ODAとは? 国際協力とNGO(非政府組織)

2002年度 保健分野NGO研究会

※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organizations


第2部 保健分野の開発プロジェクトのあり方と手法

(カンボジア HIV/AIDS対策事業評価研修/プロジェクト評価の理論と実践)


第1章 本研修の目的

 2002年度保健分野NGO研究会では、「テーマ1:保健・人口分野の開発プロジェクトの手法とあり方」と題して、保健関係の具体的な開発プロジェクトの手法を学ぶ企画を検討してきた。保健分野で特に近年注目されている、NGOのHIV/AIDSに関するプロジェクトで、研究会のメンバーが具体的な手法として業務に生かせるような、海外での実践的な研修という試みを行なうことになった。

 研修の実施にあたっては、保健分野NGO研究会のメンバーであるワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)がコーディネーターとなり、カンボジアにおけるHIV/AIDS関連事業のプロジェクト評価に関する研修を企画・実施するに至った。具体的には、カンボジアの国道1号線沿いで、WVJが実施しているHIV/AIDS対策事業の評価に参加し、評価のフレームワークや評価デザインの作り方、実際の評価データ収集方法、データ分析と評価結果の導き方等を学ぶこととなった。講師には、ワールド・ビジョン・アジア太平洋地域事務所の保健アドバイザー(Dr. Sri Chander)、ワールド・ビジョン・カンボジア(WVC)の保健アドバイザー(Dr. Douglas Show)を招き、複雑なHIV/AIDS事業評価を、いかに効率的かつ効果的に行なうかについて学び、体験することを目標とした。当研修の概要は下記の通りである。

【期間】 2002年9月24日(火曜日)~10月2日(水曜日)8泊9日(うち1泊は機内)
【研修地】 カンボジア王国 プノンペン
【参加者】 『GII/IDIに関する外務省/NGO懇談会 NGO連絡会』に所属するNGOから5名が参加した。
特定非営利活動法人 ICA文化事業協会 大隅 悦子
特定非営利活動法人 アムダ 富岡 洋子
アフリカ日本協議会 吉田 智子
財団法人 家族計画国際協力財団(JOICFP) 吉留 桂
特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 吉村 幸江
【参加の応募資格】 (原則として以下のいずれにも該当する方)
○ GII/IDI懇談会に所属しているNGOのスタッフ
○ NGO等の援助団体で、3年以上のプロジェクト運営管理の経験を有する方
○ 研修後、HIV/AIDS対策活動を、所属団体等で実践する機会がある方
○ 英語で仕事ができる方(TOEFLE550点以上程度)
【コーディネート】  特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン
 戸代澤 真奈美 (総合企画)
 堀口 真紀子 (現地コーディネート)
 高橋 真美 (研修同行)
【 研修日程 】 事前研修会
9月18日(水曜日) 18時30分~20時30分
現地研修に関する事務連絡やプロジェクト内容に関する事前資料を配付
海外研修
9月24日(火曜日) 成田空港集合、出発、プノンペン着
9月25日(水曜日) 評価対象のプロジェクトに関するオリエンテーション、HIV/AIDS
対策事業評価に関する総合研修、評価TORや今後の段取りの確認
9月26日(木曜日) 評価手法【インタビューやフィールド・テスト】に関する研修
9月27日(金曜日)~28日(土曜日) 評価データ収集
(現地スタッフに同行し、実際のインタビューやデータ収集を行なう。
また、必要に応じて評価手法に関する追加研修を実施する。)
9月29日(日曜日) 休日
9月30日(月曜日) データの分析
10月1日(火曜日) 評価結果のまとめ、プノンペン発
10月2日(水曜日) 成田空港到着、通関後解散


第2章 研修プログラム

 研修プログラム(PDF)

第3章 研修内容

A 理論編(講義内容)

-1.カンボジアにおけるHIV/AIDS感染状況

 カンボジアでHIV感染が最初に報告されたのは、献血用血液への感染で、1991年のことである。カンボジア政府はその後の急激な増加に対応するため、同年、国家エイズ・プログラム(National AIDS Program)をつくった。しかし、事態は悪化する一方で、1998年には国立HIV/AIDS・皮膚病学・性感染症センター(NCHADS : National Center for HIV/AIDS, Dermatology and STIs1が、1999年には国家エイズ局(National AIDS Authority)が設立され、他の政府機関、国際機関及びNGO等と協力しながら、国家戦略を立てHIV/AIDS対策を推進する体制が作られている。

 具体的には、図1で示されているように、母子感染予防、VCT、血液の安全性の確保、調査を戦略の柱に置いている。また、それに付随する活動として、100%コンドームキャンペーン、広報教育活動、性感染症の治療といったHIV/AIDS予防活動と、ホーム・ケア、ホスピス、医療機関によるケアなど、感染者のケアとサポート活動を進めている。

図1 Cumulative AIDS cases and deaths in Cambodia over time

図1 Cumulative AIDS cases and deaths in Cambodia over time

図2 Cumulative AIDS cases and deaths in Cambodia over time(研修資料より)

図2 Cumulative AIDS cases and deaths in Cambodia over time(研修資料より)


 図2は、1990年から2002年までの累積エイズ発症報告数とエイズによる死亡数を表したグラフである。2002年度現在、累積エイズ発症報告数とエイズによる死亡数は、それぞれ93,738件、78,653件である。1991年から2002年までの累積数の推移をみると、2000年を境にやや勾配の角度がゆるくなってはいるものの、全体としては毎年約1万5千人の割合で増え続けていることがわかる。

 HIV感染のリスクが高いと考えられる人たちの内、2002年現在それぞれの感染率は以下のように報告されている。

分類 直接性産業
に従事する女性
間接的に性産業
に従事する女性
結核患者 警察官 妊産婦
感染率(%) 28.8 % 14.8 % 8.4 % 3.1 % 2.8 %


 この内、直接性産業に従事する女性、間接的に性産業に従事する女性、警察官については、感染率は徐々に下がってきており、また、コンドームの使用率は上がってきている。これは、ハイリスクグループに対するHIV/AIDS予防活動の成果といえよう。
 この結果は、図3のHIV感染経路の推移を表すグラフにも顕著に表れている。1990年、1995年、2000年の推移を見てみると、1990年には、1位の「性産業従事者の女性から感染した男性」が約8割を占め、2位が「性産業に従事する女性」、3位が「夫から感染した女性」、という順位であった。これが、1995年には、「夫から感染した女性」の割合が、「性産業に従事する女性」の割合を超えて、2位に上がった。そして、2000年には、1位の「夫から感染した女性」と2位の「母子感染」が全体の8割に迫る勢いで増えており、3位の「性産業従事者から感染した男性」は20%以下に減少している。

図3 Route of HIV Transmission over time in Cambodia(研修資料より)

図3 Route of HIV Transmission over time in Cambodia(研修資料より)


 つまり、カンボジアに於いてはHIV/AIDSの流行は完全に家庭レベルにまで入り込んできているのである。これはまた、エイズ孤児及びエイズに感染している子どもの数の爆発的な増加を示唆している。現在カンボジアには、1万5千人から2万人のエイズに感染している子ども達がいると推定されているが、この数はわずか2年後の2004年には、4万~5万人に膨れ上がると予測されている。しかしながら、カンボジア政府は、こうした子ども達に対するケアにまでは手が回らず、子どもを対象とした活動を続けているNGOに今後の対応についての協力を呼びかけている。

-2.カンボジアにおけるワールド・ビジョンのHIV/AIDSへの取り組み

 ワールド・ビジョンでは、以下の4点を目指して、プノンペン市中心と、そこから放射線状に走る国道1、2、3、4、5号線沿線で、総合的なHIV/AIDS対策活動< 2を行っている。
  • HIV/AIDS新規感染率の減少
  • HIV/AIDS感染者が状況を認め、通常の生活ができるようになる。
  • 保健施設におけるHIV/AIDS感染者の支援やケアに対する偏見をなくす。
  • 地域におけるHIV/AIDS対策のキャパシティーを拡大する。

