地球環境
ワシントン条約
(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)
(CITES(サイテス):Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)
1 経緯
1972年の国連人間環境会議において「特定の種の野生動植物の輸出、輸入及び輸送に関する条約案を作成し、採択するために、適当な政府又は政府組織の主催による会議を出来るだけ速やかに召集する」ことが勧告された。これを受けて、米国政府及び国際自然保護連合(IUCN)が中心となって野生動植物の国際取引の規制のための条約作成作業を進めた結果、本条約は1973年3月3日にワシントンD.C.で採択され、1975年7月1日に発効した。
2 目的
ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)は、野生動植物の国際取引の規制を輸出国と輸入国とが協力して実施することにより、絶滅のおそれのある野生動植物の保護をはかることを目的とする。
3 締約国数、締約国会議、各種委員会
(1)締約国数
183か国及び欧州連合(EU)(ただし、EUの加入を認める条約改正については、我が国は未受諾。)(2023年11月現在。我が国は1980年11月4日に締約国となった。)
(2)締約国会議
締約国会議は、原則として2年に1回開催されることになっている(第11条)が、第13回締約国会議以降は、約3年に1回開催。これまで行われた締約国会議と主要議題・決議等については、次のとおり。なお、第19回締約国会議は、2022年11月14日から11月25日にかけてパナマのパナマシティーで開催され、次回第20回締約国会議は2025年に開催予定であるが、開催地は未定となっている。
回 | 主要議題・決議等 |
---|---|
第1回 | (1976年 スイス) 附属書掲載基準に関するベルン・クライテリアの採択 |
第2回 | (1979年 コスタリカ) ワシントン条約とIWCとの関係決議 |
第3回 | (1981年 インド) 許可書・証明書の標準化、象牙の取引決議 |
第4回 | (1983年 ボツワナ) 附属書I掲載種の飼育繁殖決議、「条約適用以前の取得」の解釈決議 |
第5回 | (1985年 アルゼンチン) 「主として商業的目的」の定義決議 |
第6回 | (1987年 カナダ) 常設委、動物委、植物委等の設置、象牙の取引に関する決議 |
第7回 | (1989年 スイス) アフリカゾウの附属書・移行(南部アフリカ諸国は反対した) |
第8回 | (1992年 日本) 南部アフリカ諸国のアフリカゾウ附属書IIへの移行提案否決 |
第9回 | (1994年 米国) 南部アフリカ諸国のアフリカゾウ附属書IIへの移行提案否決、条約のレヴューの外部コンサルタントへの委託決定、附属書掲載基準に関する新クライテリア |
第10回 | (1997年 ジンバブエ) ボツワナ、ナミビア、ジンバブエのアフリカゾウ附属書IIへの移行提案採択、我が国等の鯨類附属書IIへの移行提案に約半数の支持 |
第11回 | (2000年、ケニア) 南アのアフリカゾウ附属書IIへの移行提案採択、我が国等の鯨類附属書IIへの移行提案に支持減少、サメ類の附属書掲載提案否決 |
第12回 | (2002年、チリ) ボツワナ、ナミビア、南アのアフリカゾウの象牙の在庫の1回限りの輸出の条件付承認。我が国の鯨類2種(ミンククジラ、ニタリクジラ)の附属書IIへの移行提案否決。サメ類の附属書掲載提案可決。 |
第13回 | (2004年、タイ) 我が国の鯨類1種(北半球ミンククジラ)の附属書IIへの移行提案及びIWC関連決議提案いずれも否決なるも、過去最大の支持票を獲得。サメ類の附属書掲載提案可決。我が国は常設委員会アジア地域代表に選出。 |
第14回 | (2007年、オランダ) 第12回締約国会議にて承認された象牙と併せ、南部アフリカ4カ国政府所有のアフリカゾウの象牙在庫の取引の追加承認及び右取引の日から9年間の象牙取引を停止決議。わが国による科学的調査に基づく附属書I掲載種の附属書掲載見直し提案否決。ヨーロッパウナギの附属書II掲載提案可決。遵守ガイドライン採択。 |
