ODAとは? 国際協力とNGO(非政府組織)

2002年度 保健分野NGO研究会

※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organizations

第1部 事業の概要と評価

1.2001年度研究会の総括をふまえて

 深刻化する途上国の健康問題。日本は1994年以降、「人口とエイズに関する地球規模問題イニシアティブ」(GII)によってこの問題への国際協力を実施してきました。保健分野のNGOと外務省は、GIIが開始された1994年以降、定期的な懇談会として「GIIに関する外務省・NGO懇談会」を設置し、協議と協力関係を積み重ねてきました。
 GIIは2001年の3月で終了し、途上国の健康問題に関する日本の関与は、2000年の沖縄サミットで打ち出した「沖縄感染症対策イニシアティブ」に引き継がれ、懇談会も「GII/IDIに関する外務省・NGO懇談会」(以下「GII/IDI懇談会」とする)と名を変えました。GIIからIDIへの移行に伴い、懇談会参加のNGOにとって、感染症対策、および人口・ジェンダーなど多様な分野と感染症の関係などに関するキャパシティ・ビルディングの必要性が高まりました。そこで2001年7月、「保健分野NGO研究会」(事務局:(財)ジョイセフ)が設置され、2001年度内に合計20回の学習回企画を開催することとなりました。
 2001年度の研究会は、GIIの見直しと検証、人口/リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、HIV/エイズ以外の感染症、ジェンダー、NGOの運営管理・組織化、HIV/AIDSの6分野にまたがって行われ、感染症対策および関連分野における幅広い知識の獲得と人脈・人材交流の実現という大きな成果を得ることができました。
 こうした成果を踏まえ、2001年度の研究会では、2002年度において、より深くテーマを絞り込んで知識と経験を深める「応用編研究会」を開催する必要があるとの提言がなされました。2002年度「保健分野NGO研究会」は、この提言を踏まえて運営されることとなりました。事務局については、GII/IDI懇談会参加各NGOの助力を得ながら、アフリカ日本協議会が担当することとなりました。

2.2002年度保健分野NGO研究会のカリキュラム

 「応用編研究会」の実現、という提案を踏まえ、2002年度保健分野NGO研究会では、(1)保健・人口分野の開発プロジェクトのあり方と手法、(2)専門性の向上に向けて・HIV/AIDS、(3)沖縄感染症対策イニシアティブとNGO、という3テーマを設定し、それぞれについて企画を立案・進行させることとしました。各分野の趣旨は、以下のようなものとなっています。

(1) 保健・人口分野の開発プロジェクトのあり方と手法

 このテーマは、保健分野のNGOのスタッフが、実際に途上国のプロジェクトを訪問し、保健・人口分野の開発プロジェクトのあり方および手法について実地で研修することによって、プロジェクトに関わる能力開発をすることを目的としています。
 NGOのスタッフが、他の団体が実施しているプロジェクトに参加し、自己のプロジェクトの内容向上に向けたヒントを得るといった場はなかなかありません。こうした場を提供することは、保健分野のNGOの懇談会である「GII/IDI懇談会」を母体とした「保健分野NGO研究会」でこそ可能であると言えます。
 今年度の研究会では、プロジェクトの形成・運営・評価というプロジェクト・サイクル・マネジメントの中で、日本では必ずしもそのあり方・技法に関する共有度が高くない「プロジェクト評価」についての実地研修を行いました。具体的には、ワールド・ビジョン・ジャパンがカンボジアでワールド・ビジョン・カンボジアとともに行っている、プノンペンとホーチミン・シティを結ぶ国道一号線沿いの住民に対するHIV/AIDSの予防啓発・VCT・ケアの総合的なプロジェクトについて、ワールド・ビジョン・ジャパンが実施したプロジェクト評価のプロセスに参加して、ワールド・ビジョンのプロジェクト評価手法を学ぶという実地研修を行いました。

(2) 専門性の向上に向けて・HIV/AIDS

 途上国におけるHIV/AIDSの問題は、感染症対策の中でも非常に大きな比重を占めています。このテーマは、HIV/AIDSに関わる国際協力について、保健分野のNGOが取り組んでいくために、また、活動を広げたり改善したりする上で必要な知識、および認識のフレームワークを身につけることを目的としています。
 HIV/AIDSは、現代社会の多様な側面を反映して、一般的な感染症対策という以上の様々な社会的要素を持っています。本テーマでは、この社会的側面を主要な切り口に、以下の3つの研究会シリーズを設定し、合計9回のワークショップ・講演会企画および2回の国際シンポジウムを開催しました。

