※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organizations)
第4部 保健分野のNGOとポリシー・メイキング
はじめに
2002年度保健分野NGO研究会は、保健分野NGOのキャパシティ・ビルディングを目的に行われる事業である。
本研究会は、「GII/IDIに関する外務省/NGO定期懇談会」に参加するNGO45団体を主要な対象として運営されているが、これらのNGOの活動内容について検討すると、おおよそ以下のような区分となる。
● |
途上国でプロジェクトを運営したり、途上国で技術指導を主とする団体 20弱 |
● |
途上国にかかわる保健・人口に関する情報提供・アドボカシーを主とする団体 20弱 |
● |
共通する関心事を持つNGOのネットワーク団体 10強
(活動の重なりや変更等も存在するため、数としては曖昧である) |
上記から鑑みれば、保健分野NGOにおいて必要なキャパシティ・ビルディングには、プロジェクトに関する技術的な側面にとどまらず、アドボカシーの方法論や技術も大きなテーマとして設定しうることになる。
また、プロジェクトを運営するNGOにとっても、ドナーとなる国際機関や援助国、また、現地政府、現地社会との関係において、アドボカシーの能力は非常に重要な要素となる。特に、近年において保健分野の開発援助がドナー協調によるコモン・バスケット方式によって営まれたり、また、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」のような、マルチ援助の枠組みによって営まれたりする傾向が増大している状況においては、プロジェクト型NGOにとっても、アドボカシー能力の向上は急務であるといえる。
しかし、日本では、アドボカシーに関しては、何らかの方法論に基づく具体的な実践課題というよりは、各団体や個人が持つ個別の人脈や能力に頼る傾向があり、また、この分野における能力向上のための研究や実践講座なども行われてこなかった。
そこで、2002年度保健分野NGO研究会では、テーマ3として「沖縄感染症対策イニシアティブとNGO」と題し、とくに保健分野NGOのポリシー・メイキング、アドボカシー能力の向上のために、1回のワークショップ企画と1回の合宿セミナーを行うこととした。
第1章 ワークショップ「沖縄感染症イニシアティブの発表から2年」
(1) |
はじめに
本テーマの第1回ワークショップとして「沖縄感染症イニシアティブ発表から2年」という企画を開催した。趣旨としては、アドボカシーのキャパシティ・ビルディングを開始する上で、日本の保健分野NGOの立脚点を確認することに置いた。
2000年7月、日本政府が「九州・沖縄サミット」で感染症問題に対する国際協力の枠組みとして「沖縄感染症対策イニシアティブ」(IDI)を発表してから2003年で3年を迎えた。
HIV/AIDS、結核、マラリアをはじめとする感染症の流行については、この2年間でますます深刻な事態が認識され、地球規模の課題として取り組む必要性もますます増大してきた。5年間で30億ドル相当の貢献を日本政府が約束した「沖縄感染症イニシアティブ」は、この2年間、日本がこの問題に取り組む上での大きなフレームワークとしての役割を期待されてきた。このイニシアティブは、保健・人口などの課題に取り組む日本の多くのNGOの活動とも大きく関係しているはずであるが、このイニシアティブがどのように形成され、どのような理念・戦略に基づいたものなのか、また、各NGOがこのイニシアティブをどのように受け止め、自分たちの活動とどのようにリンクさせてきたかについては、必ずしも十分な検討がなされてこなかった。
本ワークショップにおいては、GIIからIDIへの移行期に開かれた2000年12月の感染症対策沖縄国際会議を出発点として、この2年間、NGOがイニシアティブをどう受け止め、どう連携してきたのか、また、このイニシアティブの出発段階でNGOがどのように関与したのかを見つめ、現在の日本の感染症対策の基本戦略としての「イニシアティブ」のあり方を検証していくことを主な目標とした。
|
(2) |
企画概要
●日時: |
2002年7月28日 午後6時30分~9時 |
●場所: |
財団法人 家族計画国際協力財団(ジョイセフ)6階会議室 |
●参加者: |
22名 |
●企画構成: |
・ |
まず、2000年の沖縄感染症対策イニシアティブの発表前後のNGOの活動の経緯についてアフリカ日本協議会代表の林達雄氏より、また、その後、NGOが沖縄感染症対策イニシアティブに対してどのようなスタンスを取り、政府との関係に置いてどのような位置取りをしたのかについて財団法人ジョイセフの池上清子氏より発題をいただいた。 |
・ |
その後、二班の小グループに分かれ、自己紹介シートを活用して各自の立脚点や興味関心について共有した後、池上氏、林氏をコメンテーターとして小グループ討議を行った。 |
・ |
小グループ討議の後、全体会を開催し、各小グループにおける議論の内容を共有した。 |
|
|
(3) |
感染対策沖縄国際会議とNGOの提言について(林達雄氏)
● |
バックグラウンド
林達雄氏は、2000年の九州・沖縄サミット、および沖縄感染症対策国際会議に向けたNGO連絡会を編成し、提言書を作成・提出する主導的な役割を果たした。その後、2002年のジョハネスバーグ環境開発サミットにおいては政府代表団顧問として参加したほか、国際的な感染症対策に関するアドボカシー活動を担っている。
|
● |
なぜG8サミットでエイズ問題が取り上げられたか
私自身はもともと医者ですが、途上国の開発・環境といった問題に関わり、2年ぐらい前からエイズの問題に関わっています。今日は、感染症問題といわれているものが何なのかについて、皆さんに問題提起をします。なぜ私たちがここに集まって、これからどうしていこうとしているのか、を考えるきっかけにしたいと思っています。
