2003年4月21日
於:外務省
以下は、「ODA総合戦略会議」の議論を踏まえ、外務省がベトナム国別援助計画の見直しを行うに当たり4月21日に実施した関係各省庁との意見交換の概要をまとめたものである(順不同)。
1. |
本日は11省庁、計24名の出席があった。
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2. |
冒頭、河野外務省国別開発協力課長より、今後の議論の骨格となるショートドラフト(以下SD、別添)の作成作業において、現地チームのとりまとめ役をつとめている北野在ベトナム大使館公使(一時帰国中)を紹介し、今次会合を現地チームと東京サイドの意見交換の場としたい旨説明した。
引き続き、北野公使より、(1)「内容構成案」(注:昨年10月に新たな国別援助計画の内容構成の案として現地チームと大野教授とで作成した文書:別添)からの主な変更点、(2)全体の流れと構成、(3)重点分野、及び(4)特徴・ねらいの4点に分けて、SDの要点を以下の通り説明した。
(1) |
「内容構成案」からの主な変更点
大きく分けて以下の3点が変更された。
(a) |
まず1点目は、「2.ベトナムの開発に関わる状況」の構成についてである。既存の国別援助計画に関する課題として、開発に関する状況の分析を深化させることが必要であることが指摘されていたが、簡潔かつ論理的に整理された記述にしなければならない。こうした視点を踏まえ、2.(1)の要旨、同(2)の概況に続く部分を、同(3)「経済の状況と課題」(マクロ経済から見た課題)、(4)「生活・社会面の状況と課題」(人々の身の回りから見た課題)及び(5)「経済・社会の基盤」の3本立てとした。が、これは、今後の作業の根幹をなす視点であり、SD全体の構成もこれを踏まえたものとなっている。 |
(b) |
2点目は、重点分野(4.(3))についてである。内容構成案の4分野(1)国際統合促進・競争力強化、2)社会セクター、3)経済インフラ整備、4)政策提言・制度整備への支援)から3分野(1)成長促進、2)生活・社会面での改善、3)制度整備)にまとめた(詳細後述部分ご参照)。 |
(c) |
そして3点目は、内容構成案の「留意すべき事項」と「重点分野への総合的な取組」を一つにまとめたこと(4.(4))、である。
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(2) |
全体の流れと構成
国別援助計画を政策的意図をもった文書としていくために、「国益・戦略性」の記述から、実際に如何なる援助をしていくべきかの「重点事項」の記述までが、一貫した考え方の流れの中で構成されるように配慮した、即ち、国益・戦略性の観点からは、我が国は、外交上の観点・経済的な相互依存関係の観点、人道的・社会的関心の観点から越を援助すると整理できるが、これを起点として、重点分野の1)成長促進、2)生活・社会面での改善、3)制度整備につながっていく関係を整理している。、
また、越側の開発ビジョンとの整合性を図りつつ援助をしていくことが重要であり(3.(3))、現状認識としては、開発課題についての日本側と越側の双方の考え方は、概ね一致しており、我が国として越側の開発ビジョンを支持することができると考えており、それがこの国別援助計画の一つの考え方となっている。
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(3) |
重点分野
重点分野については、1)成長促進、2)生活・社会面での改善、3)制度整備の三つの分野とした上で、その中身については、更に現地で検討を行っていく考えである。国別援助計画が政策的意図をもった文書である以上、我が国があらゆる分野について援助していくというのではなく、「この分野については我が国として援助する意義があるだろうかという議論を真剣に行った上で、それを反映させた形で重点分野の中身を詰めていく必要があると考える。初めから重点分野を絞ること自体を目的に作業しているわけではないが、援助する意義があるのか否かを真剣に議論せず、総花的な内容となることは避けなければならないと考えている。
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(4) |
特徴・ねらい
最後に、SDの特徴・ねらいとして、以下の7点を指摘したい。
(a) |
援助の規模を検討する仕組みを導入するとともに、それに際し、越の制度・政策環境に対する評価をその考慮要因としたこと(4.(2))。 |
(b) |
