グローカル外交ネット

令和7年9月18日

 上勝町は徳島県の山間部に位置し、日本の棚田百選に選ばれた樫原の棚田など豊かな自然に囲まれています。未来の子どもたちにきれいな空気やおいしい水、豊かな大地を継承するため2003年に日本の自治体として初めてゼロ・ウェイスト宣言を行いました。町民の理解と協力もあって、ごみのリサイクル率は約80%に達しています。ゼロ・ウェイストを含めた上勝町の先進的な取組は修学旅行での見学先になっているほか、外務省とも連携して町の特色ある取組を国際的に発信されています。今回は、花本靖町長へ、国際社会への発信の意義や地方創生に向けた今後の展望等について、書面にてインタビューを実施いたしました。

1 上勝町は、外務省が自治体と共催して駐日外交団に地域の魅力を発信する各種事業に参加されています。外務省との連携を決めた背景や狙いをお聞かせください。また、外務省事業を活用したことで、上勝町として得られた成果や海外からの反響等がありましたら教えてください。

上勝町ゼロ・ウェイストセンター(ゴミステーション、多目的ホール、宿泊棟などを備えた複合公共施設)
駐日外交団による地方視察ツアー(2025年7月。16カ国18人の大使等が参加。中心が花本町長)

 ゼロ・ウェイストとは、ごみや無駄、浪費を意味する「ウェイスト」をゼロにすること。「ごみ」として捨てられるものを「資源」と考え、それを循環させてごみを出さないようにしようという考え方です。上勝町は、未来の子どもたちにきれいな空気やおいしい水、豊かな大地を継承するため、2003年に日本の自治体として初めてゼロ・ウェイスト宣言を行い、ゼロ・ウェイストによるまちづくり、環境に配慮した「持続可能な地域社会づくり」に取り組んでいます。
 上勝町では、ごみの収集車は走っていません。生ごみは、各家庭において家庭用の電動生ごみ処理機やコンポストなどを用いて堆肥化を行い、その他のごみは、町内1カ所の収集拠点である「ゴミステーション」に住民が自ら持ち込み、13種類43分別におよぶ多分別により資源化を行っています。
 ゼロ・ウェイスト宣言には、「地球環境をよくするため世界中に多くの仲間をつくる」ことも掲げております。
 世界的にSDGsへの関心が高まる中、上勝町においても、国のSDGs未来都市に選定されるとともに、当初の宣言の目標年である2020年には、これまでの取り組みの成果と課題を検証し、2030年に向けた「新たなゼロ・ウェイスト宣言」を行いました。新たな宣言は、地球温暖化や海洋汚染問題等、地球環境を取り巻く問題に対応し、家庭から出るごみ分別を通じ、暮らしの豊かさやごみ時代のリーダーづくりに挑戦する宣言となっています。また、同時期に老朽化により建替を行ったゴミステーションは、上勝町の分別の仕組みやリユースの取り組みのほか、上勝町の暮らしを体感できる宿泊施設も併設しており、ここに来れば誰もがゼロ・ウェイストについて学べる施設となっており、海外からの視察者を含め多くの方々が訪れてくれています。
 ゼロ・ウェイストの先駆者として、これまで町が蓄積してきた情報や携わってくれた方々のノウハウを提供できる仕組みづくりを進めるとともに、将来的にゼロ・ウェイストを牽引できるよう取り組みを進めていきたいとの思いから、外務省の事業をはじめ、外部に向けての発信にも力を入れているところです。
 特に外務省との共催事業「外務大臣及び徳島県知事共催レセプション」「駐日外交団による地方視察ツアー」では、参加者の関心も強く、SDGsや環境への問題意識の高まりを改めて感じたところです。また、「地域の魅力発信セミナー」では「母国の友人や家族とぜひ訪れたい」、「(ゆこうやKINOFなど)特産品の販売先を教えてほしい」など、多くの声をいただいたところであり、今後に向けて、海外の方が町の政策や観光、特産品等についてどれくらい興味があるのか、海外の方と繋がるために何が必要かを知るよい機会となったと捉えています。

2 「ゼロ・ウェイスト」まで残り20パーセントの目標達成に向けて、民間企業も巻き込んで取り組まれていると承知しています。「ゼロ・ウェイスト」は実現可能でしょうか?

