2015年版開発協力白書 日本の国際協力

(4)格差是正(脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれやすい人々への支援)

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施に向けた取組が進められる中、大局的に国家レベルで見ると課題がどこにあるのかを特定して的確に対応することが困難であるという問題が顕在化しており、「格差の拡大」はその一つです。また、貧困・紛争・感染症・テロ・災害などの様々な課題から生じる影響は、女性や子どもなど、個人個人の置かれた立場によって異なります。こうした状況に対しては、従来の国家を中心とした枠組みだけではなく、人間を中心としたアプローチが有効であり、不可欠といえます。

 

< 日本の取組 >

人間の安全保障

このような背景から、日本が重視している理念が「人間の安全保障」です。これは、人間一人ひとりに着目し、人々が恐怖や欠乏から免れ、尊厳を持って生きることができるよう、個人の保護と能力強化を通じて、国・社会づくりを進めるという考え方です。

日本政府は、人間の安全保障の推進のため、①概念の普及と②現場での実践の両面で、様々な取組を実施しています。

①概念の普及について、日本は国際的な有識者委員会である「人間の安全保障委員会」の設置や、関心を持っている国が増えるよう非公式・自由なフォーラムである「人間の安全保障フレンズ」の開催を主導してきました。これらの取組の成果も踏まえて、2012年9月には、日本が主導して、人間の安全保障の共通理解に関する国連総会決議が全会一致で採択されました。

②現場での実践について、日本は国連における「人間の安全保障基金」の設立(1999年)を主導しました。これまで日本は累計で約436億円を拠出し、88の国・地域で、国連関係機関が実施する人間の安全保障の推進に資するプロジェクト237件を支援していきました(数字はいずれも2015年12月末時点)。2015年2月に閣議決定された新たな開発協力大綱でも、人間の安全保障は、日本の開発協力の根本にある指導理念として位置付けられています。
(「人間の安全保障基金」は、こちらを参照

「人間の安全保障」の考え方
障害者支援
ケニア西部に位置するカカメガ郡の職業訓練学校(聖ジョセフ・ワーカー精神障害およびかんしゃく児童のための施設)で裁縫を習う知的障害者の男の子(写真:カロリーヌ・ヴィゴ/在ケニア日本大使館)

ケニア西部に位置するカカメガ郡の職業訓練学校(聖ジョセフ・ワーカー精神障害およびかんしゃく児童のための施設)で裁縫を習う知的障害者の男の子(写真:カロリーヌ・ヴィゴ/在ケニア日本大使館)

若者や女性など、社会において弱い立場にある人々、特に障害のある人たちが、社会に参加し、包容されるように、能力強化とコミュニティづくりを促進していくことも重要です。

日本は開発協力において、ODA政策の立案および実施に当たり、障害のある人を含めた社会的弱者の状況に配慮することとしています。障害者施策は福祉、保健医療、教育、雇用等の多くの分野にわたっており、日本はこれらの分野で積み重ねてきた技術・経験などをODAやNGOの活動などを通じて開発途上国の障害者施策に役立てています。たとえば、鉄道建設、空港建設においてバリアフリー化を図った設計を行ったり、障害のある人のためのリハビリテーション施設や職業訓練施設整備、移動用ミニバスの供与を行ったりするなど、現地の様々なニーズにきめ細かく対応しています。

また、開発途上国の障害者支援に携わる組織や人材の能力向上を図るために、JICAを通じて、開発途上国からの研修員の受入れや、理学・作業療法士やソーシャルワーカーをはじめとした専門家、青年海外協力隊の派遣などの幅広い技術協力も行っているところです。

2014年1月には、日本は国際障害者権利条約を批准しました。同条約は、独立した条項を設けて、締約国は国際協力およびその促進のための措置をとることとしています(第32条)。日本は、今後もODA等を通じて、開発途上国における障害者の権利の向上に貢献していきます。

 

●南アフリカ

障害主流化促進アドバイザー
技術協力(2012年12月~実施中)

アクセシビリティ改善を目的とした模擬トイレのデザインワークショップ(参加型の講習会)(写真:JICA)

アクセシビリティ改善を目的とした模擬トイレのデザインワークショップ(参加型の講習会)(写真:JICA)

南アフリカ共和国では、経済格差拡大により享受できる基本的な社会サービスに不平等が生じています。特に障害者は教育や就業の機会が限定的であり、国内では最貧困層に位置付けられ、社会の発展から取り残されています。南アフリカ政府は、2007年に批准した国連障害者権利条約に基づき、障害者サービスの拡充などを通じて、社会における障害主流化、すなわち障害者と健常者の平等を図るための手段の普及に向けて取り組んでいます。しかし、現場レベルでは情報や政策実施能力の不足といった多くの課題を抱えています。

そこで日本は、南アフリカ政府の中央・社会開発省(DSD)の要請を受け、障害者福祉関連の知見や技能を有し、同政府が抱える課題の解決に向けた支援を行うための専門家を派遣しました。現在、日本から派遣された専門家は、障害分野を担当するDSD障害課と協働して、障害主流化に向けた能力強化のための研修を南アフリカ全土で開催しているほか、南アフリカの各地方における障害主流化に向けた活動視察とモニタリング評価も行っています。さらには、DSD職員による障害者・障害者団体との協力関係の構築を支援するとともに、南部アフリカ開発共同体(SADC)諸国であるスワジランド、レソト等と情報を共有するネットワークの構築も支援しています。DSD職員と障害者が参加する研修は、南アフリカの地方を含む全9州で開催され、バリアフリーな社会のあり方や、障害者に対する合理的な配慮、障害に係る啓発、主流化実行計画の作成について話し合いがなされ、障害者団体の組織化も進められています。また、現地視察を通じて公共施設のスロープやトイレなどを障害者の目線から改善するための調査が進み、具体的な改善計画が話し合われています。

このように、日本の支援が南アフリカにおける障害主流化と、障害者の社会的地位の向上に活かされてようとしています。(2015年8月時点)

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