第5節 多様なアクターとの連携による開発協力
近年、政府開発援助(ODA)をめぐる国際環境は、経済のグローバル化や多くの開発途上国が新たな投資先・市場として注目され、かつ、ODAの約2.5倍にも及ぶ民間資金が開発途上国に流入するなど大きく変化しており、こうした環境の変化の中で、日本における国際協力の形も変化を遂げています。それと同時に、開発途上国の開発においては、政府・国際機関のみならず、民間企業、NGOなどによる活動が重要性を増しており、また、地方自治体や中小企業なども新たな開発パートナーとして注目されています。
そうした中、ODAの役割についても変化が生じており、様々なアクター(主体)が、それぞれの得意分野を活かした多様なアプローチで開発途上国の開発に取り組んでいます。そうした一つひとつをODAがつなぎ、厚みのあるアプローチをとることで、相乗効果によってより大きな開発効果が期待されています。
たとえば、開発途上国において持続可能な成長を達成する上で、民間企業の役割が重視されるようになっています。開発途上国への直接投資の増加は、開発途上国への技術・ノウハウの移転、さらには雇用増加や所得増大につながります。具体的には、開発途上国のビジネス環境整備につながるインフラ整備、開発途上国の産業人材の育成、BOPビジネス(BOP:Base of the Economic Pyramid、参照)支援など、官民が連携した取組が重要となっています。こうした官民連携により開発途上国の経済発展に寄与した事例としては、ミャンマーのヤンゴン市郊外の経済特別区における工業団地の開発・販売・運営事業や、ベトナムにおいて、日本向け技能研修生・技術者の派遣前基礎訓練や帰国後の現地進出日本企業などへの就職支援を実施した事例などがあります。

「沖縄連携によるサモア水道公社維持管理能力強化プロジェクト(参照)」で、給水区内の流量管理を行うサモア水道公社市街課無収水対策班(写真:富山健太/ JICA)
さらに、日本の地方自治体の役割も重要性を増しています。近年、アジアをはじめとした新興国の経済発展は目覚ましいものがありますが、その一方で、急激な経済発展や、都市化の進展により、水、エネルギー、廃棄物処理、都市交通、公害対策、防災といった都市問題に対応するニーズが急増しており、日本の地方自治体に多く蓄積されている知見やノウハウを、開発途上国の開発課題に役立てることが期待されています。こうした日本の地方自治体がODAを活用して途上国の課題に取り組んだ事例としては、横浜市がフィリピンのメトロセブ水道区で上水供給改善事業に対して行った技術協力や、沖縄県宮古島市がサモアの水道事業運営に対して行った草の根技術協力、北九州市が協力したカンポット市の上水道施設に対する無償資金協力などがあります。
また、NGOは、開発途上国の現場の多様な課題やニーズをきめ細やかに把握し、状況に応じて迅速に対応を行うことができる存在であり、国民参加による日本の「顔の見える援助」の代表格といえます。現在、国際協力活動に取り組んでいる日本のNGOの数は400団体以上あるといわれており(2016年12月時点)、最近では、イラク・シリアおよびその周辺国、イエメン等における紛争や、ネパール大地震等の大規模自然災害に対応する緊急人道支援へのNGOの参加が国際的な注目を集めるなど着実な成長を遂げています。
NGOは開発協力における政府にとっての重要なパートナーであり、開発協力大綱では、NGO /市民社会との連携を戦略的に強化することとしています。
外務省は、開発協力に関する国民の理解と支援を得る上で、また、ODAを効果的に実施していくために、NGOと積極的に連携しています。開発協力大綱の下、2015年6月には、今後5年間の連携の方向性を定めた中期計画をNGOと共に策定し、現在その実施に努めています。中期計画では、外務省とNGOの連携について、①NGOの開発協力活動に対する資金面での協力、②NGOの能力向上に対する協力、③開発協力政策やNGOとの連携に関するNGOとの対話、および④開発協力における協働を基本的な軸としています。