 具体的な活動としては、以下の4点を地域の状況に応じて複合的に組み合わせている。

1) 行動変容

 地域住民のHIV/AIDSに関する意識を高める。また、ピア・エデュケーションの実施と、地域ぐるみで自らの行動を変容していけるように指導者の育成を行なう。

2) カウンセリングとHIV/AIDS検査

 特にVCTをHIV/AIDS感染予防の糸口として強化している。具体的にはHIV/AIDS感染者自身が置かれている状況を受け入れるプロセスを助けることや、母子感染の減少、予防教育の実施、日和見感染や性感染症の初期段階での処置、地域での支援体制への紹介等があげられる。

3) 家庭及びコミュニティー・ベース・ケアによるHIV/AIDS感染者やHIV/AIDSによって影響を受けた子どもへの支援

 保健施設やVCTによる支援にのみ頼るのではなく、家庭や地域自身が支援を実施できるようにキャパシティーを高める。特に子どもたちへの支援は今後取り組むべき重要な課題である。
 保健センター毎にホーム・ケア・チーム(HCT)を編成し、各家庭を訪問できる体制を作っている。このチームは看護士、保健センターのスタッフなど4~5名からなり、医療や社会的な支援を実施する。

4) メディアとアドボカシー

 新聞やラジオ(青年と健康プログラム)による放送、キャンペーンの実施、ビデオや教育教材の作成等などを通して、広く一般に情報を提供する。

-3.ワールド・ビジョン『STAR-1』プロジェクト

a. 活動対象地域及び裨益者数 :プノンペンからベトナムに向かって延びる国道1号線沿いのカン・ミーン・チェイ郡(プノンペン市)、キーン・スヴァイ郡(カンダール県)、ペム・ロー郡(プレイ・ヴェン県)。約26万人。

b. 活動期間:2000年7月~現在(評価対象期間は2002年6月まで)

c. 活動内容

i. HCTによるHIV感染者、エイズ患者の訪問看護:
 国道1号線沿線の保健所に詰所を持つ4つのHCTにより、HIV/AIDS感染者宅への訪問看護、健康相談・カウンセリングの実施、周辺住民向けにコミュニティー啓発教育を行なう。
うち1つのホーム・ケア・チーム(プレイヴェン県)については2002年7月より行政へハンドオーバー
クライアントの数(2年間の活動実績)
新規登録累計:389人(男性200人、女性189人)
死亡件数:166人
直近のクライアント数:185人(男性79人、女性106人)
コミュニティー啓発教育への参加者累計:3,512人(男性1,608人、女性1,904人)


ii. ボランタリー・カウンセリング・エイズ抗体検査センター(VCT)の運営: 
国道1号線沿線の2つの郡病院に設置したセンターで、一般相談やカウンセリング、エイズ抗体検査を行なう。
うち1つのVCT(プレイヴェン県)については2002年7月より行政へハンドオーバー
クライアントの数
1年目合計::284人(男性168人、女性116人)
HIV陽性::61人(陽性の割合:21.5%)
2年目合計::847人(男性439人、女性404人)
HIV陽性::188人(陽性の割合:22.2%)


iii. マスメディア等を通した地域住民への予防教育: ラジオ、新聞、テレビ、公開フォーラム、キャンペーンなどを通して、人々の差別意識の撤廃とリスクグループの行動変容を促す。


d. 今後の活動の拡大計画:

i. 1つのHCTの増設(カンダール州ニークロン郡)

ii. 高校生、ファクトリー・ワーカー、コミュニティー・ユース(コミュニティーに住む高校生以外の若者)等のリスクグループへのピアエデュケーション・プログラム


-4.HIV/AIDSプロジェクト評価のフレームワーク

a. プログラム・デザイン

 評価で何を見るのか?評価を行う目的として、1)プログラムデザイン 2)プログラム施行・成果の2つを確認する必要がある。

iii. 1つのHCTの増設(カンダール州ニークロン郡)

 高校生、ファクトリー・ワーカー、コミュニティー・ユース(コミュニティーに住む高校生以外の若者)等のリスクグループへのピアエデュケーション・プログラム

i. プログラムデザイン

 プログラムデザインは具体的には以下のようなプロジェクトマイルストーンを経ながら形成され、見直されていくものである。

 プロポーザル作成 →ファンド獲得 →プロジェクト承認 →ベースライン調査→ DIP (Detailed Implementation plan) →1年の振り返り →中間評価 →終了時評価

 プロジェクトマイルストーンの中でも、DIP と中間評価がプロジェクトデザインを確認する上で最も重要な節目となる。

 プロジェクトデザインにおいて、オブジェクティブを考える場合、インパクト→アウトカム→アウトプット→プロセス→インプット の順で見ていかなければならない。また、オブジェクティブを定める際の注意事項として、

1) 正確なもの。1つのオブジェクティブには1つのアイテムだけ
2) サイズが統一されているか?同一の方向を向いているか?
3) 誰もが理解できる。特に、プロジェクト実施者が共有できるものであるか?

の、3点が挙げられる。

 更に、オブジェクティブには、シンプルで数量化されたインディケーター、使いやすい道具(Ex.質問票)が揃っている必要がある。

 プロジェクトデザインの各段階で考慮すべきものとして、費用対効率と費用対効果がある。費用対効率(Cost-efficiency)は、プロジェクトの活動に対しどのくらいの費用がかかったか(Cost/Output)、費用対効果 (Cost-effectiveness)は、 プロジェクトの成果、またはインパクトに対しどのくらいの費用がかかったか(Cost/ImpactまたはOutcome)を計る。短期的に費用対効果が悪いプロジェクトは長期的な持続性に問題がありがちである。
 プロジェクト立案の段階で、1つのアウトプットに対する異なるアプローチを検討する際、それぞれのアプローチにかかると予測される費用と期待される効果を比較する。

 また、プロジェクト形成の段階で明確なExit StrategySustainability Strategyがあるかを考慮する必要がある。更にBehavior Change Communication Strategiesやその中におけるメッセージ、教材等がジェンダーの観点を配慮しているか、についても重要なポイントとなる。


a. HIV/AIDSプロジェクト評価の焦点

HIV/AIDSプロジェクト評価では、具体的に何を見るのかという点に関しては以下の9つの点を含める必要がある。

i. HIV/AIDSの専門的な内容に関する考慮
ii. Cross-Cutting Issues
1) Community Mobilization/ Empowerment
2) Behavior Change Communication (BCC)
3) Gender Sensitivity
4) Capacity Building
5) Sustainability

それぞれの項目に対して、チェックリストを作成し、各国ワールドビジョンの評価の中で使用、そして改良を重ねている。
iii. プログラムマネージメント
iv. 情報マネージメント
v. 技術的なサポート
vi. Lesson Learned
vii. プロジェクトハイライト(1ページ)
 これは主に外部用に作成される。プロジェクトの特徴を簡潔にまとめ、特にドナーに対してプロジェクトの売りは何かをアピールする目的で使われる。
viii. Findings & Recommendation
ix. Follow-up Action Plan


 プロジェクトがHIV感染率の低下にどう貢献したかを実証するのは困難である。それでも、プロジェクト効果の評価は、生物医学、行動科学、社会人口統計学、それぞれの観点から集めたデータの相関性を見ることで有効な結果を得ることは可能である。

b. HIV/AIDSプロジェクト評価のプロセス

 理想的なHIV/AIDSプロジェクト評価は以下の過程で行われる。

i. 資料を使った調査 (プロジェクトプロポーザル、レビューレポート、調査リポート、プロジェクトリポート、評価リポート等)
ii. 質的アセスメント (PLA、FGD、インタビュー、参与観察、等)
iii. 量的アセスメント(ベースライン調査、チェックリスト、等)
iv. プロジェクトサイト訪問


c. HIV/AIDSプロジェクトのインディケーター

 HIV/AIDSプロジェクトとして考慮すべきインディケーターには、1)予防、2)ケア、物的・精神的サポート、3)アドボカシー(政策提言)、4)キャパシティー・ビルディング・パートナーシップ がある。

