ODAとは? 国際協力とNGO(非政府組織)

2002年度 農業分野NGO研究会報告書

※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organizations


第1回・東京:参加型開発~参加の主体は誰なのか~

 農業・農村開発をすすめるNGOがともに集い、日頃の経験と実践の事例を紹介し、住民の参加を通した持続可能な農村開発をめざして技能の向上のための研修を行うことをめざします。



開会のあいさつ  新屋敷 道保 (JANARD代表)
基調講演  参加型開発とは  中田 豊一(参加型開発研究所所長)

 及び導入のワークショップ
事例発表
 (1)マラウイでの村落開発普及員の地域開発活動の実践から
草刈 康子(元青年海外協力隊員)
 (2)タイでの朝市から村の経済的自立に向けての実践から
倉川 秀明(日本国際ボランティアセンター)
グループディスカッション


とき:2002年7月13日(土曜日)
ところ:東京YMCA集会室


開会のあいさつ

JANARD代表 新屋敷 道保

 農業・農村開発NGO協議会は「開発途上国を中心に農村社会の健全なる発展のために、農業及び農村開発に必要な事業を展開するとともにNGO同士の連携を強化する」という目標のもと、14団体が参加し2000年12月に設立されました。昨年、外務省の支援を受けて実施した5回のワークショップを通じてさらに参加を希望するグループが増え、現在は31団体が加盟しています。昨年は東京、茨城、福岡及びインドで研究会を開催しましたが、特にインドでの研修は好評で今年はネパールで実施することになっています。

 JANARDの持ち味としては大きく次の二つがあります。第一は海外や国内でプロジェクトの現場を持っていること、第二は東京だけでなく地方で活動しているグループのネットワーク化に力を入れていることです。今後ともNGO同士で協力し合い、お互いの力量アップに努めたいと思っています。

 また日本社会におけるNGOへの期待の高まりとともにその活動の質を問う目も厳しくなっています。例えば、外務省も補助金の対象となったNGOにプロジェクトのタイムシートや外部監査を義務化するなど情報公開とその透明性の向上を強化しようとしています。また国際機関の日本のNGOとの連携を求める声も大きくなっています。

 支援を求める発展途上国の農村の人々により有効な国際協力を実施するため、今年度のワークショップが昨年同様、多くの学びの場となるよう期待しています。



基調講演


参加型開発とは

参加型開発研究所所長 中田 豊一

 私は1998年までバングラデシュで活動しているNGOであるシャプラニ―ルの会で主に現場でプロジェクトをどう実施するかに没頭していました。同会を離れフリーの立場になった過去5年の間、様々な形で参加型開発について研究してきました。特に以下の二つのプログラムで大きな刺激を受けました。

JICAの研修プログラム
 その一つは、JICA大阪国際センターで行っているNGO連携による参加型農村開発の研修プログラムです。アジアの中堅リーダー12~3人を集め、農村における参加型開発や参加型教育について研修するもので、5回目になる今年は8ヶ国から参加しました。私とともに講師を務めてきた池住義憲さんは過去30年以上、アジア保健研修所(AHI/Asia Health Institute・愛知県)で参加型研修を担当してこられた経験の持ち主で、彼から多くのことを学びことができました。

PRAに注目
 もう一つは最近、注目されているPRA(Participatory Rural Appraisal/参加型農村評価)という手法です。PRAという言葉を聞いたことがある方、手をあげてみてください。半数弱の方がご存知ですね。ネパールの有名なPRAのファシリテーターであるカマル・フィラルを2年連続して日本に招き、日本各地の中学校で参加型学習のセミナーを実施したことがあります。この経験を通じて同氏が唱えるPRAについて学ぶことができました。

被抑圧者の教育
 参加型教育あるいは開発の基本にあるのはブラジルの「被抑圧者の教育」で知られるブラジルのプウロ・フレイレの考え方です。またPRAという手法そのものはイギリスのロバート・チェンバースという学者がAction AidというNGOとともに開発したものですが、その根底にある理念はプウロ・フレイレから大きな影響を受けています。プウロ・フレイレをご存知の方、手をあげてください。幾人か、いらっしゃいますね。フレイレが特に力を入れたのが成人識字教育です。彼が開発した手法は世界中の識字教育のモデルとなっています。彼の最も基本的な考え方は「学歴の有無などにかかわらず全ての人が豊かな経験と知恵をもっている」とし「しかし経験から学ぶことはできない。むしろ、経験を分析することによって学ぶことができる」と位置づけたことです。次の事例発表においても、それぞれが分析したことをグループで共有し、さらに知恵を深めていただきたいと思います。

導入のワークショップ(1)

