外協力隊(写真:JICA)

注1 当時の名称は「青年海外協力隊」。

用語解説

文化無償資金協力
開発途上国における文化(スポーツを含む)・高等教育振興、および文化遺産保全に使用される資機材の購入や施設の整備を支援することを通じて、途上国の文化・教育の発展および日本とこれらの諸国との文化交流を促進し、友好関係および相互理解の増進を図るための無償資金協力。途上国の政府機関を対象とする「一般文化無償資金協力」と、NGOや地方公共団体等を対象として小規模なプロジェクトを実施する「草の根文化無償資金協力」の2つの枠組みがある。

  1. 注60 : スポーツ・フォー・トゥモロー・コンソーシアム(https://www.sport4tomorrow.jpnsport.go.jp/jp/
  2. 注61 : 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた外務省の取り組み(https://www.mofa.go.jp/mofaj/p_pd/ep/page24_000800.html
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