第2節 持続可能な開発のための2030アジェンダの概要と意義
1.持続可能な開発のための2030アジェンダの概要
こうして国連で採択された持続可能な開発のための2030アジェンダは、2030年までに極度の貧困を撲滅することを含め、あらゆる場所のあらゆる形態の貧困に終止符を打つことを決意し、持続可能な開発を実現することを目指す野心的な国際目標です。
○基本的な考え方
2030アジェンダは、冒頭で、持続可能な開発のキーワードとして、人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、連帯(Partnership)の「5つのP」を掲げています。そして、このアジェンダの下で追求する開発目標が包括的で「人間中心」の考え方に基づくものであること、そして、2015年までに達成できなかったMDGsの残された課題とともに、MDGsを超える新たな課題への対応をも目指すものであることが示されています。また、開発途上国と先進国を含むすべての国が目標達成に取り組む必要がある、地球上の「誰一人として取り残さない(no one will be left behind)」といった基本的な考え方も示されています。
○持続可能な開発目標(SDGs)
2030アジェンダにおいては、17のゴール(目標)と169のターゲットが持続可能な開発目標(SDGs)として位置付けられました。8つのゴールと21のターゲットから成っていた前身のMDGsと比べても、目標の数は大幅に増えており、内容も広範で包括的なものとなっています。
17の目標の中には、目標1から6の一連の目標のように、貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー、水と衛生など、MDGsに掲げられていた目標を引き継いだ上で、これをさらに推し進めたものが含まれています。たとえば、MDGsの目標1は「極度の」貧困(注1)の撲滅を掲げつつ、具体的には2015年までにそのような「極度」な貧困層の割合を1990年比で半減することがターゲットとして設定されていました。これに対し、2030アジェンダは「あらゆる場所のあらゆる形態の」貧困の撲滅をSDGsの目標1として掲げつつ、具体的なターゲットとしては2030年までに世界中から「極度」の貧困を撲滅するとともに、各国の国内で「あらゆる次元の貧困状態」にある人々の割合の半減を目指すとしており、さらに一歩踏み込んだものになっています。


ガーナ・アクラのガーナ大学構内に日本の無償資金協力で造られた大規模なソーラーパネル施設(写真:久野武志/JICA)
その一方で、2030アジェンダの下では、持続可能で、包摂(ほうせつ)的かつ強靱(きょうじん)な成長の重要性に関する国際的な認識の高まりも反映して、様々な開発課題がSDGsとして新たに加わりました。目標7から16に掲げられた経済成長やインフラ、格差是正、持続可能な消費・生産や気候変動対策、さらには平和の実現までも含む一連の目標はMDGsには明確な形では含まれなかったものです。
○実施手段

タイのバンコク首都圏のバンケン浄水場工事現場(写真:久野真一/JICA)
2030アジェンダは、SDGsを達成するための「実施手段(MOI:Means of Implementation)」についても述べています。この関連では、特に、政府、市民社会、民間部門、国連機関をはじめとするすべてのアクター(主体)が利用可能なリソース(資源)を動員する「グローバル・パートナーシップ」の下での取組の重要性が強調されています。2030アジェンダはODAの数値目標(GNI比で0.7%、など)について言及しており、ODAが、民間の資金の動員のための触媒としての役割を含め、引き続き重要な役割を果たすこと、また、技術移転や能力構築の支援なども2030アジェンダの「実施手段」として重要であることが強調されています。
○フォローアップとレビュー

コートジボワールのブアケ県で国産米振興プロジェクトを支援する日本の専門家が住民とともに水田を視察(写真:大塚雅貴/JICA)
2030アジェンダは、SDGsの達成状況のフォローアップとレビューのプロセスについても定めています。具体的には、2030アジェンダのグローバルな実施状況のフォローアップとレビューを目的とする「ハイレベル政治フォーラム」を4年に1回開催することに加え、国レベル、地域レベルでもフォローアップとレビューを行っていくことが示されています。なお、このプロセスの中でSDGsの達成の度合いを測るために使われるインディケーター(指標)については、今後、国連統計委員会の下に置かれた作業部会での検討を経て整備されることになっています。
- 注1 : 当時、極度の貧困は、1日1.25ドル、日本円においておおむね150円の生活レベルの貧困として、世界銀行で定義されていた。(現在は1日1.90ドル)