 このあと、具体的に会場のなかに「ネパールの農村を再現するロール・プレイング・ゲームを行った。村長、村長を支える3人の有力者すなわちお坊さん、校長先生そして大地主、貧農、政府の役人、NGOワーカーなどの役割を参加者に割り当て、それぞれにふさわしく振る舞い、発言することによって、それぞれの社会的役割や相互関係について考察を深めることができた。この社会構造への理解が「開発」ワーカーの基本だ。(写真参照)




事例発表(1)


マラウイでの村落開発普及員の地域開発活動の実践から

元青年海外協力隊員 草刈 康子

 1998年4月から3年間、マラウイで村落開発普及員として活動してきました。マラウイは北海道と九州を合わせたほどの小さな内陸国で国土の5分の1をマラウイ湖が占めています。

 一口に村落普及員といっても農業技術、プライマリ・ヘルスケアなど担当部署は様々ですが、私は村落開発を推進するファシリテーターとしての普及員を養成するための学校、マゴメロ・コミュニティ開発訓練校に赴任しました。その活動の一つとして「村落開発リソースブック」を作成しました。その作成には現場の普及員からマラウイ政府の高官まで約千名の参加がありました。今日はその過程で私が学んだことをお話ししたいと思います。

1. 背景

(1)配属先
 私はこの学校のなかで社会調査を担当していましたが、特に予算はなく、講座を実際に担当したのは3年間のなかでも6ヶ月だけでした。後は自分で自由に企画して活動しました。そこで最初の1年は村の人たちと知り合い、村の状況をより深く理解するための村廻りに徹しました。2年目から実際の活動を開始しました。
 まず村廻りをしていて気づいたことは「村のなかには貴重な情報がたくさんあるのに、それが学校には届いていない」ことでした。そこで、学校のなかに情報を受けとめ蓄積する小さな調査部を設置しました。また現在、大流行の収入向上プログラムに関するインパクト調査が行われておらずそれらのプロジェクトが実際、どのような効果をあげているのか、どうかをチェックする必要を感じました。そのため、ユニセフなどのドナー団体と一緒に村落調査を行いました。

(2)ニーズから活動形成へ
 村人やフィ―ルドワーカーとの会話や、当時、農業省から派遣されて農業普及員に対する指導を行っていた同じ協力隊員の谷島氏との話し合いのなかから、協力隊員としてどのような支援が必要か、かつ可能かを検討した結果、リソース(フィールド活動に役立つ情報)提供を行ういう点で意見が一致しました。

2. 活動概要

(1)活動目標
 短期目標は「有益な情報や考える機会の提供」とし、長期目標は「有用な情報を得ることによって活動全体が活性化し、地域住民が主体となって、彼ら自身が望む開発の実現につながっていく」ことをめざしました。

(2)冊子の内容
 プロジェクトサイクルの考え方、参加型手法、その普及法、小規模ビジネスなどのスポンサーの連絡先、政府省庁、国際協力NGOの連絡先などを含めました。

3. アクター間の人間模様

(1) 外部者と協力相手との関係性
 協力隊員という外部が主導する形が強すぎたという反省があります。その背景には協力隊員の任期は通常は2年、また冊子製作の予算がJICAからのものだったため、決められた年度内に執行という制約がありました。それがなければ、一定のところで後は地元にプロジェクトを引き渡すという選択肢もあったかと思います。
 ただし、外部者が関与するメリットもありました。例えば、欧米の開発手法や国内の世界銀行の図書室などにアクセスしやすい利点がありました。帰国後、フィールドワーカーの一人から、数年後には自分たちの力で改訂版を出したいという手紙が届いたことは大きな喜びです。
 反面、マラウイ側との認識の差もありました。例えば、私たちはできれば全国各地のフィールドワーカーに役立つスタンダードなものをと思っていましたが、マラウイのフィールドワーカーたちの視点では自分たちの地域をカバーするのが精一杯ということがありました。

(2)「相手」グループの多様性
 協力相手と一言でいっても必ずしも同質とは限りません。例えば、冊子の使用言語については、外部者の私たちはマラウイ語でと思いましたが、地元の各省庁の意見では「小学校、高校で英語を習い、専門用語の多くは英語で入ってきているので、マラウイ語に訳すとかえって混乱する」とのことでした。そのため英語を採用しました。フィールドワーカーの人たちからは特に反対の声はありませんでしたが、本当にそう思っていたかどうかは今でもわかりません。

(3)相手国上層部との連携
 完成した冊子はジェンダー省に属するフィールドワーカーたちには全員、配ることができましたが、農業省付属のワーカーたちへの配布は途中で差し止められました。同省の高官の一人が、冊子に原稿を書きたかっのに依頼がなかったとヘソを曲げたためです。できるだけ現場の声を反映したいという思いがかえって現場のワーカーたちに冊子を届けられないという矛盾を生んでしまいました。政治的な配慮が欠けていたと言わざるを得ません。

