2-2 平和と安定、安全の確保のための支援
(1)平和構築と難民・国内避難民支援
国際社会では、依然として民族・宗教・歴史などの違いによる対立を原因とした地域・国内紛争が問題となっています。紛争は、多数の難民や国内避難民を発生させ、人道問題や人権を侵害する問題を引き起こします。そして、紛争は長年にわたる開発努力の成果を損ない、大きな経済的損失をもたらします。そのため、紛争の予防、再発の防止や、持続的な平和の定着のため、開発の基礎を築くことを念頭に置いた「平和構築」のための取組が国際社会全体の課題となっています。
< 日本の取組 >
2005年に設立された国際連合平和構築委員会などの場において、紛争の解決から復旧、復興または国づくりに至るまでの一貫した支援に関する議論が行われており、日本もこれまで平和構築基金に4,850万ドルを拠出しています。また、国連の場を活用し、ハイレベルでも平和構築の重要性が確認されており、2016年には岸田外務大臣(当時)がニューヨークにおいて、「アフリカにおける平和構築」に関する国際連合安全保障理事会(安保理)公開討論の議長を務めるとともに、日本は平和構築基金プレッジング会合において、当面1,000万ドル規模の拠出を目指す旨を表明しました。そのほか、2017年4月からは、日本は平和構築委員会の制度構築に関するフォーカルポイントとして議論を主導するなど、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、活発な取組を実施しています。
また、日本は、紛争下における難民の支援や食料支援、和平(政治)プロセスに向けた選挙の支援などを行っています。紛争の終結後は、日本は平和が定着するように、元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰(DDR)への取組を支援し、治安部門を再建させ、国内の安定・治安の確保のための支援を行っています。また、日本は難民や国内避難民の帰還、再定住への取組、基礎インフラ(経済社会基盤)の復旧など、その国の復興のための支援を行っています。さらに、平和が定着し、次の紛争が起こらないようにするため、日本はその国の行政・司法・警察の機能を強化し、経済インフラや制度整備を支援し、保健や教育といった社会分野での取組を進めています。また、これらの取組において平和構築における女性の役割の重要性に最大限配慮しています。このような支援を継ぎ目なく行うために、日本は国際機関を通じた二国間支援と、無償資金協力、技術協力や円借款といった支援を組み合わせて対応しています。
開発協力大綱において、国際連合平和維持活動(PKO)等の国際平和協力活動と開発協力との連携を強化していくことが掲げられました。国連PKO等の現場では、紛争の影響を受けた避難民や女性・子どもの保護や基礎的インフラの整備など、開発に役立つ取組が多く行われており、その効果を最大化するために、このような連携を推進することが、引き続き重要です。

パレスチナの初等教育の質向上事業
ガザ紛争後の長期化した人道危機に直面する子ども・青少年・家族の支援
日本NGO連携無償資金協力事業(2016年3月~実施中) ジャパン・プラットフォーム事業(2016年5月~実施中)

タレク・ブン・ズィヤド小学校の混雑する下校時の様子。(写真:特活パレスチナ子どものキャンペーン)
パレスチナのガザ地区では、10年以上続く経済封鎖に加えて、2014年夏のガザ紛争で多くの脆弱な人たちが被災し、困窮した生活を送っています。
日本のNGOであり、パレスチナにおいて長年支援活動を続けている「パレスチナ子どものキャンペーン(CCP)」は、ガザ地区において、子どもの基礎学力の向上や初等教育の質的向上を図るため、公立小学校や児童館で補習の授業の実施、教員の研修、教材の開発等を行っています。補習授業では、アラビア語、英語、算数、理科の各科目を詰め込み型ではなく楽しく学習することに気を配り、またレクリエーションの時間も持つことによって子どもたちが抱えているストレスを発散させ、子どもたちの健全な成長や学力の向上に大きく貢献しています。