ご存知のようにG8サミットとは、先進諸国8カ国の首脳が集まって世界の経済問題を語り合う場です。2000年の沖縄G8サミットでは、感染症問題、特にエイズが議題として取り上げられたのです。
それまでは、エイズというのは病気の問題だから個人の問題あるいは医療の問題と考えられていたのですが、どうも医療だけでは解決できないことがわかってきました。つまりエイズ対策を厚生省あるいは保健省だけで取り組んでいるところでは、うまく行っていないことがわかったきたのです。エイズが大問題になっている国、特に途上国では、国ぐるみで、さまざまな部門を統括する機関が中心になって対策に取り組んで行かなくてはならない、と考えられ始めたのです。
2000年に入って、国連もいろんな場で、国ぐるみのエイズ対策の必要を提起するようになりました。安全保障理事会で、「エイズは世界の安全保障上の問題だ」と議論されたり、社会開発サミットで「社会開発の問題」だと話されたりするようになったのです。
G8サミットが議題として取り上げたのも、世界経済の問題である、との認識が広がったからです。個人の問題、医療の問題というレベルでは解決できない、政治的なコミットメントが必要だ、という認識があって、G8サミットの議題になったわけです。
|
● |
米国の世界戦略:医療産業と国際経済
一方、米国の世界戦略などの中では、医療そのものが世界経済の中で大きな産業として位置付けられてきています。
医療産業は、IT産業と並んで特許、知的所有権の問題に大きく関わる産業です。ですから、医療産業を充実させるということは、特許という法律的手段を国際的なものにしていこうという大きな動きにつながっています。
一方で、エイズにどうやって対応していこうか、という問題意識があり、もう一方で国際経済をどういう風に活性化させていくのかという流れの中で特許の問題があるわけです。
|
● |
問題の背景・途上国の公共セクターの弱体化と「民営化」
この問題を見る上で踏まえておかなければならない背景が、いくつかあります。
途上国は1980年代から90年代にかけて、債務・構造調整の中でアフリカ諸国を始めとする途上国の医療は、質の低下や人材の国外流出といった事態が進行してきたということです。
もう一つ注目しなくてはならないことは、日本でも進行している民営化路線の問題です。
医療においても、1980年代までは、世界の誰しもが医療を享受できるように公的医療を充実させていくという考えが中心だったのですが、現在では、逆に医療の民営化という気運が強まっているのです。そのために、お金を持っている人は医療を受けることができるけれど、お金のない人は医療を受けられない、という事態が進行しつつあります。
沖縄G8は医療あるいは情報・食料を議題としました。これらを世界経済活性化のための材料として扱うのか、それとも人びとの生活を守り豊かにするものとしていくのか、という対立があって争点となったわけです。
もっと見ていくと、感染症問題が沖縄G8の議題に取り上げられ、エイズが国際的な問題になったと同時に、ゲノムやITが社会的な話題になっています。ゲノムは遺伝子医療、遺伝子組み換え作物に関わっています。つまり、未来の医療産業の重要な技術としての遺伝子医療、そして食料問題に関わる遺伝子組み換え作物が話題になったわけです。いずれも、特許が関わってくる問題です。
沖縄G8の際、外務省がシェルパと呼ばれる人びとを用意してサミットの議論の様子を私たちNGOにも説明してくれました。それで、G8とひとくくりできない、G8に参加している先進諸国の中でも対立があることが判りました。米国が特許を前面に押し立ててゲノムやIT産業を振興しようとするのに対して、EUが未知の危険の問題や格差の拡大につながるのではないかという懸念を出していることが判ったわけです。デジタルデバイドのことなどが問題点として指摘されています。
|
● |
感染症対策沖縄国際会議:その特徴
この沖縄G8を受けて、12月には日本が主催して感染症対策沖縄国際会議が開かれています。ここで日本が提起した沖縄感染症イニシアティブの流れの中で、私たちはこの場に集まって、どうしていこうか、という話をしているわけです。
沖縄G8議長コミュニケには、2010年までの削減目標が明記されました。これが沖縄感染症イニシアティブの出発点です。
この削減目標は、若者のHIV/AIDS感染者数を25%削減する、結核の死亡者数・有病率を半減する、マラリアにおいては病気による負荷を半減する、というかなり大きな目標を掲げています。
沖縄感染症対策国際会議そして沖縄感染症イニシアティブを考える時、これが特徴の一つです。
二つ目の特徴として、感染症対策のための資材に対して「国際公共財」ということばが使われています。「国際公共財」ということばは、あいまいな感じがしますが、医療の民営化を進めるのか、公共医療の充実を図っていくのかという選択の中で、公共医療の充実を図ろうとするものだと言えます。しかも、アフリカ諸国ですと、一国単位で公共医療の充実を目指しても非常に困難ですから、国際的な仕組みの中で実現していこう、というスタンスが感じられます。
三つ目の特徴として、沖縄感染症対策国際会議に、途上国政府・製薬企業・NGOなどいろんな分野の人々200人ほどが集まった、ということが言えます。
四つ目の特徴として、2002年1月に発足した世界エイズ・結核・マラリア対策基金のアイデアが出されています。感染症対策のための世界基金というアイデアを日本政府が出したわけです。沖縄での会議を踏まえて世界基金を作ろうとしたのです。