徳島県上勝町×TOKYO TORCH FUTURE BEER GARDEN(ごみの排出抑制を身近に感じてもらうイベント。2025年5月16日・17日の2日間で約1万人が訪れた)

 2003年に初めてゼロ・ウェイスト宣言をしてから、町民の皆様に協力をいただきながら、徹底したごみの分別、資源化に取り組んできました。多くの方が視察に訪れ、また、この考え方に共感いただく方が移住され、さらに起業されるなど、大きな成果をあげてきました。当初目標としていた焼却、埋め立てごみをゼロにするということは達成できませんでしたが、13種類43分別にもおよぶ分別に協力いただいたことで、リサイクル率は80%を超えるまでになりました。
 一方、残りの20%は、我々消費者側だけの努力では難しいということがわかってきました。上勝町では、マスクやおむつなどの衛生用品や革製品、プラスチックと金属との複合製品などは、どうしても燃やさなければならないごみとして焼却を依頼し、焼却灰は埋立処分をお願いしています。このリサイクルできない残り20%を減らせるよう、2020年の新たな宣言では、「町でできるあらゆる実験やチャレンジを行い、ごみになるものをゼロにします」という目標を立て、企業や大学等との連携を進めていくこととしております。ものづくりの段階から変えていくことができれば、資源化できないごみが減り、より簡単なリサイクルや分別数の減につながり、環境にやさしい町にしていくことができます。
 宣言を行い取り組みを進めていく中で、活動に共感いただき、自分たちの知識・ノウハウを活かせると協力を申し出てくれる企業も増えております。難再生紙のリサイクル技術を活かして分別回収に協力いただいたり、洗剤類の詰め替え容器をリサイクルした再生樹脂を活用したブロックは、子ども達に資源化を体感してもらう良い教材になったりしています。また、詰め替えパックやペットボトルの水平リサイクルにも協働して取り組んでいます。その他にも実装には至らなかったものの実証実験を行ったものも多数あります。
 さらに、三菱地所株式会社からは、東京大手町の再開発ビルである「TOKYO TORCH」でのごみの排出抑制イベント等にもご協力いただいております。当該企業では、上勝町に足を運び現場を見ていただく中で、都心の大型施設において、施設から出る生ごみを液肥化し、その液肥で育てた農作物を社員食堂で提供するなど、ゼロ・ウェイストの取り組みを都市部においても実践いただいております。今後ともこうした仲間を増やし、活動を拡げるなど、少しずつでも状況を変え、「ゼロ・ウェイスト」を目指していきたいと考えております。

3 上勝町は、高齢者が生き生きと働ける仕組みづくりである「葉っぱビジネス」等、新しいビジネスも推進されています。花本町長が目指す、町づくりや地方創生の展望、将来像を教えてください。

 上勝町で料理を美しく彩る“つまもの”を生産・販売する「葉っぱビジネス」の彩(いろどり)事業が開始されて約40年になります。生産者の方は、当初は町内放送を頼りに仕事を進めていましたが、現在では高齢者の皆さんもスマホやタブレットを使って受注情報などをキャッチしながらビジネスに取り組んでいます。こうしたデジタル技術の進化は、上勝町のような田舎と都会の情報格差を無くしてくれました。今後とも、上勝町のような小さな町でもできることをしっかりと見極め、新たな技術を使う企業等の協力を得ながら、挑戦を続けていきたいと考えています。
 21世紀は「環境の世紀」と言われております。失ったら二度と取り戻せない環境を守るために、課題はたくさんあります。上勝町では、ゼロ・ウェイストの活動をごみの問題だけではなく、子どもたちの教育や集落づくり、産業や生活基盤など、あらゆる分野において施策に取り入れ、連携しながら推進を図っております。また、自らの事業の中にゼロ・ウェイストの要素を取り入れて集客や商品開発を行う事業者も出てきています。その中には、主に海外から上勝町を訪れる方向けに体験プログラムを提供している事業者もあり、世界各国から多くの方が利用され、ごみの分別をはじめ上勝の暮らしを体感しています。町外に向けては、こうしたゼロ・ウェイストに取り組む仲間を増やしていくとともに、町内には、心の豊かさや経済的な豊かさを実感し、ゼロ・ウェイストをやって良かったと思えるよう、取り組みを進めていきたいと思います。
 上勝町は、1955年7月に、旧高鉾村と福原村が合併して誕生し、本年(2025年)、町制施行70周年を迎えました。誕生当時の町の人口は6,263人でしたが、その後は減少を続け、令和2年の国勢調査では1,380人と約1/5に減っています。また、国の社会保障人口問題研究所が発表した将来推計人口によると、上勝町の2040年の人口は829人になると推計されています。先人達が守り育んできたこの上勝町を次世代へと引き継いでいくために、「2040年に人口1,000人確保」を目指して、「ゼロ・ウェイスト」「いろどり」等の地域ブランドを中心に、持続可能な暮らしやすい地域づくりに取り組んで参ります。

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