 インディケーターを考える上での注意点としては、それぞれのレベルにおいて指標を作る、(インパクト→アウトカム→アウトプット→プロセス→インプットの順に考える)、指標の数値化(具体的な数または%)の2点が挙げられた。

d. HIV/AIDSプロジェクトアセスメントツール

 HIV/AIDSプロジェクトアセスメントツールには、質的アセスメントツール、量的アセスメントツールがある。

i. 質的アセスメントツール
これは主に、予防・ケア、物的・精神的サポート、指標を評価するのに適したツールで、
Participatory Learning for Action (PLA)
Focus Group Discussion (FGD)
Key Informant Interviews 
の3種が挙げられる。
迅速に評価するためには、プロジェクトサイトの視察・観察もツールとなる。その他ツールとして、Appreciative Inquiryが使える。

ii. 量的アセスメントツール
  量的アセスメントツールには以下のようなものがある。
1) Behavioral Surveillance Survey (BSS)
2) Gender Sensitivity Checklist
3) Health Facility Assessment Tool (Quality of Case Management of Sexually-Transmitted Infections, Quality of Voluntary and Counseling Centers)
4) Organizational Capacity Assessment Tool
5) Home Care Team Visit Assessment Tool


質的アセスメントの結果は次のステップである量的アセスメントの詳細を検討する材料としても使われる。従って、順序としては、まず質的アセスメントを実施するべきである。

ツールを使ったアセスメントの結果をどう生かすかであるが、まず、調査協力者、カウンターパートとの結果の共有は重要である。調査協力者やプロジェクト関係者が調査から学んだことは、かれらのエンパワーメントへと繋がる。また、調査結果は必ずプロジェクトへ反映されなければならない。アセスメント結果をどのようにプロジェクトに生かすか、そのポイントとしては、

1) オブジェクティブとターゲットを確認(現状に合っているか?)
2) 対象者の知識と実際の行動の間にギャップがあるか?(もしギャップがある場合、どのようにギャップを埋めることができるか?障害となっているものは何か?)
3) 行動変容のためのメッセージ、イメージ、教材の発案
4) トレーニング、スーパービジョン、情報、サービス、教材の質の向上に役立てる。
5) HIV/AIDSプロジェクト質的アセスメントツール


f. 3つの質的アセスメントツールの特徴は、

i. PLA:不均一な異なる参加者、自然で自由な話し合い、誰でも参加の輪に出入り自由。情報収集、現状の把握、問題確認に使える。
ii. FGD:均一な参加者、予め質問が準備してある、話し合いのトピックが決められ ている、選ばれ集められた者のみ参加可能。
iii. AI:Positive Analysis.(最も上手くいったことに焦点を充て、期待される将来に向かって、強みを生かしながら、更なる向上を目指す。)
「何が上手くいっているか」(現在の強み)
「何を強化する必要があるか」(将来への展望)
「何がギャップを生じているのか」(問題分析)
「どのようにギャップを埋められるか」(方策、活動計画)
iv. IDI: プロジェクトの主要アクターへのインタビュー、必要な情報を得る。


j. HIV/AIDSプロジェクト量的アセスメントツール

前述したように、現在ワールド・ビジョンでは、5つの量的アセスメントツールが使われている。 

i. Behavioral Surveillance Survey (BSS) Instrument
6~12ヵ月毎に異なる対象グループの行動の変化や相関性を確認することによって、早い段階で予防プログラムを調査結果に適応させていく。BSSの結果は予防
プログラムの道標となる。また、BSSを使って、どこに行動変容が起こっているか、どこで危険度の高い行動がまだ取られているかを把握することができる。

ii. Gender Sensitivity Checklist
このチェックリストの用途としては、現行プログラムのGender Sensitivityをチェック、プログラム立案時にジェンダー配慮を取り入れるなどが挙げられる。このチェックリストの結果をもとに、異なるグループ(女性、男性、若者、…)のプログラムへの参加を促がすことができる。


B 実践編 質的調査 / 量的調査

-1.評価の流れ

a. 概要

 評価対象プロジェクトは、開始後2年3ヵ月が経過し、中間評価の時期を迎えている。今回の中間評価結果と2001年1月に行なったベースライン調査結果との比較を行い、成果を図るのが今回の評価の目的である。さらに、今回の評価は、次のプロジェクトに向けたベースライン調査の意味も含んでいる。

評価の内容
ベースライン調査(2001年1月) 中間評価(2002年9月)
・行動動向調査 ・ドキュメントレビュー
・ 行動動向調査
・ フォーカス・グループ・ディスカッション


b. 評価の手順

 評価は以下の順に行なわれた。量的調査の内容を、より実施対象者に合わせたものにするため、質的調査が先行して行なわれることがのぞましい。

i. ドキュメントレビュー
ii. 量的調査
質問票を使った行動動向調査
iii. 質的調査
フォーカス・グループ・ディスカッション(FGD)


c. 量的調査―行動動向調査

i. 準備
調査目的にかなった質問票の作成
個々の質問がプログラム・デザインと密接に関係しているか、不要な質問はないか、質問がだぶっていないかなどに注意する。
対象者の設定
インタビュアーの手配
質問票の中に性に関する問いが含まれることを考慮して、インタビュアーはすべて対象地域外から選ぶなどの配慮を行なう。
インタビュアーの内訳
  女性 男性
高校生 17 17
VCT/HCTスタッフ 17 20
合計 34 37
ii. インタビュアーのトレーニング
 評価対象事業のスタッフが、質問項目について説明をし、ロールプレイを用いてトレーニングを行なった。
iii. 事前テスト
 対象地域外で実際に質問票を用いて行なった。必要であれば質問票の修正が行なわれる。
iv. 実施
 高校では男女に分けて一斉書き込みによるデータ収集を行い、その他の対象者には1対1での聞き取りによるデータ収集を行なった。
v. データ入力
 NCHADSに委託して、『EPI INFO』3というソフトを用いて収集したデータを入力した。
vi. データ分析
 入力されたデータをもとに得られる事実を分析し、ベースライン調査の結果とも比較する。
vii. フィードバック
 データ分析の結果得られた事実を、データ収集を行なったVCT/HCTスタッフと評価対象事業スタッフ、研修参加者で共有した。

 この後、調査に参加した高校生、情報を提供した住民にもフィードバックが行なわれる。

e. 質的調査―フォーカス・グループ・ディスカッション(FGD)

i. 準備
・質問の仮作成
・対象者の設定と調査実施の手配
・ファシリテーターと記録係の手配
ii. ファシリテーターと記録係のトレーニング
 FGDを実施するVCT/HCTスタッフに対し、進め方などを対象事業のスタッフが指導した。加えて個々の質問が適正か検討し、ロールプレイで役割の確認などを行なった。
iii. 事前テスト
対象外の地域で実際の質問を用いて行なった。必要に応じて質問を修正する。
iv. 実施
トレーニングを受けたファシリテーターと記録係が対象ごとに9つのグループに分かれて実施した。
v. データ分析
グループごとに、得られたデータから重要事項を抽出。
vi. フィードバック
グループごとに抽出した重要事項について発表し、データ収集を行なったVCT/HCTスタッフ、評価対象事業スタッフ、研修参加者で共有した。この後、情報を提供した各グループのディスカッションの参加者にもフィードバックが行なわれる。


-2.量的調査とその分析

a. データ収集(フィールド実習)

i. 準備

1) 調査目的にかなった質問票の作成
 個々の質問がプログラム・デザインと密接に関係しているか、不要な質問はないか、質問がだぶっていないかなどに注意する。

質問票の作成手順

質問票の作成手順

2) 対象者の設定と調査実施の手配

3) インタビュアーの手配

ii. 調査データ

1) 調査実施対象

ターゲット 性別 サンプル数 実施方法 長い質問票 短い質問票
高校生:第11学年の生徒:3校にて
(日本の高校2年生にあたる)
男性 100 集団  
女性 100 集団  
コミュニティー・ユース:11ヶ村にて
(コミュニティーに住む高校生以外の若者)
男性 100 個別  
女性 100 個別  
ファクトリー・ワーカー 女性 100 個別  
警察学校*1 男性 30 個別  
コミュニティー・リーダー*1 混合 30 個別  
宗教指導者*1 混合 30 個別  
政府/NGO/教師*1 混合 30 個別  
*1・・・この調査フィールドには一切参加していないため、このデータ収集に関する言及は行わない。

