第2節 MDGsの達成に向けた日本の取組

タンザニアの食堂でキャッサバを油で揚げて売る女性(写真:久野武志/JICA)
日本はMDGsの達成に向けた国際社会の取組においても積極的な役割を担ってきました。日本の取組は多岐にわたりますが、ここで、それぞれの目標ごとにポイントを紹介します。
「目標1」が掲げるのは極度の貧困と飢餓の撲滅です。「極度の貧困の撲滅」については、日本の開発協力政策の全体にかかわる課題であり、第2章第2節に詳しい説明がありますが、中でも「飢餓の撲滅」については、食料・農業分野の支援が一つの国際社会の取組の焦点となりました。この分野では、2009年にイタリアで開催されたG8ラクイラ・サミットで、日本は、農業開発とインフラ整備を含む食料安全保障のために、2010年~2012年の間に少なくとも30億ドルの支援を行うことを表明し、2012年末までにおよそ42億ドル(約束額ベース)の支援を行いました。また、横浜にアフリカ諸国の首脳が参集して開催された2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド) IV)で、今後10年間でアフリカ諸国でのコメの生産量を倍増するための農業生産性の向上のための協力を行うことを約束しました。2013年に横浜で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD V)においても、これを引き続き推進していくことが再確認され、現在その目標の達成に向け、これを着実に実行に移しているところです。

フィリピン・コタバト郊外の公立学校に通う子どもたち(写真:大塚雅貴/JICA)
「目標2」が掲げるのは初等教育の完全普及の達成です。この分野においても、日本の貢献やイニシアティブは多岐にわたります。2010年9月のMDGs国連首脳会合では、2011年からの5年間で35億ドルの教育分野の協力実施を表明したほか、学校・コミュニティ・行政が一体となって包括的な学習環境改善を行う基礎教育の支援モデルである「スクール・フォー・オール」(注3)を提示するなど、国際社会の取組を積極的に主導してきました。また、2013年のTICAD Vでは、就学率および修了率の増加とともに、教育の質の向上が目標に掲げられ、日本として新たに2,000万人の子どもに対して、質の高い教育環境を提供することを約束し、これを着実に実行に移しています。

ボツワナ・ボテティ地域の集落で女性グループの所得向上プログラムとして、民芸品アクセサリーの作り方を指導する青年海外協力隊の圓山佐登子さん(写真:長山悦子)
「目標3」で掲げられたのは「ジェンダー」、すなわち男女の平等の推進と女性の地位の向上です。日本は、「ジェンダー主流化」、すなわち開発協力のすべての分野と段階において、男女それぞれの開発課題やニーズ、影響を明確にし、配慮することを通じて、これらの目標の達成に向けて着実に取り組んできました。また、2005年には、北京で開催された第49回国連婦人の地位委員会の場で包括的な政策文書である「GAD(ジェンダーと開発)イニシアティブ」(注4)を発表しました。

マラウィ・チョロ県の病院にてマラリアで入院している2歳の女の子の様子を母親に尋ねる青年海外協力隊の岩崎美穂さん(写真:今村健志朗/JICA)
「目標4」の乳幼児死亡率の削減、「目標5」の妊産婦の健康の改善、そして「目標6」のHIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延(まんえん)の防止をはじめとする保健分野は、いずれも日本が国際社会の取組を主導してきた課題です。2002年には「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」が設立されましたが、これは日本が2000年のG8九州・沖縄サミットで「沖縄感染症対策イニシアティブ」を打ち出したことが契機となっています。また、2008年のG8北海道洞爺湖サミットにおいては、議長国として、保健分野の行動原則を盛り込んだ「国際保健に関する洞爺湖行動指針」を取りまとめ、カナダ議長の下の2010年のG8ムスコカ・サミットでは、母子保健分野で2011年から5年間で最大500億円規模の追加的な支援を打ち出すなど、G8サミットの場を通じて、積極的に国際社会の取組を主導してきました。さらに、2010年のMDGs国連首脳会合の機会には、「国際保健政策2011-2015」(注5)を発表し、その下で2011年から5年間で50億ドルの支援を行うことを表明したほか、43万人の妊産婦と1,130万人の乳幼児の命を救うことを目指す母子保健の支援モデルである“EMBRACE”(注6)も打ち出しました。また、2013年のTICAD Vで打ち出した500億円の支援、12万人のアフリカの保健医療従事者の人材育成など、地域レベルでの取組も着実に実施しています。