五つ目には、会議の中で、医薬品製造業協会の代表が、新薬開発を促進するためには特許権が必要であり、投じた開発資金に見合う利益が見込めないと新薬開発そのものが止まる、と主張したのに対して、NGOや途上国政府の中から治療を必要としている人びとに医薬品を届けるためには特許や製薬企業の利益について再検討が必要だ、という反論が出されて、対立点がはっきりしたことがあります。
いずれにしても、この沖縄感染症対策国際会議は、エイズは早急の取り組みを必要としている世界的な問題であることが広く認識されるきっかけになりました。
|
● |
九州・沖縄G8のその後:特許と医薬品の価格をめぐる大きな変化
その後の動きについて話を進めます。
沖縄G8では「感染症問題」が大きな議題だったわけですが、2年後のカナダG8サミットでは「アフリカ問題」が大きな議題になっています。
感染症問題、特にエイズ対策に関しては、治療を必要としているする人びとに薬を届けることを特許権や製薬企業の利益よりも優先しようという動きがはっきりしてきています。
今年7月、バルセロナで世界エイズ会議が開かれて、ここでは、「エイズ治療を全ての人びとに」というスローガンが大きく掲げられました。
これまでは、「途上国ではエイズ治療は無理だ」と言われてきており、エイズによって死を迎える人びとをサポートすること、感染者を増やさないための取り組み、特に若者への予防の働きかけの二点が、途上国でのエイズ対策だったのです。それに対して、バルセロナ世界エイズ会議では、治療もしっかりやろう、との主張が出されたのです。この背景には、2001年11月のWTO(世界貿易機関)ドーハ閣僚会議で、医薬品に関して、特許優先という流れと、全ての人びとに治療をという流れが入れ替わったことがあります。WTOドーハ会議以前には、「全ての人びとに治療を」という主張は、NGOあるいは国連の主張だったのですが、ドーハ会議以降、あらゆる国際会議がこの主張を前提に進められるようになったのです。
エイズ治療そして医薬品特許をめぐる大きな政治的変化が、WTOドーハ会議のテーブルの上で起きたわけですが、この変化は、それを求める人びとの動きがあって起きたということを忘れてはなりません。2000年のダーバン世界エイズ会議で、全ての人びとに対するエイズ治療を要求して会場を包囲した人びとの動き、あるいは南アフリカ共和国の薬事法裁判の際に集まった世界的な署名といったものが、この変化を引き起こしたのです。
|
● |
日本政府の政策態度:ポリシーの不透明さが難点
以上、沖縄感染症対策国際会議をはさんだ世界的な動きを振り返ってみました。
次いで、これまでの動きから見えてくる日本政府の態度・意見に対して「評価すべき点」「批判すべき点」と私が考える点を提起します。
評価すべき点の第一は、沖縄感染症イニシアティブを通して5年間で30億ドルを拠出する、と明言した点です。日本政府は「議論ばかりしていても、先立つものがなければ先へ進まないだろう」といった言い方をしています。
第二には、沖縄G8で日本の外務省はシェルパを通して情報公開を行っていますが、カナダG8と比べるとずっと透明性が高かった、と言えます。
第三に、沖縄感染症対策国際会議に各セクターから関係者を招いた点も評価すべきです。
第四に、対政府援助の発想を超えたグローバル・ファンドというアイデアを出したことです。HIV感染者・エイズ患者自身のセルフ・ヘルプ・グループあるいはエイズ治療を推進しようとするNGOにも直接資金を提供しようと言うアイデアが出されたことは重要です。
一方、沖縄感染症対策国際会議には、日本政府から外務省と厚生省が出席していたのですが、政府としてどのような意志一致で会議に臨んでいるのかどのように役割分担しているのか不鮮明でしたし、また、首相コミュニケがどのようにして作られたのかもよくわかりませんでした。私たちNGOは、提言を用意し議論を深める準備もして会議に臨んだわけですが、政府の誰に声をかけると具体的な議論になるのか、わからなかったわけです。
また、バルセロナ世界エイズ会議でのレポートによるとまだこれから世界的な感染拡大が続く、もうこれ以上は感染拡大しないと考えられていた国々でも感染拡大が続いている、という状況の中で、2010年までの削減目標をどのようにして達成するのかという道筋を、日本政府は提示していません。
日本政府が関わる具体的なプロジェクトの中には非常にきめの細かい、評価すべきものが多々あるのですが、国際協力・途上国援助を通して何を達成しようとしているのか、という点も不鮮明です。
外務省と厚生省の所轄の問題があるせいでしょうか、国際協力活動の中でのエイズ対策と国内のエイズ対策がどういう関係にあるのか、一体のものとして取り組むことができるのかどうか、という点もよくわかりません。
グローバル・ファンドというアイデアが日本政府から出されたことを紹介したのですが、今年1月、実際に「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」が発足して資金集めとプログラムへの資金供与を始めたのになかなか資金が集まらないという事態になっています。米国や日本も二国間援助にこだわって、世界基金に充分な資金を拠出していません。この点も問題です。
ここまで話したことから、感染症問題が保健医療の問題にとどまらない、大きな問題であることは理解してもらえたと思います。貧困、女性、世代、仕事、食料といったさまざまな問題との関連の中で、感染症問題を捉え、何が課題かを明確にする中で、日本政府また私たち自身の限界が判ります。そうした限界をどう克服して、課題と取り組みを進める力量を作っていくか、ということがこの研究会の目的ということになります。
最後に、沖縄感染症対策国際会議に向けて私たちが作成した提言書が、資料に収められているので、ぜひ一読してください。国際協力活動に関わった人、国内でのエイズ対策に関わってきた人、外国人医療に関わってきた人、リプロダクティブ・ヘルスの立場から問題提起をしている人、といったさまざまな人びとが討議する中で作成した提言です。これからの取り組みにとっても参考になると思います。
