2015年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 09

縫製の仕事で収入を創出し、農村の女性の自立を目指す
~バングラデシュで協同組合活動を支援~

組合員にミシンを教える土岐さん(左)(写真:土岐三輪)

組合員にミシンを教える土岐さん(左)(写真:土岐三輪)

アジアの最貧国の一つであるバングラデシュは2007年11月のサイクロン「シドル」によって、死者が4,234人に及ぶほどの甚大な被害を受けました。認定NPO法人の「国境なき子どもたち」は日本の支援の一環として、2008年から南部沿岸部にあるピロジュプール県の5村で被災民に対する活動を行ってきました。以前から貧困問題を抱えていたこの地域では、災害によってさらに困窮し、学校に通えない子どもや出稼ぎに送られる10代の子どもが増加しました。

子どもたちが置かれた状況を改善する方法の一つは、父親だけでなく母親も収入を得ることです。「国境なき子どもたち」は、2012年12月、日本NGO連携無償資金協力※1を活用して「ピロジュプール県における女性のエンパワーメント事業」を開始しました。天候の影響を受けやすい農業や漁業に従事する男性の収入だけに頼るのでなく、女性たちにも縫製や機織りの技術を教えて収入を得てもらうのです。仕事の受注や縫製の技術を高める協同組合も設立し、収入の向上と安定を図る仕組みづくりを後押しするのが目標です。

この事業のため現地に派遣されたのは土岐三輪(ときみわ)さんです。学生時代に環境問題について学んだ土岐さんは、イギリスへの留学、そしてアジアやアフリカへの旅を経て、開発途上国の持続可能な開発に寄与したいと考えました。卒業後、ITコンサルティング会社や環境ベンチャーなどの民間企業で働いていた土岐さんがバングラデシュへ派遣されたのは民間企業でのビジネス経験を買われてのことでした。

当時、協同組合では「国境なき子どもたち」が発注する雑貨類を生産していました。しかし、日本からの発注メールの翻訳、資材の仕入れ、生産の分担、日本への商品発送などの業務を、日本人スタッフに頼らず組合の女性だけで行うのは困難でした。また、商品のデザインや品質に対する感覚も異なることから日本側の要望に応える商品づくりも難しかったのです。

「私たちの使命は3年間という限られた期間に、女性たちが継続的に収入を創出できる仕組みを構築することです。私たちが去った後も活動が続かなければ意味がないと思い、活動方針の変更を検討しました。」

土岐さんはあることに気づきました。女性たちは、村の人々から服などを仕立てる仕事を個人的に受注していたのです。既にある地元の需要をベースにして地域での注文を増やしたほうが現実的ではないかと考えました。

「私たちは縫製の技術とビジネスのやり方を指導する。それぞれの組合員が村人から仕立て物を受注し、組合のミシンを使って縫製をする。また、個人では受けられない大きな仕事の営業をするときには、組合の仲間と誘い合って行くように促しました。」

組合としての受注で大きな成果となったのが小中学校の制服です。土岐さんはスタッフや女性たちと共に、制服が発注される時期や仕組み、そして誰が発注の権限を持っているかを調べました。また、学校の校長先生も参加するワークショップでは、女性たちが制服を縫製できることをPRしたのです。

「制服の縫製には大きなハードルがありました。男子生徒は襟付きのシャツを着るのですが、女性たちにはそのようなシャツを縫製する技術はありませんでした。まず縫製インストラクターが技術を習得し、女性たちに指導してもらいました。練習で作ったシャツは、女性たちの夫や父親にプレゼントしました。この作戦は功を奏しました。当初は、女性が外に出て働くことに反対していた夫や父親も、自慢げにシャツを着て歩き回り、歩く広告塔になって妻や娘たちの仕事を応援するようになったのです。」

小学校にできあがった制服を納品(写真:土岐三輪)

小学校にできあがった制服を納品(写真:土岐三輪)

こういった活動が実を結び、2014年は10校から397着だった制服の受注数は、2015年には38校から758着へと倍増しました。結果として、この期間の組合の女性たちの収入は2割も向上したのです。

女性たちの活動は、世帯の現金収入を高めただけでなく、女性たちに自分で判断して使える現金と、自分たちだけでビジネスができたという大きな自信を与えました。

「彼女たちに自信と身に付けたスキルがあれば、これから先どんな環境の変化があっても彼女たち自身の力で乗り切っていけるのではないでしょうか。」

開発援助は押しつけたやり方でなく、その地域の人々の社会や生活に根ざしたものでなければ定着しない。現場で学び、協同組合の女性たちと共にビジネスの仕組みを作り上げていった土岐さん。プロジェクトは2015年12月に終了しますが、バングラデシュでの活動を続ける「国境なき子どもたち」は今後も女性たちの仕事を見守っていきます。(2015年10月時点)


※1 日本NGO連携無償資金協力は、日本のNGOが開発途上国・地域で行う経済社会開発事業および緊急人道支援事業に対して外務省が資金協力を行う制度。これを受けたNGOが活動実績を積むことで、国際的活動を広げるという意味でNGOの能力強化も目的としている。

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