「要請主義」を超えた「対話型」による案件形成。これを可能とするため、セクター別分析により、我が国による援助のビジョンを持った上で、対話によって「能動的な」援助を目指していくこと(4.(1)(ロ))。 |
(c) |
様々な開発パートナーとの間で、個別プロジェクトのみならず、貧困削減等の分野横断的な開発課題への取り組みを含めた、幅広い協調・連携を実現すること(4.(5))。
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(d) |
国益・戦略性の議論を起点として、重点分野の議論を導き出すこと(前述)。
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(e) |
越側の開発ビジョンを支持し、これと整合的な援助を目指していくこと(前述)。
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(f) |
経済成長に対する支援を基軸として据えること。重点分野の一つを「成長促進」としているのも、こうした観点を踏まえたもの)。 |
(g) |
MDG(ミレニアム開発目標)達成への支援は、国際的なコンセンサスとなっているところ、対越援助の中でこれに如何にして取り組んでいくかを意識した内容とすること(2.(4))。(ベトナムは、MDGをそのまま受け入れるのではなく、自国の状況に即して国内化し、「包括的貧困削減成長戦略文書(CPRGS)」の中に取り込んでいる。これらや、各セクター戦略・計画の重点事項への支援を行っていく。)。
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3. |
続いて、大野政策研究大学院大学教授より、概要以下のようなコメントがあった。
3点コメントがある。
(1) |
1点目は、「国益・戦略性」についてである。現在ODA大綱見直しのための大きな議論が行われており、「国益・戦略性」の意義付けは、ODA大綱の見直しの議論の行方に影響を受ける可能性がある。他方、ここでの議論が大綱の議論にフィードバックされる可能性もある点に留意すべきと考える。
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(2) |
2点目としては、重点分野を議論する際に「国益・戦略性」に加えてもう一つ考えなければならないのは、日本がどの分野を担当し他ドナーはどこの分野を担当するのか、ということである。
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(3) |
3点目は、現在、世銀を始めとして、援助国は「成長(投資、貿易)」への関心を強めているが、成長についての中身を見てみると、中小企業育成や自由貿易といった枠組み的なものから、社会開発のようなものまで、援助主体によって考えている中身に幅があり、日本側の認識とズレが生じる危険性がある。例えば、大規模インフラ整備は、「成長に資する」と評価するドナーもいれば、そうでないドナーもいる。我が国はトップドナーであるが、ドナーコミュニティーの中で如何なるポジションをとっていくのかという所まで考えて、重点分野を考えなければならない。 |
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4. |
その後、各省庁より、SD及び上記説明に関するコメントまたは質問が出され、適宜意見交換が行われたところ、概要以下のとおり。
(経産省)
「セクター分析を行い、開発ビジョンを明確化した上で、要請主義を超えた対話型援助の実現を図る」、という基本思想は、野心的で非常に有意義と考える。現在経産省では、ベトナムの電力セクターにおける、民活型インフラ整備事業の促進のための、官民勉強会を立ち上げている。こうした作業の成果を今後の本計画策定の過程で積極的にインプットしていきたいが、今後本計画の策定作業がどのような全体スケジュールで進められていくのか承知したい。
(外務省)
(1) |
民間資金との関係については、4.(4)(ロ)において「制度・政策改善に積極的関与、民間資金活用とのリンクを考慮」と言及しているが、これは前回会合での経産省からのプレゼンテーションを踏まえたものである。また、越ではフーミー火力発電所2-2で円借款案件と民間資金との連携が実現していることをも踏まえて、こうした記述としている。 |
(2) |