以上で、私からの提起を終わります。
|
|
(4) |
GII/IDI懇談会の歩み:日本NGOのポリシー・メイキング=池上清子氏
● |
バックグラウンド
池上清子氏は、財団法人ジョイセフの企画部長およびGII/IDI懇談会の事務局長等として、長年、保健分野NGOのポリシー・メイキングおよび日本政府との関係のあり方・位置取りについて、検討・実践を重ねてきた。現在、UNFPA(国連人口基金)日本事務所長を務めている。
|
● |
日本の保健分野の初めての国際協力イニシアティブ:GII
今日は、2002年度の保健分野NGO研究会の第一回企画です。なぜこの研究会がもたれるようになったのか、どういった形で持たれているのか、などこの研究会を進める上で、皆さんが共通認識を持つための第一回目の会合ということになります。
そこで、私は、GII/IDIのNGO連絡会には、どういう歴史的背景があるのか、現在の課題は何か、といったことを話したいと思います。
GII(人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ Global Issues Initiative)の内容については、資料の右側に書いてあります。
1994年に始まった、ODAの30億ドルを人口とエイズの分野に絞り込んで投入しようというイニシアティブです。
7年間で総額30億ドルを使うという話は、当時としては画期的な話ではあったのですが、新しい30億ドルが投入されるというのではなく、それまでにすでに様々なところに分散して使われていたお金を、人口とエイズに関連するものと色分けして、総額30億ドルが出現したという性格のものでした。
ではなぜ、1994年にGIIというものが出てきたのか、といいますと、日米のコモン・アジェンダ、つまり米国と一緒に何かをしよう、という動きの一環です。貿易摩擦が1992年・93年に大きな問題になりました。この貿易摩擦めぐる論議の中で、日米が共同してポジティブにできることを探そうという話になりました。これが日米コモン・アジェンダです。一番多かった時には21分野で共同作業が計画されました。この共同作業の一つが人口とエイズの分野でも行われたわけです。
このように、日本が人口とエイズの分野に限ったイニシアティブを1994年に発表したのは、政治的なアジェンダがあってのことでした。この年、8月には横浜で世界エイズ会議が開かれました。そして9月にはエジプトのカイロで国際人口開発会議が開かれています。このカイロの会議のテーマは、エイズを含むリプロダクティブ・ヘルス/ライツと開発、環境でした。ですから、1994年に開かれる二つの大きな国際会議に向けて、日本政府の姿勢を示すために、外務省は1993年からイニシアティブを準備していたのです。
ここで忘れてはならないのは、GIIが出される前は、日本のODAの中で保健分野に関するイニシアティブはなかった、ということです。ですから、人口とエイズに関するイニシアティブを出す、ODAの中で保健分野の優先度を高くした、ということは画期的なできごとでした。ただ、先ほど説明したように新しいお金が投入されたわけではない、という点は残念なことでした。
また、1992年にブラジルのリオデジャネイロで地球環境サミットが開かれた頃から、NGOの役割が国際的に評価されるようになっていました。ジョン・ホプソンキン大学の教授が「第三の力」という本の中で、市民の力、NGOの力無くして社会の理念を考えていく、社会を作っていくことはできない、と書いています。
同時に、日本のODAの中でも、「ハード」から「ソフト」へのシフトが始まった時期でもありました。現在も行われている橋を造ったりダムを造ったりといったハードの援助だけではなく、人口問題やエイズといった非常に長期的に取り組まなくてはならない、そしてまた一人一人の心に働きかけ人々の行動様式を変えていくことを活動目標とする「ソフト」の部分にも日本のODAの資金が出始めた頃、また、社会開発に援助がおよび始めた時期なのです。
米国が人口分野で一緒にやりましょう、と日本に呼びかけたことと日本のODAにおける「ハード」から「ソフト」へという動きがあいまってGIIが始まったのです。
|
● |
賢人会議と「凡人会議」
GII実施に先立って、日本政府は人口と開発に関する賢人会議を開いています。世界中から人口分野でのエキスパートと呼ばれる人たちを東京へ呼んで会議を持ち、9月のカイロ会議に向けた提言書を作ろうとしていました。私たちNGOは凡人会議を開いて、凡人として何が提言できるかを話し合い、アドボカシー活動を行いました。この凡人会議には、JVCでも活動していた岩崎駿介さんや、ジェンダーを中心に扱っている女性と健康ネットワークの原ひろ子さん、そしてコミュニティの中から人びとの生きやすくなるためには何が必要かという観点から人口問題に取り組んでいたジョイセフの私たちなどが集ました。池上千寿子さんも参加していました。ですから、凡人会議といっても、なかなかなものだったのです。そして、この凡人会議が、GII懇談会の出発点になったのです。
今、この会場にいる人の中で、1994年からずっと関わってきたのは、女性と健康ネットワークの兵藤智佳さんと私だけですね。
|
● |
GII定期懇談会の歩み
カイロ会議では、リプロダクティブ・ヘルスとは何なのかが大きな焦点になりました。家族計画、安全な中絶、HIV/AIDS、不妊症そしてFGM(女性を傷つける慣習をやめていくこと)など、広い範囲の課題がリプロダクティブ・ヘルスの対象となったのです。そして、リプロダクティブ・ヘルスを実際に進めていくためには、女性あるいはカップルが自分自身の健康を決めることができるだけの力を付けなくはならない、情報を持っていなくてはならない、という意味で、リプロダクティブ・ヘルスとジェンダーと女性のエンパワーメント・ジェンダーは切り離すことができないということが確認されたのです。