また、CCPは、2014年のガザ紛争後の緊急人道支援の一環として、紛争被害を受けた家族への緊急物資配布、訪問診療やリハビリ器具の提供といった医療支援、子どもや青少年の居場所提供と心理サポート、道路清掃や農作業補助などの生活環境改善事業などを実施しています。物資配布や道路清掃では、パレスチナの青少年が担い手として参加するなど、青少年の積極的な社会参加を促すことにもつながりました。
CCPはこれらの事業と併行して、国連人口基金(UNFPA)と連携して乳がんの早期発見と治療に向けた啓発活動や乳がん患者の心理的サポートなども実施するなど、パレスチナにおいて複合的な支援に取り組んでいます。(2017年12月時点)
●難民・国内避難民支援
シリア等の情勢を受け、2016年末には世界の難民・避難民等の数が第二次世界大戦後最大規模となり、人道状況が厳しさを増しています。人間の安全保障の観点から、日本は、最も脆弱な立場にある人々の生命、尊厳および安全を確保し、一人ひとりが再び自らの足で立ち上がれるよう自立を支援するため、難民・国内避難民支援を含む人道支援を行っています。
具体的には、日本は主に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際移住機関(IOM)をはじめとした国際機関と連携して、シェルター、食料、基礎的生活物資等の支援を世界各地の難民、国内避難民に対し、継続的に実施しています。日本は国連世界食糧計画(WFP)、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、赤十字国際委員会(ICRC)などの国際機関等と連携することにより、治安上危険な地域においても、それぞれの機関が持つ専門性や調整能力等を活用しつつ、難民等への支援を実施しています。
また、日本は、国際機関を通じた難民支援を行う際、日本の開発協力実施機関であるJICAや民間企業との連携を図ることにより、目に見える支援の実施に努めています。たとえばUNHCRが行う難民支援においては、JICAと連携し、緊急支援と復興支援を連携させた支援を実施しています。
ほかにも、2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織である特定非営利活動法人「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」(「ウ.NGOが行う事業への資金協力」を参照)が難民・国内避難民支援を行っており、2016年度には、イエメン人道危機対応支援、イラク・シリア人道危機対応、パレスチナ・ガザ人道支援、南スーダン支援などを実施しました。

UNWOMENアズラック難民キャンプが運営するパソコン教室に参加するシリア難民の子どもたち。(写真:Christopher Herwig/UN Women)

UNWOMENアズラック難民キャンプが運営するヨルダン東部の難民女性支援センターで、縫製作業に従事するシリア難民女性。(写真:Christopher Herwig/UN Women)
2016年、日本はロンドンで開催されたシリア危機に関する支援会合において表明した、総額約3.5億ドルの支援を速やかに実施しました。この支援は、第一に特定の集団が疎外され過激化することを防ぐための包摂的なものであり、第二に人道支援と開発支援の連携を通じてシリア人に将来の復興への希望を与え受入国の負担を軽減する必要があるとの考えに基づいて、女性や若者も含めた職業訓練等を含んでいます。2011年のシリア危機発生以降、シリア、イラクおよび周辺国に対する日本の支援は、総額約19億ドル以上となりました。
2016年のG7伊勢志摩サミットにおいては、日本は「寛容で安定した社会」を中東地域に構築するため、2016年から2018年の今後の3年間で約2万人の人材育成を含む総額約60億ドルの包括的支援の実施を表明しました。これに基づいて、日本はこれまでに、食料支援、教育、電力センターおよび上下水道分野に対する支援、経済社会開発支援等の支援を着実に実施しています。この中東支援策の一つとして、日本は5年間で最大150名のシリア人留学生を受け入れ、教育の機会を提供し、将来のシリアの復興を担う人材を育成することとし、2017年には28名の留学生を受け入れました。
