2021年版開発協力白書 日本の国際協力

(3)万人のための質の高い教育

世界には小学校に通うことのできない子どもが約5,800万人もいます。中等教育も含めると、推定約2億5,600万人(全体の16.8%)注50が学校に通うことができていません。特に、2000年以降、サブサハラ・アフリカでは、学校に通うことのできない子どもの割合が増加しています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大による学校閉鎖により、多くの子どもが影響を受けています。とりわけ、障害のある子ども、少数民族や不利な環境に置かれたコミュニティの子ども、避難民や難民の子ども、遠隔地に住む子どもが取り残されるリスクが最も高くなっており、学校閉鎖に伴う子どもの栄養不足、早婚、ジェンダー平等などへの影響も懸念されています。

SDGsの目標4として、「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」ことが掲げられており、国際社会は、「教育2030行動枠組」解説の目標の達成を目指しています。

●日本の取組

マダガスカルでの技術協力「みんなの学校プロジェクト」において、遊びを交え、読み書きを楽しく学ぶ子どもたちの様子(写真:JICA)

マダガスカルでの技術協力「みんなの学校プロジェクト」において、遊びを交え、読み書きを楽しく学ぶ子どもたちの様子(写真:JICA)

日本は、開発途上国の基礎教育注51や高等教育、職業訓練の充実などの幅広い分野で支援を行っています。

日本は、「G20持続可能な開発のための人的資本投資イニシアティブ~包摂的で強靱(きょうじん)かつ革新的な社会を創造するための質の高い教育~」(2019年G20大阪サミット)に基づき、2019年から2021年の3年間で、少なくとも約900万人の子ども・若者を支援する「教育×イノベーション」イニシアティブを推進しました。2030年までにすべての子どもが質の高い初等・中等教育を修了できるようにするためには、支援を加速化させるイノベーションが不可欠です。日本は、このイニシアティブを通じて、基盤的な学力を育む教育やSTEM教育注52、eラーニングの展開などの支援を一層強化していきます。

また、日本は、「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」解説に対して、2008年から2021年までに総額約3,771万ドルを拠出しています。GPEのパートナー国では、2015年以降にその支援した子どもは約3,270万人に及び、これら子どもの4人に3人は初等教育を修了しました。2021年7月に開催された世界教育サミットにおいて、日本は、GPEへの支援継続も含め2021年から2025年までの5年間で15億ドルを超える教育分野に対する支援と、750万人の途上国の女子の教育および人材育成のための支援を表明しました。

TICAD7(2019年)では、アフリカに対する教育・人材育成分野の取組として、理数科教育の拡充や学習環境の改善を通じて300万人の子どもたちに質の高い教育を提供することや、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)注53およびケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学への支援などを通じて、科学技術イノベーション分野で5,000人の高度人材を育成することを発表しました。E-JUSTにおいては、アフリカからの留学生150人を受け入れることを発表し、2020年中に31名のアフリカ人留学生が新たに入学しました。

このほか、ニジェールをはじめとする西アフリカ諸国を中心として、日本は2004年から、学校や保護者、地域住民間の信頼関係を築き、子どもの教育環境を改善するため、「みんなの学校プロジェクト」を実施しており、世界銀行やGPEなどとも連携して、同プロジェクトの普及を各国全土に拡大しています。2021年12月までに8か国において、70,646校の小学校で導入されています。

また、エジプトにおいては、「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」の下、2017年2月から現地の学校での日本式教育の導入が進められており、2021年10月までに、「エジプト日本学校」が新たに48校開校しました。また、日本式教育モデルである「特活プラス」が導入され、掃除、日直、学級会など、感性や徳性を含む調和的な人格形成を目的とした全人的教育の中心となる小中学校での特別活動が実施されており、このような活動を行うために必要な経営に関する支援のほか、幼稚園での遊びを通じた学びの導入についても支援を行っています。

日本は、アジア太平洋地域において、国連教育科学文化機関(UNESCO)に拠出している信託基金を通じて、「アジア太平洋地域教育2030会合(APMED2030)」の年次開催や、教育の質の向上、幼児教育の充実、ノンフォーマル教育の普及および教員の指導力向上など、SDGsの目標4達成に向けた取組を支援しています。また、日本は、日ASEAN間の高等教育機関のネットワーク強化や、産業界との連携、周辺地域各国との共同研究、および日本の高等教育機関等への留学生受入れなどの多様な方策を通じて、途上国の人材育成を支援しています。

■持続可能な開発のための教育(ESD)の推進
ベトナム・ダクラク省の幼稚園において、草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて増設された教室で学ぶ園児たち

ベトナム・ダクラク省の幼稚園において、草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて増設された教室で学ぶ園児たち

「持続可能な開発のための教育解説:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」が、UNESCOを主導機関として、2020年1月から開始されました。ESDは、持続可能な社会の創り手の育成を通じ、SDGsのすべてのゴールの実現に寄与するものであり、日本は、ESD提唱国として、その推進に引き続き取り組むとともに、UNESCOへの信託基金を通じて、世界でのESDの普及・深化へ貢献しています。また日本は、同信託基金を通じて、ESD実践のための優れた取組を行う機関または団体を表彰する「ユネスコ/日本ESD賞」をUNESCOと共に実施しており、これまでに18団体に授与するなど、積極的にESDの推進に取り組んでいます。