もう一つ、コミュニティの中で、現場で、一人一人が自分で決めていくことができるように、人権とくに自己決定権をどうやって確立していくのか、という課題が提示されました。
そういった中で、ジェンダー、人口、草の根での開発支援、HIV/AIDSといった課題に取り組むNGOが集まり、外務省に「NGOとの定期懇談会を持ちませんか?」という提案をしました。外務省がこれに応じたので、GII定期懇談会が始まったのです。
この時、懇談会を申し入れた先の外務省経済協力局調査計画課は、はっきりと「いいですよ」と返事をくれたのですが、当時、まだNGOとの連絡経験が少なかったので民間援助支援室(通称・NGO支援室)が(特にHIV/AIDSに取り組んでいるNGOについて)チェックをしたらしいのです。今では笑い話のような話ですが…。
スタートした時点では12団体だった懇談会参加NGOが、現在は45になっています。
この懇談会には、人口やHIV/AIDSに取り組んでいるNGOだけでなく、環境、農業、開発に取り組むNGOも参加しています。それは、保健医療分野のNGOが中心ではありましたが他分野とのなくして保健状況の改善はありえないという認識があったからです。
スタートした時はGII定期懇談会でしたが、現在はGII/IDI定期懇談会になっています。このIDI(沖縄感染症対策イニシアティブ Infectious Diseases Initiative)の背景は、さきほど林さんが説明してくれました。
|
● |
GIIからIDIへ:キャパシティ・ビルディングの導入
2000年に沖縄感染症対策国際会議が開かれ、GIIからIDIに移行する際に、NGOはどのようにこの変化に対応するのか議論がありました。
GII懇談会は人口とHIV/AIDSをテーマにしたネットワークです。IDIを通して、四つの感染症(エイズ・結核・マラリア・寄生虫)に関わるNGOと、どうやって一緒にネットワークを組んでいくのかについて、何度かNGOが集まってミーティングを行ったのです。その中から、HIV/AIDSとコミュニティーに関わる活動では共通、という認識が、一緒にやっていく出発点になりました。
この時、HIV/AIDSに対する取り組みは、ややもすると医療を中心に縦割りになりがちですが、コミュニティーの中では、他のさまざまなサービスと組み合わせていくことが必要ではないか、という話になったのです。これで、GIIとIDIの2つの分野のNGOが、合同してネットワークを作っていくことになりました。
IDIが発表されて、GII/IDI・NGO連絡会になって何ができたのか。一番大きい取り組みは、私たちNGO自身の専門性の向上です。
それまでも、リプロダクティブ・ヘルスに関わるNGO、保健分野で活動するNGOとしての専門性を大事に活動してきたのですが、IDIという枠組みの中で、HIV/AIDSを始めとする感染症問題にどこまで関わっていけるのか、が改めて課題になったのです。
そのこともあって、2001年3月に、それまでGII懇談会に参加していたNGO、そしてIDIを契機に関わったNGOが集まって、それぞれ何を知っているのか、何を知らないのか、何を一緒にやっていけるのか、といったニーズ・アセスメントを行いました。
その結果、2001年度にキャパシティ・ビルディングのトレーニングが保健分野NGO研究会という形で持たれたのです。今日から始まるのは、第2回目のキャパシティ・ビルデングということになります。2001年度の取り組みを踏まえて、2002年度の保健分野NGO研究会が持たれる、という経緯があります。
|
● |
保健分野NGOネットワークの将来
さてここで、今後、私たちのネットワークがどのようなものになっていくのか、なっていくべきなのかを考えてみたいと思います。
(1) |
ご存知のように、ジャパン・プラットホームというNGOネットワークができています。このネットワークは、GII/IDI・NGO連絡会と大きな違いがあります。最初から外務省などの資金受け皿として作られていて、緊急援助の活動資金としてODAから毎年5億円をジャパン・プラットホームが受け取っています。現在15のNGOがプラットホームに参加していますが、何かあった時には、加盟NGOのうち二つあるいは三つが共同で難民救援や緊急与援に当たることになっています。
一方、現在、三つの分野別NGOネットワークができています。一つは、このGII/IDIの保健医療のグループです。二つ目は教育のグループです。三つ目は農村・農業開発のグループです。GII/IDIのネットワークは、前からあったものですが、他の二つのネットワークは、外務省NGO支援室の意向を受ける形で始まったものです。
GII/IDIのネットワークは、NGOの発意から始まったものですが、その後ジャパン・プラットホームが作られ、分野別NGOネットワークが作られるという中で、これから1・2年の内に、たとえばジャパン・プラットホームのような形態に変容していくのかどうか、を決める必要が出てくるのではないか、と私は考えています。
|
(2) |
最近、いろいろなNGO支援事業が始まっています。保健分野であれば、IDIの30億ドルがあります。また、感染症無償という枠もあります。他にもさまざまな支援策ができています。特に感染症にかかわる取り組みであればODAの資金もつきやすい状況になっています。
こういう状況の中で、NGOとしての独自性を保ちながら、踏み込んでODAの資金を活用していくのか、が大きな問題になってきています。この保健分野NGO研究会の会合も外務省の資金によってなりたっています。将来的にどんなつき合い方が妥当なのかについて、も考えていかなくてはなりません。