2) 質問票の種類

 質問票は以下の2種類が用意された。各質問表の対象は上記表のとおりである。

長い質問票(全37問):HIV/AIDSに関する質問。性体験・性交渉に関する質問を含む。
短い質問票(全24問):HIV/AIDSに関する質問。性体験・性交渉に関する質問を含まない。


高校生やコミュニティー・ユース、ファクトリー・ワーカーに対して長い質問票を使用した理由は、今回の評価が次のプロジェクトに向けたベースライン調査の意味も含んでいるからであり、今後の活動の方向性と照らし合わせ、活動開始前の現状を把握するという目的がある。

3) サンプル抽出

 偏りのないサンプルを構築するには、インタビューのサンプル抽出はランダムに行われなければならない。選択がランダムでなければ、サンプルに偏りが出て、そこから導き出される結果からは対象となる母集団全体の真の動向を反映できない。従って、無作為選択によるサンプル抽出が望ましい。

 今回、高校生のサンプルは学校の先生が抽出した。その他、コミュニティー・ユースやファクトリー・ワーカーのサンプル抽出は、現地でほぼランダムに行われた。

 高校での調査当日は、事前に学校側の許可を取り、綿密に予定を決めていたにもかかわらず、調査チームが到着した時点では十分な人数が揃っていなかった。そこで先生方に頼み、急いでサンプル数に足りる数の生徒を『かき集めて』もらい、調査を実施することができた。いかに万全に準備をしていたとしても、当日どのような問題が起こるかわからない。その時々、状況に応じて対処していくことが重要である、ということが当日に学んだ教訓である。

4) インタビュアーのトレーニング(準備)

 データ収集実施者となる高校生、ワールド・ビジョンによる他地域のHIV/AIDS対策プロジェクトのVCT/HCTスタッフが集まり、半日のトレーニングを受けた。今回の評価の対象となるプロジェクト概要および評価目的などの説明の後、質問票の各質問の説明と、実際にインタビュアーと回答者となってロールプレイを行った。

 その後、テスト調査としてほぼ本番と同じ状況での調査が行われた。

ii. 調査実施(手順)

高校生

事前に学校の許可をもらい、予定した時間に高校に行き、学校側が集めた男女各40名ほどの生徒を別々の教室に集めて行なう。まず、今回の調査のアドバイザーがこの調査の実施団体や目的、調査結果の守秘義務について説明する。その後、インタビューアーが質問票を配布し、手順を説明する。回答者となる生徒は、テストを受けるように各自が質問票に向かい、回答を記入する。質問があれば適宜インタビューアーに質問する。所要時間は一クラス当たり45分程度。

今回高校生だけが集団でのテスト形式をとったのは、彼らが記述方式に慣れているという理由が挙げられている。

コミュニティー・ユース

 2人からなるインタビューアーチームが対象地域を歩いてターゲットを捜し出し、質問票に沿ってインタビューを行なう。一人が質問し、もう一方が記録者となる。所要時間は一人当たり15分程度。

ファクトリー・ワーカー

 2人からなるインタビューアーチームが休憩あるいは仕事を終えて出てきた女性労働者ひとりを捕らえ、質問票に沿ってインタビューを行なう。一人が質問し、もう一方が記録者となる。所要時間は一人当たり15分程度。工場には、事前に許可をとっている。

いずれの場合も終了後、回答者にお礼を述べ、石鹸とガムを配った。

インタビュアー

 2人からなるチームをつくり、女性の回答者には女性インタビュアー、男性回答者には男性インタビュアーがあたった。今回、高校生がインタビュアーとして選ばれた理由として、文字の読み書きができ、十分な理解力がある、夏休み中で時間の調整もつきやすく、安価な経費で確保できるといったことが挙げられた。それに加え、リスクグループである彼らへの意識喚起の機会ともなる。

iv. 質問票の回答状況のチェック

 質問票には、解答欄の右端にチェック欄が設けられている。データ収集後、オリジナルの回答を右側のこの欄に書き写して行く。データ入力を容易にするメリットもある。

v. 実施することで気がつくこと

現地語(クメール語)に翻訳された質問の意味がよく理解できないものもある。
質問が集中する質問がある。→ これはなぜか?現地語の記述方法を変えるべきではないか。
学校で実施する場合、生徒がより素直に回答するためには先生を遠ざけた方がよい。
インタビュアーとして高校生が参加したことで、ユースの回答者は親近感を覚え、回答がしやすくなったのではないか。
一対一のインタビュー形式の主な利点は、インタビュアーと回答者との間で双方向のコミュニケーションができることであり、それによってインタビュアーは回答者の質問にも直接答えることができ、より正確な回答を得ることができる。高校生に対して行ったような集団での実施方法では、質問の解釈や回答方法がある程度回答者に委ねられているため、有効ではない回答を得る可能性はより高くなると考えられる。その一方、一対一の場合はインタビュアーが未熟だったり、質問の意図を微妙に取り違えていたりすると回答が本来の意図とはずれてしまい、しかもそれは質問結果の記述からは測れない、という恐れもある。インタビュアーの事前トレーニングがいかに重要か、ということを現場に参加することで改めて実感させられる例もあった。


b. 分析と考察

 ここからは統計ソフトとして『EPI INFO 6』を使用する。今回、データ入力はNCHADSに委託され、分析をWVで行なった。以下、手順に従って記述する。

i. 質問票に対応する入力フォーム(データベース)および入力ルールを作成する。

ii. データ入力
質問票の回答には以下の4種類のタイプがある。
 a) 選択肢から1つだけ選んで回答する質問。(最も多い)
 b) 選択肢から複数回答してもかまわない質問。
 c) 選択肢がなく、数値で回答する質問。
 d) 選択肢がなく、回答者に文字や文章で回答してもらう質問。(自由回答)
各回答形式ごとに以下のように入力する。
 a) 選択肢の番号(カテゴリーコード)で入力する。
 b) 選択肢1つを1つの質問として扱う。
例)Q7が選択肢が3つからなる複数回答の場合、Q7-1、Q7-2、Q7-3とし、○がついていたら1、○がなければ0を入力する。
 c) 回答のあった数値をそのまま入力する。
 d) 自由回答は分析できないので入力しない。(分析時、必要に応じて質問票を参照する。)
全ての質問票にサンプルナンバーを連番で入力する。(サンプルナンバーがなければ、質問票とつき合わせる必要が生じた時に照合できない。)
調査データはターゲットごとにテーブルを分けて入力される。

iii. データ誤入力のチェック
 誤入力を含むデータサンプルはサンプルナンバーを参照して原票を確認し、入力ミスを訂正する。

iv. 集計
 入力データをもとに、ターゲットグループ・性別毎に作業を行なう。
 (データに疑問がある場合には質問票の記述を確認することも必要である。)
 ここからの作業をワールド・ビジョンが行なう。この作業の実施者はテクニカルアドバイザー2名、NCHADS副局長Dr.Hor Bun Leng、そして日本からの研修者6名が加わった。
単純集計を行なう。
 ターゲットごとに各質問項目の選択肢別回答数、その割合を調べる。
同時に、論理的関連性がある質問間の論理的エラーをチェックする必要がある。
例)『セックスパートナーをもつ』人の人数が『性交渉を経験済み』の人数を上回る。
『何らかのSTIの症状があった』人の人数が『性交渉を経験済み』の人数を上回る。
集計時に、ある質問項目の数値をいくつかのカテゴリにまとめて見ることもできる。 例)『初体験の年齢』を『~16歳』、『17~25歳』、『26歳~』、という3カテゴリに分けて各割合を見る。
クロス分析
例)『既婚者』あるいは『年齢』と各質問間の関係


v. 集計データから分析指標への変換
 全質問を取り上げる必要はなく、何を知りたいのかという観点から必要な指標で集計データをとらえる。

例) サンプルに関するインフォメーション(サンプル数、年齢、身分、宗教、居住年数など)
HIV/AIDSに関する理解度(感染経路、予防の理解度、誤った知識を持つ割合)
HIV/AIDSへの理解
HIV感染者理解
性交渉(初体験年齢、複数のセックスパートナー保持率)
コンドーム使用
各指標の割合を算出する場合には常に『分母を何にするか』に注意する必要がある。それによって値は大きく変わってくる。また、これらを報告書上にもきちんと記述することを忘れてはいけない。記述がなければ読者はその数値が意味することを明確に把握することができない。