2016年の国連総会で開催された「難民および移民に関する国連サミット」において、安倍総理大臣は、難民への人道支援、自立支援(教育・職業訓練等)や受入国の支援のために、今後3年間で総額約28億ドル規模の支援を実施する旨表明し、日本はこれを着実に実施しているところです。
2017年9月には、エジプトで初めての「日アラブ政治対話」を実施し、河野外務大臣は、シリア、イラクおよび周辺国の人道危機に対し、避難民の帰還を促進し、地域のさらなる不安定化を防ぐ目的で、新たに約2,500万ドル規模の支援を発表しました。
こうした支援の一環として日本は、シリア・イラクの難民・国内避難民に対する保健、衛生、教育、食料分野などにおける支援や、シリア難民を受け入れている周辺国に対する支援を行っています。たとえば、日本はシリア難民の受入れに伴い、財政負担が増加したヨルダンに対して、廃棄物処理および水分野において、日本で製造された医療機材等を調達するための資金を供与しました。
また、日本は2017年2月にミャンマー・ラカイン州北部の住民および避難民に対し、食料やシェルター等の人道支援を実施しました。その後、バングラデシュへ避難民が大量流入したことを受け、これら避難民の劣悪な人道状況を改善するための人道支援を複数回にわたり実施しました。バングラデシュへの避難民の流入の勢いは収束を見せず、11月初旬には60万人を超えました。これを受け、日本は避難民の劣悪な人道状況を改善すべく、同年11月に食料、物資運搬、道路補修等の分野に対するさらなる支援を決定しました。
このほか、2017年6月に開催されたウガンダ難民連帯サミットにおいて、日本はウガンダにおける難民および受入れコミュニティに対する支援を表明しました。
しかし、長期化および深刻化する人道危機に対処するに当たっては、前述のように、人道支援と開発協力を並行して実施する(「人道と開発の連携」)だけでは効果的に対応できません。紛争発生後の対応のみならず、紛争の発生・再発予防にも重点を置くことにより、紛争の根本原因への対処を抜本的に強化することが必要です。これを実現するため、日本は、「人道と開発と平和の連携」の考え方を重視していきます。具体的に、日本は、紛争による人道危機が発生している国・地域では、緊急に必要とされる「人道支援」と、中長期的な視点の下に自立を後押しする「開発協力」を連携させて実施します。そして、人道危機の収束後、日本は、「平和構築や紛争再発を予防する支援」や「貧困削減・経済開発支援」を継ぎ目なく展開します。この考え方に基づき、日本はその強みを活かした取組を行っていきます。
●社会的弱者の保護と参画
紛争・地雷等による障害者、孤児、寡婦、児童兵を含む元戦闘員、国内避難民等の社会的弱者は、紛争の影響を受けやすいにもかかわらず、紛争終了後の復興支援においては対応が遅れ、平和や復興の恩恵を受けにくい現実があります。
国内避難民の支援に関して、日本政府は日本のNGOであるチェルノブイリ連帯基金(JCF)と共に、イラク・クルド自治区エルビル県において、現地医師への投薬指導や医療機材の供与等を通じ、国内避難民の健康・保健サービスの向上を支援しました。
また、児童兵の社会復帰や紛争下で最も弱い立場にある児童の保護・エンパワーメントのため、日本は国連児童基金(UNICEF)を通じた支援を行ってきており、たとえば中央アフリカにおいてはUNICEFを通じて「武装グループからの子どもの解放及び社会統合支援」事業に拠出しています。
●社会・人的資本の復興
日本は、紛争当事国が復興または国づくりに至るまでの間に、新たな紛争を助長せず、また、新たな紛争の要因を取り除く観点から、社会資本の復興、経済活動に参加する人的資本の復興を支援しています。
社会資本の復興について日本は、とりわけ、①生活インフラの整備、②運輸交通・電力・通信網の整備、③保健医療システムの機能強化、④教育システムの機能強化、⑤食料の安定供給を図っています。人的資本の復興について日本は、中長期的な経済開発に向けた支援を可能な限り組み合わせつつ、経済環境整備を図るとともに、失業の増大等による社会不安を未然に防ぐことなどを念頭に、生計向上、雇用機会拡大を図っています。
