2015年版開発協力白書 日本の国際協力

(5)女性の能力強化・参画の促進

開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多く、女性は様々な面で脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれやすい状況にあります。ミレニアム開発目標(MDGs)が策定された2000年代初めと比べると、女子の就学率は格段に向上し、女性の政治参加は増加し、より多くの女性が幹部公務員級、大臣級のポストに就いています。(注36)しかし、政府による高度な意思決定など公の場に限らず、家庭など私的な場面でも、自分たちの生活に影響を及ぼす意思決定に参加する機会を、女性が男性と同じように持っているとはいえない状況が続いている国や地域もまだまだ多くあります。

一方で、女性は開発の重要な担い手でもあり、女性の参画は女性自身のためだけでなく、開発のより良い効果にもつながります。たとえば、これまで教育の機会に恵まれなかった女性が読み書き能力を向上させることは、公衆衛生やHIV/エイズ等の感染症、予防に関する正しい知識へのアクセスを向上させ、適切な家族計画の策定につながり、女性の社会進出、女性の経済的エンパワーメントの促進にもつながります。

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の目標5に「ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う」ことが掲げられています。「質の高い成長」を実現するためには、ジェンダー平等(男女間の不平等な関係を改善していくこと)と女性の地位向上、そしてジェンダー主流化の推進が不可欠であり、そのためには男女が等しく開発に参加し、等しくその恩恵を受けることが重要なのです。

 

< 日本の取組 >

2015年12月、「女性に対する暴力終焉に向けた世界会議」の機会にムランボ=ヌクカUN Women事務局長と会談する山田美樹外務大臣政務官

2015年12月、「女性に対する暴力終焉に向けた世界会議」の機会にムランボ=ヌクカUN Women事務局長と会談する山田美樹外務大臣政務官

日本は、これまで開発協力において、開発途上国の女性の地位向上に取り組むことを明確にしています。

1995年に、女性を重要な開発の担い手であると認識し、開発のすべての段階(開発政策、事業の計画、実施、評価)に女性が参加できるよう配慮していく考え方である「開発と女性(WID)(注37)イニシアティブ」を策定しました。2005年には、WIDイニシアティブを抜本的に見直し、持続的で公平な社会を目指そうとするアプローチ「ジェンダーと開発(GAD)(注38)イニシアティブ」を策定し、従前より重点分野としていた女性の教育、健康、経済社会活動への参加に加え、男女間の不平等な関係や、女性の置かれた不利な経済社会状況、固定的な男女間の性別役割・分業の改善などを含む、あらゆる分野においてジェンダーの視点を反映することを明記しました。

2015年2月に決定した開発協力大綱においても、「女性の参画の促進」を実施上の原則の一つに掲げ、開発協力のあらゆる段階における女性の参画を促進し、また、女性が公正に開発の恩恵を受けられるよう、一層積極的に取り組むことを明記しました。

日本は、2011年に国連システムの中の4つの部門を統合し設立された、ジェンダー平等と女性のエンパワーメント(自らの力で問題を解決することのできる技術や能力を身に付けること)のための国連機関(UN Women(ウィメン))(注39)を通じた支援も実施しており、2014年度には約1,850万ドルの拠出を行い、女性の政治的参画、経済的エンパワーメント、女性・女児に対する暴力撤廃、平和・安全分野の女性の役割強化、政策・予算におけるジェンダー配慮強化等の取組に貢献しています。

また、紛争下の性的暴力は、日本としても看過できない問題であるという立場から、「紛争下の性的暴力」担当国連事務総長特別代表(SRSG:Special Representative of the Secretary General)事務所との連携を重視しており、2014年度は同事務所に対し、255万ドルの拠出を行いました。