例)『STIの症状がある人の割合』は『全サンプルに対するもの』か『性交渉を行っている人に対するもの』なのか。
サンプル数があまりに少なければもちろん有効なデータとは言えない、という点にも注意が必要である。

vi. 分析・まとめ
分析指標をもとにどのような特徴が見られるかについて検討する。以下の観点から数値の変化や傾向、その他、疑問点などをピックアップする。
性別間の数値比較。
ターゲットグループ間の数値比較。
以前の調査結果との数値比較。


-3.質的調査とその分析

a. インタビュアーに対するトレーニング

 インタビュアー14名に対し、半日のトレーニングが実施された。インタビュアーは、HCT及びVCTチームのスタッフ14名(全員成人、男性7名、女性7名)である。

i. FGDについての講義

 WVCのスタッフから、今回質的調査方法に用いられるFGDの手法について説明を受けた。その概要は以下の通りである。

1) FGDの参加者:
適当な人数は、6~8名程度
同じタイプの人を集める
例)HIV/AIDSと共に生きる人のグループ、HIV/AIDSと共に生きる人の家族のグループ、など
参加者はよく考慮した上で選ばれる


2) ファシリテーター*が参加者に対して取るべき態度:
(* FGDにおいては、インタビュアーではなく、ファシリテーターまたはモデレーターという名前で呼ばれる)
* どのような答えも判断することなく受容する
* 参加者に情報提供を強要する必要はない
* 相手の目を見ながら話す、など


3) FGD実施の手順

準備
(1) 調査の目的、成果を設定
(2) 調査対象の決定
(3) 質問の作成(「はい」または「いいえ」で答えるタイプの質問と説明して答えるタイプの質問)
(4) 議題、スケジュールの決定
(5) 事務的手続き(場所の確保、参加者への連絡、必要な用具の準備、など)
実施
ファシリテーター
(1) 議題およびスケジュールの確認
(2) ファシリテーター及び参加者の役割の明確化
(3) 基本的約束事項の確認
例)携帯電話の電源を切る、他の人が話している時は割り込まない、など
(4) ディスカッションのリード
記録係
(1) 記録用レコーダー、マイク、テープ、ハンドアウトなど必要な用具の準備
(2) 飲み物や簡単な食べ物などの準備
(3) 部屋の設置(机・椅子の配置、気温、騒音への配慮など)
(4) FGD中の記録(筆記、録音)
但し、HIV/AIDSというセンシティブな内容のため、本人や家族に配慮して、今回の調査では録音はしなかった。
(5) FGDの終わりにあたり、口頭で話し合われた内容の要点を報告
参加者
(1) 質問に答える
(2) 情報、考え、気持ちなどをその場の全員と分かち合う
 *実施時の記録係の位置:サークル内で離れた位置に座る
分析・報告
(1) ファシリテーターと記録係はFGD終了後すぐに、FGDで得られた情報及び解釈についての確認作業を行なう。
忘れてしまう前に両者の記憶を共有することで相互に補い、記録をより確かなものにし、その結果から分析を行なう。
(2) FGD参加者に対し、FGDで得られた情報の報告および、参加者からそれに対する意見や感想をもらう


ii. インタビュアーによる質問項目の検討

 インタビュアーは2グループに別れ、質問項目の検討を行った。(質問項目は添付資料を参照。)この段階で、質問事項が適切かどうか、使用されている言葉が参加者にとって理解可能か、をチェックし、必要に応じて修正していく。たとえば、男子高校生用と女子高校生用の質問は、質問の意図を変えないでそれぞれに適する様に必要な部分を変える作業が行われた。英語からクメール語に翻訳されている段階で、誤訳や表現の仕方により、質問の意図が変わっている場合もあるので、これは大切な作業である。

iii. ロールプレイによる練習

 質問項目についての確認が終了後、ロールプレイにより15分程度の練習を行なう。1人がファシリテーター、1人が記録係、その他の人たちはインタビュイーとなる。このとき、記録係は、全員に見えるように大きな模造紙に記録をとっていた。

iv. ロールプレイを通じての学びの共有

実際に質問する側、質問される側を経験することにより気づいた点などを共有する。どの質問に答えにくかったか、とか、なるべく大勢から意見を聞き出すにはどうしたらよいか、といったことについて検討された。

v. フィールドテスト インタビューは、ファシリテーターと記録係、それぞれ1名ずつ2人1組になり、フィールドテストを行った。これは、別のプロジェクト地区で実施された。フィールドテスト後、質問項目が適切であるか、理解しやすい表現であるかを再度検討し、必要に応じて修正が行われた。


b. データ収集(フィールド実習)

 FGDは2日間に渡り、実施された。ファシリテーターと記録係りの2人が1組となって行った。女性のグループは、女性のファシリテーターと記録係が担当するなど、性別に配慮されている。これは、異性が介在することで、自分の意見を言いにくくなったり、変えてしまったりといった、バイアスが掛かるのをなるべく避けるためである。FGDは、以下の9グループに対し実施された。

NGOスタッフ
女性の工場労働者
学校の教員
男子高校生
女子高校生
地域のリーダー
保健センターのスタッフ
HIV/AIDSとともに生きる人々
HIV/AIDSとともに生きる人々の家族


FGDは、各グループ1時間程の時間で行われた。まず、ファシリテーターが、FGD参加者に対し、協力への感謝を述べた後、自己紹介、このFDGの目的及びFGD参加者のプライバシーが守られることを説明した。そして、前日のトレーニングで習った手順で進められた。写真をとる場合には、最初に使用目的を説明し、許可を得る必要がある。FGD終了後、お礼を述べられた後、参加者には石鹸とガムが配られた。

 ファシリテーターと記録係は、その直後にFGDの内容についての確認作業を行った。

 以下は、実際に同席したFGDの様子を記録したものである。

FGD事例 ~ その1 ~

~ホーム・ケア・チームのあるヘルスセンタースタッフとのFGD~

参加者: ・ファシリテーター(女性)、記録係(女性)
・ヘルスセンター長(男性)、その他スタッフ男性3名、女性2名
・Dr. Sri Chander(男性)、日本人研修生2名(女性)、通訳1名(男性)、


(1) 経過
ヘルスセンターの屋外のテーブルと椅子を使って行なわれた。椅子には日本人研修生、通訳、Dr. Sri Chanderも含めた全員が座り、発言をノートに記録しながら行なわれた。なお、記録係も時折ディスカッションに加わった。
用意した質問をファシリテーターが順に尋ねていった。主にヘルスセンター長が答え、他のスタッフは質問に対し口を開くが、最初の発言権はヘルスセンター長にあり、ファシリテーターがその答えで満足して次の質問に移るといった状態で、他のスタッフに意見を求めることはあまり行なわれなかった。また、男性と女性の発言が同時に行なわれたときに、ファシリテーターから女性へのアイコンタクトが不十分なため、女性が発言をやめてしまうという状況が見られた。ただし、特に他のスタッフが発言しにくいという雰囲気ではなく、終了近くにはやや改善され、スタッフが発言を始めた。
(2) Dr. Sri Chanderのインタビューより
このグループのように、上下関係のある中でFGDを行なう場合、十分に注意しないと質的調査の別のツールであるKey Informant Interviewと同じ結果になり得ることがある。これが、FGDではなくPLAであったなら、フィルターと呼ばれるの役割を果たす係を1名決めておいて、ヘルスセンター長を連れ出すところだが、FGDではファシリテーターと記録係の2名しかいなかったためにそれを行なうことができなかった。
(3) その他
グループ全体が同性である場合はファシリテーターが同性であることがのぞましいが、グループが男女混成の場合、女性のファシリテーターが必ずしも女性の意見を汲み上げられるわけではないことがわかった。ファシリテーターの女性自身が男性の意見の方を重んじ、発言を優先する場合もありうる。このグループでは、ファシリテーターも記録係も別のヘルスセンターに所属していることがややマイナスに働いたと考えられる。
また、研修の性格上やむをえないとはいえ、外国人研修生の同席と通訳の声がディスカッションの妨げになったことは否定できない。ヘルスセンター長はしばしば、通訳やDr. Sri Chanderの方を向いて話しをし、それは上からの聞き取り調査に対して回答しているかのようであった。