●治安・統治機能の回復

ケニア国家警察への警察車両15台と二輪車2台の引渡し式の様子。(写真:柴岡久美子/在ケニア日本大使館)
治安と統治機能の回復は、紛争の解決から復旧、復興または国づくりに至る切れ目のない支援を行う上でたいへん重要です。こうした観点から、日本は紛争当事国に平和が定着し、再び紛争状態に戻ることがないよう、元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰(DDR)への取組を支援しています。また、日本は国内の安定・治安の確保を図るとともに、行政体制の復旧、選挙制度改革等を通じた統治機能の回復への取組に対する支援や行政・司法・警察の機能を強化する取組を進めています。(選挙制度改革については、(3)民主化支援を参照)
●地雷・不発弾除去および小型武器対策

地雷汚染レベルが高いイラクの地雷対策組織に、日本が長年支援してきたカンボジア地雷対策センターの知見・技術を移転している。
かつて紛争中であった地域には不発弾や対人地雷が未だに残るとともに、非合法な小型武器が広く使われています。これらは一般市民に対しても無差別に被害を与え、復興と開発活動を妨げるだけでなく、新たな紛争の原因にもなります。不発弾・地雷の除去や小型武器の適切な管理、地雷被害者の能力強化など、国内を安定させ、治安を確保することに配慮した支援が重要です。
日本は、「対人地雷禁止条約」および「クラスター弾に関する条約」の締約国として、また、人道と開発と平和の連携の観点から、除去、被害者支援、リスク低減教育等にまたがる国際的な協力も着実に実行しています。
たとえば、(認定特定非営利活動法人)日本地雷処理を支援する会(JMAS)は、2014年から日本NGO連携無償資金協力を通じて、カンボジアにおける国立の地雷処理センター(CMAC)に地雷処理の教育課程を新設し、地雷処理教育の基盤づくりを行っています。さらに、この課程で教育を受けた職員は、カンボジアの国内および国外において地雷処理技術の普及に取り組んでいます。
また、アフガニスタンにおいては、(特定非営利活動法人)難民を助ける会(AAR Japan)が、地雷、不発弾等の危険性と適切な回避方法の普及を目的とした教育事業を実施しています。AAR Japanは2009年度から、日本NGO連携無償資金協力やジャパン・プラットフォーム(JPF)注20事業を通じて、アフガニスタン各地において、教材の開発や講習会等を通じた地雷回避教育を行っているほか、地域住民が自ら回避教育を行えるよう指導員の育成などを行っており、住民への啓発活動が進んできています。
ほかにも、地雷回避教育支援として日本は、国連児童基金(UNICEF)経由で2015年以降パレスチナ、イエメン、中央アフリカ、チャド、南スーダン、イラク、ウクライナにおいて支援を実施しました。
また、不発弾の被害が特に大きいラオスに対して日本は、主に不発弾専門家の派遣、機材供与、南南協力が行われてきており、2014年から不発弾処理機関の能力向上支援のほか、2015年からは、特に不発弾の被害が大きい貧困地域であるセコン県、サラワン県およびチャンパサック県において灌木(かんぼく)除去の機械化および前進拠点の整備を行うとともに、不発弾除去後の土地の開発支援を行っています。
2017年には、イラク、南スーダンを含む中東およびアフリカ諸国に対して、日本は国連PKO局地雷対策サービス部(UNMAS)を通じた地雷・不発弾対策支援(除去・危険回避教育等)を行っています。加えて、日本は日・UNDPパートナーシップ基金を通じ、これまでにガーナのコフィ・アナン国際平和維持訓練センターによるリベリア治安当局関係者を対象とした小型武器管理訓練プロジェクトを実施しています。
小型武器対策として日本は、開発支援を組み合わせた小型武器の回収、廃棄、適切な貯蔵管理などへの支援を行っています。また、日本は武器の輸出入管理や取締り能力の強化、治安の向上などを目指して関連する法制度の整備や、税関や警察など法執行機関の能力を向上する支援、元兵士や元少年兵の武装・動員解除・社会復帰事業支援等も実施しています。