2013年6月のTICAD(ティカッド) Vでは、女性と若者のエンパワーメントを基本原則の一つに掲げ、女性の権利確立や雇用教育機会の拡大のため、アフリカ諸国、開発パートナー等と共に取り組んでいくことを表明しました。また、2013年9月、第68回国連総会における一般討論演説において、安倍総理大臣は、「女性が輝く社会」の実現に向けた支援の強化を打ち出しました。具体的には、「女性の社会進出推進と能力強化」、「国際保健外交戦略の推進の一環としての女性の保健医療分野の取組強化」、「平和と安全保障分野における女性の参画・保護」を3つの柱として、2013~2015年の3年間で30億ドルを超えるODAを実施することを表明し、2014年の1年間で約14.76億ドルの支援を実施しています。

2014年9月に、安倍政権の最重要課題の一つである「女性が輝く社会」を実現するための取組の一環として、「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」“World Assembly for Women 2014”(WAW! 2014)を初めて開催しました。また、2015年8月に2回目となるWAW! 2015を開催し、2014年開催時の約2倍近い国から女性分野で活躍する国内外のリーダー145人が参加しました。WAW! 2015では、2014年に引き続き、参加者からのアイデアや提案をとりまとめたWAW! To Do 2015(国連文書:A/C.3/70 /3)を発出しました。

2015年3月にミシェル・オバマ米大統領夫人が訪日した際には、安倍昭恵総理夫人との間で女児・女性のエンパワーメントとジェンダーに配慮した教育関連分野において、2015年からの3年間で420億円以上のODAを実施することが表明されました。

2015年9月、安倍総理大臣は、国連総会一般討論演説においては、安保理決議第1325号に基づく女性の参画と保護に関する「行動計画」を定めたことを発表し、2014年に続き2015年もWAW! 2015を開催したことに触れ、女性のエンパワーメント、活躍促進の分野で日本が世界をリードしていく決意を示しました。

 

用語解説
ジェンダー主流化
あらゆる分野での社会的性別(ジェンダー)平等を達成するための手段。GADイニシアティブでは、開発におけるジェンダー主流化を「すべての開発政策や施策、事業は男女それぞれに異なる影響を及ぼすという前提に立ち、すべての開発政策、施策、事業の計画、実施、モニタリング、評価のあらゆる段階で、男女それぞれの開発課題やニーズ、影響を明確にしていくプロセス」と定義している。

  1. 注36 : (出典)The Millennium Development Goals Report 2015
  2. 注37 : 開発と女性 WID:Women in Development
  3. 注38 : ジェンダーと開発 GAD:Gender and Development
  4. 注39 : UN Women ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関:United Nations Entity for Gender Equality and the Empowerment of Women

●コートジボワール

西部内戦被害女性の自立を通じた社会統合支援
UN Womenを通じた支援(2014年4月~2015年6月)

川村裕大使らによるアチャケ(キャッサバを粉状にしたもの)加工作業場の視察(写真:UN Women)

川村裕大使らによるアチャケ(キャッサバを粉状にしたもの)加工作業場の視察(写真:UN Women)

西アフリカに位置するコートジボワールの西部地域は、内戦の影響を最も多く受けた地域の一つです。避難民・帰還民の流入によって貧困層と若者の失業が増加し、その中でも特に女性の多くが家長や仕事を失ったことから貧困に陥り、また、治安情勢の悪化により暴力の危険に晒(さら)されています。その上、内戦により深まった民族間の不信感は社会全体が安定していく上での障壁となっています。紛争の被害を受けた女性が自立し、社会的な活動に参加することは、この状況を早急に改善するための鍵となります。

日本は、2014年より「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関(UN Women)」を通じて、コートジボワール西部地域のトンピク州、ゴマ州および低ササンドラ州の3州で所得創出活動促進、社会融和促進、女性の権利啓発活動を支援しました。具体的には、45団体(965名)に及ぶ女性と若者のグループを結成し、技術研修・識字教室や簡素な機材を供与し、農業や農産品加工業の支援を行い、所得の増加につなげました。複数の民族が混在する「グループ」で活動することによって、民族間の信頼関係構築にも効果が見られました。また、女性の権利や社会的統合に関しての啓発により、女性のエンパワーメントや社会の安定化の定着が期待されます。

日本の支援によりコートジボワールをはじめ、世界各地にジェンダー平等が芽吹きつつあります。

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