最後に

 この事例から二つのことを問題提起したいと思います。
 一つは相手国のなかにあるグループの多様なニーズにどう対応すればよいか、もう一つはプロジェクトのオーナーシップをどう引き出すかという点です。この二つについて、あとのワークショップで話し合いを行ってほしいと思います。

<質問>

●モニタリングはどのように行っているか。
○冊子には「どの点が一番、役に立ったか」「もっと必要な情報は何か」などの項目をあげた評価シートをはさんで配布した。2001年3月に完成した後、同年12月までに76通の好意的な回答が寄せられた。同じ時期、同国を訪れた谷島氏の聞き取りでも好意的な評価が寄せられている。

●何部、作成したか。
○1,000部作成し、700部をフィールドワーカーに配布し関係協力団体に100部配った。



事例発表(2)


タイでの朝市から村の経済的自立に向けての実践から

NPO法人 日本国際ボランティアセンター 倉川 秀明

農村部での流通システムづくり
 タイ東北部のコンケン州の小さな村で始めた朝市のことについてご紹介したいと思います。地域での経済の循環をつくることをめざしたものです。対象地域は主に4つの村で始め、後に2つの村に広がっています。生産活動というより、地域での流通システムを変えることを目的としました。99年に調査を行い、プロジェクトとしては2000年4月に開始しました。期間は5年、今年は3年目になります。JVCだけでなく、イサンNGO行動(NGOの連絡組織・タイのJANIC版・またイサンはタイ東北部を意味する)、オールタナティブ農業ネットワーク(農業NGOの全国組織)の同じくイサン支部の計3団体がプロジェクトを進めています。持続可能な農業を推進するとともに農民の経済的安定を図ることを目標に、具体的には1)朝市を開く2)町と村との流通システムを確立する3)朝市を各地に広げることを掲げています。

朝市に注目
 道端に夜明けとともに、自分の畑でつくった野菜あるいは惣菜を並べるごく小さな朝市に同じ村人が買いにくるというシステムです。毎日、朝市をやっている村もあります。朝市によって村で取れた作物が村人によって売買され、お金も村のなかで循環させることができます。ささやかながら、村の外の大きな経済の影響を少しでも食い止めることにもつながります。

 こうした朝市を開くことによる効果として次の3つが出てきました。

女性が主役に
 まず、第一に朝市の主役は何といっても女性です。畑からの収穫、惣菜づくりなど全て女性が担っています。そして子どもも女性を手伝うようになり、村のなかの仕組みを自然に学ぶことができるようになりました。また村のおばあちゃん世代も積極的に朝市に参加するようになりました。こうして近代農業では成年男子より劣った労働力とみなされてきたいわゆる「女、子ども」に再び脚光があたることになったのです。

顔の見える関係―買い手と売り手
 第二に、顔の見える関係での売り買いだけに、売り手も農薬や化学肥料を大量に使うことを避け、できるだけ安全な作物を並べるようになりました。

年間を通じた生産に意欲
 第三に年間を通じて朝市を開くことによって年間を通じた作物生産への意欲が高まってきたことがあげられます。従来は作物は雨期だけに限り、水が確保できない乾期には作物ができないと諦めていたのが、溜池や灌漑設備などの水源を確保することによって年間を通じた農業生産を図る「複合経営」に乗り出す農家が増えてきま した。

周辺への波及効果
 こうしたプロジェクトを進めるにつれ、一つの村だけでなく、まわりの村との連携も出てきました。例えば、牛一頭をさばいたとき、一つの村だけでは消費しきれないので一部は隣村の朝市に出すという関係も生まれています。また近くの町の消費者との産直活動も出てきています。町の業者に売り渡すのではなく、町の病院や学校の給食の食材として使うなどの試みも始まっています。

 一方、新たな問題も生まれています。最初に朝市が始まったコーク村が属する行政区(10の村で一つの区を形成)の区長が、その興隆ぶりに目をつけ村の中央に大きな屋根つきの市場を設けたのです。そのため、今まで村人同士の売買に限られていたのが、外部からの業者がトラックなどで朝市に乗りつけ洋服や日用雑貨、おもちゃなどの消費財を売るようになりました。そのため、村人のための朝市が外部業者のためのものに変質し始めています。

 この問題にどう対処すればよいかを皆さんで考えてください。



グループワーク


 二つの事例発表を受けたあと、3つのグループに分かれ、それぞれの事例について話し合いを行いました。

グループ1 マラウイの農村開発リソースブックについて

 多様なニーズにどう応えるかについて話し合いを行い、結論として「いかに真のニーズを見極めるか」ということが見えてきました。外部者の先入観にとらわれず、相手側のニーズをどう見つけるかの方法については次のような意見が出ました。1)お酒の席などあらゆる機会を捉えてできるだけたくさんの人と話す 2)貧しいのはなぜなのか、誰が貧しいのか、何が必要かといった質問をぶつけて、村の状況と村人の意見を掘り下げていく 3)村人の暮らしぶりに関するアンケート調査を実施する 4)外部者の目で実際に村を見てまわる。