|
(3) |
また、重要な問題の一つとして、NGOの法人格の問題があります。NPO法ができてから、法人格を持つNGOと任意団体のNGOとを区分けできるようになりました。NGOへの支援を示す「ガイドライン」を見ると、「お金を出しますよ、でも法人格を持っていますか?」と問われている感じがします。NPO法人格を持つということは、会計監査を受ける、報告書を出す、ということですから、説明責任があり、透明性が保障されています。したがってODAの資金は出しやすい、とは言えます。ですから、この1~2年、法人格を持つNPO/NGOに公的資金が集中していく感があります。
このGII/IDIのネットワークに参加しているNGOには、現場でプロジェクトをやっているNGO、日本国内でアドボカシーをやっているNGO、そして両方をやっているNGOとがあります。この3種類のNGOが、みんなこのネットワークに参加してよかったな、メリットがあった、と言えるような形で、ネットワークを運営していくことも課題です。
資料には書いていないことですが、21世紀の開発目標と言われるMillenium Development Goals(MDGs)に向かって現在の世界的な動きがあります。保健医療の分野でこのMDGsが掲げる目標と直接関連するものが二つあります。若者のHIV感染率を下げることと、乳児死亡率および妊産婦死亡率を下げることです。今後、私たちの活動は、MDGsとの関連の中で問われてくるのではないか、と思います。
最後になります。
このGII/IDI・NGO連絡会には、現在45のNGOが参加しています。二つの現会員NGOから推薦を受けて参加を申し込めば、どのNGOも会員になれます。会費は、電子メールでの連絡でOKのNGOは年間1,000円、FAX送信が必要なNGOは年間2,000円です。代表、事務局、幹事は全て選挙で選出します。選挙への立候補は、自薦・他薦を問いません。11月に選挙を行いますので、皆さん積極的に参加してください。
|
|
|
第2章 合宿セミナー「保健分野のNGOとポリシー・メイキング」
(1) |
はじめに
7月28日のワークショップ企画を基礎として、保健分野NGO研究会では、本テーマのメイン企画として、2002年10月11日~12日の二日間、合宿セミナー「保健分野のNGOとポリシー・メイキング」を実施した。
この合宿セミナーは、保健分野のNGOにおいて重要な活動の一つであるアドボカシー活動のキャパシティ・ビルディングを目的としたものである。この場合の「アドボカシー」は、政府へのロビーイングや直接行動だけでなく、意識化された目的と戦略をもって外部の対象へ働きかけることを包括的に指すこととした。
本合宿企画については、GII/IDI懇談会に参加しているNGOのスタッフに限定し、とくに、各NGOにおいて広報、政府機関や国際機関への働きかけ、その他渉外業務を主に担っているスタッフへの参加を呼びかけた。
|
(2) |
コンセプト
アドボカシー活動については、確立した手法や技術といったものが必ずしも共有されておらず、経験的・感覚的なものに頼った実践が多く行われてきたというのが現実である。その結果、戦略性を持った一部のNGOを除いて、アドボカシー活動は必ずしも十分な実績を上げえないままに終わってきた。
本合宿セミナーでは、
● |
沖縄感染症対策イニシアティブの制定過程、 |
● |
現在の日本政府の感染症対策の方針と実践、 |
の二つのケーススタディーをもとにしながら、アドボカシー活動の実施において重要な以下の二つのポイント、
(1)NGOの立脚点とミッションの把握
(2)アドボカシーの目標と戦略の設定
のプロセスについて、その基本を押さえるワークショップを行った。
|
(3) |
プログラム
プログラムは、以下のように設定した。
【第1枠】ワークショップ1=NGOの立脚点とミッションをつかむ
~「沖縄感染症対策イニシアティブ」の制定過程をケーススタディとして~
●時間: |
10月11日(金曜日)午後7時30分~10時 |
●コーディネイター: |
兵藤智佳さん(女性と健康ネットワーク) |
●リソースパーソン: |
樽井正義さん(エイズ&ソサエティ研究会議) |
●趣旨・内容: |
・ |
第一枠では、NGOのアドボカシーの基礎である、自己の団体のミッションおよび立脚点を把握することを焦点とした。 |
・ |
自己紹介(各NGOでのアドボカシー活動・渉外活動等の経験を中心に)ののち、コーディネイターの兵藤智佳氏より、アドボカシーの基本的な理論についての発題を持った。 |
・ |
次に、リソースパーソンの樽井正義さんから、「沖縄感染症国際会議」(2000年12月)および「国連エイズサミット」(2001年6月)に向けた日本のNGOのアドボカシーについて伺い、ケーススタディを行った。 |
・ |
上の二つをふまえ、各NGOが持っている活動の基盤や立脚点、ミッションについて、参加者がお互いに話し合い、発表するグループワークを行った。 |
|
【第2枠】:ワークショップ2=ミッションの把握からアドボカシーへ
~「政府の感染症対策イニシアティブの方針と実践」をケーススタディとして~
●時間: |
10月12日(土曜日)午前9時~12時、午後1時~3時 |
●コーディネイター: |
兵藤智佳さん |
●リソースパーソン: |
國井修さん(外務省調査計画課課長補佐) |
●趣旨・内容: |
・ |
第2枠では、「ワークショップ1」で確認した各NGOの立脚点とミッションを踏まえ、政府の感染症対策について、いかなるアドボカシーができるかについて検討した。 |
・ |
まず、リソースパーソンの國井修氏から、日本政府の感染症関連の国際協力のポリシーについて発表を頂いた。 |
・ |
