2015年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 08

二人三脚で社会参加を促進
~NPOによるコスタリカでの障害者の自立生活支援~

モルフォが販売しているコーヒーを飲みながら、運営会議をするルイスさん(中央)と井上さん(右)(写真:井上武史)

モルフォが販売しているコーヒーを飲みながら、運営会議をするルイスさん(中央)と井上さん(右)(写真:井上武史)

「障害に関係なく、すべての人が日常生活を安全で快適に送れるように」。1981年の「国際障害者年」をきっかけに、国際社会は障害者に対する取組を強化してきました。しかし、制度や財政、健常者の人々の障害者に対する理解などの課題があり、多くの国では未だ障害者の社会参加が十分に実現されているとはいえません。

そうした中、中米のコスタリカでは、今、画期的な法律が制定されようとしています。障害者への介助者派遣の制度化を定める「障害者自立推進法」です。障害者が自分らしく生きるために必要な制度を整えることを目的としたこの法案は、可決されれば中南米初となります。実は、この法案制定に向けた動きの中心に、日本の支援者と二人三脚で、同国の障害者の自立的な生活を推進してきたルイス・カンブロネロさんという人物がいます

ルイスさんは2003年、20歳のときに事故で頸椎(けいつい)を損傷し、入浴やトイレにも介助が必要な車椅子生活となりました。コスタリカでは1996年5月に「障害者の機会均等法」が制定されましたが、多くの障害者は自宅で家族の介護に頼った生活をしており、家族の負担と社会からの断絶が問題となっています。ルイスさんも、仕事を続けることはできず、家に引きこもる日々が続きました。

しかし、日本の国際協力機構(JICA)が実施する技術協力「ブルンカ地方における人間の安全保障を重視した地域住民参加の総合リハビリテーション強化プロジェクト」(2007年~2012年)の一環として現地で開催された、障害者の社会参加を促進するためのイベントに参加したのをきっかけに、ルイスさんは外の世界への関心を徐々に取り戻し始めました。

そして2009年に、ルイスさんは兵庫県のNPOであるメインストリーム協会が受入団体として行う、障害者による途上国の障害者自立生活運動を支援する日本でのJICA研修「中南米地域障害者自立生活研修」(2007年~2013年)に、中南米各地の6人の障害者とともに参加しました。6週間の研修の中で、介助を受けながら一人住まいをする障害者のアパートにホームステイし、介助者と一緒に神戸の街を散策するなどの体験学習を通じ、ルイスさんの考え方が大きく変わりました。

「日本では、障害者が車椅子を使って自由に買い物に行ける街づくりがされている。介助者の助けを借りて、居酒屋に行ってカラオケを楽しむ重度障害者もいる。障害者だから不自由なのが当たり前なのではない。神戸市のようなバリアフリーの街づくりをして、適切な介助制度が作られれば、障害者でも自由に生きられるのだ。」

国会議員に、障害者が自立して暮らせる街づくり・社会づくりを訴え、障害者自立法可決に向けた働きかけを行うモルフォの運営スタッフたち(写真:井上武史)

国会議員に、障害者が自立して暮らせる街づくり・社会づくりを訴え、障害者自立法可決に向けた働きかけを行うモルフォの運営スタッフたち(写真:井上武史)

帰国後、JICAの障害者自立イベントなどを通じて、ルイスさんは仲間と語り合い、障害者の自立生活と社会参加についての考えを育み合っていきました。そして2011年に、障害者自立生活センター「モルフォ(morpho)」が活動の拠点として設立され、2013年にはルイスさんが代表に就任し、障害者自身による社会活動が大きく動き始めたのです。

2012年4月からは、JICAの草の根技術協力事業※1「コスタリカ自立生活推進プロジェクト」がスタートしました。このプロジェクトは、ルイスさんたちが運営するセンターの、介助者の募集や養成、行政との折衝活動などを、ルイスさんたち障害者が研修を受けた兵庫県のメインストリーム協会のメンバーが側面支援するというものです。

このプロジェクトマネージャーである井上武史(いのうえたけし)さんは次のように振り返ります。「ルイスさんは活動を通じて変わりました。当初おとなしく、消極的に見えたルイスさんは、責任を負う立場につくことで本領を発揮し、物事から逃げることのない、皆のリーダーとなっていきました。」

また井上さんは、こう述べます。「障害者の社会参加を実現するには、非障害者が障害者を支援するという構図ではなく、障害者自身が自分たちを取り巻く環境を改善するための力をつけ、行政などに働きかけることが重要です。」

ルイスさんたちの様々な活動が実を結び、モルフォの所在するペレスセレドン市を走るバスは100%がバリアフリー化されました。「障害者自立推進法」も成立に向けて機運が高まっています。障害者の、障害者による、障害者のための街づくりが、このコスタリカの地で中南米地域の先駆けとして行われようとしています。

「将来的にはコスタリカのイニシアティブで、他の中南米諸国にも運動を広げたい。多くの障害者に自分の可能性を知ってほしい」。日本の支援をきっかけに、障害者の自立のために立ち上がったルイスさんたちの挑戦は広がっています。


※1 草の根技術協力事業は、こちらを参照

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