全体スケジュールについては、現地の作業として9月末を完成の目途として作業を進めている。現在の状況は、外務省としての検討作業に、関係省庁から早めにコメントを頂いているという段階であり、その後に、政府全体としての検討作業が控えている。現地では、現在、セクター別の検討作業を開始しており、4~6月を目途に粗ごなしができればと考えている。本日の議論やセクター別の議論等を踏まえてSDを発展させていく作業を、9月のとりまとめに向けて進めていきたい。その後、外務省としてODA総合戦略会議に報告し、政府全体の方針としていくべく、最終的には対外経済協力関係閣僚会議に係る手続きが必要になるだろうと考えている。 |
(財務省)
(1) |
世銀等マルチの援助の世界では、しばしば援助哲学についての議論になるが、越の事例を我が国援助の好例として活用することが多い。越に対する援助の議論は、CPRGSや調和化、MDGのローカライゼーションといった、現在援助の世界でホットな話題を多く含んでいる。従って、ここでの議論は、対越援助に留まらず、援助をめぐる国際的な議論全体にも影響を与え得るものと考える。 |
(2) |
今回のSDについては、制度・政策環境(4.(2)(ロ))の評価・分析を通じて、「結果重視」の援助を確立していく必要がある、という点を評価。これまではフレームワークに関する包括的な議論が中心であったが、今後セクター・ストラテジーの議論を行っていく際に、いくつかのセクターを抽出し、主要ドナーと一緒になって援助していくという視点での検討が必要である。現在の重点分野の書きぶりでも、依然包括的との印象であり、各分野について、日本としての比較優位が実際に存在するのかといったことを、相当厳しく見ていく必要がある。そのような観点から、具体的なプロジェクトやプログラムを念頭において絞り込み、実効性の高い文書にすることが重要と考えるが、具体的プログラムまたはプロジェクトがどこまで書き込まれるのかにつき、現在のイメージをご教示願いたい。 |
(外務省)
(1) |
マルチの援助の世界での援助哲学についての議論との関わりについては、認識を共有しており、今後も現地のみならず、関係省庁を含む東京サイドの関係者の皆さんとの議論を踏まえて対外的な発信を意識した作業を進めていきたい。 |
(2) |
「重点分野は選択的に」というご指摘については、絞ること自体を自己目的化させてしてはならないが、個別のセクター(例.教育)において、どのサブセクター(例.初等教育)の中のどのような課題に対して力を注ぐのかを議論していかなければならない。繰り返しになるが、この文書は「国益・戦略性」、つまり、日本としてどういった意義を踏まえ支援していくのかといった観点から検討していくものであり、(4.(3)四角囲いにあるように、)今後、各セクターについて、我が国として援助する意義、我が国の対応能力、他ドナーの動向等を踏まえ、我が国がどの分野を援助していくのかを真剣に検討していきたい。 |
(3) |
プログラムやプロジェクトをどこまで具体的に書き込んでいくのかという点は、国別援助計画をどれぐらいの期間のものとするかによって異なってくる。外務省としては、基本的に5年間程度使用していくものを想定しているが、他方、具体的なプロジェクトやプログラムを5年間の期間について特定して固定することには慎重とならざるを得ない。但し、セクター別の議論をする際に、その中に含まれ得る具体的なプロジェクトやプログラムを念頭において検討するのは当然である。現時点でできる限り具体的なプロジェクトやプログラムを念頭において検討を加えて一度文書化したら、文書自体は5年間維持する。その上で、毎年の運用については、政策協議等の対話を通じて具体的なプログラム・プロジェクトについて議論するととも、JICA・JBICの実施計画に反映させる、というイメージを持っている。 |
(大野教授)
(1) |
現在進行中のODA大綱見直しの議論によって、「国益・戦略性」という言葉の意味する内容や、そもそもこの言葉を文章中に盛り込むべきかどうかが左右されると思われる。 |
(2) |
次に、具体的なプログラムやプロジェクトをどこまで書き込むか、という点については、例えば、教育分野等の「セクター」を考える際には、その中の初等教育や中等教育といった「サブセクター」の次元や、更に進んで、学校建設をやるのか、カリキュラム改善をやるのかといった「切り口」の次元でも考える必要がある他、従来のプロジェクトベースの援助を中心にトップドナーとしての存在感を発揮していくのか、あるいは、プロジェクトを通じて実施するのかあるいはコモンバスケット等を通じて1ドナーとして取り組むのかといった「援助モダリティ」の問題があり、これら3つの組み合わせで考えれば、個別プロジェクト名まで書かなくても、重点とすることとそうでないことを相当明確に区別できると思う。 |
(国交省)
例えば、「国道1号線のキャパシティを増やす」ことは重要であるが、個別プロジェクトという理由で「国道1号線」とは明記しないのか?
