2015年版開発協力白書 日本の国際協力

(5)資源・エネルギーへのアクセス確保

世界で電気にアクセスできない人々は約13億人(世界の人口の18%に相当)、特に、サブサハラ・アフリカでは、人口の約3分の2(約6億2,000万人)に上るといわれています。また、サブサハラ・アフリカでは、人口の約5分の4(約7億3,000万人)が調理に際して屋内大気汚染をもたらす、木質燃料(木炭、薪(まき)など)に依存しており(注112)、若年死亡の主要因となっています。(注113)電気やガスなどのエネルギー・サービスの欠如は、産業の発達を遅らせ、雇用機会を失わせ、貧困をより一層進ませ、医療サービスや教育を受ける機会を制限するといった問題につながります。今後、世界のエネルギー需要はアジアをはじめとする新興国や開発途上国を中心にますます増えることが予想されており、エネルギーの安定的な供給や環境への適切な配慮が欠かせません。

 

< 日本の取組 >

日本は、開発途上国の持続可能な開発およびエネルギーを確保するため、近代的なエネルギー供給を可能にするサービスを提供し、産業育成のための電力の安定供給に取り組んでいます。また、省エネルギー設備や再生可能エネルギー(水力、太陽光、太陽熱、風力、地熱など)を活用した発電施設など、環境に配慮したインフラ(経済社会基盤)整備を支援しています。

2015年6月のG7エルマウ・サミット(ドイツ)においては、首脳宣言付属書としてアフリカにおけるエネルギーアクセスを改善させることを目的とした「アフリカにおける再生可能エネルギーに関するイニシアティブ」を発表しました。

2015年11月、ファティ・ビロル国際エネルギー機関(IEA)事務局長と会談する武藤容治外務副大臣

2015年11月、ファティ・ビロル国際エネルギー機関(IEA)事務局長と会談する武藤容治外務副大臣

資源国に対しては、その国が資源開発によって外貨を獲得し、自立的に発展できるよう、鉱山周辺のインフラ整備など、資源国のニーズに応じた支援を行っています。日本はこうした支援を通じて、開発途上の資源国との互恵的な関係の強化を図り、また、企業による資源の開発、生産や輸送を促進し、エネルギー・鉱物資源の安定供給の確保に努めます。国際協力銀行(JBIC)(注114)、日本貿易保険(NEXI)(注115)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)(注116)による支援に加え、日本のODAを資源・エネルギー分野で積極的に活用していくことが重要です。また、国際的な取組としては、2014年6月のG7ブリュッセル・サミットにおいて、開発途上国が天然資源に関する契約を交渉する能力を強化するため、複雑な契約交渉の支援強化(CONNEX)(注117)に係る新たなイニシアティブを発表しました。

また、日本は、採取産業透明性イニシアティブ(EITI)(注118)を積極的に支援しています。EITIとは、石油・ガス・鉱物資源等の開発において、資金の流れの透明性を高めるための多国間協力の枠組みです。採取企業が資源産出国政府へ支払った金額を、その政府は受け取った金額をEITIに報告し、資料の流れを透明化します。48の資源産出国と日本を含む多数の支援国、採取企業やNGOが参加し、腐敗や紛争を予防し、成長と貧困削減につながる責任ある資源開発を促進することを目指しています。

 


  1. 注112 : (出典)World Energy Outlook 2014
  2. 注113 : (出典)国際エネルギー機関(IEA)「2014年世界エネルギー展望」(2012年時点の推定)、国際エネルギー機関(IEA)「アフリカエネルギー展望(2014)」
  3. 注114 : 国際協力銀行 JBIC:Japan Bank for International Cooperation
  4. 注115 : 日本貿易保険 NEXI:Nippon Export and Investment Insurance
  5. 注116 : 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 JOGMEC:Japan Oil, Gas and Metals National Corporation
  6. 注117 : 複雑な契約交渉の支援強化 CONNEX:Strengthening Assistance for Complex Contract Negotiations
  7. 注118 : 採取産業透明性イニシアティブ EITI:Extractive Industries Transparency Initiative