FGD事例 ~ その2 ~

~ホーム・ケア・チームのあるヘルスセンタースタッフとのFGD~

参加者: ・ファシリテーター、記録係各1名
・コミューンリーダー 4名
・ビレッジリーダー  2名(以上いずれも男性)


1) 経過
ふたつのテーブルを7名が囲み、記録係はその輪の外、参加者の大半から後ろに当たるベッドに腰をかけて記録を取るという形で行なわれた。ファシリテーターは自分の役割を良く理解しており、発言をまんべんなく引き出していた。
日本人研修生と通訳、Dr. Sri Chanderは終了間際に記録係の隣りに座り、特に進行の妨げになるようなことはなかった。
2) Dr. Sri Chanderのインタビューより
FGD終了後、研修生2名はPLWHAの家庭を訪問し、その間Dr. Sri ChanderはFGDに参加して疑問について各グループに短いインタビューを行なった。コミュニティーリーダーのグループでは、参加者の選定の問題を取り上げた。「コミュニティーリーダー」として、状況をよく把握しているビレッジリーダーを想定していたにもかかわらず、今回の参加者の多くがコミューンのリーダーだったため、村の状況が良くわからなかった。コミューン全体では60人のHIV感染者がいて、ある村では20人の感染者すべてが亡くなったとの情報をビレッジリーダーから得られたが、他の村の状況を得ることは難しかった。


c. 分析と考察

 分析作業に参加したのは、ファシリテーター及び記録係を担当したHCT/VCTスタッフ、WVのプロジェクト担当スタッフ、テクニカルアドバイザー、及び本研修参加者である。分析は、以下の手順で行われた。

i. 重要ポイントの洗い出し

 FGD用に用意された質問項目は8点であったが、それぞれのインタビュアーグループは、ここから重要と思われるポイントを5つに絞った。各グループごとにその5つのポイントが全体に対して発表された。発表原稿は、すべてクメール語で書かれているため、外国人参加者のために英語に同時並行で訳された。

ii. 要点の抽出

 それぞれのFGDについて選ばれた5つのポイントの内容を検討しながら、特にそのグループを特徴付けるユニークで、新しい情報を拾い上げ、1~2行の1文でまとめていった。その結果、このFGDで得られた情報は、最終的に9つのポイントでまとめられた。
 この作業は、本来は、2~3時間をかけて、インタビュアーを含めて全員で進めていくのが理想的であるが、今回は時間が遅くなってしまったため、インタビュアーは退席し、それ以外の者で約1時間で行った。 この抽出された要点は、質的調査の分析結果と合わせて分析される。必要があれば、5つのポイントやFGDの記録に戻って、分析材料となる。


-4.フィードバック

a. フィードバックセッションの目的

 フィードバック・セッションは、インタビュアーとしてデータ収集に参加したVCT/HCTスタッフから、プロジェクト評価の調査分析結果に対する意見を収集するために開かれる、参加型のセッションである。プロジェクト運営(Daily Processing)過程で日常的に抽出される発見や課題に加えて、プロジェクト評価結果をVCT/HCTスタッフと共有、検討し、今後のプロジェクト運営に対する提案や意見を導き出すことで、現場の声を反映した分析および今後への提案を作成することが出来る。特に活動地域でのキャパシティー・ビルディングを目標に含むプロジェクトでは、評価プロセスに現地のVCT/HCTスタッフが参加することは重要であり、フィードバックセッションも重要なプロセスである。

b. フィードバックセッションの評価全体における位置付け

 評価プロセスで収集したデータを分析する過程は、以下の3つに分けることが出来る。

評価プロセスで収集したデータを分析する過程


1) 発見:収集したデータから重要なポイントを拾い上げる(What does it say?)
2) 結論:解釈作業(What does it mean?
3) 提案:次回へ向けての意見(What is mean?


 フィードバック・セッションでは、1)にあたる評価データ分析を担当したWVスタッフがVCT/HCTスタッフに向けて分析結果を報告した後、VCT/HCTスタッフの視点からの意見や分析、または今後に向けた提案(2)3))をフィードバックとして得る。これら報告およびフィードバックを踏まえ、最後に今後への提案をまとめる。  

 今回のフィードバックセッションは、評価プロジェクトの経過報告の目的で、予備的フィードバック・セッション(Preliminary Feedback Session)として行われた。プノンペン市内のWV事務所を会場とし、WV側の担当スタッフの進行で、セッション全体は約2時間30分にわたった。参加者は以下の通り。

質的・量的調査プロセスにインタビュアー等として参加したVCT/HCTスタッフ約30名
ワールド・ビジョンのプロジェクト担当スタッフ
テクニカルアドバイザー
量的調査分析責任者NCHADS副局長Dr. Hor Bun Leng
日本からの研修者6名


c. フィードバック・セッションの流れ

i. フィードバック・セッションの目的および流れの説明

 まず参加VCT/HCTスタッフにセッションの流れを説明する。上記に書いたデータ分析のプロセスを概観した上で、フィードバックセッションがどの段階に位置付けられ、何を目的としているのかを解説した。また参加型のセッションであることを明確にし、参加者の積極的な意見を求める旨を伝えた。

ii. 質的調査結果分析の仮報告

 フォーカス・グループ・ディスカッションの担当者により抽出され、その後ワールド・ビジョンのスタッフと日本人研修者によって分析・まとめられた、重要な分析結果(9点)を報告した。

iii. 量的調査結果分析の仮報告

 分析指標シートにまとめられた量的調査(行動動向調査)の結果を提示し、質的調査(FGD)から得られた9つの要点に言及しながらプレゼンテーションを行った。

 量的調査結果の報告対象となったグループは以下の通り(括弧内は報告担当者)。

高校生からの回答分析結果報告(NCAHDS副局長Dr. Hor Bun Leng)
コミュニティー・ユースからの回答分析結果報告(日本からの研修参加者)
ファクトリー・ワーカーからの回答分析結果報告(日本からの研修参加者)


iv. VCT/HCTスタッフからのフィードバック

 調査結果の分析報告を受け、VCT/HCTスタッフからプロジェクトまたは報告内容についての感想や意見を募った。最初、漠然と意見を求めた時には発言が進まなかったが、進行担当者が「現在のプロジェクトに足りないものは何か」、「今後プロジェクトを改善するために必要なサービスは何か」などの具体的な問いかけをすると、10人以上が次々と発言し、VCT/HCTスタッフの懸念や期待が幅広い意見や今後への提案となって聴取された。参加型の評価プロセスにより、分析に広がりが出ることが実感された。
 発言内容の例)
HIV感染者に対する社会経済的支援は、今後も強化していくべき
HIV感染者の住む地域住民に対するHIV/AIDS教育を強化していくべき
地域での衛生教育の実施も考えて欲しい
STIにはこれまで注目していなかったが、今後はSTI教育も必要
高校生や教師へのHIV/AIDS教育の強化・実施が必要


v. フィードバックセッションのまとめ

 分析結果の仮報告とフィードバックを踏まえ、ワールド・ビジョンのテクニカル・アドバイザーで、本研修の講師でもあるDr.Sri Chanderから、フィードバックセッションから導き出された今後への提案がまとめられた。これによりセッションの成果が整理され、目に見える形となった