(外務省)
提起された表現振りは、個別プロジェクトに該当すると思う。国別援助計画の中では、先ほどの大野教授のご説明を踏まえるなら、「サブセクター」や「切り口」の中である程度具体的に説明することになるのではないか。
(大野教授)
国道1号線は、確かに個別プロジェクトを超えた重要性を持っているかもしれないが、やはり個別プロジェクトということで、基本的にはJICA・JBICの実施方針等で言及すべきものと考える。現時点では、セクターの中身については、これから議論を通じて詰めていく問題と考える。
(国交省)
全ての個別プロジェクトを書き並べるのはナンセンスだと思うが、例えば、国道1号線のようなシンボリックな案件ぐらいは書いておいたほうが、国別援助計画が具体的で分かりやすい文書となるので、個別プロジェクトだからと言って最初から排除すべきではないと考える。
(文科省)
(席上配布資料(参考:別紙1)に沿って、概要以下の通りコメントが出された。)
(1) |
「識字率は高い」(2.(4))と書かれているが、地域的な格差は否めず、CPRGSにおいて、山間部及び遠隔地における初等教育の重要性が指摘されていることを付言したい。 |
(2) |
重点分野「生活・社会面での改善」(4.(3))の中に、「初等教育の質の向上・就学率の向上」が盛り込まれた点は妥当。他方、CPRGSでは中等教育の普遍化も謳われているため、「中等教育の量的拡充と質的向上」を追加されたい。また、重点分野「成長促進」の中の「成長を支える人材育成」を、「成長を支える高等教育・人材育成」との修正をお願いしたい。 |
(国交省・国際建設課)
(席上配布資料(別紙2)に沿って、概要以下の通りコメントが出された。)
(1) |
越の治水対策、雨水・排水対策に対し、我が国は従来から重点的に援助してきており、右対策の必要性につき言及されたい。 |
(2) |
東西回廊等の国際インフラ整備への支援の重要性にも言及されたい。 |
(3) |
越の均衡ある経済発展の観点から、ハノイ、ホーチミンを除く地方部の開発の重要性にも言及されたい。 |
(4) |
重点分野「生活・社会面での改善」(4.(3))の中に、「都市部の治水・排水対策、流域管理対策、住宅・建築対策」を追加されたい。 |
(5) |
重点分野への総合的な取り組み、分野横断的な取り組み(4.(4))の中の「個別案件の実施に際する効果の向上」を「~効果・効率の向上」に改めるとともに、「効果的・効率的インフラ整備及び維持管理のための技術協力」、「効率的なインフラ整備に不可欠な用地収用、政府手続きの円滑化支援」を追加されたい。また、「NGOとの連携の強化」を「NGO、民間企業との連携の強化」と修正されたい。 |
(6) |
援助協調への対応(4.(5)(c))の中の今後特に重視していく分野として、「治水・排水対策、流域管理対策」を追加されたい。 |
(国交省・国際業務課)
運輸分野に関しては、前回の意見交換でも提出した通り、1999年に我が国が実施した開発調査ベトナム運輸開発戦略調査(VITRANSS)に基づいて援助を行うべきであると考えている。ショートドラフト(SD)の記述内容はVITRANSSの基本認識と概ね同じであることから、SDの考え方に賛同できる。
SDに関する個別の指摘事項については、
(1) |
観光産業は、越の外貨獲得、経済発展にとって重要な産業である。一方、ベトナムの観光産業のサービスレベルは未だ発展途上にあり、ベトナムの成長促進に資する有望産業の育成という観点からベトナム観光産業の発展への支援、特に観光関係の人材育成が重要である。ベトナムの観光分野の振興の必要性を国別援助計画にも記述されたい。なお、スリランカの国別援助計画の第1次ドラフトでは観光分野の振興につき言及されており、越の国別計画でも言及される必要があるのではないか。 |
(2) |
アジア域内における航空交通及び海上交通の安全性確保のための支援(航空管制改善、海上遭難対策等)の必要性につき、言及されたい。 |
(3) |
運輸インフラ整備(国際港湾・空港、基幹交通網、大都市交通)及び運輸政策立案(インフラの効率的運用のための制度・政策、特にインフラ整備・維持管理のための定常財源の確立)に係る支援の重要性につき、言及されたい。
なお、SDには要請主義を超えた対話型の案件形成・採択を志向していくとの記述があり、当方も重要なことと考えている。一方ODA大綱見直しの基本方針に盛り込まれたように、、ODAを効果的に計画、実施するためには、関係府省間の緊密な連携が不可欠であり、政策立案、実施体制における関係府省間の連絡強化が重要である。そこで、対話の段階から外務省は関係府省と十分な意見交換を行う必要があると考えており、外務省は適切に対処されたい。 |