日本の浄水器導入支援によりバングラデシュ・ダッカのスラム地区で水の配給を受けた子どもたち(写真:鈴木革/JICA)
「目標7」が掲げる環境の持続可能性の確保も、開発途上国の人々の生活に大きな影響を与える、重要な開発課題です。そして、日本が、環境汚染対策に関する多くの知識や経験、技術の蓄積を活かして、様々な取組を行った分野でもあります。たとえば、気候変動の問題について、日本は、革新的な技術で開発と普及の先頭に立ち、国際的なパートナーシップを強化する「攻めの地球温暖化外交戦略-Actions for Cool Earth、エース(ACE)」を2013年11月に打ち出して、その実施に取り組んできたほか、官民の資金を通じた様々な支援に取り組んできました。また、人々の生活に欠かせない水の分野についても、国際連携の基本方針として「水と衛生に関する拡大パートナーシップ・イニシアティブ」(WASABI)を2006年の第4回世界水フォーラムで発表したほか、2013年のTICAD Vでは1,000万人に対する安全な水へのアクセスおよび衛生改善を表明し、都市上下水道や地方給水整備などの具体的な対策の着実な実施にも努めています。
最後の「目標8」として掲げられた「開発のためのグローバルなパートナーシップの推進」の下では、後発開発途上国、内陸国、小島嶼(とうしょ)国など様々なニーズや脆弱(ぜいじゃく)性を持つ開発途上国がグローバル化の流れの中で経済成長できるよう、貿易、金融、債務問題等も含む諸分野での進展が目指されました。たとえば、2013年の第5回アフリカ開発会議の機会には、2013年から2017年までの5年間で、対アフリカODAODA約1.4兆円を含む最大3.2兆円の官民の取組で、アフリカの成長を支援することを打ち出しました。
こうした目標ごとの取組に加えて、日本は、MDGsの達成に関連する国際会議の主催等を通じて、国際社会の議論や取組をリードしてきました。
たとえば、MDGsの達成期限まであと約5年となった2011年の6月には、東京で閣僚級の「MDGsフォローアップ会合」を開催しました。この会合には110か国以上(24名の閣僚級首席代表が参加)、20の地域・国際機関、国際・国内NGO、民間部門など計約300名以上が参加し、前年のMDGs国連首脳会合の成果文書を踏まえ、2015年に向けた国際社会の具体的な課題について議論が深められました。
また、その年の9月の第66回国連総会の機会に、日本はMDGs関連閣僚級非公式会合を主催しました。各国政府や国際機関、民間団体、NGO等から約400名が参加し、MDGs達成に向けたモメンタム(機運)の維持・強化を図るとともに、今後の取組を加速させる具体的な方途やポスト2015年開発目標(ポストMDGs)のあり方についても示唆に富む議論が行われました。この会合での議論は、多様な開発の担い手の間の連携強化や、その後の様々な場での国際的な議論の活性化にもつながりました。

2013年6月に横浜で開催された第5回アフリカ開発会議

ブラジル・リオデジャネイロの子どもたちが埼玉県教育委員会作成の「日本ブラジル交流カルタ」で遊んでいる様子(写真:渋谷敦志/JICA)
- 注3 : 学校・コミュニティ・行政が一体となった包括的な学習環境の改善を行い、質の高い教育環境をすべての子どもと若者に提供するため、相互に関連する次の5項目を重点とする教育支援モデル。①質の高い教育(教師教育、授業研究、教科書配布等)、②安全な学習環境(学校施設整備、学校保健、安全な水供給)、③学校運営改善(父母やコミュニティの参加を得た学校運営)、④地域に開かれた学校(成人識字教育など地域の教育ニーズに対応した学校)、⑤インクルーシブ教育(貧困層、紛争、障害等、困難な状況下の子どもへの対応)。
- 注4 : 日本が2005年に、第4回世界女性会議から10年を経て、開発途上国の女性を取り巻く状況が変化していることを受け、ジェンダー主流化に向けた支援を一層強化するために策定・発表した分野別開発政策。本イニシアティブでは、女性のみに焦点を当てるのではなく、ジェンダー不平等を解消する上での男性の役割にも注意を払い、ODAのすべての分野の政策立案、計画、実施と評価のすべての段階においてジェンダー視点を主流化することを目指している。
- 注5 : 5年で50億ドルの保健資金をプレッジし、その協力内容として国際的な開発目標であるミレニアム開発目標(MDGs)の達成に貢献すべく、特に母子保健と三大感染症さらに国際的公衆衛生危機分野での支援に焦点を当てたもの。
- 注6 : Ensure Mothers and Babies Regular Access to Careの略。戦後復興時の我が国自身の経験に基づき開発された支援モデルで、産前から産後までの切れ目のない手当てを確保し、母子の命を守ることに焦点を当てている。