第4章 研修を通しての学び

特定非営利活動法人 ICA文化事業協会 大隅 悦子


 今回の研修では、日ごろ悩んでいたエイズ予防啓発・エイズ教育といったBCC(Behavior Change Communication)に関わるプロジェクトの評価方法について学ぶことができた。それはプロジェクト全体にとっての評価という大きな視点から、具体的に評価を進めていく上での細かな注意などの小さな視点まで、多岐に及んだ。
 評価とは、評価のみで切り出して考えられるものではなく、必然的にプロジェクト立案・計画の時点から終了、時期プロジェクトへつなげるまで、プロジェクトサイクル全体に関わるものであり、評価の意義と目的、そしてプロジェクトというものを見直す格好の機会であった。効果的な評価を行なうためには、プロジェクトの目標設定、計画がどのように成されたか、ということも重要になってくる。では評価のためのプロジェクトか、というとそうではない。プロジェクトはまず目標ありき、そしてそれを達成するためのものであり、評価はその指標である。当然のことともいえるが、新たな認識であった。
 では実際に評価はどのように行なうべきなのか。『質的』と『量的』という両面からの評価を通じて成果を測ることができる。このことを評価のほぼ全工程への参加によって具体的に理解することができた。評価の実践に参加できたことで学んだことも大きい。新しい発見として、評価工程も地域住民への啓発のひとつの手段となる、ということがある。評価は『調査』という目的にのみ捕われがちであるが、問題提起、注意喚起の機会ともなり得る。そして、実際に実施してみなければわからない配慮、注意すべき事柄についての発見、再確認である。実践があったからこそ、この研修は机上の理論に終わらず、プロジェクトの現場と照らし合わせることのできる、生きた研修だったと言える。
 研修中は、新しいこと、旧知のことも含め、多くの問題点や発見、ポイントを新しく、そして改めて認識することができた。評価の視点から、プロジェクトの全過程を振り返ることもできた。
 また、他のNGO(今回はワールド・ビジョン)が実施しているプロジェクト現場に参加し、学ぶことができたということも私にとって初めてのことであり、よい勉強となった。プロジェクトを実感することで、自分が関連しているプロジェクトに置き換え、考えてみるということができる。これは、自分が関わるプロジェクトを振り返る意味でも大変貴重な機会といえる。
 最後になるが、惜しみなく情報を提供してくれ、プロジェクトの実際の活動にも参加させてくれたワールド・ビジョンの方々には大変感謝している。これらが今回の成果の大きな位置を占めている。プロジェクトのみならず、団体の組織活動を見ることができたことも、自分の所属組織を振り返る新たな視点を提供してくれた。
 このような充実した研修も、その後、参加者が自分の活動に生かすことができなければ何もならない。このような機会を与えていただいたのだから、その成果を自己の、そして所属団体の今後の活動に活かしていきたい。


特定非営利活動法人 アムダ 富岡 洋子


 まず、この研修を受け入れていただき、多忙なDr. Sri Chanderを講師として派遣していただいたワールド・ビジョンに感謝したい。多くの経験に裏付けられた先生の実践的で体系的な講義により、プロジェクトにおける評価の位置付けが明確になった。先生の言われる、簡潔に、必要なものだけを、重要なものにしぼってという姿勢は評価に限らず、プロジェクトを実施していく上で何事にもあてはまる重要な教えとなった。多くの現場を経験した先生の語る参加型評価の効果には説得力があった。それは、常に住民の力に対する敬意に支えられているものであったと信じる。また、評価にかかわったすべてのスタッフと住民にお礼を申し上げたい。彼らは適切な理解で評価を実施し、情報を提供し、重要な示唆を与えてくれた。

1. 内部評価の効果

 評価に携わる人々がその目的を深く理解し、適切に実施している様子を見ることができた。実施地域は違っても、同じ事業に日々携わっているスタッフだからこそ気づいたと言えることが調査の過程でいくつもあった。データ分析の際も、経験の豊富なファシリテーターの存在に加え、調査実施者とプロジェクト担当スタッフが一同に集まって自分たちで分析とフィードバックを行なうことが何よりも重要であることを学んだ。これらの過程で気づいたことは、情報を提供した住民にもフィードバックされ、彼らのプロジェクト、そして新たなプロジェクトや評価の実施に活かされるということを確信した。これは、外部評価では得られない成果である。

2. プログラム・デザインの重要性

 持続性は考慮されているか、実施する際のパートナーシップはどうか、といったことを最初からプログラムに織り込んで計画することが重要である。与えたいインパクトから遡ってプログラムを組み、目標とした成果が得られているかチェックするためには根拠が必要である。そのためにも評価を行い、データを収集するのだということを学んだ。

3. 質的評価

 HIV/AIDSプログラムの成果をどう計るかという量的データの収集の仕方を具体的に見たことも大きな収穫だったが、フォーカス・グループ・ディスカッションのような質的評価の実施方法と用い方を学んだことも大きな成果だった。これまで数値を用いない質的評価を、客観的な評価として扱って良いのか疑問に感じていたが、重要なデータであることを認識した。


アフリカ日本協議会 吉田 智子


 実践的な評価技術を実地で学ぶことができた本研修は、私にとって非常に貴重な時間であり経験であった。特に、講義およびフィールド実習によって評価手法について深く学ぶと同時に、プロジェクト・サイクルを前提にした評価プロジェクトへのアプローチという俯瞰的な視点も同時に獲得することができ、今後プロジェクト運営の様々な場面に有機的に応用できる考え方を得て、プロジェクト運営者としての視野を広げることが出来た。
 数多い"Lessons"の中でも、特に印象深いものとしてここでは以下の点を挙げたい。

1. フィードバックという手法

 ワールド・ビジョンが展開する参加型プロジェクトからは学ぶことが大変多かった。参加型プロジェクトとは、キャパシティー・ビルディングと、地元ニーズに密着した成果の獲得。これはVCT/HCTスタッフとの対等なパートナーシップを基盤とする運営なしには成り立たない。その最たるものが、フィードバックというプロセスだったと思う。実際に見ることはなかったが、BSSの結果はBSSの回答者にこそフィードバックするべきだ、という姿勢は、つい自分たちの「プロジェクト本位」になってしまいがちな視野を、「地域にもたらす成果本位」に押し戻すために不可欠ではないか。

2. 質的評価手法の活用法

 保健分野の問題に影響する非保健分野の要因の存在と、プロジェクト立案におけるそれら要因の活用に関心を持っていたが、非保健分野の影響要因を発見する具体的な手法として、質的評価手法のうちParticipatory Learning for Action/Participatory Rural Appraisalが有効であると学んだことは収穫だった。

3. 最新の専門的表現/考え方

 すぐにでもHIV/AIDS関連プロジェクトに活かせる最新の専門用語や表現など、日本語の情報ネットワークでは得がたい情報環境で過ごした研修期間は、刺激的だった。また、専門分野を深め知識に磨きをかけて行くためには新鮮な情報や考え方を積極的に収集していく姿勢が不可欠であることを、肌で感じることができた。

 講師であるDr. Sri Chanderの最後の"Lesson"は、自分が最も共感した部分から他人にフィードバックしていくことが、学びを深めるコツだ、というものだった。この研修で学んだことを自分の活動に活かし、また機会ある毎に周囲に還元していくことを、今後の課題としたい。
 最後になりましたが、このような貴重な実地研修の機会を準備してくださった全ての関係者、特にワールド・ビジョンの皆様と講師であるDr. Sri Chander、すべてのプロジェクト関係者の皆様に心から感謝申し上げます。


財団法人 家族計画国際協力財団(JOICFP) 吉留 桂


 評価は、誰の手によって行われるものなのか。その結果は誰が知るべきなのか。そして、その結果は誰によって、どのように使われるべきものなのか。
 今回のこの研修は、短期間ながらも「評価」というものについて新しい理解と学びを与えてくれる貴重な機会となった。自分達の評価活動に研修を組み込む形でプログラムを組んで下さったワールド・ビジョンの皆さんには本当に感謝している。とりわけ、長年に渡って培ってきたノウハウを惜しみなく我々研修生に共有してくださった、懐の深さと活動の透明性の高さに私は敬意を表したい。
 多くの学びの中で、特に印象深かったのは、以下の3点である。