(外務省)
貴重なご意見をいただいたところ、諸点についてこれからよく議論していくこととするが、その中でとりあえずいくつかの点につきお答えしたい。
(文科省コメントについて)
山間部・遠隔地の初等教育の問題は、越の教育分野の中でも重要な課題となっている点については、認識を共有している。文書の中でどこまで一つ一つ書き込むかという問題はあるが、初等教育の普遍化あるいは質の向上については、JICAプログラム開発調査というスキームを活用して取り組んできており、今後、無償資金協力等でどのように取り組んでいくかを含めて重要な領域と認識している。また、高等教育に関しては、成長促進という観点や、初等・中等・高等教育及び職業訓練を含めたメニューの中でどこに重点を置いていくのかを考えた上で検討したい。
(国交省コメントについて)
(1) |
各セクターの具体的な位置付けについては、現地チームとしても現在リサーチを行っている段階であり、重点分野について、具体的にこういう方向でということは申し上げられないが、インフラ整備を考える際に維持管理の問題が重要であるとのご指摘等は、認識を共有する。但し、「インフラ整備・維持管理のための定常財源の確立」は、越の国家財政制度全体に関わる問題であり、越の財政については、投資予算と経常予算が別々の省庁で取り組まれているという問題があり、この問題にどう対応するかにも関連する問題である。 |
(2) |
また、用地収用手続きの円滑化に関する指摘についても、援助を実施する上で念頭に置かなければならない重要な問題であると認識している。越側に対して、援助の実施に関連して問題提起をする際には、投資環境の改善の問題とともに、援助吸収能力の問題(プロジェクトの執行率の改善を含む)について改善を求めてきている。他方、「円滑化支援」といった時に、各実施機関が、越の国内手続きを如何にクリアして用地収用を行い、プロジェクトを進めていくかという問題に対して、我が方として如何なる関与が可能なのか、よく議論する必要がある。 |
(大野教授)
観光産業について言及があったが、「成長促進」のためにどういった産業に対して支援するかといったことは、国別援助計画には書き込まないほうがよいと思う。我が国としてそうした研究を行い、越側にアドバイスする意義はあると思うが、それだけで膨大な量になってしまう。また、従来は、相手国政府から要請があがってきて、ボトムアップ式に個別プロジェクトを積み上げてきたが、今やろうとしているのは、要請主義を超えて、日本がどういう目的を達成しようとするのか、という所から、どこに重点を置いて援助していくのか、というアプローチである。
(国交省)
スリランカの国別援助計画の検討案では、「観光」が入っていても問題ないのに、ベトナムだと認められないというのは、分野の取り扱い方が一貫していないのではないか。
(外務省)
スリランカとの比較で言えば、スリランカの国別援助計画においても、観光分野を重点分野として記述するかどうかは決まっていない。「観光」は「環境」とほぼ同じ意義で用いていて、スリランカの地政学的条件等を踏まえ、比較優位のある分野は何かと考えた場合に、まず有力なのが環境でありそれを活かした観光ではないか、という議論をしている段階であり、必ずしも今の記述が残ると決まっているわけではない。
また、スリランカに観光が入るのならベトナムに入らないのはおかしいという議論自体、国別援助計画をまさに国別に作成することとしており、同じ分野を重点分野として揃えなければならないということを、我々の方針としていない。
(大野教授)
今までの国別援助計画を読むとほとんど構成が同じで、国毎に書き方が異なることはあまりなかった。こうした点を改善するという問題意識から、ODA総合戦略会議では、各国毎に好きなやり方で作業を進めてよい、との方向性が打ち出されつつある。スリランカ、モンゴル、ベトナムでは個別に作業を進めてきており、構成も分量も具体的な産業を書き込むかという点についても変わってくるのである。新しいことをやる以上、始めのうちは試行段階があって、どの国のやり方が良かったのかが検証されて、5年、10年と経っていくうちにいくつかのタイプが生き残っていくのではないかと思う。越で観光産業が重要というのなら繊維はどうなのか、ということになり、同国経済に関する緻密で膨大な分析が必要になってくる。
(国交省)
国民への説明責任を果たす観点から、個別の国毎の扱いの相違について明確な理由を説明できることが重要である。当方は、越にとって、観光が重要であり載せるべきと考えているが、今後の具体的な重点分野の案を示して頂いてから協議したい。