●平和構築分野での人材育成

人材育成事業「プライマリー・コース」の国内研修の様子。(写真提供:一般社団法人広島平和構築人材育成センター)
平和構築の現場で求められる活動やそれに従事する人材に求められる資質は、多様化し複雑になってきています。これらに対応するため、日本は2007年度から2014年度にかけて、現場で活躍できる日本やその他の地域の文民専門家を育成する「平和構築人材育成事業」を実施してきました。この事業は、平和構築の現場で必要とされる実践的な知識および技術を習得する国内研修、平和構築の現場にある国際機関の現地事務所で実際の業務に当たる海外実務研修、ならびに修了生がキャリアを築くための支援(プライマリー・コース)を柱としてきました。2015年度以降は、「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」として、事業内容を拡大し、これまでのプライマリー・コースに加え、ミッドキャリア・コース、およびキャリア支援セミナーを実施しています。その修了生の多くが、南スーダン、ヨルダンやイスラエルなどの平和構築・開発の現場で現在も活躍しています。
ア.ミンダナオ和平
40年間にわたってフィリピン南部のミンダナオ地域では紛争が続いていましたが、2014年には包括和平合意文書が署名されました。
この合意では、新自治政府(バンサモロ注21)が発足するまでの移行プロセスとして、バンサモロ基本法の制定、住民投票、暫定統治機関の設置などが予定されています。これと同時に、MILF正規軍の武装解除と兵士たちの社会復帰、現地に数多く存在する私兵グループ等の解体、新たな警察組織の創設による治安の回復、紛争のため立ち後れている社会経済開発の促進など、様々な「正常化」プロセスを円滑に実施することも課題となっています。
和平合意が着実に実施され、これらのハードルをクリアしていけるかどうかが、ミンダナオ地域における真の和平達成の重要な鍵となります。そのためには、フィリピン政府とMILFのたゆまぬ努力に加え、日本を含む国際社会の支援が求められています。
< 日本の取組 >
日本は、国際監視団(IMT)の社会経済開発部門へJICAから開発専門家を派遣し、必要とされている支援が何かを調査し、小学校や井戸、診療所、職業訓練所などをつくるための支援に結びつけています。また、元紛争地域に対して草の根・人間の安全保障無償資金協力など開発協力プロジェクトを集中的に実施しています。これらは「日本バンサモロ復興開発イニシアティブ」(J-BIRD)と呼ばれる支援で、現地住民やフィリピン政府から高く評価されています。2011年には、日本の仲介により、アキノ大統領(当時)とムラドMILF議長との初のトップ会談が成田で実現し、ミンダナオ和平問題の解決に向けて信頼関係が築かれるきっかけになりました。
2014年にはJICAが「ミンダナオ和平構築セミナー」を広島市で開催し、アキノ大統領(当時)出席の下、ムラドMILF議長、デレス和平プロセス大統領顧問室(OPAPP)長官をはじめとする関係者が一堂に会し、和平プロセス推進に向けた決意を表明しました。この際には、バンサモロ地域の経済的自立の確保により一層焦点を当てる「J-BIRD2」への移行を表明しました。2017年3月に、日本は無償資金協力によるバンサモロ地域への配電網整備用の機材供与や紛争の影響を受けたミンダナオの子どものための平和構築および教育支援を決定しました。さらに、2017年11月には、日本は、武力衝突により壊滅的となったミンダナオ島マラウィ市の復興のための機材供与を決定しました。日本は、引き続き、学校・診療所・井戸などの建設、移行プロセスにおける人材育成、持続的発展のための経済開発(農業、鉱工業、インフラ整備などを見据えた協力)などの分野を柱として、真の和平達成のため、支援を継続・強化していく考えです。
ほかにも、日本は日本NGO連携無償資金協力によって、日本のNGOによる平和構築活動事業を支援しています。
イ.アフガニスタンおよびパキスタン支援