ベトナム

SDGs4 SDGs10

ビントゥアン省、アンザン省の小学校のインクルーシブ教育研修システムの構築事業(第3年次)
日本NGO連携無償資金協力(2019年3月~2020年3月)

ベトナムでは、特別支援学校が各省注1に1校しかなく、定員が限られているため、障害のある児童が学校へ通えないケースが多く存在します。障害のある児童のうち、一部は公立小学校に通っており、ベトナム政府もそれを推奨していますが、教員は障害に対して理解が乏しく、教育現場は混乱していることが分かりました。そこで特定非営利活動法人アジア・レインボーは、日本NGO連携無償資金協力を通じて、障害のある児童も適切な教育を受けられるよう、ベトナム南部に位置するビントゥアン省とアンザン省の2省で公立小学校教員に対してインクルーシブ教育注2の研修システムの構築に取り組みました。

今回の事業では、ビントゥアン省とアンザン省のキーティーチャー注360名に対し、日本の専門家が個別教育計画書(IEP)注4の作成方法などを含むインクルーシブ教育の育成研修を実施しました。その後、キーティーチャーがそれぞれの省に戻り、省内各地区の教員に対して研修を行うことで、2省の全教員がインクルーシブ教育の研修を受ける体制を構築しました。その他にも総計600名の障害のある児童、両親、および教員に対してカウンセリングを行い、現状を的確に把握しながら活動することに努めました。

その結果、事業実施前は38%であったアンザン省の障害のある児童の初等教育就学率は、事業実施後には87%まで上昇し、ビントゥアン省でも68%から95%に改善されました。また、教育の現場からも、「研修を受けた教員の指導により、障害のある児童は以前よりリラックスして学習できており、以前は障害のある児童が留年する事例もあったが、現在は皆進級できている。」などの声が寄せられています。

このように日本は、障害のある児童が将来の可能性を引き出せるよう、教育機会の提供に貢献しています。

ビントゥアン省の小学校におけるインクルーシブクラスの様子(写真:アジア・レインボー)

ビントゥアン省の小学校におけるインクルーシブクラスの様子(写真:アジア・レインボー)

インクルーシブ教育の研修を受けた教員がビントゥアン省の小学校で授業を行う様子(写真:アジア・レインボー)

インクルーシブ教育の研修を受けた教員がビントゥアン省の小学校で授業を行う様子(写真:アジア・レインボー)

注1 ベトナムの行政区画の一つで県より上位のもの。

注2 人間の多様性を尊重し、障害のある者とない者がともに学ぶ仕組み。

注3 ベトナム各省の教育局が小学校の校長・副校長・教育局の職員から選任した、各省を代表する指導者。

注4 障害のある児童一人ひとりのニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくことを目的とした教育計画書。

用語解説

教育2030行動枠組(Education 2030 Framework for Action)
万人のための教育を目指して、2000年にセネガルのダカールで開かれた「世界教育フォーラム」で採択された「EFAダカール行動枠組」の後継となる行動枠組。2015年のUNESCO総会と併せて開催された「教育2030ハイレベル会合」で採択された。
教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE:Global Partnership for Education)
開発途上国、ドナー国・機関、市民社会、民間企業・財団が参加し、2002年に世界銀行主導で設立された途上国の教育セクターを支援する国際的なパートナーシップ。2011年にファスト・トラック・イニシアティブ(FTI:Fast Track Initiative)から改称された。
持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
持続可能な社会の創り手を育む教育。2017年の第72回国連総会決議において、ESDがSDGsのすべての目標達成に向けた鍵となることが確認され、2019年の第74回国連総会決議で採択された「ESD for 2030」においても、そのことが再確認された。「ESD for 2030」は、「国連ESDの10年(UNDESD)」(2005年から2014年)、および「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」(2015年から2019年)の後継プログラムであり、2020年から2030年までの新しい国際的な実施枠組。

  1. 注50 : 「Global Education Monitoring Report 2021」209ページ、413ページ、427ページ。
    https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000379875
  2. 注51 : 生きていくために必要となる知識、価値そして技能を身につけるための教育活動。主に初等教育、前期中等教育(日本の中学校に相当)、就学前教育、成人識字教育などを指す。
  3. 注52 : Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの単語の頭文字をとったもので、その4つの教育分野の総称。
  4. 注53 : エジプト日本科学技術大学(E-JUST:Egypt-Japan University of Science and Technology)は、「エジプト・日本科学技術大学の設置に関する日本国政府とエジプト・アラブ共和国政府との間の協定(二国間協定)」(2009年)に基づいて設立。同協定に基づき、日本は、日本型工学教育の特徴である「少人数、大学院・研究中心、実践的かつ国際水準の教育」を提供する大学としてE-JUSTの開設・運営を支援。現在は、E-JUSTが今後、中東・アフリカ地域における産業・科学技術人材を育成するエジプト国内のトップレベルの研究大学としての基盤を確立することを目指し、技術支援を実施している。
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