●ケニア

太陽光発電によるロイトキトク県ンカマ地区住民の生活環境改善計画
草の根無償資金協力・官民連携(2014年3月~2014年11月)

マウント・サウス・ンカマアカデミーの児童たちの歓迎を受ける寺田達志大使(写真:在ケニア日本大使館)

マウント・サウス・ンカマアカデミーの児童たちの歓迎を受ける寺田達志大使(写真:在ケニア日本大使館)

ケニアは配電線網が以前よりも整備され、配電線網の延伸によって未電化世帯の電化を進めていくことが可能となってはいます。しかし、実際には引き込み料金負担や不安定な電力供給などの問題から、配電線が架設された地区においても電気の引き込みを行わない家庭が多くあります。そうした家庭では灯油ランプを使用していますが、子どもたちが夜間に家庭学習をする際には、目や呼吸器に深刻な障害が生じます。

ODAの国際協力では、日本のNGOや民間企業が開発途上国などを支援する際の、官民連携案件に関する提案を受け付けています。ケニアにおいては、「太陽光発電によるロイトキトク県ンカマ地区住民の生活環境改善計画」が、日本の京セラ株式会社から、そのCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動、BOP(Base of the Pyramid:開発途上地域の生活向上や社会的課題解決への貢献を目指す)ビジネスの官民連携案件として提案され、ンカマ地区に太陽光発電システムを導入し、教育水準の向上と住民の生活の改善を図る協力を始めました。

赤道にまたがり日差しの強いケニアでは、太陽光発電は非常に有益です。ンカマ地区の小学校に設置されたソーラー発電システムは20年以上の耐久性を持ち、今後とも安定した電力提供がされていきます。また、夜間用の小型ソーラーランプが家庭学習をする子どもたちのために配布され、携帯電話の充電も可能になるなど、住民の生活向上に大きく貢献しています。

ンカマ地区の太陽光発電における官民連携の取組の実績が、ケニアならびに近隣のアフリカ諸国に広がり、子どもたちの学習環境や人々の生活改善に大きく寄与していくことが期待されます。(2015年8月時点)

●モルドバ

バイオマス燃料有効活用計画
環境・気候変動対策無償資金協力(2013年6月~実施中)

ペレット製造設備。原料乾燥設備(写真:JICA)

ペレット製造設備。原料乾燥設備(写真:JICA)

 モルドバは鉱物資源に乏しく、天然ガス、石炭といったエネルギー源のほとんどをロシア、ウクライナ等の周辺国からの輸入に頼っています。旧ソ連時代は連邦から安価な燃料が供給されていましたが、独立以降は国際市場価格で燃料を購入することになり、国家財政を圧迫しています。また、地方では、行政府の財政難により厳冬期に暖をとるための十分な量の燃料を購入できず、地域の学校等の公共施設に十分な暖房が行き届かない状況にあります。暖房を供給できない地方では冬季に学校を一時閉鎖することもあります。こうしたことから、安定的な暖房の供給をいかに確保するかが大きな課題です。

2013年、このようなモルドバからの要請を受けた日本は、11億5,400万円を供与限度額とする環境・気候変動対策無償資金協力「バイオマス燃料有効活用計画」に関する取り決めを交わしました。

この協力により、モルドバにおいて、ワラ、麦や果樹の枝の切りくず等のバイオマスから燃焼効率の高い燃料(ペレット)を製造するシステムが導入され、そのペレット専用のボイラーが教育施設等において整備されます。

この協力は、日本による2013年以降の気候変動対策に関する途上国支援の一環として実施するものです。また、中小企業を含む日本の技術・製品(ペレット製造機およびボイラーなど)を積極的に活用することによって、優れた技術を持つ日本企業の国際展開を後押しする事業の一つとしても行われるものです。

この協力により、公共施設の暖房設備が整備され、各施設の燃料費が削減されるほか、モルドバの二酸化炭素の排出量も削減されることが期待されます。さらに、ペレットが代替燃料として普及することにより、モルドバのエネルギー安全保障の強化も期待されます。

日本は、すべての国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築に向け、モルドバと引き続き気候変動分野で連携していきます。(2015年8月時点)

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る