アフガニスタンでは、タリバーン等の反政府武装勢力等が各地で攻撃を繰り返しており、厳しい治安状況が続いています。2017年5月31日には、首都カブールにおいて、320名以上の死傷者を出す大規模テロが発生しました。2014年に発足したガーニ大統領率いる国家統一政府は、国際社会の支援を得つつ、国家の自立と安定に向けた改革努力として、汚職対策やガバナンスの改革を進めており、2018年7月に下院議員選挙・郡評議会選挙、2019年に大統領選挙が予定されています。また、国家統一政府は、2017年6月、主要国・周辺国を一同に集め、「カブール・プロセス」会合を開催し、アフガニスタン政府とタリバーン等反政府武装勢力との和解・和平の進展を目指し、地域の共通認識を形成するための議論を行いました。同年8月には、トランプ米大統領が、アフガニスタンに関する新たな戦略「対アフガニスタン・南アジア戦略」を発表し、米国のアフガニスタンに対する関与を引き続き表明しています。アフガニスタン、およびパキスタンを再びテロの温床としないため、日本をはじめとする国際社会は積極的に両国への支援を行っています。また、パキスタンの安定は、アフガニスタンをはじめとする周辺国のみならず、世界全体の平和と安定にとって重要です。日本は、同国に対し、テロ対策や民生分野で様々な支援を行っています。
< 日本の取組 >
●アフガニスタン

2017年1月、アフガニスタンの首都カブールを訪問した薗浦健太郎外務副大臣(当時)は、モハンマド・アシュラフ・ガーニ大統領を表敬し、意見交換を行った。
日本は、これまで一貫してアフガニスタンへの支援を実施しており、2001年以降の支援総額は約64億ドルに上ります(2017年10月初旬現在)。日本は、アフガニスタン支援における主要ドナーとして、同国政府および他のドナー国・機関との協調に努めてきました。
2012年、日本は、「アフガニスタンに関する東京会合」をアフガニスタンと共催し、約80の国および国際機関の代表が参加する中、成果文書として「東京宣言」を発表しました。この東京会合において、日本はアフガニスタンの持続可能な開発に向け、アフガニスタンおよび国際社会の相互責任を明確にするとともに、それを定期的に確認・検証する枠組みである「相互責任に関する東京フレームワーク(TMAF)」を構築しました。日本は、アフガニスタンに対し、「2012年よりおおむね5年間で開発分野および治安維持能力の向上に対し、最大約30億ドル規模の支援」を行うことを表明し、着実に実施しました。
2016年に開催された「アフガニスタンに関するブリュッセル会合」では、これまでの国際社会と同国政府の相互のコミットメントを更新する重要な機会となり、日本は2017年から2020年末までの4年間に年間最大400億円の支援を表明するとともに、アフガニスタン側のさらなる改革努力を求めました。
アフガニスタンの自立と安定に向けた取組を支えるため、現在の日本の支援は、治安分野では警察の能力強化、開発分野では農業開発、人づくり、輸送インフラ整備に重点を置いています。
●パキスタン
2001年の米国同時多発テロ後に、国際社会と協調してテロ対策を行うことをパキスタンが表明して以来、日本は同国に対して積極的な支援を行っています。また、日本はパキスタンにおける治安改善に貢献するため、アフガニスタンとの国境地域で教育、保健、職業訓練等について協力を行い、民生安定化を支援してきています。
このほか、テロ対策に資する機材等を購入するための資金として、日本は2017年2月に5億円の無償資金協力を実施しました。
ウ.中東和平(パレスチナ)
パレスチナ問題は半世紀以上も続くアラブとイスラエルの紛争の核心であり、中東和平の問題は日本を含む世界の安定と繁栄にも大きな影響を及ぼすものです。日本は、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する二国家解決を支持しています。
長年の占領により、パレスチナはイスラエル経済と国際社会の支援に頼らざるを得ない状況です。また移動制限等のイスラエルによる占領政策や経済の停滞により失業率は高止まりしており、特に封鎖されたガザ地区では厳しい人道状況が継続しています。二国家解決の実現には、将来の独立したパレスチナが持続可能な国家となるよう人々の生活状況を改善しつつ、同時にパレスチナ経済を自立させることも重要な課題になっています。