第15回 | (2010年、カタール) 概要参照 |
第16回 | (2013年、タイ) 概要参照 |
第17回 | (2016年、南アフリカ) 概要参照 |
第18回 | (2019年、スイス) 概要参照 |
第19回 | (2022年、パナマ) 概要参照 |
(3)各種委員会
委員会の設置に関する締約国会議決議により、現在、以下の委員会が設置されている。
ア 常設委員会
締約国会議の間に条約の運営を行う。地域代表、前回及び次回の締約国会議ホスト国、寄託国(スイス)により構成される。第19回締約国会議終了後から議長国は、米国が務めている。
近年では2022年3月7日から11日にかけてフランスのリヨンで第74回常設委員会会合が開催された(概要)。その後、COP19の前後に第75回及び第76回会合が2022年11月13日及び25日に開催された後、2023年11月6日~10日にジュネーブで第77回会合が開催された。
イ 動物委員会、植物委員会
附属書掲載種に対する条約の運用等を検討する。かつて、技術委員会とされていたものが、第6回締約国会議で分離した。両委員会とも各地域からの専門家により構成される。
4 主要な権利・義務
(1)以下のとおり、野生動植物の種について、絶滅のおそれの程度に応じて同条約附属書に掲載し(令和5年11月現在、計約4万種)、国際取引の規制を行う。
ア 附属書I:
絶滅のおそれのある種であって取引による影響を受けており又は受けることのあるもの。商業取引を原則禁止する(商業目的でないと判断されるものとしては、個人的利用、学術的目的、教育・研修、飼育繁殖事業が決議5.10で挙げられている)。取引に際しては、輸出国及び輸入国の科学当局から当該取引が種の存続を脅かすことがないとの助言を得る等の必要があり、また、輸出国の輸出許可書及び輸入国の輸入許可書の発給を受ける必要がある。(条約第3条)。
イ 附属書II:
現在必ずしも絶滅のおそれのある種ではないが、その標本の取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種となるおそれのある種又はこれらの種の標本の取引を効果的に取り締まるために規制しなければならない種。輸出国の許可を受けて商業取引を行うことが可能。取引に際しては、輸出国の科学当局から当該取引が種の存続を脅かすことないとの助言を得る等の必要があり、また、輸出国の輸出許可書の発給を受ける必要がある(同第4条)。
ウ 附属書III:
いずれかの締約国が、捕獲又は採取を防止し又は制限するための規制を自国の管轄内において行う必要があると認め、かつ、取引の取締のために他の締約国の協力が必要であると認める種。附属書IIIに掲げる種の取引に際しては、種を掲載した締約国からの取引に限り当該国から輸出許可書の発給を受ける必要がある(同第5条)。
(2)その他以下の措置をとる。
- ア
- 条約に違反した取引にかかる標本は没収する。標本が生きているものの場合は輸出国に返送する。締約国は取引にかかる年次報告を事務局に送付する(同第8条)。
- イ
- 一又は二以上の管理当局及び科学当局を指定する(同第9条)。
- ウ
- 上記(1)(ア)及び(イ)に関わる改正については、留保を付することができる(同第15条)。
- エ
- 条約事務局等にかかる経費につき分担金を支払う義務を有する。
5 我が国の取り組み
(1)我が国の基本的立場
我が国は、野生動植物の保護については、科学的データに基づいた「持続可能な利用」(注)の考えに立った措置がとられることが重要と考える。
(注)漁業資源等の生物資源について、その収穫や利用を一定の量的限度の範囲内で許可すること等により、開発行為や資源の利用と、生態系や環境の保全を調和させるとの考え方。
(2)我が国の貢献
- 第19回締約国会議でアジア地域からの常設委員会メンバーに選出されたことを含め(任期は第21回締約国会議まで)、これまでに複数回アジア地域メンバーに選出されている(1989年~1994年、1994年~2000年、2004年~2016年、2022年~)。
- 1992年に第8回締約国会議を京都で開催した。