その上で、「ワークショップ1」で確認したNGOの活動基盤や立脚点、ミッションに照らして、政府とNGOとの共通点・相違点は何なのか、そこから出発して、どのようなアドボカシー活動が可能なのかについて話し合い、発表するグループワークを行った。
|
|
|
(4) |
スピーチ:アドボカシーの基本戦略(兵藤智佳氏)
● |
バックグラウンド
兵藤智佳氏は、「女性と健康ネットワーク」の運営委員としてGII/IDI懇談会(2002年度)の理事を務める一方、早稲田大学アジア太平洋研究センターの助手を務めている。アドボカシーに関しては、米国において専門的な訓練を受ける一方で、国際的なネットワークや国内ネットワークを通じて実践活動を展開している。
|
● |
アドボカシーとは何か
アドボカシーの説明を少ししたいと思います。何を明確にしていくのか、理解して頂ければと思います。
政策アドボカシーとは何か、日本できちんと定義をしている学者は、実はいません。
ここでは、サーモンという人物の、1996年の定義を持ってきたのですが、それによると、アドボカシーは、政府プロジェクトの中で特定の利益や関心事を代表すること。と定義されています。
ここでのポイントとなるのが、「アドボカシーという行為そのものが政治的な行動なのだ」ということです。
政治性を受けていて、特定な利益や関心を代表している。主張していること。主張だけでなく、弁護活動であったり、指示活動であったり、提言活動であったりする。これを総称してアドボカシーといっている。アドボカシーとは表現の自由、または結社の自由を体現するものとして現れる。……この様な形で、政策アドボカシーを理解していただければいいのではないでしょうか。
この合宿セミナーは、政策アドボカシーのスキルをアップすることを目的にしています。この場を活用して、アドボカシーに、どういった技術が必要なのか、またどういった活動が必要なのかについて、ヒントを得ていただきたい。
|
● |
アドボカシーに必要なもの:自分たちの組織の立脚点
アドボカシーを行っていくためには、自分たちの組織の理論的な立脚点を明確にする必要がある。この合宿で、「立脚点」という言葉がなんども出てくるとおもいます。
・自分たちはどこからものを言うのか
・どこに立脚した上で、誰にものをいうのか
これを理論的に考えてみる必要がある。その訓練をしてみる。その上で、自分たちのNGOが、その他のNGOや政府とどこが違うのか、また、どこが共通なのか明確にする。その上で、仕事をしていく。
日頃、NGOの中で忙しいのですが、活動の中では必ず、何らかの考えに基づいて、活動を行っているはずです。その理論の整理を、アドボカシーで行ってみる。それがどこに繋がっているのか。
「理論上の立脚点」、難しい言い方をしていますが、つまり、どこからものをいうかということです。それを考えて行くためには、何を考えればいいのか。アドボカシーを考えていくとしたら、どこからはじめたらいいのか。いくつか挙げます。
・ |
誰がやるのか。私がやるのか、NGOがやるのか、懇談会がやるのか。 |
・ |
誰の利益のためにやるのか。その政治的なアドボカシーの行動をやることで利益を得るのは誰なのか、ということを明確にする必要がある。 |
・ |
誰が、アドボカシーの対象なのか。国連の文書なのか、日本政府の政策なのか、国会議員なのか。アドボカシーの対象が誰なのか。アドボカシーをする対象を明確にしていかなければいけない。 |
・ |
最後にアドボカシーの内容です。 |
何を言うのかをクリアーにした上で、効果的なアドボカシーを進める上で必要なことを考える必要があります。
政策を作るためにどのようなことをしていけばいいのか。「どこが」のポイントの一つ。一つの団体でやるのか、連携してやる場合には、何が共通項なのか、整理してやる必要があります。誰に向けて、誰のために言う必要があるのか。NGOが共有しているものは何か整理する必要がある。
また同時に、アドボカシーを行う対象が国連であったり、日本政府であったりするわけですが、相手側の認識の枠組みを知る必要がある。
知った上ですりあわせを行う。私たちNGOと政府は、何が違うのか、その違いに対してどう働きかけていく必要があるのか。考えていく必要があるわけです。
|
● |
「合宿セミナー」でめざすもの
合宿セミナーの二日間でやることは、ケーススタディを聞いて議論するということです。、ケーススタディについては、HIVに関する国際的・国内的なアドボカシーについてのレポートをお願いしました。これを踏まえて、分析と議論を進めていきます。まずはワークシートを用いたグループワークを今日やっていただき、明日には、グループでのプレゼンテーションをします。
今日のワークに早速入っていきましょう。私は参加型にこだわっており、何かスキルアップする場合は、まず皆さんに作業をしてもらうことにしています。
同封の資料(資料1参照)に、「ワークシート1」があります。このワークシートを、30分の作業時間で埋めてもらいます。この作業の目的は、
・自分たちの組織がなにを考え、何をアドボカシーしなければならないのか
・誰が、誰のために、誰の利益を優先して、誰にものを言っていくか
を整理するということです。ここに、私が所属している「女性と健康ネットワーク」の、アドボカシーをする立場のスタッフとして記入する場合を例としたサンプルがあります。見ながら説明を聞いてください。
まず、「組織名」を書く。「女性と健康ネットワーク」ですね。次に「活動領域」です。「アドボカシーおよびプロジェクトの遂行」。どんなアドボカシーをするか、やってきた国内キャンペーンなどについて書いてください。次が「活動の理念」。何を目的とした活動をしているか。「女性と健康ネットワーク」の場合は、「女性の性に関する権利の獲得」「性に関する健康の向上」「リプロダクティブ・ヘルス」になりますね。これらの向上を目指し、ジェンダーの視点から、保健医療および開発政策への提言を行う、ということです。会の公式見解をそのまま言うのではなくて、所属する団体の理念として皆さんが考えていることを率直に言葉にして下さい。