1. 参加型評価は、住民をエンパワーする有効なツールである

 これまで評価とは、「一部の知識人による、一部の知識人が理解し、一部の知識人が活用するもの」というイメージを強く持っていた。このイメージが大きく崩されたことは、最大の収穫であった。その新しい理解とは、評価とは、住民自身が、自分達の状況を理解し、その結果を基に、どのように行動していくかを考え、実行に移していくための重要かつ有効なツールである、というものである。評価結果のフィードバックは、必ずインタビューを受けた人に対して行われなくてはならない。情報は彼らのものであるからだ。 インタビュアーは質問する過程で、質問を受ける側は、質問に対して考え、答えていく過程で、問題意識や気づきが生まれる。高校生、工場で働く女性達、そしてエイズとともに生きる人々やその家族へのインタビューの視察を通じて、評価方法や質問項目次第で、評価に関わる活動が人々の行動変容に結びつくきっかけとなり得ることが今回の評価中に何度となく実感することができた。

2. 住民の力を信じること

 では、参加型評価が可能になる条件とは何であろうか。私はこの研修中を通じて、住民の力を信じることから始まる、という思いを新たにした。参加型の評価活動は、住民が持つ潜在的な問題解決力を引き出す1つのきっかけとなりうる。

3. BCC(行動変容のためのコミュニケーション)の成果は測定することができる

 人の行動変容が、質的調査と量的調査の両方から「測定」できるというのは、私には新しい発見であった。BCCは保健分野で重要なトピックの1つであり、この研修で新しく得た知識と技術を自分達の活動へ応用していきたい。


特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 吉村 幸江


 はじめに、今回の研修を企画・準備していただいた、ワールド・ビジョン・ジャパンの皆様、アフリカ日本協議会の皆様にお礼を申し上げたい。そして、研修生を受け入れてくださったワールド・ビジョン・カンボジア事務所の方々、全体を通して良きファシリテーターであり、献身的な先生でもあったDr.スリチャンダー、彼らの協力なしではこのような研修は実現できなかったと思う。感謝の言葉を述べたい。

 この研修で何を学んだか。

 まず、強調したいのは、この研修は私が今まで経験したことのない、非常に「実用的」「実践的」な研修であった。特に、私のようなプロジェクトを実際に動かしている者にとってはまさに目から鱗の情報を多く得ることができた。

 具体的には、プロジェクトのモニタリング-評価-フィードバックの作業をどのように行なうか。特に、今回は実際に行われているプロジェクトの中間評価、基礎データ収集・分析のプロセスに参加することで、ただ講義を受けるだけではなく、生の現場から学ぶことができた。その他、情報収集のためのツールや集めた情報をどのように解釈し、どのようにプロジェクトに反映させるか、といった大切なノウハウを教わった。評価とは、その一連の作業自体がプロジェクトに関わる全ての者にとって貴重な学びの機会なのである。

 この研修は、更に、私、そして私が関わるプロジェクトを客観的に見る機会を与えてくれた。研修を通して、プロジェクトサイトで日々感じていた疑問、それに対する答えが見つからないまま、日常の忙しさに流されてしまっていた自分に出会った。今まで私が行っていたことの誤り、知識・経験の不十分さを痛いほど思い知らされ、ショックでもあった。 そして、今、研修を終えて、また新たな気持ちでプロジェクトと向き合う自分がいる。

 この1週間で学んだことの多くを自分の中で消化し、プロジェクトに生かす作業に取り組みたい。そして、プロジェクトを支えるスタッフ、カウンターパートにも是非今回の経験を還元したい。それが、私の課題である。


報告者・編集協力者

特定非営利活動法人 ICA文化事業協会 大隅 悦子
特定非営利活動法人 アムダ 富岡 洋子
アフリカ日本協議会 吉田 智子
財団法人 家族計画国際協力財団(JOICFP) 吉留 桂
特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会 吉村 幸江
特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン 戸代澤 真奈美
堀口 万紀子
高橋 真美


『カンボジアHIV/AIDS対策事業評価研修』を終えて


特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン 戸代澤 真奈美


 平成13年度にNGO活動環境整備支援事業の補助を受けて実施した研究会(20回シリーズ)の結果を受け、平成14年度には、より深い内容の研究会継続とフィールドにおける実地研修を希望する声が、多くの保健分野NGOから上がった。そこで、計画立案から評価までの一連のプロジェクト・サイクルの中で、近年最も高い関心を寄せられている『評価』を今回のテーマとし、講義に加え、ワールド・ビジョン・ジャパンが実施しているHIV/AIDS対策事業の評価に参加してもらう形で実地研修を行った。

 現地での研修期間の制限や、中級レベルの研修を目的としていたため、参加要件として3年以上のプロジェクト運営管理経験を持つこととした。また、研修結果を効果的に役立ててもらうために、近い将来、HIV/AIDS対策活動の実践の機会がある人に限定した。これらの参加限定により、現地での研修のスムースな進行や研修内容におけるある一定レベルの統一が図れた。

 NGOは、資金・人員・時間等、厳しい制限の下に事業活動を行っているため、評価においても、できる限り『迅速』に、『正確』な評価を、『安価』に行うことが要求されている。ワールド・ビジョンでは、国連機関等の援助機関が発行している評価ガイドライン等を参考の上、NGOに適する独自の評価モジュールを開発しており、今回の研修では、このワールド・ビジョンの評価モジュールに沿って評価を行った。講義と実際の評価作業を交互に組み合わせることにより、参加者たちは理論が具体的にはどのように実践されるかを体験し、今後の活動イメージが湧いたようである。研修で用いたモジュールは、参加者が担当する各々のプロジェクトの状況に合わせて、適宜調整しながら利用できると思う。

 HIV/AIDS対策活動には、大きく予防、ケア、アドボカシーの3つがあるが、人々の行動変容の程度や意識の変革など数値として取り難い活動が多い。今回の評価研修では、評価のための複数の手法を学ぶことにより、想定される複雑なケースに具体的にどのような形での評価をデザインしたらよいか、人々にどのように質問をしたらよいかなどを実際に学ぶ良い機会となった。

 以上、フィールドにおける実地研修は、NGOスタッフにとってとても有効であることが実 証されたと思う。また、その現地研修の報告会では現地研修には参加できなかったNGOスタッフ29人の参加があり、経験・情報の共有が図られた。

 日本政府は、沖縄感染症対策イニシアティブ等HIV/AIDS等感染症対策に大きく貢献することを約束している。当分野においては、住民に対する啓発活動など草の根レベルの活動が不可欠であり、NGOの役目は大きい。今後、官民の連携をより促進させ、日本の援助効果を総合的に高めるためには、ODAにおける感染症対策の方針と、NGOの現場に基づいた感染症対策の方針の中で、協力できる部分を探り出し、その部分について合同でプロジェクト形成をしていくことが求められてくるであろう。現在、日本政府が日本のNGOに対して付与している各種助成金・委託金スキームの中から、感染症対策事業に最も適するスキームを選び、そのスキームの研究をしながら、具体的なプロジェクト形成を行う実地研修が望まれる。


1 :NCHADS
 National Centre for HIV/AIDS, Dermatology and STIs(国立 HIV/AIDS・皮膚病学・性感染症センター)。
 当センターは保健省の管轄で1998年に設置され、技術部門には、STIマネージメント、STI/皮膚科クリニック、AIDSケア、BCC、リサーチといったユニットが含まれ、さまざまな活動に取り組んでいる。今回ばかりでなく、複数の団体、NGOから調査データに関連する作業を請け負うことも多いという。

2 :現在、実施中のプロジェクトは4事業。
AIDS Impact Reduction Project (AIR)
Highway 1 Strategic AIDS Reduction (STAR-1)(本研修中に評価実施)
Highway 2/3 Strategic AIDS Reduction (STAR_2/3)
Highway 4/5 Strategic AIDS Reduction (STAR-4/5)

3 :『EPI INFO 6』
 CDC(Centers for Desease Contral and Prevention)と世界保健機関(WHO)が開発した、パソコン用の疫学データ解析ソフトで、CDCがインターネット上で無料提供している。世界中の各機関で広く使用されている。今回は『EPI INFO』のヴァージョン6を使用した。
 質問票とフォームを作り、データ・エントリープロセスを作成し、データを入力する。入力データをもとに、FREQ, LIST, TABLES, といった簡単なコマンドで解析を行なうことができる。

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