1)立ち上がる当事者たち:当事者とNGOの連携に向けて

 このシリーズは、HIV/AIDS問題の当事者であるHIV感染者・AIDS患者および「HIVに関してヴァルネラブルなコミュニティ」の運動の動向と背景を知り、NGOがHIV/AIDSの当事者セクターと、同じ市民社会セクターの一員としてどう連携していけるかを考えることを目的としています。当事者セクターとの連携は、NGOが具体的にHIVに関わるプロジェクトやキャンペーンを進める上で不可欠です。

2) 南南協力の道を開く:ブラジル・タイのエイズ政策に学ぶ

 このシリーズは、途上国の中で例外的にエイズ対策に成功しているブラジル・タイのエイズ対策の実践に着目することから、エイズに関わる様々なレベルでの「政策」とNGOの関わりについて知ることを目的としています。エイズに関わる国家的・国際的な政策動向を知ることは、NGOがエイズに関する取り組みの戦略を策定し、プロジェクトやキャンペーンの案件を形成する上で重要です。

3)予防と医療の両立に向けて

 このシリーズは、NGOが具体的に展開する予防啓発、VCT、ケア、治療および差別・スティグマの解消などの活動の最新の実践的・理論的動向を理解すること、また、各活動が相乗効果を持ちうるような連携のあり方を検討することを目的としています。また、個別の活動がエイズ対策全体にとって持つ意味を把握することもめざします。

(3) 沖縄感染症対策イニシアティブとNGO

 GII/IDI懇談会に参加している保健分野NGOには、途上国で実際にプロジェクトを運営しているNGOから、保健分野にかかわる個別の問題に関するアドボカシーを専門的に行っているNGOまで、様々なNGOが存在しています。こうした様々なNGOにとって共通のキャパシティ・ビルディングの課題は、「アドボカシー能力の向上」です。
 アドボカシーの能力はアドボカシーNGOにとってのみ重要なのではありません。プロジェクト運営型のNGOにとっても、新規プロジェクトの案件形成のための諸セクターとの調整、プロジェクト運営のための資源の調達など、具体的な仕事をすればするほど、アドボカシーのための高度な能力を要求されることになります。
 しかし、日本においては、アドボカシーに関する実践の体系化や理論化は必ずしも行われておらず、また、NGOがアドボカシーの能力を向上させるための研修なども積極的には行われていませんでした。
 このテーマでは、経験に頼ることが多かった保健分野NGOのアドボカシーに関する実践について、各NGOの立脚点とミッションに即して整理した上で、アドボカシーのための基本的な能力の向上を目指します。
 このテーマでは、沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)に関するワークショップ企画、およびアドボカシーのキャパシティ・ビルディングのための合宿セミナーを行いました。

3.2002年度保健分野NGO研究会の実施企画

 本研究会は、上記のテーマに基づき、海外実地研修1回、国際シンポジウム2回、ワークショップ・講演会企画12回を実施しました。各企画について、テーマ・シリーズごとに整理して概要を示すと、以下のようになります。

テーマ1 保健・人口分野の開発プロジェクトのあり方と手法

第1回 カンボジアHIV/AIDS対策事業評価研修事前研修会
日時 2002年9月18日(水曜日)午後3時~5時
場所 ワールド・ビジョン・ジャパン2階会議室
講師 ワールド・ビジョン・ジャパン 戸代沢真奈美さん
ワールド・ビジョン・ジャパン 高橋真美さん
参加人数 7名
第2回 カンボジアHIV/AIDS対策事業評価研修
日時 2002年9月24日~10月3日
場所 カンボジア王国プノンペン市
講師 Dr. Sri Chander, Health Advisor, Asia Pacific Regional Office, World Vision
Dr. Douglas Show, Health Advisor, World Vision Canbodia
参加人数 5名
第3回 カンボジアHIV/AIDS対策事業評価研修フォローアップ報告会 プロジェクト評価の理論と実践
日時 2002年11月5日(火曜日)午後3時~5時
場所 ワールド・ビジョン・ジャパン2階会議室
講師 ワールド・ビジョン・ジャパン(戸代沢真奈美さん、高橋真美さん、堀口真紀子さん)
カンボジア研修参加者
参加人数 29名