|
● |
アドボカシー活動の立脚点
次が「アドボカシー活動の立脚点」です。自分たちの活動は、誰の利益を代表するものなのか。「女性と健康ネットワーク」の場合は、対象となる地域の女性の利益を代表するわけです。社会的なマイノリティの利益を代表する活動、として、自分のアドボカシー活動を位置づけています。
もちろん、活動内容が多岐に渡る場合、それぞれの活動によって違いが生まれてくることはあります。
その場合、具体的に、場面によって書き分けて下さい。例えば、
・ |
プロジェクトをしているときには、プロジェクトの対象となる村の貧しい人の利益を考えている。 |
・ |
アドボカシーをしているときには、何かの政府の利益も考えている。 |
というように。
次が、「活動にとって重要なポイントは何か」。それぞれのNGOが、活動をしていくときに、重要となるポイントを書き出してください。
「女性と健康ネットワーク」の場合は、
・ |
政策が女性に利益をもたらしているか。 |
・ |
女性が対象でなく実施主体としてかかわっているのか。 |
・ |
決定プロセスに女性が参画しているか。 |
・ |
医療及び開発政策がジェンダーに敏感かどうか。
|
・ |
政策やプロジェクトが女性の人権および人権を配慮したものであるのか。
|
というあたりが、私たちの活動において大切です。私たちの団体は、政策の提言、アドボカシーを主な仕事として行っているので、このようになります。例えば、プロジェクトを行っている団体は、また別の視点で書き出すことになると思います。たとえば、村の住民の貧しい人が収入が向上しているか、家族計画の実施率が上がっているか、など。NGOの活動として大切に思っているところを書き出してください。
|
● |
日本のNGOとして活動する意味
今日、参加されている方々は日本でNGOとして活動されていると思います。中には、国際NGOで活動されている方もおられると思いますが。日本のNGOとして活動する理由がどこにあるのか、考えて書き出してください。
例えば、「女性と健康ネットワーク」の場合、国際的なネットワークの中で日本の拠点として情報の発信ができる、ものを言うことが出来るということに、その理由を見いだしています。日本としての独自性、日本のNGOとして意義付けについて、書き出してください。
最後に、「感染症としての関わり」です。なぜ所属NGOが感染症にかかわるのか。感染症とNGOにどういう関係性があるのか文章にしてください。
たとえば「女性と健康ネットワーク」の場合、女性の健康を高めるという活動理念に基づいて、女性の健康を害するものとして「感染症」を捉えている。また、エイズは性感染症であり、女性の性の権利の問題として考えることができます。権利保障がなされない結果として女性たちが感染症に感染したりHIVに感染したりすると考えられるわけです。
また、もう一度理念に戻ると、「女性と健康ネットワーク」の場合、性に関する権利を獲得するという理念を持っているから、それに照らして問題を捉えることができます。また逆に、性的自己決定が出来ない社会構造の問題として感染症を捉えるなら、自己決定権という女性の権利が妨げられている結果として感染症を捉えることができる。「自分たちのNGOの「活動の理念」と感染症とが、どのようにかかわっているのか、それを日本で活動を行う上で考えてほしい」ということが、今からやっていただくワークのポイントです。同じ組織の人は、一緒にやってみて下さい。お弁当とお菓子をつつきつつ作業をして頂ければと思います。
|
|
(5) |
評価
本合宿セミナーには、コーディネイター1名、発題者3名(コーディネイター含む)をあわせ、合計9団体から20名が参加した。
各参加者は、第一枠・第二枠のセッションにおいて、各NGOごとに討議をし、発表を行った。討議および発表においては、各自のプレゼンテーション能力もさることながら、それ以上に、各NGOが、
● |
何者であるのか、 |
● |
誰を代表・代弁するのか |
● |
誰に対して働きかけるのか |
● |
どのような結果を得るために働きかけるのか |
の4点について明確なものになっているかどうかが問われることとなった。
スケジュールの第2枠では、リソース・パーソンである国井修さん(外務省経済協力局調査計画課)から、日本の感染症対策における国際協力の政策の理念とあり方についての報告を伺った上で、報告を踏まえて、「ワークシート2」(資料2)に従って日本の感染症対策についての分析と提言を作成、発表した。
各NGOからの発表者は、それぞれの参加者およびコーディネイターから、上記4点の明確さを軸に審査され、発表後の質問や討議は、和やかではあるものの、非常にスリリングな討議をも含むものとなった。各発表者・参加者にとっては、日々の自らの活動の経験を言語化し、論理的な思考に基いてアドボカシーの戦略を立てるトレーニングの場となった。これらは、自己の思考の立脚点について根底から問い直し、アドボカシー能力を再構築する上で非常にユニークな経験であったと思われる。
こうした機会は、各NGOにおいて渉外・対外業務を行うスタッフだけでなく、戦略立案やプロジェクト開発を行うスタッフにとっても貴重なトレーニングである。今後においても、アドボカシーのキャパシティ・ビルディングのためのセミナーは必ずプログラムの中に位置づけられるべきであると考える。
|
(6) |
添付資料
● |
合宿ワークシート1:立脚点とミッションをつかむ |
● |
合宿ワークシート2:「政府の立場」発表をクリティカルに分析してみる |
|