(外務省)
(1) |
全ての国別援助計画を、同じメニューにして、同じような書きぶりにする必要は全くない。従来のような横並びを重視するやり方への厳しい批判を受けて、現在このような作業をしているのであり、画一的なものは目指していない。また、今後多数の国について国別援助計画が作成されれば、これら全ての予定調和を目指すことは不可能になる。 |
(2) |
ご指摘のあった説明責任の観点は我々も重く認識しており、真剣に検討しなければならないが、国毎にふさわしい分析の切り口があるはずであり、また、ODA総合戦略会議の議論についても、新しい事例がある程度蓄積して検証可能となるまでは、走りながら考える面も否めない。 |
(農水省)
(1) |
重点分野「生活・社会面での改善」(4.(3))の中で「農業生産性向上」が掲げられているが、将来の農産物の対日輸出を招くいわゆる「ブーメラン効果」の問題への考慮の必要性につき、言及されたい。 |
(2) |
他方、単に生産性の問題にとどまらず、農産品加工や流通も含めた、幅広い「農業農村開発」として考えたほうが実態に合っているのではないかと考える。 |
(3) |
援助協調への対応(4.(5))の「(b)手続き調和化、セクター対応」において、「援助協調への対応においては、特に、教育、保健医療などの分野に重点を置く」とあるが、その趣旨如何。また、「(c)パートナーシップ」において、「貧困タスクフォース、運輸交通、中小企業振興」等を特に重視するとあるが、この趣旨についても説明願いたい。 |
(4) |
援助実施の方法(4.(1)(ロ))の所で、「規模の定性的な方向性を検討する仕組みとする」旨の記述があるが、分野毎に如何にして援助規模を検討していくのかについての考え方如何。 |
(外務省)
(1) |
まず、1点目の「ブーメラン効果」については、農水省がかねてから関心を有していることは承知しており、前回の意見交換の際にも指摘をいただいたが、越の現状を踏まえ、そのような懸念を生じさせる具体的な兆候があるのか、どのような作物、地域について言えるのかについても伺いたい(例えば、農業分野で協力をして増産した分を、仮に輸出せず国内で販売したとしても、その分、輸出余力が生じる(から日本の農家にも影響がある)、という議論をすると、非常に広い範囲を考えることになる当面5年間程度を念頭においた上で特に留意すべき点があるのであれば、国別援助計画に如何に記述するかを議論する際の前提として具体的にご教示頂きたい。 |
(2) |
また、2点目の、農業の問題を、生産性の問題のみならず、加工や、流通も含め幅広くとらえるべき、との指摘についても、先程「ブーメラン効果」を考慮すべしとの慎重な立場とどのようにすれば整合的に対応可能なのかの点があるところ、この点についてお考えを伺いたい。 |
(3) |
(a) |
3点目の援助協調とパートナーシップに関するご指摘については、今後、セクター別に援助協調が進んでいくと思われるが、積極的に協調が進むセクターとそうでないセクターがある。中でも教育分野は、援助協調が進展する見込みが高く、既に一部で取組が始まっており、また、保健医療分野は多くのドナーの関心が高く、援助協調を進めていく必要性が高い分野と認識している。
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(b) |
パートナーシップに関しては、越では、セクター別にパートナーシップ・グループが形成されているが、ここで挙げた事例は、我が国がこれまで重点的に関わり、今後も重視していくべきものである。まだグループができていなかったり、活動が活発でなかったりする分野は除外した。 |
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(4) |
4点目の、4.(1)(ロ)の「規模の定性的な方向性を検討」というについては、その後の4.(2)で詳しく説明している通り、セクター別に援助規模を検討するということではなく、全体として越という国が我々にとって持つ意味に何か変化があるのか、越の制度・政策環境等の変化などを分析した上で、全体的な援助規模を考えていく、ということである。 |
(農水省)
(1) |
越の「ブーメラン効果」に関しては、特に米の輸出を懸念している。日本の国産米に品質を近づけることは、それほど難しいことではなく、国内農家への多大な影響を考慮すると、品質向上・生産性向上に、我が国が協力することは非常に困難である。他にも詳しく分析すれば、いくつか想定し得る品目は出てくるであろう。 |
