(3)民主化支援
統治と開発への国民の参加および人権の擁護と促進といった民主主義の基盤強化は、開発途上国の中長期的な安定と開発の促進にとって極めて重要な要素です。特に、民主化に向けて積極的に取り組んでいる開発途上国に対しては、開発協力大綱の原則の観点からも、これを積極的に支援し、選挙制度支援など民主化への動きを後押しすることが重要です。
< 日本の取組 >
2013年に開催された日・カンボジア首脳会談において、フン・セン首相から安倍総理大臣に対して、選挙改革への支援が要請されました。これを受け、日本は①技術的助言、②専門家派遣、③機材供与から成る選挙改革支援を実施し、日本やEUが中心となって、有権者リストの刷新や有権者教育等を支援した結果、選挙プロセスへの信頼が高まり、2017年6月の円滑な地方選挙につながりました。
東ティモールに対して日本は、「社会的包摂(ほうせつ)、多層的ガバナンス及び法の支配強化のための選挙支援計画(UNDP連携)」を2016年に国連開発計画(UNDP)との間で署名し、同国の2017年の大統領選挙および国民議会選挙をはじめとした、国内の選挙の民主的かつ平和的な実施のために、選挙管理機関、ジャーナリズム、司法および警察への研修・技術支援や機材の供与等を行いました。
また、2017年3月にキルギスに対し、日本は同国の公正な選挙運営および電子化政府の基盤となる国家統一登録制度の構築を支援するために、本人確認のための生体認証データを組み込んだIDカード・パスポートの発行、および遠隔地における効率的な情報収集に必要な機材を搭載した専用車や情報通信技術(ICT)機材を供与する6億4,900万円の無償資金協力「電子政府システム設立のための国家統一住民登録支援計画(UNDP連携)」に署名しました。2017年10月に行われた大統領選挙では、これらの機材が有効に活用されることで、重複投票や成り済まし投票等の不正を防止することができ、同選挙は大きな混乱もなく、平和的に実施されました。
2017年9月、日本は、リベリアの大統領および下院議員選挙の公正・公平な選挙の実現を目的として、同国国家警察の治安維持体制の強化を支援するために、1億2,800万円の無償資金協力「選挙における治安の支援計画(UNDP連携)」を実施しました。
ほかにも、2018年にパキスタンで総選挙の実施が予定されていることから、2017年11月に、日本はUNDPとの間で「選挙支援計画」(6.39億円)に署名し、選挙が自由で公正かつ円滑に実施されるよう、選挙プロセスに係るパキスタン政府の能力向上を支援しています。
このような支援を通じて、選挙が公正かつ透明性を持って円滑に実施され、日本の支援がその国の平和や民主主義の定着に寄与するとともに、国際社会の平和と安定につながることが期待されます。
●メディア支援

ミヤンマーの国営放送局の収録スタジオのオペレーションルームで、スタッフの動きを確認する林樹三郎JICA専門家。(写真:久野真一/JICA)
世界では、紛争の影響下にある国で、メディアが政治に利用されるケースも多くあります。政治家に利用されない、公正・中立・正確なメディアの育成が紛争予防の大きな課題ともなっています。
上述の2017年11月に日本が署名したパキスタンに対する「選挙支援計画」は、バランスの取れた、中立的かつ客観的な選挙報道の実施や平和で民主的な論考のため、選挙プロセスや選挙報道に係る各種研修を通じてメディア関係者の能力向上を支援しています。
●フィジー
中波ラジオ放送復旧計画
無償資金協力(2015年8月~2017年8月)
中波ラジオ放送復旧計画は、2014年9月の選挙で8年ぶりに民政に復帰して以来初めての本格的なフィジーへの無償資金協力です。フィジー放送会社(FBC:Fiji Broadcasting Corporation)の中波アンテナ、中波送信機、送信機建屋などを整備することにより、中波ラジオ放送の放送範囲の拡大と放送の安定化・品質改善を図り、それによって国民に対して災害情報等を確実かつ迅速に伝達することを目的としています。
人口約90万人のフィジーは、330の島々から構成されています。同国においては、ニュース、天気および教育等、生活に必要な情報の入手手段として日常的にラジオが使用されており、特にサイクロン等の自然災害が多い同国において、ラジオ放送は、国民に対し確実かつ迅速に災害情報を発信するための極めて重要な手段です。

中波ラジオのアンテナ。(写真:JICA)
現在、中波ラジオ(AM)放送はFBCによって提供されていますが、2000年に設置された送信機は経年劣化による故障を繰り返していました。FM放送による放送サービスは継続されているものの、中波ラジオ放送に比べ受信可能範囲が狭く、災害情報などを離島部まで伝達できないため、中波ラジオ放送の早期復旧が求められていました。また、フィジー政府は「民主化及び持続的な社会経済開発2010-2014」において、情報・通信や防災を重要な政策として掲げ、国民の情報へのアクセスとコミュニティの災害対応能力の向上を重要視していることから、この事業は災害情報などの確実かつ迅速な伝達に寄与することが期待されています。
この事業により、ロトゥマ島域を除くフィジー全土でラジオ放送が受信可能となり、放送中断時間も年平均100時間から8時間に大幅に削減される予定です。