テーマ2 専門性の向上に向けて HIV/AIDS

シリーズ1 立ち上がる当事者たち 当事者セクターとNGOの連携に向けて

第1回 深刻さを増す中国のHIV/AIDS~中国中央部農村の現場から~
日時 2002年9月9日(月曜日) 午後7時~9時
場所 文京シビックセンター4階 実習室
講師 Mr. Chung To, Chi-Heng Foundation, Hong Kong SAR
参加人数 18名
第2回 南部アフリカ・エイズ禍を生きる人々
日時 2002年9月16日(月曜日)午後2時~5時
場所 文京シビックセンター4階 B会議室
講師 根本昭雄氏(聖ヨゼフ修道院)
林達雄氏(アフリカ日本協議会)
参加人数 31名
第3回 日本のエイズ政策をリードするPHAたち
日本におけるエイズ・アクティヴィズムの歴史と展望
日時 2002年10月19日(土曜日)午後2時~5時
場所 常圓寺祖師堂(東京都新宿区)
講師 花井十伍氏(大阪薬害エイズ弁護団・ネットワーク医療と人権)
長谷川博史氏(Japan Network of PHAs: JANP+)
参加人数 20名
第4回 国際シンポジウム エイズ・立ち上がる当事者たち
~PHAとNGOの連携に向けて~
日時 2002年11月18日(月曜日)午後4時~8時
場所 全水道会館大会議室(東京都文京区)
講師 Ms. Asunta Wagura, KENWA (Kenya Network of Women with AIDS), Kenya
Mr. Pholokgolo Ramothwara, TAC (Treatment Action Campaign), South Africa
Mr. Jose Araujo Lima Filho, Grupo Incentivo a Vida, Brazil
Dr. Moacir Pires Ramos, Parana State Committee of Health, Brazil
参加人数 71名


シリーズ2 南南協力の道を開く:タイ・ブラジルのエイズ政策に学ぶ

第1回 エイズと向き合うことを選んだ人々~タイのエイズ政策に学ぶ~
日時 2002年8月31日(土曜日) 午後2時~5時
場所 文京シビックセンター4階 B会議室
講師 沢田貴志氏(港町診療所・特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会)
枝木美香氏(特定非営利活動法人 アーユス=仏教国際協力ネットワーク)
参加人数 49名
第2回 世界の最先端を行くブラジルのエイズ政策~市民の参加が導いた成功~
日時 2002年10月26日(土曜日) 午後7時~9時30分
場所 文京シビックセンター5階中小企業振興センター研修室AB
講師 大西真由美氏(茨城県立医療大学)
小貫大輔氏(チルドレンズ・リソース・インターナショナル)
参加人数 21名
第3回 市民が変えるエイズ政策 ブラジル・タイ・南アフリカに学ぶ
日時 2002年11月22日 午後3時30分~7時30分
場所 コミスタこうべ(神戸生涯学習支援センター)セミナー室
講師 Ms. Asunta Wagura, KENWA (Kenya Network of Women with AIDS), Kenya
Mr. Pholokgolo Ramothwara, TAC (Treatment Action Campaign), South Africa
Dr. Promboon Panitchpakdi, TNCA (Thai NGO Coalition on AIDS), Thailand
Mr. Jose Araujo Lima Filho, Grupo Incentivo a Vida, Brazil
Dr. Moacir Pires Ramos, Parana State Committee of Health, Brazil
参加人数 124名


シリーズ3 予防と医療の両立に向けて

第1回 バルセロナ国際エイズ会議レポート~途上国のHIV/AIDS対策の最前線とコミュニティの動向~
日時 2002年8月16日(金曜日) 午後7時~9時
場所 文京シビックセンター4階シルバーセンター会議室B
講師 樽井正義氏(エイズ&ソサエティ研究会議)
堀成美氏(HIV看護研究会)
参加人数 27名
第2回 マルコ・アントーニオ・ヴィトーリア医学博士に聞く:世界のモデル・ブラジルのエイズ政策
日時 2002年11月27日(水曜日)午後7時~9時
場所 国立オリンピック記念青少年センター センター棟110号室
講師 Dr. Marco Antonio Vitoria, Ministry of Health, Brazil
参加人数 18名
第3回 日本のHIV/AIDS分野の国際協力の方向性とNGO
日時 2002年2月3日(月曜日)午後6時30分~9時
場所 慶応大学三田キャンパス 研究室棟B会議室
講師 小松隆一氏(国立社会保障・人口問題研究所)
参加人数 49名
第4回 エイズ危機克服に何が必要か~世界経済からみたグローバル・エイズ対策~
日時 2002年3月7日(金曜日)午後6時30分~9時
場所 慶応大学三田キャンパス 北新棟4F会議室
講師 加藤隆俊氏(WHO「マクロ経済と保健」委員会委員、東京三菱銀行顧問)
参加人数 25名


テーマ3 沖縄感染症対策イニシアティブとNGO

第1回 「沖縄感染症イニシアティブ」発表から2年 その出発点と歩みをふりかえる
NGOは新しいイニシアティブにどう向き合ってきたか?
日時 2002年7月29日(月曜日)午後6時30分~8時30分
場所 財団法人 ジョイセフ 会議室
講師 池上清子氏(財団法人 ジョイセフ 企画開発部長)
林達雄氏(アフリカ日本協議会代表)
参加人数 22名
第2回 合宿セミナー「保健分野NGOとポリシーメイキング」
日時 2002年10月11日~12日(金曜日~土曜日)
場所 築地本願寺第一伝道会館
講師 兵藤智佳氏(女性と健康ネットワーク)
樽井正義氏(エイズ&ソサエティ研究会議)
國井修氏(外務省経済協力局調査計画課課長補佐)
参加人数 19名