(2) |
また、「ブーメラン効果」を考慮する一方で、(加工・流通面まで)幅広く農業を捉えた援助を考えるとはどういうことか、というご指摘については、「ブーメラン効果」が当面は想定しにくい、例えば畜産のような領域では、このような考え方に立った援助ができると考える。 |
(大野教授)
(1) |
「ブーメラン効果」の問題は、越に限らず、日本の経済政策の根幹に関わる大きな話であり、国別援助計画に言及することは適当ではないと思う。ODA大綱等の大きな議論の結果が対越援助政策という下位の政策に反映されるべきものと考える。国別援助計画に書き込むことにより、国内の農業問題に働きかける必要はないし、同計画は、そのような性質の文書でもない。 |
(2) |
また、こうした難しい問題について、国別援助計画で言及しなくても、周知の事実として援助を実施する際には必ず考慮するものであることを踏まえれば、特段記述の必要性はないと考える。 |
(農水省)
こうした難しい問題だからこそ国別援助計画といった文書に明記して、内外に明らかにする必要があると考える。
(外務省)
先程の外務省からの質問の趣旨は、これまで越の農業分野に対しては、技術協力を中心に非常に幅広く協力してきていることを踏まえた上で、日本と越との経済協力及び農業貿易関係において、「ブーメラン効果」の問題が実際にどこまで差し迫った問題になっているのか、という点を確認したかったものである。この問題は、一般論で議論するのでは、なく、個別具体的な議論をするべきと思う。例えば、畜産は当面は問題がないとの指摘があったが、両国の経済協力関係や農業貿易関係において、どの作物、どの分野に関して日本として真に差し迫った問題があるのか、ということが出発点になるのではないだろうか。一般論ではなく、個別具体的な議論をした上で、その問題が国別援助計画に書くに値する問題か否かを判断すべきではないかと思う。
(厚労省)
(1) |
重点分野「成長促進」の中の「成長を支える人材育成」は、民間企業の人材育成を想定しているようであるが、「行政官育成」や「資格制度の確立」についても盛り込むべき。また、「体系的な教育・訓練システムの構築」にも言及されたい。 |
(2) |
基本的な援助方針(4.(1)(イ))において、「成長によって解消されず、また、場合によって悪化することのある問題の軽減を図る」観点から、「生活・社会面での改善」を支援すると共に、「制度整備」を支援する旨述べているが、成長によって労働環境の悪化が予想されることから、「労働安全衛生の整備」についても言及されたい。 |
(総務省)
重点分野において成長促進の一環として、情報通信等の経済インフラ整備が検討されており、当省としても賛成。同インフラの整備と共に同インフラに乗せるアプリケーションとして「生活・社会面での改善」(4.(3))で掲げている、初等教育、保健医療等における、情報通信インフラの活用(遠隔教育、遠隔医療)が有効であるので、「ITの活用」の観点を盛り込んで頂きたい。
(外務省)
(1) |
人材育成に関しては、現行の国別援助計画の重点5分野でも掲げられており、どの領域においても重要な点である。指摘があったように、「生活・社会面での改善」でも「制度整備」でも、人造りを支援していくことも必要だと思うが、この文書は、JICA・JBICが業務を行うに際して具体的なガイダンスを与える目的を持っており、全般的・包括的に人造りに力を入れてやっていく、というだけではいけないのだと思う。いずれにせよ、重点分野の具体的な中身(4.(2)四角囲み)をどのように整理したらよいのかについて、今後よく議論したい。 |
(2) |
職業訓練と学校教育との関わりや労働安全衛生に関する指摘については、それぞれの分野の中で、我が国として具体的にどこまでやる意義があるのかを、国益・戦略性からの全体の流れの中で、議論していきたい。 |
(3) |
情報通信の活用に関する指摘については、情報通信は「成長促進」を支える基盤インフラであると同時に、各セクターでの援助を進める上でも有効なツールとなり得りものであり、また、人材育成の観点からの意義もあるのでも、どのように盛り込めるかよく検討していきたい。 |
最後に、今後の予定については、既に開始している現地でのセクターについての検討作業と、今回頂いたご意見を踏まえて、各重点分野の中身を具体的に盛り込んだ(第1次)ドラフトを、夏頃を目途に完成させたいと考えているので、ご協力をお願いする。
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