 こうしたニーズを発見する努力とともに欠かせないのが、自分たちが村人のニーズに対応できるかどうか、資金や人材といった自分たち自身の能力を見極めなければならないことです。また、バランスよくプロジェクトを進めるためには省庁の幹部クラスの人とも良好な関係を保つことが重要との指摘もありました。
 最後にまとめとして、こうした開発協力の分野には正解というものはなく、大切なのは「結果」ではなく「プロセス」ということで意見が一致しました。

グループ2 マラウイの農村開発リソースブックについて

 協力相手のオーナーシップやイニシアティブをどう引き出すかについて話し合いを行いました。そのためには以下の点が重要との意見が出ました。
 1)参画 2)成果物の活用 3)人材育成などのソフト面への支援 4)事前調査の充  5)地元のNGOや国際機関などとのパ―トナーシップの5項目があげられました。
 特に1)の参画に関しては村人の側にインセンティブをきちんと提示することが大切との意見が出ました。このプロジェクトに関わることが村人、あるいは村の開発にとって意味があるということを納得した上で、自分がそれに貢献するという明確な当事者意識を持つことが重要との指摘がありました。また3)のソフト面の充実は特に人材を育て、プロジェクトの持続性を確保するために必要不可欠ということで意見の一致を見ました。

グループ3 朝市委員会の今後について

   朝市委員会の方向を決めるのはあくまで村人なのでNGOが介入するのは得策ではない。NGOはあくまで情報提供に徹するべきだ。ただし、実際に出店している村のおばちゃんなら、おばちゃん、長老なら長老というように参加人数に応じた割合で構成する朝市委員会に再編し今後の方針を決めてはどうか。政治家の介入を不当として排除するかどうかは、委員会で決めればよい。排除するということになれば、その旨、申し入れるか、あるいは従来どおりのやり方で他の地域にも朝市を広げその有効性を示す方法もあるだろう。

 導入ワークショップ(2)村へのアプローチ 村のなかでの関係の作り方

 ここはネパールのある村。この村で何かプロジェクトを始められないかとNGOの調査員がやってきました。二人は日本のシャプラニ―ルというNGOからやってきたのです。「外国人が何かプレゼントしてくれるかもしれない」と村長はじめ村人が大勢、興味津々で集まってきました。

質問1) さあ、一番最初に誰に質問しますか。
答え  教師です。学校の先生が一番、村の状況に関する客観的な情報を持ち、しかも政治的な思惑から比較的、自由な立場にあります。もちろん、あなたとしたら貧農の人のところに真っ先に行きたいところでしょうが、そうすると村長から警戒されてしまいます。

質問2) 村長さんから、ここに座れと前の椅子を勧められました。あなたはどうしますか。
答え  決して座ってはいけません。座った途端、あなたは村長の客になってしまい、貧農の人たちと関係を持つことが難しくなります。
 このようにちょっとした日常的な所作、挨拶の仕方、椅子に腰掛けるかどうか、全てがその村の社会的秩序とつながっています。NGOワーカーとしてこうした社会との関係性を敏感にキャッチし、新しい関係をどうつくるかセンスが求められるところです。




質疑応答


質問「プロジェクトを実施するパイロットエリアとして選ばれた村以外の村をどう納得させるか」
パイロットエリアの選定には中央政府、地域政府、郡、村のリーダーや当該地域の住民を含んだ協議を経て選定している。何を目標に、どういうプロジェクトのために、どういう地域を選ぶのかといった明確な選定基準に基づき、数ヶ月かけて協議し決定する。

質問「NGOがネパールで教員の研修プログラムを年に10回実施している。昨年、政府が同じようなプログラムを突然始めた。プロジェクトの相乗効果をあげるために、ネパール政府とどのような協力関係を結べばよいか」
NGOによる研修が効果をあげていた背景にはその取り組みをコミュニティが支持していたことがあるのではないか。うまく相乗効果をあげるためには政府が主導するという位置付けではなく、地域の取り組みを政府が支援するという形が望ましい。また将来的には教員研修コストをコミュニティが一部、負担するようなコストリカバリーのシステムをつくっていくことも持続性の確保のために必要だ。 

質問「パートナーを選ぶ際のアドバイスは」
政府でいえば、その分野の担当省庁というのが通常である。ただし、省庁によって力に差があり、その担当省庁の力がないためにプロジェクト活動が「政策」に結びつかないこともある。どの省庁や地方自治体を選ぶかは、その省庁と組んだことのある現地のNGOや他のドナーに話をきくとよい。
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