< 日本の取組 >


2017年4月、パレスチナのジェリコ農産加工団地(JAIP)を視察する岸信夫外務副大臣(当時)
日本は、パレスチナに対する支援を中東和平における貢献策の重要な柱の一つと位置付け、特に1993年のオスロ合意以降、パレスチナに対して総額約18億ドル以上の支援を実施しています。具体的には、日本は東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区の社会的弱者やガザ地区の紛争被災民等に対して、その厳しい生活状況を改善するために国際機関やNGO等を通じた様々な人道支援を行うとともに、民生の安定・向上、財政基盤の強化と行財政能力の強化、経済的自立のための支援のために、将来のパレスチナ国家建設に向けた準備とパレスチナ経済の自立化を目指した取組も行っています。
2006年以降は、日本独自の中長期的な取組として、日本は、イスラエル、パレスチナおよびヨルダンとの4者による域内協力により、ヨルダン渓谷の経済社会開発を進める「平和と繁栄の回廊」構想を提唱し、その旗艦(きかん)事業であるジェリコ農産加工団地(JAIP)開発に取り組んでいます。
さらに、2013年、日本は人材育成や民間経済の発展等に関するアジアの知見を活用し、パレスチナの経済自立を支援する「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)」を立ち上げ、これまで人材育成のための三角協力注22や貿易・投資拡大に向けた会合を実施しています。
2015年には、安倍総理大臣がパレスチナを訪問し、アッバース大統領と会談し、ガザ復興、経済・社会開発、財政、医療・保健分野等での支援を目的に、総額約1億ドルの支援を伝えました。
2016年には、アッバース大統領が訪日し、安倍総理大臣は、7,800万ドル以上の支援を伝え、アッバース大統領から多大な感謝の表明がありました。
また2017年9月に国連で開催されたパレスチナ支援のための閣僚級会合には河野外務大臣が出席し、パレスチナに対する約2,000万ドルの支援を表明するとともに、今後上述の「平和と繁栄の回廊」構想を拡大していく旨述べました。
エ.サヘル地域
「サヘル注23諸国」に厳密な定義はありませんが、主に、モーリタニア、セネガル、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、カメルーン、チャドの8か国を指します。
砂漠を含む広大な領土を持つサヘル地域は、干ばつ等の自然災害に加え、貧困、国家機能の脆弱(ぜいじゃく)さなどにより、政情不安の問題、テロや武器・不法薬物等の不法取引、誘拐等組織犯罪の脅威が深刻になっています。サヘル地域諸国では、テロリスト等の出入りを防ぐための十分な国境管理を行うことが難しく、また、武器密輸の温床にもなっています。したがって、この地域全体の治安能力・ガバナンスの強化や、難民等の人道危機への対処および開発が、地域および国際社会の課題となっています。
< 日本の取組 >
日本は、2013年の在アルジェリア邦人に対するテロ事件注24を受けて、岸田外務大臣(当時)が外交の3本柱注25を発表しました。さらに、2015年には、シリアにおける邦人殺害テロ事件を受けた今後の日本外交として、日本は新たな3本柱注26を打ち出し、サヘル地域の平和と安定に向けた取組を加速させています。
日本は2008年以降、マリの平和維持学校に対して累計4億500万ドルの支援を行っており、また2017年には国立警察学校の改修等の支援を実施しました。これに加え、日本は治安・司法当局に対する機材の供与も実施しています。
また、サヘル地域の平和と安定に貢献する支援として、日本は国境管理を通じたサヘル地域の安定と人間の安全保障計画や若年層の過激派対策支援および市民権啓発活動計画等を実施しています。
これらの支援を通じて、国境管理能力が強化され、若者の暴力的過激主義への傾倒を防ぐことが期待されるともに、サヘル各国における治安状況の改善、テロなどの潜在的脅威の低減、ひいては地域全体の対処能力の向上が期待されます。