- 1992年から1994年まで、石井信夫・自然環境センター研究主幹が動物委員会アジア地域代表を務めた。また2019年から寺田佐恵子・玉川大学リベラルアーツ学部講師が動物委員会アジア地域代表代理を務めている。
- 1994年(第9回締約国会議)から1997年(第10回締約国会議)まで赤尾信敏・元タイ大使が常設委員会議長を務めた。
- 我が国は、分担金以外に任意拠出金の拠出を行っており、締約国会議、アジア地域会合への途上国参加支援やCITESのゾウ密猟監視(MIKE)プログラム、途上国担当者の研修、識別マニュアルの作成、途上国等に対するワシントン条約関連法制度に関する能力構築等に使用され、事務局や途上国から高く評価されている。特に、近年はアフリカゾウの密猟及びその違法な象牙取引対策のために、MIKEプログラムの下で以下のとおり拠出を行っている。
- 2019年度:
- ザンビアにおけるゾウ密猟監視施設整備支援(76,798ドル)(引渡式を2022年9月1日に実施)
- 2020年度:
- ルワンダにおけるゾウの調査、密猟監視機材の設置及びレンジャーの人材育成支援(55,371ドル)(完了式典を2024年2月20日に実施)
- 2021年度:
- ボツワナにおけるゾウの死因調査・象牙回収支援(55,375ドル)
- 2022年度:
- ナミビアにおける象牙の保管庫建設支援(52,607ドル)
- 2023年:
- ジンバブエにおける調査・科学研究センター建設支援(54,208ドル)
(3)我が国の留保
我が国は、条約締結時に国内産業保護等の理由から、9種につき留保を付していた(べっこうの原料となるウミガメやタイマイ、薬効のあるジャコウジカ等)。留保を付した場合、その種については締約国としては扱われず、非締約国と取引を行うことが出来る。その後の国内産業保護を理由として留保を付していた種は、業界の努力等により受け入れる準備が出来たことから全て撤回した(最近の留保撤回は、1994年7月末のタイマイが最後)。
現在、わが国は附属書I掲載種中クジラ10種(ナガスクジラ、イワシクジラ(北太平洋の個体群並びに東経0度から東経70度及び赤道から南極大陸に囲まれる範囲の個体群を除く)、マッコウクジラ、ミンククジラ、ミナミミンククジラ、ニタリクジラ、ツノシマクジラ、ツチクジラ並びにカワゴンドウ、及びオーストラリアカワゴンドウ)、附属書II掲載種中15種類(ジンベイザメ、ウバザメ、タツノオトシゴ、ホホジロザメ、ヨゴレ、アカシュモクザメ、ヒラシュモクザメ、シロシュモクザメ、ニシネズミザメ、クロトガリザメ、オナガザメ類、アオザメ、バケアオザメ、ホラトゥリア・フスコギルヴァ(熱帯ナマコ)、ヨシキリザメ)につき留保を付している。我が国はこのうち、附属書Iに掲載されている上記クジラ10種については、持続的利用が可能なだけの資源量があるとの客観的理由に基づき、従来から附属書Iに掲載されていること自体科学的根拠がないと判断しており、今後かかる状況が変化しない限り留保撤回の考えはない。また、これら以外の附属書掲載種についても、絶滅のおそれがあるとの科学的情報が不足していること、地域漁業管理機関が適切に管理すべきこと等から留保を付した。
(4)その他
- ア
- 2013年8月、スキャンロン・ワシントン条約事務局長が訪日。阿部外務大臣政務官(当時)を表敬したほか、ワシントン条約40周年記念シンポジウムに出席。関係省庁及び民間団体と意見交換を実施、我が国との協力関係強化への期待が示された。
- イ
- アフリカゾウ保全及び象牙取引についての我が国の見解や、象牙の取引に関するよくある質問については、環境省ホームページをご覧下さい。
また、象牙・象牙製品の持続可能な利用の維持のために象牙取引制度の適切な運用の徹底と情報発信について協議する場として、適正な象牙取引の推進に関する官民協議会が2016年5月に立ち上げられ、2019年10月までに6回の会合が開催されました。これまでの会合の詳細については、経済産業省ホームページの「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会」の項目をご覧下さい。
2018年6月、種の保存法が改正され、ゾウを含めた絶滅のおそれのある野生動植物の保全のための施策が一層強化されました。詳細は環境省ホームページをご覧ください。