4.2002年度保健分野NGO研究会企画に関する評価と来年度への提案

 昨年度の研究会報告書では、本年度の研究会について、(1)より深くテーマを絞り込んで知識と経験を深める研究会を実施すること、(2)研究会の実施に当たっては、全NGOメンバーの参加型とし、事務局の負担については、各NGOメンバーの分担とすること、の二点が提案事項として記されています。本年度の研究会事務局は、この二つの提案事項を踏まえて、企画の実現を図りました。
 まず第1点目については、以下のような評価が可能だろうと思います。

(1) テーマ1(「開発プロジェクトのあり方と手法」)については、保健分野の開発プロジェクトの実施において、とくに「評価」のプロセスに焦点を当てて、カンボジア現地にNGOスタッフ6名を派遣するという企画を実現できた。これは、参加者の知識と経験を深め、研修によって得たものを各NGOに還元するという点で画期的な企画である。

(2) テーマ2(「専門性の向上に向けて:HIV/AIDS」)については、とくに「グローバル・エイズ問題」に焦点を当て、途上国のHIV/AIDS対策やNGOの関わりについて具体的に検討していく前提として必要な知識を供給する企画を実現することに主眼を置いた。この点で、テーマおよび目的は明確であり、知識を深めることもできたと考える。一方、途上国におけるNGOのエイズ対策(予防啓発、VCT、ケア、治療等)の具体的な個別の要素について、その最新の理論・実践動向を知り、技術を得るというところまでは、本年度の企画では到達しなかった。

(3) テーマ3(「保健分野のNGOとポリシー・メイキング」)については、保健分野NGOのあらゆる活動に置いて必要なアドボカシーのキャパシティ・ビルディングを、理論的・実践的に行う合宿セミナーを実現できた。アドボカシーに関して、その理論・実践動向が明確にされてこなかった日本において本セミナーを実現できたのは画期的であり、また、参加者にとっても、今後のアドボカシー、ポリシー・メイキングの基礎を身につけることができた点で適切な企画であったといえる。

 一方、運営については、テーマ1の実現においては特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンと業務委託契約を結んで実施したこと、また、テーマ3について「女性と健康ネットワーク」および「エイズ&ソサエティ研究会議」との連携で実現したこと、さらに、テーマ2の後半において、「特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議」のフォーラムを兼ねる形で実現したことなど、「GII/IDI懇談会」参加の個別のNGOとの連携は、様々な形で実現したと言えます。しかし、昨年度の提言事項のような形で、全NGOが参加型で企画を担うことは困難であり、とくにテーマ2の企画の多くについては、事務局を主体とした実施体制がとられることとなりました。
 上記評価を踏まえ、来年度に向けて以下の提案を行いたいと思います。

(1) テーマ1については、事務局・業務委託先NGO・参加者のすべてにおいて極めて好評である。また、キャパシティを持っているNGOの活動の内容や方法を実地に学べるという点から考えて、NGOの実践的なキャパシティ・ビルディングにおいて極めて有用である。この点から考えて、当該企画については、同種の海外研修企画を来年度も継続して実施すべきである。

(2) テーマ2については、グローバル・エイズ問題に関する追求を継続するとするのであれば、本年度の企画を引き継ぎながらも、より個別・具体的なエイズ対策の各要素についての理論や最新動向、具体的な経験について、NGO、CBO、当事者組織、専門家、公的機関などHIV/AIDSに関わる複数のセクターを含み込みながら深めていく企画を実施すべきである。

(3) テーマ3については、本年度達成した、アドボカシー分野のジェネラルなキャパシティ・ビルディングの実績を踏まえ、より具体的な、もしくは実践の経験などを出し合えるようなセッションを実現すべきである。


 また、運営面については、以下のような提案をします。


 保健分野NGOのキャパシティ・ビルディングが、今後向かうべき形について、各NGOが検討していく場を持つ必要があります。すなわち、保健分野NGOのスタッフ研修の場として活用するのか、保健分野NGOの活動や途上国の保健問題を市民社会に向けて知らせていき、社会的関心を醸成するための場とするのか、また、保健分野NGOが各課題の最新動向や理論などについて学習・研究をするための場とするのか、といった、今後の保健分野NGOのキャパシティ・ビルディングのありうべき将来展望について、GII/IDI懇談会に参加しているNGOが共同で検討していくことが必要です。

以上
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