法務省では、UNAFEIを通じて、「第4回仏語圏アフリカ刑事司法研修」として、仏語圏アフリカ諸国の刑事司法実務家を対象に、捜査・訴追・公判能力の向上、コンピュータ・ネットワークを使用した犯罪への対策をテーマとした研修を実施しました。この研修は、仏語圏アフリカ諸国における刑事司法を充実・発展させることで、これら地域において世界的な課題ともなっている治安の悪化や深刻な汚職問題の解決に寄与するものです。
日本は、サヘル諸国の平和と安定のため、サヘル諸国および国際機関、そしてほかの支援機関と一層密接な連携を図り、支援を着実に実施していきます。
オ.南スーダン
南スーダンでは、2016年に、首都ジュバにおいてキール大統領派とマシャール第一副大統領派との間で衝突が発生し、同地の治安が急速に悪化したため、JICA関係者を含む邦人が退避しました。その後、ジュバは比較的落ち着いているものの、地方では政府軍と反主流派の衝突や武装強盗の活動など、現在も不安的な情勢が続いており、南スーダンは依然として多くの困難を抱えています。
< 日本の取組 >
日本の対アフリカ外交にとって、平和構築は重要課題の一つです。中でも、南北スーダンの安定はアフリカ全体の安定に直結することから、アフリカにおいて重点的に平和の定着支援に取り組まねばならないうちの一つです。このような認識の下、日本は、2005年以降スーダンおよび南スーダン両国に対し15億ドル以上の支援を実施しています。
南スーダンに対して、日本は平和の定着に関する支援を行うとともに、平和の定着を同国の国民が実感し、再び内戦に逆戻りすることがないよう基礎生活分野注27等に対する支援を行っています。また、日本はインフラ整備やガバナンス(統治)分野を重視した支援も実施しています。
2017年3月、日本は、今後の対南スーダン支援について、東アフリカの地域機構(IGAD)を通じた衝突解決合意の監視活動への支援など、政治プロセスの進展への支援、宗教団体や青年団体など南スーダン国内の各種団体が対話に参加できるようにするための支援等の国民対話支援、公務員の財政管理能力の構築支援、警察能力の強化支援などの人材育成、食糧援助を含む人道支援といった支援を継続・強化していくことで、新たな段階を迎えつつある南スーダンの国づくりにおいて、積極的に貢献していくことを表明しました。2017年5月、5年以上にわたって国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に派遣されていた自衛隊の施設部隊が活動を終了しましたが、司令部要員の派遣を継続することで日本のUNMISSの活動への貢献は引き続き行われています。
- 注20 : ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、日本のNGOが紛争や自然災害に対し迅速かつ効果的に緊急人道支援を行うことを目的に、NGO、経済界、政府の三者で立ち上げた組織(NPO法人)。2000年8月設立。
- 注21 : 「バンサモロ」とは、イスラム反政府派が自分たちを指す呼び方。
- 注22 : 用語解説「南南協力」を参照。
- 注23 : 「サヘル(Sahel)」とはサハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域。主に西アフリカについて用いられるが、場合によりスーダンやアフリカの角の諸地域を含めることもある。語源はアラビア語の「岸辺」という意味。サヘル諸国のことをサハラ南縁諸国ともいう。
- 注24 : 武装集団が、アルジェリア東部のティガントゥリン地区にある天然ガス関連施設を襲撃し、作業員などを人質にして立て籠もった。アルジェリア軍部隊が1月19日までに制圧したが、邦人10人を含む40人が死亡した事件。
- 注25 : ①国際テロ対策の強化、②サハラ砂漠の南のサヘル・北アフリカ・中東地域の安定化支援、③イスラム・アラブ諸国との対話の推進の3本柱。
- 注26 : ①テロ対策の強化、②中東の安定と繁栄に向けた外交の強化、③過激主義を生み出さない社会の構築支援の3本柱。
- 注27 : 基礎生活分野:衣食住や教育など人間としての基本的な生活を営む上で最低限必要なもの。