2015年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 07

テレビ授業による質の高い教育の普及
~パプアニューギニアで遠隔教育支援~

テレビ活用と運営状況を確認するために学校訪問をする伊藤さん(写真:山岡智亙)

テレビ活用と運営状況を確認するために学校訪問をする伊藤さん(写真:山岡智亙)

南太平洋のパプアニューギニア(PNG)には、3,000メートル級の山々が連なる山間部や1,500島以上の離島があります。都市部から遠く離れたこれらの地域では、教育施設や教員そのものの数が不足し、十分に配備できていません。これらの地域の小学校高学年の教員の中には、1人で英語・算数・理科・社会など全教科を教えなければならない教員もいます。教員自身に苦手な教科があって間違ったことを教える学校や、理科や算数の授業を行わないという学校もあります。

そのため、多くの子どもたちが9年間の義務教育を終える前に登校しなくなるという問題が発生しています。PNGでは正確な統計が整備されていませんが、2007年の調査では義務教育を終える生徒の割合は半分にも届いていないとされ、国家の重要課題の一つとなってきました。

PNG政府は、こうした教育課題の解決のため、日本政府に支援を求めました。そこで、日本は映像による遠隔教育を普及させるため、1999年にPNGにおいて国立教育メディアセンターの建設に着手し、そのメディアセンターの運営と教育番組制作の技術支援のために、2001年にJICA専門家の伊藤明徳(いとうあきのり)さんを派遣しました。伊藤さんは、PNGに青年海外協力隊員として赴任した経験もある、映像による遠隔教育のプロフェッショナルです。

伊藤さんは、教育課題を改善するために、PNGの教育省に対して、適切な指導ができる教員の授業を収録し、全国にテレビで放送する“模範となる授業”の制作を提案しました。放送後は、テレビ授業の内容を生徒たちが理解できたかを、現地の教員が確認し、テレビ授業の内容を補講するという授業方法がとられます。2002年には、草の根技術協力事業※1として放送機器メーカーのソニーも番組制作の環境整備と指導を行い、試行的に“模範となる授業”が収録・放映され、40校でテレビ授業方式の教育の有効性が確認できました。

算数の授業では、教員はDVDを再生・ストップさせ、説明を加えながら、生徒の学ぶスピードに合わせて授業を進行する(写真:山岡智亙)

算数の授業では、教員はDVDを再生・ストップさせ、説明を加えながら、生徒の学ぶスピードに合わせて授業を進行する(写真:山岡智亙)

テレビ授業に参加した学校の教員たちから、「子どもたちはテレビ授業に夢中だ」、「海を見たことがない山間部に生まれ育った生徒たちが、テレビで海を見ることができた。映像の効果で理科や社会が教えやすくなり、生徒の理解も向上した」などの高い評価が得られました。

PNGの教育省は、テレビ授業による効果を高く評価し、より教育効果を高めるために、テレビ授業の質を向上させるための教材開発支援を日本側に対して求めてきました。その結果、JICAのプロジェクトである「テレビ番組による授業改善プロジェクト(通称EQUITV)」が2005年から始まりました。2州78校に放送の受信機器を設置し、伊藤さんたちはその活用および機器のメンテナンスのための研修を行い、教員が正しくテレビ授業を活用する方法を教えました。伊藤さんはその成果をこう説明します。

「放送時間に合わせて時間割を組みますから、何よりも各地の教員がきちんと時間通りに授業を行うようになりました。そして、テレビ授業のおかげで、教師自身も教科内容の理解を深め、多くの教員が自信を持って授業ができるようになりました。」

その結果、多くの生徒が学校に戻り、授業に集中し、その効果によって、EQUITVの対象校の生徒たちの成績は向上し、中学への進学率も向上していきました。PNG政府は、さらにEQUITVを全国に普及するため、教育省の職員と予算を増やしました。

しかし、EQUITVを活用した教育をさらに全国に効果的・効率的に広めるためには、様々な教員や地域のことを考えたきめ細かい計画づくりとその実行管理ができる専門家が必要です。また、対象とする学年・教科を拡大するための番組作りの技術者も必要です。そこで日本側は、2012年からEQUITVプロジェクトフェーズ2をスタートさせました。

このフェーズ2は、全国の半数を超える12州2,220校に対象を拡大してテレビ授業を実施するプロジェクトです。離島や山間部の場合、電気の供給されていない地域がほとんどです。そこで、発電機やソーラー電源を学校に導入するなど、それぞれの州や学校が積極的に取り組みました。プロジェクト対象の12州全体の約50%の学校で必要な機器が導入され、テレビ授業を子どもたちが受けられるようになりました。残りの50%の学校でも導入に向けて準備が進んでいます。また、PNG教育省は、フェーズ2で対象外となってしまった10州の学校でもテレビによる模範授業が受けられる計画づくりを始めています。

長年にわたる日本の映像による遠隔教育支援が、PNG国内全域に広がりつつあります。


※1 草の根技術協力事業は、国際協力の意思を持つ日本のNGO、大学、地方自治体および公益法人等の団体による、開発途上国の地域住民を対象とした協力活動を、JICAが政府開発援助(ODA)の一環として、促進し助長することを目的に実施する事業。

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