(2)安全な水・衛生
水と衛生の問題は人の生命にかかわる重要な問題です。水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は、2015年に世界で約6億6,300万人、トイレや下水道などの基本的な衛生施設を利用できない人口は開発途上国人口の約半分に当たる約24億人に上ります。(注29)安全な水と基本的な衛生施設が不足しているために引き起こされる下痢は、5歳未満の子どもの死亡原因の11%を占めています。(注30)
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」においても、目標6に「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことが設定されています。
< 日本の取組 >
日本は、水と衛生分野での援助実績が世界一です。この分野に関する豊富な経験、知識や技術を活かし、①総合的な水資源管理の推進、②安全な飲料水の供給と基本的な衛生の確保(衛生施設の整備)、③食料増産などのために水を利用できるようにする支援(農業用水など)、④水質汚濁を防止(排水規制)・生態系の保全(緑化や森林保全)、⑤水に関連する災害の被害を軽減(予警報システムの確立、地域社会の対応能力の強化)など、ソフト・ハード両面で全体的な支援を実施しています。
また、MDGsの達成期限であった2015年に向けた「持続可能な衛生の5年」を含め地球規模での取組を支援してきました。具体的には、2013年6月に開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド) V)では、向こう5年間に約1,000万人に対して、安全な飲料水や基本的な衛生施設へのアクセスを確保するための支援を継続するととともに、1,750人の都市水道技術者の人材育成等の支援をそれぞれ実施することを発表しました。
アジアの多くの国々においても深刻な水質汚濁や水系生態系破壊などの問題が生じており、これらの問題に関する情報・知識不足は、アジア地域における持続可能な発展を妨げる要因の一つとなっています。こうした状況の中、環境省はアジア水環境パートナーシップ(WEPA)(注31)を開始しました。アジアの13の参加国(注32)の協力の下、人的ネットワークの構築や情報の収集・共有、ステークホルダーの能力構築等を通じて、アジア水環境ガバナンスを強化することを目指しています。

ケニア・ビクトリア湖畔に位置するビタ県にて、雨水タンクの完成を喜ぶ児童と先生たち(写真:風間春樹)

スーダンの浄水場を視察するモロッコ人専門家。同じ北アフリカ、アラビア語圏で共通するモロッコを選び、研修や専門家の招聘を実施してきた(写真:小野寺純/JICA)
- 注29 : (出典)WHO/UNICEF“Progress on Sanitation and Drinking Water:2015 Update and MDG Assessment”
- 注30 : (出典)UNICEF“Committing to Child Survival:A Promise Renewed”(Progress Report 2014)
- 注31 : アジア水環境パートナーシップ WEPA:Water Environment Partnership in Asia
- 注32 : 日本、カンボジア、タイ、ラオス、マレーシア、中国、インドネシア、韓国、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、スリランカ、ネパール
●南スーダン
ジュバ市水供給システム改善計画
無償資金協力(2012年8月~実施中)

機材使用に関する研修(ケツァルテナンゴ県コアテペケ病院)(写真:JICA)
南スーダンの首都ジュバ市では、帰還民の流入等による人口の急増などに伴い、内戦で荒廃・老朽化した都市インフラの整備が緊急の課題となっています。中でも1930年代に建設された上水道施設は、南スーダン独立をめぐる内戦中に維持管理がほとんど行われませんでした。また、浄水場の処理能力が人口増加に対応できていないほか、配水管網も老朽化し漏水が多発しています。多くの住民が頼る給水車も、浅井戸や河川からの水をそのまま運搬・販売するため、劣悪な水質による水因性疾病の発生といった問題が起きています。
2005年に開催されたスーダン支援会合にて、日本は人間の安全保障に不可欠な水・衛生分野への支援等を行う方針を発表しました。それ以来、日本は、南部スーダンの水道事業調査を行い、2012年からジュバ市の浄水施設の拡張および給水施設・送配水管網の新設に取り組んできています。
具体的な整備内容としては、着水井(ちゃくすいせい)、急速濾過(ろか)池、沈殿池、浄水池、消毒設備等を備えた浄水施設を増設するとともに、長さ4.8キロメートルの送水管に加え、20.3キロメートルに及ぶ配水本管、32.5キロメートルに及ぶ配水二次管を埋設しています。また、より衛生的な水を供給するため、ジュバ市内に120か所の公共水栓を設けるとともに、給水車による給水拠点を8か所設けることとしています。
以上を通じた水供給システムの改善により、安全で安定的な水供給が実現し、水因性疾患の罹患(りかん)率軽減に貢献するとともに、児童および女性に対する過重な水汲み労働負担の改善に寄与することが期待されます。また、2013年の第5回アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド) V)において、日本はアフリカ諸国の1,000万人に対する安全な水へのアクセスおよび衛生改善が実現するよう取り組むことを表明しました。ジュバにおける水供給システム改善計画はこの取組の一つです。(2015年8月時点)